小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”絶対射程”



「切りやがった……決まりだな。スパンダムはただのビビリだ」


身を切るような突風が吹きすさぶ中、俺たちは裁判所の屋上に集結していた。宣戦布告と同時に切れた通信に、俺は笑いを堪えきれない。

ここまでの法則からしてスパンダムはとんでもない強さになっていると思ってたんだが、さっきの反応からしてただのビビリ。どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだ。


「ロビン奪還が見えてきたな。そろそろ司法の塔に乗り込む事にしよう。取りあえず熟睡してる船長様を誰か起こしてくれ」

「さっきからナミがぶん殴ってるけど起きる気配はねェぞ?」


俺たちが裁判所内部に突入した時、何故かルフィは拘束された状態で眠っていた。

おそらく催眠ガスか何かで眠らされたんだろうが、呆れすぎて怒る気にもなれなかったから、そのままゾロに担がせてきたんだが……何かボコボコになってるな。

あまり認めたくなかった現実なんだが、ナミはただの怪力ではなく武装色の覇気を使いこなしているのが、コレで確定した。


「そりゃあ起きてもまた気絶してるんじゃないか? タバスコ星でも放り込んだほうが、まだ安全に起こせる気がするけど」

「よし来た!! 必殺!!「いや殺すな」”三連タバスコ星”!!!」

「ぎゃーーーーー!!!!! 辛ェェェエエエ!!!!!」


何も三つも食わせることないのに……まあ、自業自得だな。


「ビビーーーーー!!! ミドゥーーーーーー!!!「任せて!!!」ドワァバブッ!!!?……」

「多すぎるわボケェ!!!! また気絶したじゃねェか!!!!」

「やりすぎちゃった☆」


やり過ぎたも何も、出力がやや低めとはいえ、船長に”激流葬(トレントフューノロー)”かますなんて普通の海賊団ならクビだぞ?

時間が無いっていうのに無駄な手間を増やしやがって……ていうか、最近ビビが多用するテヘペロがマジでイラッとくる。今度やったら零毀で強めに峰打ちしてやろう。


「あー、お前らのせいで時間が無くなったから、司法の塔玄関前まで、また投げるからな」

「はァ!!? 玄関から入るなら何でワザワザこんなとこまで昇ったんだよ!!!?」


フ、何故かって? それはな……


「気分だ。宣戦布告するならココからの方がカッコイイだろ?」

「アホかァ!!!! 時間を無駄にしてんのはてめェだ!!!!」


まぁ、うるさいゾロは放っといて、サンジは「月歩」出来るようになったみたいだし、二人で運べば投げる必要は別にないんだが、コレは結構爽快な気分になれるからヤメられない。


「大丈夫。今度は流れ星っていうか隕石だからあっという間だ」

「そういう問題じゃ……って待て!!? せめてクッション役のルフィを投げてからァァァアアア……」

「「「「…………」」」」

「ゾロってタクミになんかしたの?」


「特に何も?」

「タクミ!!! 結び目をたくさん付けたロープを用意した!!! おれ達はコレに捕まるからゆっくり運んでくれ!!!」

「でかしたウソップ!!! 寝てるルフィと、ついでにカルーも結んどけ!!!」

「もう怖い思いはしなくてイイんだな?」

「クエェー……」


投げるのはかなり楽しいんだが、既に全員がロープに捕まってるし、チョッパーが怖がってるならヤメるか。

てっきり”毛皮強化(ガードポイント)”で安全に着地してるもんだと思ってたんだが、あの様子じゃさっきも怖い思いをしたのかもしれない。

……ロビンにバレたら怒られそうだな。


「仕方ない。全員ちゃんと捕まっとけよ」


俺はロープの端を持って一旦上昇してから、全員がぶら下がっているのを確認して下降した。


「無事着地……ってどうかしたのかゾロ?」

「……お前とは、いつか決着をつける」


着地したと同時に喧嘩を売ってくるゾロ。おかしい、ゾロとはかなり仲がイイつもりだったんだが、最近やたらとつっかかってこないか?


