小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”予定調和”



「……到着っと。コレは凄いな!! 無事な衛兵なんか一人もいないじゃないか!!」

「だろ? ビビのヤツ一人でやり過ぎだよな!!」

「ココだけで軽く4000は逝ったハズよ!! ご褒美ゲットォ!!」

「ご褒美って? タクミから殲滅ボーナスでも出るの?」

「「「「…………」」」」


「それは〜、ヒ・ミ・ツ♪」


全員を投げ終えた俺は、ナミを乗せて獣形態で広場までやってきたんだが、俺たち以外に動いている人間は見当たらなかった。

ビビの新技の破壊力は予想以上だな。遠目で見た上に話しかけられて集中出来なかったから、技の実態はハッキリとは解らないが、おそらくあの水球から超高圧で水を射出したって事だろう。元の世界で言えばウォーターカッターみたいなモノだな。

最初はコントロールすら出来ない暴走能力だったっていうのに、この短期間でココまで能力をモノにするとは、努力……いや、センスがあったんだろうな。しかも、まだ余力がありそうな様子だ。

それにしても、左手がなくても大して困らないと思っていたんだが、獣形態ではかなり不便だ。義手が出来るまでは獣形態は封印だな。もっとも、戦闘で使うつもりは欠片もないから、使えなくても別に問題ない。


そんな新発見よりも、一番驚いたのは、鉄柵を曲げる為のロープを結びつけるのをナミに頼んだら、メンドクサイって理由で、柵を殴って曲げた事だ。

ナミが殴った部分には、拳の跡がクッきりと残っていて、その威力が赫足のゼフ並みだという衝撃の事実が判明した……何ソレ怖い……ナミには今後逆らわないように気をつけよう。あのコの前では「鉄塊」は無意味だ。


「……おっと、こんな所で時間を浪費するわけにはいかないな。早くしないとロケットマンがココら辺に飛んでくるかもしれない。さぁ、お前ら行くぞ。何時まで寝てるつもりだ?」

「こんなトコで寝るかァ!!!!」

「倒れてんだよこのクソ野朗が!!!!」

「おで、いや゛だっで言ったのに゛!!!」

「だいたい何でナミは一人だけ投げられてねェんだよ!!!? カルーなんて、ルフィが受け止め損なったせいで、そのまま地面に突き刺さったんだぞ!!!」

「嘘でしょ!!? カルー!!? 確りして!!!」


マジか!!!? カルーだけはバケモノレベルが低そうだから注意して投げたつもりだったんだが、アイツは運も悪いみたいだな。

今は今回の乗り手となるナミによって、地面から引き抜かれ、ビビに保護されている……ビビはまだ、カルーの飼い主としての自覚はあったんだな。

最近は俺かロビンが世話をしていたから、ゾロに夢中で存在を忘れてるのかと思っていたところだった。


「カルーの事はすまなかったと思っている。後でちゃんと謝る。だがな、ウソップ、仮にお前が、俺と同じ力を持っていたとして……ナミを投げる勇気がお前にはあるのか?」

「は!!!?……何かすまんかった」


苦し紛れの言い訳だったんだが、謝られてしまった。ナミ=怪力はデフォになりつつあるようだ。今度、一味での腕相撲ランキングを作ってみよう。


「ふァ〜〜〜〜……まだ寝足りねェ……って何じゃこりゃァァアア!!!? チビ人間どもが全滅してるぞ!!!? 何が何だかさっぱりわからねェ!!!?」

「オ、オイも!!?」

「「「巨人族!!!?」」」


巨人族!!!? CP9以外は雑魚だと思ってたっていうのに、こんな隠し玉がいやがったのか!!?

スパンダム、やはり侮れないヤツだな。


「お前ら!!! コイツらの相手は後続組には荷が重い!!! 予知出来なかった責任は俺が取るから、お前らは先に行け!!!」


カポネとかいうイレギュラーの恐ろしさがわかった今となっては、他のヤツにイレギュラーの相手を任せるわけにもいかない。


「ふざけんな!! おれも戦うぞ!!!」

「戦力の分散は避けるべきだココは「まあ待て」……あ?」

「……10、9、8、7−−−−」


俺の提案を受け入れるハズがないルフィとゾロの言葉を遮って、サンジのヤツが突然カウントダウンを始める。

……!!!? そういう事か!!!?


「−−−−4、3−−−−」

「何だ? お前らの地獄へのカウントダウンか? 付き合ってやるぞ!!」

「オイも!!」


巨人族の二人は戦斧と棍棒を振り上げてニヤついた表情を浮かべる。

勘違いとはいえ律儀にカウントダウンを見守るとは、コイツらはエルバフの巨人っぽいな。ドリーとブロギーの友人だとでも話せば、うまく戦闘を回避出来たかもしれないが、もう遅い。


「−−−−1、0」

「うおりャーーどへーーーーーーっ!!!?」

「オイモ!!!? 何で海列車が「”三級(トロワジェム)””挽き肉(アッシ)”!!!」「「獣厳」!!!」っ!!!?……げふっ!!!……」

「うおーーー!!! 巨人族を潰したぞ!!!?」

「サンジすげェな!!?」

「……やりゃ出来んじゃねェか」


サンジのカウント通りに飛び込んできたロケットマンが直撃して、棍棒の巨人は倒れ、戦斧の巨人も俺の「獣厳」とサンジの凄まじい蹴りの連打を顔面に受けて昏倒したんだが……


「お前、今「見よう見まねだ」……そうか」


サンジがいきなり「月歩」を使ったんだよ。まあ、元から「剃」、「月歩」、「嵐脚」に関しては素養があると思っていたが、『見よう見まね』って……軽くヘコむな。


「パウリー!! その巨人はロープで縛っておいてくれ!! 誰が仕留めたにしても、巨人族の報復はちょっと面倒そうだからな。頼んだよ」

「ああ、引き受けた」

「巨人の報復が『ちょっと面倒』ってレベルかよ!!!? ”船斬り”を倒したって聞いた時は冗談かと思ってたけど、巨人を圧倒するって事は、マユゲさんの実力もホンモノって事か!!!」


サンジ……フランキー一家なんかに実力を疑われていたとは、最近アイツにはイイ事ないな。


「俺たちは先に進むが、お前らはキングブルの到着を待ってから行動を開始しろ!!! 健闘を祈る!!!」


フランキー一家に指示を出した俺は、先に進もうと思ったんだが、満身創痍のカルーに跨るナミの表情を見て、嫌な予感がした……スルーしてしまおうか。


「俺たちは先に進もう」

「タクミ、あのね……ルフィがいないの……何処にも」


……ルフィがそういうヤツだという事は、前々からわかっていたつもりだったんだが……何かがキレるような音が、俺の頭の中から聞こえた。
 
 
 

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