小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”宣戦布告”



〜Side ロビン〜



雨女さんの奇襲で多くの戦力を失った黒鼻の男は、あの後30秒程フリーズしていたのだけれど、その後は我に返ってCP9に召集をかけていた。

リーゼントさんを移送する途中だったカリファも戻ってきて、全員で黒鼻からの指示を待っている状況なんだけど、次々と鳴り響く電伝虫の対応に追われて、彼はCP9の指揮が取れない状態みたいね。


『『長官!! こちら裁判所衛兵詰め所!! 単騎で乗り込んできた麦わらのルフィが止まりません!! 指示をお願いします!!』』

「単独で動いてるのか!? ヤツはゴム人間だ!! 刃物の扱いに長けた者をメインに包囲しつつ、一対一を仕掛けろ!! 海賊ってヤツらは必ず乗ってくるハズだ!! 足止めしながら味方ごと催眠ガスで眠らせて、海楼石の手錠をかければ勝ちだ!!」


『『長官!! こちら裁判所前!! 麦わらの一味によって有罪陪審員が全滅しました!! 指示をお願いします!!』』

「!!!?……ヤツらは所詮罪人、捨て駒だ!! 自信を持て!! 錬度ではお前らが上だ!! 一人につき一個中隊で挑め!! 能力者には監獄弾を使用しろ!! それから、討ち取った隊の隊長には海軍十字章を申請してやると伝えろ!!」


『『長官!! こちら本島前門!! 門番の巨人が海賊側に寝返りました!! 長鼻の男に従っているようで、我々の手に負えません!! 指示をお願いします!!』』

「何!!!?……巨人は殺して構わん!! 迫撃砲の使用を許可する!! 重量弾で関節と顔面を狙え!! 長鼻の男は追跡者(チェイサー)の息子だ!! 可能ならば生きたまま捕らえろ!!」


『『長官!! こちら法番隊衛生班!! 麦わらの一味が連れてきた謎の集団によって、法番隊は全滅しました!! 指示をお願いします!!』』

「残ったのは衛生兵だけか……お前らは白兵戦に付き合う必要はない!! 負傷者の手当てをしつつ、正門まで後退しろ!! 一人でも多くの命を救え!!」


CP9への指示が遅れているこの状況を幸運だと思っていたけれど、この男、伊達に長官を名乗っていないわね。

長考する事は殆どなく、次々と各所に指示を出しているわ。さっきの会話からして戦闘能力も高いみたいだし、タクミと同じタイプなのかもしれないわね。

その後もいくつかの報告を受けて、それに指示を出し、黒鼻はようやく静かになった部屋で、部下達に向き直った。


「現場の指揮官が軒並み潰されてしまっては、指揮系統もメチャクチャだ!! 戦力を集中させてくると想定していたが、こうもいたる所で暴れまわるとは、コレが銀獅子の策か??……まぁイイ。お前ら!! 麦わらの一味は、おそらく一般の衛兵で仕留められるような連中じゃねェ!!」

「マジ!!? 一万人もいて少数海賊団も殺せないなんて、無能すぎっしょ!!?」


アレだけ派手に吹き飛ばされておいて、平然と召集に応じているあたりは流石CP9の一員って感じだけど、言動を見る限り、彼は小物っぽいわね。


「先輩方は何で黙ってんだ? ビビッてんなら、あんなヤツら、この”海イタチのネロ”様が、一人で殺ってもイイんだぜ? シャウ!!!」


何か必死にアピールしてるけど完全に無視されちゃって、ちょっと可哀想ね。でも、確かに上官の指示は黙って聞くべきだわ。

真面目に指示を聞かなかったら、私だってタクミにデコピンされるもの。皆に指示を出す彼に見蕩れてただけなのに、あのデコピンって結構痛いのよね。

……こんな状況で私は何を考えてるのかしら? まだ顔も見ていないのに、彼らがココに来たってだけで、もう助かったような気分になってるわ。

今の私の興味は、あの下っ端のコの帽子が欲しいとか、下っ端のコのヒゲを抜いてみたいとか、『シャウ』って何? とか、そんな事ばかりに向いてるもの。


「ネロ、お前は少し黙ってろ。とにかく、指示を出した事は出したが、アイツらじゃ足止めにしかならん。おれが直接情報を聞き出したいのは山々なんだが、直ぐに罪人を移送する事にする。全員で護送船に向うぞ」