「決着?? ロビンならやらんぞ? ビビで我慢しろ」

「そんな話じゃねェ!!! 誰があんな手のかかる暗黒女なんかいるか!!! ビビの方がいくらかマシだ!!!」

「!!? ロビンさんよりわたし!!? ついに!! ついに報われる時が来たのね!!! (ご褒美はウエディングドレスかしら♪)」


暗黒女??…………冷静になれ。ゾロは貴重な戦力だ。実戦形式の訓練ならエニエスロビーを出てからやればイイ。


「ルフィ!! いい加減起きろよ!!」

「んァ……朝飯?」

「チャパパパパパ!! 緊張感の無いヤツらだーーー!!」


ウソップによってルフィがようやくまともに目覚めたタイミングで、丸というかほぼ球体に近い体型の男が壁に張り付きながら話しかけてきた。


「それだけ俺たちが余裕って事だ。お前の事も知ってるぞ。確か……タマゴン「フクロウだーーー!!!」そうソレだ。無音暗殺術(サイレントキリング)の達人だったな」

「そこまで分かってるって事は、さっき名前を間違えたのはワザとだなーーーーー!!!」


いや、こんなヤツどうでもイイし、優先的に記憶から抜け落ちてたみたいだ。直ぐに思い出せたから、イレギュラーではないな。


「ココにいるCP9を全員倒して、誰かが持ってるロビンの鍵を奪えって伝えにきたんだろ? 取りあえず、お前の鍵を渡せ!!!」


俺は人形態のまま「剃」でフクロウに迫り、サッカーボールキックを顎めがけて放ったんだが、腕でガードされてしまった。雑に攻撃しすぎたな。


「パガッ!!!? そこまで予知してたのかーーー!!!? 噂は伊達じゃない……って道力4400!!!?」


「六式」遊戯の「手合」ってヤツか。CP9の連中の道力は覚えてないし、あまり参考にはならないが、驚きっぷりからしてかなり高いみたいだ。


「コレならカクが戦いたがらないのも納得だーーー!!! おれは逃げさせてチャバッ!!!?……」

「寝起きにごちゃごちゃうるせェ!!!! お前は何なんだ!!!!」


逃げようとしたフクロウは、寝起きのルフィに瞬殺された。何の活躍も出来なかったコイツには悪いが、正直敵じゃなかったな。

それにしても、寝起きでギア”2(セカンド)”なんか使ってたら心臓に悪いと思うんだが……止めても意味なさそうだな。

俺はフクロウの服を漁って、内ポケットから鍵を見つけた……”6”?……鍵は五本じゃなかったか?

あぁ、ブルーノがまだ無事だからだな。そういえばフランキーはどうなったんだ? ココで落ち合っていた様な記憶があるんだが……まぁ、問題ないだろ。


「皆よく聞いてくれ。CP9の長官とルッチは、地下の隠し通路を通って正義の門に向ってる。ロビンの海楼石の手錠の鍵を、ココに残ったCP9の連中が持ってるから、ココに五人、いや、六人残ろう」

「イヤイヤあれだけの話で何でそこまで状況が分かって……お前には愚問だったな。で? 面子はどうすんだ?」


サンジが当然の様に俺の意見を求めてくれる。ありがたい。ロビンに早く会いたいのは山々だが、俺はヤツに借りを返さなくちゃいけないからな。


「ルッチに対抗出来そうなのは俺かルフィかビビ。俺はカクを何が何でも潰さなきゃいけないからココに残るし、ビビは誰かと組んで戦うのには向いてない。だからルッチを追うのはルフィだ。「よっしゃーーー!!!」もう一人は……ゾロかな」

「おれとルフィで行動すんのか?……言い難いけどよ……おれ達二人じゃ迷わないか?」


っ!!!? ついにゾロが迷子病を認めた!!!? 裁判所では俺が先導してたのに迷いそうになってたからな。流石に自覚が芽生えたか。


「問題ない。ひたすら下に降りて行ったら、鋼鉄の扉があるから、ソレをゾロが斬り開け。後は一本道だ……念の為に訊くが、”下”ってどっちか分かるか?」

「バカにしすぎだァ!!! ナメてんのか!!!?」


空島に行った時に右と左が分からなくなったヤツなんだから、コレくらいの確認は当然だと思う。


「分かるならイイんだ。ほら、お前らはさっさと行け。ゾロはこの小電伝虫も持って行ってくれ。何かあったら連絡する」

「任せとけタクミ!!! ロビンは絶対助けるからな!!!」

「……了解。副船長」


ルフィは元気良く、ゾロは渋々といった感じで、二人は階段を降りて行った。


「さて、ココにいるCP9で特に強いのはカクとジャブラだ。カクは俺が仕留めるとして、ジャブラを倒せそうなのはサンジかビビ、不意を撃てばウソップってとこなんだが、多分寝てるハズだから鍵だけ盗んで逃げろ」

