小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”悪ダクミ”



〜Side タクミ〜



 復活したウソップに、一番話が通じそうだったゾロから説明をさせ、誤解は解けた……ハズ。

 ウソップの話を聞き、妄想とイイ感じにシンクロした俺の行動が恐ろしかったのは分かったが、何も失禁する事はないと思う。

 そんなウソップにつれられて(もちろんちゃんと着替えに帰らせた)やってきた村一番の飯屋(ていうか飯屋は一件だけだった)で、俺たちはただいま会食中だ。

 ナミはウソップからカヤお嬢様の事とかいろいろ聞いてるみたいだけど、俺はゾロと二人で地酒の飲み比べ。気に入った酒をナミにメリー号いっぱい買ってもらうつもりだからな。

 ちなみにルフィはどちらにも興味が無いようで肉に夢中。まぁ俺らの方に加わろうものなら、悪夢を防ぐ為にも問答無用で叩き出すがな。船長なんだから、せめてメリー号が関連するナミとウソップの会話には加わるポーズくらいしてほしい。


「タクミはシャンパンが好きなのか? でもよ、そいつは樽では買えねェからあんまり量は積めねェだろ?」


 黙って飲んでいたゾロに不意に話しかけられ、俺は思わず素で応えた。


「いいんだよ、これはここで呑むだけで。『シャンパン以外は呑みたくない』とか上客に言ってたアホだった新人時代を思い出すんだ」


 あの頃の俺は若かった。そしてアホだった。せっかく出来た上客をアレで数人逃がしたからな。

 後の極太客になる女社長は、何故かあの頃の俺の態度が気に入ったみたいで、毎回最低でもゴールドは入れてくれてたけど…………今となっては遠い記憶だ。

 ちなみにドンペリってそんなに美味しくない。売り上げになるから呑んでたけど、しかも炭酸がキツ過ぎて、抜かないと一気なんてムリだ。

 開けていきなり一気なんてするのは、ポンパかパティオで限界、モエ系もムリ。よくこんな我が侭なヤツがNo.1に居座っていられたもんだ。

 まぁ、俺の客層の殆どがお金を持ってるおばさま達で、子供を可愛がる親の心境だったんだろう。中には孫を可愛がる気分と言った方がよさそうな年齢の客までいたし、ホストクラブって意外と女のコを連れた男性客も来るから、そこら辺に気に入られてたのもよかったんだろう。

 もちろん男性客には横柄な態度を取ったりはしていなかった。だって怖かったからな……自由業の人が職業伏せて来たりするから。

 あんな所で働いてたら、誰でも腹黒になる。俺が一人でトリップしていると、ゾロがコッチを凝視している……何かマズったか?


「何の新人だよ……ってそれは夜の店のことだよなァ!? お前7歳からあの島に居たんだろ? しかもそれ以前の記憶は無いって……どういうことだ?」

「えっ!?…………今のは冗談だ」


 何てショボイ切りかえしだ!!!? 演技派のつもりだったんだが、ゾロが聞いてきた事が意外過ぎてテンパッてしまった。


「今、一瞬慌ててただろ? 白状しろよ」


うろたえる俺に、ゾロはニヤニヤしながら追撃してくる……こうなったら!!


「ジョ〜〜〜〜〜〜〜ダンじゃなーーーーーーいわよーーーーーーう!!!」

「オカマバーーーー!!!?……流石にそれは冗談だろう。話したくねェなら別にいい。」


 ゾロは呑んでいたエールを吹き出すほど驚いていたが、冗談だとは分かってくれたみたいだ。更なるインパクトで上書き作戦は上手くいったみたいだな。


「ごめんねぇ」

「……なんかもう普段の口調がオカマっぽく聞こえてきやがった。もうこの話題には触れねェことにする」


 そう言ってゾロは飲み比べを再開する。いやぁ危なかったぁ。流石に原作主要キャラに転生者をカミングアウトするわけにはいかないからな。うまいこと誤魔化すことに成功したようだ。ありがとうベンサム!!

 ていうかコッチにもあるんだ、ホストクラブとかオカマバーとか。ゾロがそんなの知ってたのにも驚いたが、酒好きだからか?

 そんな寸劇を終えて俺も飲み比べを再開していると、


「おまえら……おれがキャプテンになってやってもいいぜ!!!!」


 と、話の流れは知らんがウソップが言ってきたので、


「「「「ごめんなさい」」」」

「はえェな、おい!!」


 アイコンタクトも無く俺たちは華麗なユニゾンツッこみをかました。



 ウソップが『用事がある』と言って出て行った後、にんじん、ピーマン、たまねぎのお野菜三人組とも寸劇をこなして、ルフィ、ゾロ、ナミの三人はカヤの屋敷へ直接、船を貰う交渉に向かった。

 買い取るならまだしも『くれ』って普通に言えるルフィの根性には尊敬さえするが、たとえクロがいなかったとしても、それはムリだ。世の中そんなに甘くない。

 俺は何をしているかというと原作で気になっていた事を思い出したので、一人で別行動を取っている。気になる点はあの”百計のクロ”が何の報いも受けていないことだ。ルフィは相手を殺さずに決着をつけるがアイツの受けた罰は甘い。

 見た目や技がどれだけカッコよかろうが、スーツにあんなマークを刺繍してるバカに俺は容赦しないんだ。

 原作でのクロは戦闘後、ジャンゴの抜けたクロネコ海賊団に復帰し、海賊を続けている。これを何とかできないだろうか?