「長官、失礼ながら申し上げます。私がまともに戦ったのは銀獅子だけですが、ヤツの道力は、人獣状態ならおそらく私より上です。このままでは地下通路あたりで追いつかれ、閉鎖空間での危険な戦闘になるおそれがあります」


「お前より上だと!!!? そこまでのバケモノだったってのか!!!?」


帽子の男の話を聞いたスパンダムは驚愕の表情を浮かべてるけど、話した本人にはまだ余裕があるみたい。


「人間としての肉体の強さは私が上ですが、悪魔の実の上下関係でしょう。流石は”百獣の王”といったところですが、覇気を使えばまだ私に分があります。スピードで勝るカクも十分に勝機があると考えます」

「ちょっと待つんじゃ!!! ワシは銀獅子と戦うのだけはゴメンじゃぞ!!!?」


どうやらこの男はタクミと戦いたくてしょうがないみたいね。巻き込まれた角鼻は顔を青くしてるわ。

黒鼻の方は顎に手をあてて、何やら考え事をしてるみたい。


「……お前らにこの鍵を渡す。どれかがニコ・ロビンの手錠の鍵だと伝えろ」


スパンダムは机の中から六個の鍵を取り出すと、帽子の男と下っ端くん以外に投げて渡した。


「お前らはこの司法の塔で、麦わらの一味を迎え撃て。相手が一人一殺を狙うとすればコレで六人をココに足止め出来る。ルッチはおれに同行しろ」

「おれは?? 仲間外れは気に食わないっしょ!!」


「お前には重要任務を与える。敵に存在を知られないように、地下通路の扉付近に潜伏しておくんだ」

「?? 意味わかんねェっしょ??」


「ルッチがおれに同行してコイツらを移送してると知れば、間違いなく最大戦力の銀獅子が追ってくるハズだ。運がよければ麦わらも釣れるかもしれん。おれ達が地下通路を通った後は扉を開け放っておくから、麦わらの一味が進入したら、扉を閉めておれに連絡しろ。地下通路を爆破してヤツらを溺死させてやる」

「なんですって!!!? 正面から乗り込んできた彼らと、まともに戦う事すらしないつもりだっていうの!!!?」


黙っているつもりだったけど、あんまりな策略を聞いてしまって、私は思わず食って掛かった。


「この女バカっしょ? 海賊と正々堂々戦う必要なんて何処にもねェんだから、この作戦は当然っしょ? 政府の施設を犠牲にしてまで潰そうってんだから、むしろ光栄に思うべきっしょ?」


正論のようにも聞こえるけど、コイツの喋り方、だんだん腹が立ってくるわね。


「ネロの言う通りコレは正義の作戦だ。それより時間が惜しい、お前は先に持ち場についてろ。おれ達も直ぐに行動に出る」

「長官、銀獅子が長官の策を予知によって看破してくる可能性はないでしょうか?」

「予知って……先輩は病院に行ったほうがイイっしょ」


そうよ!! タクミならそんな卑怯な作戦は見破ってしまうハズだわ!!