「寝てるハズってマジか!!?」


それなら楽勝とでも言いたいのかウソップが興奮気味に話しているんだが……


「お前はダメだ。ツッこみのLvが高すぎて、アイツとの相性は最悪だからな。疲労するだけだ」

「疲れるほどボケ倒すようなヤツなんかいるかァ!!! いるとしたらお前だよ!!!」


うん、ダメだ。ウソップは確実にあの鶏にツッこむ。


「ウソップには重大な役目があるから、万が一にも負傷してもらうわけにはいかないんだ。お前はCP9との戦闘に参加せずに、司法の塔の天辺から護送船の衛兵を狙撃しまくってくれ」

「護送船の衛兵って!!!? どんだけ距離があると思ってんだよ!!!?」


ウソップは出来るわけないって言いたいんだろうが、俺は知ってるからな。狙撃の王様”そげキング”を。


「お前は海賊王になる男の船員だぞ? 俺のカードだって持ったままなんだ……し……!!!? いつの間にか”死”が消えてる!!!?」

「マジか!!!? 何か出来る気がしてきた!!! すっかり忘れてたけどカードは返すぜ!!!」


は!!? 何時から消えてたんだ!!? そういえばカクにやられてメリー号で目が覚めてから、ウソップに”死”が憑いてるのを見てないような……カクか。全部カクが悪いんだな?

俺が寝てる間にウソップが怪我をしていたのが気にはなっていたが、アレもカクがやったんだな? チョッパーを攫ったのもアイツらしいし、手加減なんかするつもりは毛頭なかったが、全力全壊で殺ろう。

ウソップからNo.?のタロットカードを受け取った俺は、久々にカードをシャッフルしながら指示を続ける。


「鍵を奪うのに成功したヤツは、順次ウソップの所へ向ってくれ。なるべく早くロビンを解放して、今回はロビンにも戦ってもらうからな」

「ロビンって、普段はお前が戦わないようにしてるだけで、実際はめちゃくちゃ強ェんだろ?」

「おおー!! ロビンも戦うのか!!! おれは始めて見るぞ!!!」

「ロビンさんの本気が始めて見れそうね」

「本気ってあの暗黒モード!!!?」

「タクミ、ロビンちゃんを戦わせるのはヤメとかねェか? おれはあのロビンちゃんは苦手なんだ」


何か二名ほどトラウマを抱えてるみたいだが、俺が知らないところでロビンは何をやったんだ?

ゾロがさっき言ってた暗黒女っていうのはナミが言ってる暗黒モードってヤツと同じなんだろうか?


「グダグダ言ってないで作戦を開始するぞ。この塔のCP9は残り五人。ヤツらの運命は既に決まってる」


シャッフルの手を止め、俺は一番上のカードを確証を持って捲り、皆に示した。


「No.?? ”The Tower”!! この場合の意味は”災難””悲惨””滅亡”ってとこだ。一人一殺!! ヤツらに不吉を届けてやれ!!!」


自信満々にカードを提示した俺に、ナミとサンジは呆れた様な表情をしている……ミスったか?

クレイジー兄貴ほどではないが、俺もタロットにはそこそこ自信があったんだが……


「捲ったカードを自分で見てもいねェじゃねェか」

「タクミは未来を知ってるんじゃなくて、タクミが未来を決めてるって感じよね」

「予言者様がこう言ってんだから、おれ達の勝利は揺るがねェハズさ」

「今度恋愛占いでもして貰おうかしら?」

「おれはタクミを信じるぞ!!」


皆の言葉を聞いて、手元のカードを確認すれば、宣言通り”落雷の塔”のカードだった。

最初はルフィを誤魔化す為に話した占い師なんてデマカセが、ココまで信頼を得る事になるなんて考えてもいなかった。

エニエスロビーの事は大半を覚えているからイイものの、ここから先、俺は原作知識に頼らずにこの一味を導いていかなければいけない。

何があっても会うものかと思っていたが、そろそろ兄貴に会いに行く必要があるのかもな。

兄貴に会ってしまえば、俺は確実にこの世界での記憶の全てを取り戻す事になるだろう。

それは俺から、これから先の原作知識を完全に奪う結果になるんだろうが、得るものも大きいハズ。


「信じてくれてありがとう。この戦いを終えたら、俺から皆に大事な話がある。また厄介事に巻き込むかもしれないが、今は目の前の戦いに集中してくれ。必ず勝って、笑ってまた会おう。その時はロビンも一緒だ」


俺の言葉を聞いた皆は、笑顔で応えてくれた。信じられない事にあのサンジまでだ。


「厄介事に関わってない事なんて、この一味には無いじゃない。誰の面倒にも全力で力になるのが麦わらの一味よ。わたしは先に行くわ。皆ガンバってね!! GO!! カルー!!」

「クエェェェエエエ!!!!」

「ナ〜ミすわぁ〜ん!! おれも一緒に行くよ〜!!」

「わたしも行くわ。別に一人で数人倒してもイイんでしょ? CP9一人を500人分として、あと二人!! 目指せウエディングドレス!!」

「おれはこっちだァ!!! ロビン!! 今助けるぞォ!!!」

「騒がしい連中だな……おれも行くか。護送船は乗っ取り易いように無人にしといてやるよ。じゃあな」


俺を残して走り去って行く(ウソップだけは歩いて行った)皆の背中を見て、改めてこの一味に入ってよかったと感じる……こんなんじゃダメだな。感傷に浸ってる場合じゃない。


…………カクの気配は四階、何故かあの時みたいな闘気は感じないが、ヤツは間違いなくそこに居る。


急ぐ必要は無い。皆に対して感じている感謝の気持ちを一旦しまい込み、沸々と湧き上がるカクへの怒りを練り上げながら、俺は四階へと歩き出した。



~Side ウソップ~



司法の塔は全ての階に共通して天井が高い。五階建の長い階段を昇りながら、おれは気分が高揚していくのを感じる。

ロビンを乗せる予定の護送船、その船員を通常の銃の射程外から狙撃する。コレは、おれがハッキリと狙撃手として受け持つ初めての任務。

高低差もあるし、何よりおれには新兵器”カブト”がある。巨大パチンコ”カブト”は、空島でタクミが買い漁った数種類の貝(ダイアル)や、おれがエネルの船から奪った噴風貝(ジェットダイアル)を搭載した兵器だ。

最初はタクミの拳銃の技術を転用した狙撃銃でも作ろうかと思ってたけど、やっぱりおれには使い慣れたパチンコの方が性に合ってる。

それぞれの貝(ダイアル)には、おれが改造も施しているし、最大射程はおれの裸眼視力の範囲外にまで及ぶ。

ゴーグルのレンズも、複数を重ねて倍率を調整できるようにしてあるし、スペック的には狙撃は十分に可能。

…………後はおれの腕次第って事だ。


『大事な話がある』……タクミは真剣な表情でそう言ってた。多分、英雄ガープと戦う可能性がある事を、いよいよ皆に話すつもりなんだ。

おれ達がタクミを信じたから、タクミもおれ達を信じた。ここまで引っ張るなんて、随分と慎重な判断だとは思うが、おれ達の事を、何よりロビンの事を思って、今まで黙ってきたんだろうから、そこを責める気はねェ。

一人で抱え込むアイツが、珍しくおれ達を頼ろうってんだから、今のおれに出来る事は一つだけ。

ココで狙撃手として最高の仕事をして、おれの力を示し、アイツを安心させてやる事だ。


「……着いたか」


風が吹き荒れる屋上に辿り着いたおれは、背中に背負ったカブトを下ろし、今回のコンディションに合わせてセッティングを施していく。


「こんな風の中で狙撃しろだなんて、ムチャ言ってくれるよなァ。落ちたらただじゃすまねェ高さだし、縁に立つだけで足が竦みそう…………ってありゃ誰だ?」


カブトのセッティングをしながら塔の下を見下ろしてみると、帽子を被った男が海に向って石を投げていた。

気になったおれは、手持ちの音貝(トーンダイアル)に紐を括りつけ、殻長を押した状態で男の近くに垂らしていく。

あの男がCP9のメンバーなら、何が何でもココで仕留めておくべきだが、万が一関係ないヤツを狙撃して、それで失敗でもしようモノなら、危険に巻き込まれるだけだ。

タクミの作戦では、おれは怪我をする事を許されないポジションなんだから、事は慎重に運ぶ必要がある。


二分くらい録音した後、おれは手早く貝(ダイアル)を回収して、さっそく再生してみた。


『『……はァ、鍵も任されてないし、暇過ぎっしょ……パンダっ鼻とバカ女が通った後で扉は閉めたんだし、そろそろ銀獅子とかいうヤツがココに来てもおかしくねェのに……』』


やっぱりコイツはCP9の一人か。鍵は持ってないみてェだが、こんなところでタクミを待ち伏せしてるなんて、何が狙いなんだ?