「……おれが思うに、銀獅子は冷静さを欠いている状態だ。確実にニコ・ロビンを救出するだけなら、ヤツが単騎で乗り込んできた方が上策だったハズだろ? おそらく今回の銀獅子は怒りに任せて行動している。そういうヤツってのは案外こんな簡単な策に嵌るもん……ってまたか」


黒鼻の言葉を遮るように鳴り響いた電伝虫の呼び出し音に、彼は顔を顰めながらも送話器を取った。


『『…………』』

「……どうした? 報告があるんじゃないのか?」


繋がったにも関わらず無言の相手に、黒鼻はイラついたように報告を促した。上手く説明出来ないけど、私には何となくわかったわ。あの通話相手はきっと……


『『始めまして、CP9長官のスパンダムさん。俺は麦わらの一味の副船長”銀獅子のタクミ”』』

「銀獅子だと!!!?「タクミ!!!!」その女を黙らせろ!!!……何のようだ」


タクミに黒鼻の策略を伝えようとしたんだけれど、下っ端くんに手で口を塞がれてしまって、これ以上言葉を発することは難しくなってしまったわ。


『『ロビンはまだそこにいるみたいだな。今すぐ助けに行くよ。勝手に出て行ったりして、戻ったら説教だからな』』

「ふざけてんのかお前は!!?」


自分から呼びかけておいて無視をするタクミの態度に、黒鼻は怒りを露にしてるけど、これはわざと挑発してるわね。

それはタクミがまだ冷静な思考を残している証拠。彼が本当に激昂していたら、問答無用でココに乗り込んでくるハズだもの。


『『ああ、忘れるところだった。オモシロいモノを見せてやるから、バルコニーに出てみろよ』』

「……な!!? もうココまで突破してきていたのか!!?」


一人でバルコニーに出た黒鼻は、下を見て驚愕している。彼はもうそこまで来ているのね!!


『『雑兵がいくら群がろうが、俺たちには関係ない。それより塔の天辺にある世界政府の旗を見ろ』』

「旗がどうしたっていうんだ」


黒鼻が怪訝な表情を浮かべて上を向いた瞬間、電伝虫がニヤリと笑いながら彼の声を発した。


『『やれ!! ウソップ!!!』』

「!!!!? お前ら!!! 自分達が何をやったかわかってるのか!!!?」


状況がよくわからないんだけど……旗?……まさか!!!?



『『俺たち麦わらの一味は!!!! 世界政府に宣戦布告する!!!!』』



叫ぶようなタクミの声は、電伝虫とバルコニーの両方から聞こえてきた。

恐怖に駆られたように電伝虫を切った黒鼻の姿を、部下達は黙って見つめる。


「……アイツら、世界政府の旗を撃ち抜きやがった」

「マジマジ!!? ちっぽけな海賊団が世界政府に宣戦布告!!? この女だけじゃなくて一味揃ってバカの「ネロ」……何だよ」


一人だけ可笑しそうに口を開いた下っ端くんも、今までとは違う黒鼻の底冷えするような声に、流石にたじろいだ。


「……さっきからうるせェんだよお前は。あまりおれを怒らせるな。さっさと持ち場につかねェんならこの場で消すぞ!!!……お前の代わりなんていくらでもいる」

「長官、現在この司法の塔には我々CP9しか居りません。この男の処分は作戦終了後がよろしいかと「了解!!! 了解したっしょ!!! アンタを怒らせるつもりはなかったんだ!!! 勘弁してくれ!!!」チッ……さっさと行け」


黒鼻の言葉と帽子の男の言葉を聞いた下っ端くんは、それが脅しの類じゃないと判断したのか、慌てて退出して行ったわ。


「お前らは自室で待機でもしてろ。コチラからの宣戦布告は隠密行動に長けたフクロウだ。鍵の事を説明してから一時離脱。その後は適当に相手をしながら鍵を死守するんだ。多対一の状況は避けろよ」


指示を受けた部下達は一斉に散っていき、部屋には護送船に向う四人だけになった。


「おいスパンダ……お前、プルトンの設計図がそんなに欲しいか?」

「おれの名前はスパンダムだ……出来ればおれの手で所持していたかったが、お前がそう簡単に差し出すとも思えんからな。引き渡した後に地獄をみながら「イイぜ? お前にくれてやっても」は? 今さら何を言ってるんだ?」


突然口を開いたリーゼントさんの提案に、スパンダムは困惑してるけど、もしかしてコレは、彼らがココまで来る間の時間稼ぎをしようとしてくれているのかしら?