『『扉を閉じてれば、「月歩」が使えるらしい銀獅子はココから海を渡るって思ってたのに……期待外れ?……予想外のバカだった?……折角おれが手柄を独り占めしようと思ってんのに、バカな海賊は行動が読めなさ過ぎっしょ』』


……大体読めたな。コレ以上聞く必要は無いと判断して、おれは音貝(トーンダイアル)をがま口に入れた。

ロビンを追って来るハズのタクミを罠にでも嵌めろって、上官に指示されてたのを無視して、コイツはココでタクミを一人で迎え撃つつもりだったんだ。

コイツの誤算は大きく三つ。一つ目は、タクミがルフィを信頼して、ロビンの事を任せた事。タクミとロビンの関係を政府が掴んでる以上、当然タクミが追って来ると考えたわけだな。

二つ目は、扉を閉めていれば自分の場所に来ざる得ないと思い込んだこと。どんな頑丈な扉か知らねェが、ゾロが同行してんだから、そんなもんは斬り開いてお終いだ。

三つ目は、暇を潰しているこの状況を、狙撃手のおれが見ている事だ。後ろにある扉が開けば注意力を戻すつもりなんだろうが、おれがココでたてる物音なんかには気づけるわけがねェからな。


あの男はココで仕留める。鍵を持っていないとはいえ、タクミ曰く『CP9は最低でも、単騎で武装した衛兵50人分の戦力』。邪魔になるアイツを仕留めるのは、隙だらけの今がチャンスだ。

落下の加速を考えれば、アイツを狙うのに風なんかの難しい計算はいらない。だいたいこんなもんは感覚勝負だ。噴風貝(ジェットダイアル)の出力を最大にして、敵が万が一能力者だった時の事も考え、海楼石から切りだした貴重な弾丸を番える。

”螺旋鉛星”みてェなエグイ加工はしてねェが、重力加速に、巨大パチンコ本来の加速、そこに噴風貝(ジェットダイアル)の最大出力まで加われば、普通の人間の体ならバラバラに吹き飛ぶハズだ。


相変わらず胡坐を組んで座って石を投げている男の背中に狙いをつけ、おれは力の限りパチンコを引き絞る。少しでも狙いが外れれば、近くに着弾した音で気づかれる。


心を研ぎ澄ませ。弾丸の気持ちになってイメージしろ……おれは……一発の弾丸……弾丸は迷わない……ただ標的に向かい……真っ直ぐに……


「必殺!! ”箒星”!!!」


弾丸はパチンコから放たれる瞬間、噴風貝(ジェットダイアル)の風を受けて、爆発的に加速する。それは如何なる敵をも一掃する箒星。古来からの不吉の象徴。

放たれたとほぼ同時に着弾したその弾丸は……そのまま帽子の男の背を貫いた。


「流石に頑丈に出来てんな。貫通しただけか。でも……もう動けねェみてェだな」


ほっと一息吐いたおれは、タクミみてェに戦利品でも奪おうかと思って釣り糸を垂らしてみたんだが、腰に差してる小型ピストルは固定されていて取れそうになかった。

仕方なく特徴的なデザインの帽子を吊り上げて被ってみたんだが、どうもおれには似合わねェみてェだな。


「ロビンにでもやるか。こういうの好きそうだし……ってこんな事してる場合じゃねェな」


護送船周辺にゴーグルのピントを合わせたおれは、似合わないと承知の上で帽子を被り、目に付いた衛兵の一人に狙いを付けた。


「副船長の命令なんでね……届けに来たぜ……不吉を」


がま口の中には100発の鉛星と50発の螺旋鉛星、火薬星50発に火の鳥星が20発。


体のいたるところに仕込んだ予備の弾丸以外、全てを撃ちつくそう。今のおれは……外す気がしない。


眼に映る範囲全てが、おれの絶対射程(キリングレンジ)だ。



 
  
〜おまけ〜



「……はァ、そもそも何でおれはCP9なんかに入ったんだ? 殺しの天才なおれにとっては天職だとは思うけど、どうせ親父が揉み消してくれるんだし関係ないっしょ。おれは天才タイプだってのに、あの脳筋どもは誰もおれを贔屓してくれねェし、こんな職場辞めちまおうかな……そうだ!! どうせ暇なんだし、辞める前にあのカリファとかいうメガネ美人とガッ!!!!?……」



〜Fin〜
 
 
 

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