「ただし無条件で渡してやるわけにはいかねェ。設計図を渡す代わりに、おれを見逃してもらう」

「!!? アナタ何を考えてるの!!? 古代兵器は決して蘇らせてはいけないモノなのよ!!? 設計図を見たのなら私よりもその恐ろしさを理解してるハズよ!!!」

「ククッ、ハハハハハハハ!!!! そうか、この場になって命が惜しくなったか? イイだろう。設計図を渡せばお前を解放してやる。海列車に乗ってW7に帰るがイイ。どのツラ下げてアイスバーグに会うのか見ものだな」


「何とでも言えよ。おれは島に残してきた子分どもの方が大事なんだ。設計図を取り出すには特別な手順を踏む必要があるんでな、悪ィがこの鎖は引き千切らせてもらうぜ?」

「ふん、お前も超人の域に達していたとはな、行動を起こそうと思えば何時でも出来たって事か。勝てない相手に戦いを挑まないのは懸命な判断だ」


さっきまで拘束されていた鎖をいとも簡単に破壊すると、リーゼントはお腹のボタンを操作して、紙の束を取り出した。おそらくアレが古代兵器プルトンの設計図。


「バカな事はヤメなさい!!!! それは存在しちゃいけないモノなのよ!!!?」

「違うな、間違ってるぞ、ニコ・ロビン!! オハラの悪魔の生き残り、存在しちゃいけねェモノってのはな、お前みてェなヤツの事を言うんだよ」

「確かにお前は間違ってる」


リーゼントはプルトンの設計図を持って、スパンダムにゆっくりと近づいて行く。

もうダメだ。こんなヘンタイを一瞬でも信じようとしたなんて……


「どんなモノでもな……存在する事は罪にならねェ!!!」


声を張り上げた彼は、口から炎を吹いて設計図を燃やしてしまった!!!


「てめェ!!!? なんて事を!!!?」

「さっきのやり取りでハッキリした!! お前は古代兵器を復活させるような人間じゃねェ!! 設計図も!! 兵器そのモノも!! お前が持つ情報も!! そしてお前自身も!!! その存在に罪はねェんだ!!!」

「我々の五年間が……長官殿の願いが……もはや役にたたないのなら、この手で殺してやる」


声の調子は冷静なままだけど、帽子の男は怒りに震えていた。殺気を向けられたリーゼントさんは身動き一つ取れなくなってしまっている。


「ルッチ!! 今はコイツに構っている場合じゃねェ!! 耐久力だけはありそうだから潰しきるのには時間がかかりそうだ。コイツは放っといて「ガッ!!!?」行くぞ」


激昂しかけた帽子の男を諌めていたハズの黒鼻は、話の途中で驚くほどの速度で背中の剣を抜刀し、サイボーグの体を正面から斬り伏せた。

予想外の不意打ちに倒れたリーゼントさんは、ピクリとも動かない。


「ちょっと!!? アナタ大丈夫なの!!?「おれの前で許可なく口を開くなと、何度言えば分かるんだ?」っ!!!……」

「分かればイイんだ。急ぐぞルッチ!! お前はその女を抱えて来い!!」


スパンダムの発するオーラを前に、私は何も抵抗出来なかった。例え手錠がなくても、帽子の男から逃げることも出来そうにないわね。


リーゼントさん一人を部屋に残して、私達は地下通路へと向う。


下手に騒ぐのはもうヤメるわ。私じゃコイツらには勝てない。勝手に抵抗して殺されたら、助けてくれようとしてる皆に悪いもの。


この先にどんな結末が待っていても、私はそれを受け入れようと思う。
 
 
 

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