 俺には策がある。しかもそれはナミの精神的早期救済になるのだから、やらない手は無いだろう。

 俺は交渉のシミュレーションを終え、村の駐在所の電伝虫を500ベリーで貸してもらった。ちなみにこの金は、十八年間の間に海賊や密猟者から略奪してきた金で、俺のへそくりだ。

 貧乏は嫌いだから、コレはナミに渡すつもりはない。愛用の本皮製ロングジャケットに隠しているから、誰にも見つからないだろう……ナミなら金の匂いを嗅ぎ当てそうで怖いが。

 こんなアホな事を考えてる場合じゃなかった。ネズミに電伝虫をかけないとな『ONE PIECE』は何度も読み返したから大丈夫だとは思うが、ココで間違えてたらアウトだな。


『『……こちら海軍第16支部』』

「はじめまして、俺は賞金稼ぎのタクミという者です。重要な話をお伝えしたいので、ネズミ大佐にお繋ぎ願えますか?大佐の出世に関わるお話だとお伝え下さい」


 第16支部、ココの支部長がネズミだったハズだ……どうなる。


『『なんだ貴様!? そんなふざけた電話を繋げるわけ無いだろう!!!』』

「あれ? いいんですか? 大佐はそこの支部長でしょ? 大佐の利益になることを伝えなかったら、後でどうなっても知りませんよ? おそらく今日の電話対応者全員がまとめて処分されます。後日そちらに伺う予定もありますしね」


 取りあえずネズミの所属は第16支部で間違いなかったみたいだ。後はこの支部がどこまで腐っているかがポイント。末端はまともな人間なら、俺の策はココで終了してしまう。


『『……わ、わかった。くれぐれもわたしが最初に渋ったということは大佐に話さないでくれ』』

「了解しました」


 よっしゃあ食いついた!! 第一段階クリア!! やっぱりな、この支部も根っこから腐ってる。ネズミに脅されていようが、正義を曲げた時点でソイツも同罪だ。

 東の海のダメ支部はシェルズタウンのモーガンがもういない以上、俺はココしか知らない。断られたらどうしようかと焦ったが、大佐に取り次いでは貰えた。


『『……わたしが第16支部大佐のネズミだ。有益な情報っていうのは本当だろうな?』』

「もちろんですよ、大佐殿。大佐は”百計のクロ”をご存知ですか?」


 いきなり用件を聞いてくるならコッチとしても手っ取り早い。思い通りに動いてくれよ?


『『無論知っている。我々海軍が捉え3年前に処刑した』』


 自分が捕らえたわけでもないのに『我々』か、やっぱりコイツは清々しいくらいに無能だ。


「聡明ですね、でもこれはご存じないでしょう……クロは生きています」

『『何っ!!!? それは本当か?』』


 ネズミの声は驚愕に満ちていた。その声を伝える電伝虫の表情が、それを雄弁に語っている。

 にしても電伝虫って便利なような不便なような感じだな。通話相手の感情まで伝えるなんてどういう生き物なんだよ。


「処刑されたのは替え玉、確かな情報です。わたしは既に潜伏先も突き止め、しかもクロを倒す術がある……大佐……海軍を欺き逃亡したクロを捕らえたという手柄、欲しくはありませんか? 大佐が別ルートで換金しても構いませんよ?」

『『…………チチチチ、そういうことか、で、いくら欲しいのかね賞金稼ぎくん』』


 コイツこういう話だと理解が早いな!! この交渉だけで完全に上に立つのは難しそうだ。慎重に事を運ぶ必要がありそうだな。


「話が早くて助かります。そうですね、当時の懸賞金が1600万ベリー、海軍船全滅プラス海軍に対する偽装工作による懸賞金増加、さらに現クロネコ海賊団幹部ブチとシャムをお付けして何とたったの1000万ベリー……いかかでしょうか?」


『『チチチチ、破格だな。君は実に世渡りがうまい……イイだろうその話、乗ってやろうじゃないか』』


 もう少し金額交渉なりなんなりしてくると思っていたんだが、コチラの言い値で通してきたか。東の海でのクロの悪名は相当な価値があるって事だろう。


「ありがとうございます。低価格設定なので、ついでに小さなお願いをしてもよろしいですか?」

『『言ってみたまえ』』


 この要望は本当に小さな願い。万が一受け入れられなくても、別にルートは考えてある。


「受け渡し場所はシロップ村、そこまで迎えに来ていただいた後、その場で賞金と引き換え、私を海上レストラン『バラティエ』まで送っていただきたいんですが」

『『かまわんよ。そのかわり、今後君が捕らえた賞金首は、すべてわたしを仲介に通して換金してもらう。それと、クロは決して殺さずに捕らえるんだ』』


 受け入れられることも、コレくらいの条件を出してくる事も想定内。


「了解しました。最短でいつ頃こちらに到着できますか?」

『『海軍船で全速三日といったところだろう』』


 思っていたよりも遅いが、まぁ、許容範囲内だろう。


「それなら大丈夫です。では三日後の夕刻、シロップ村南の海岸で」

『『楽しみにしてるよ賞金稼ぎくん……では』』


 ……完璧だ!! 大成功!!! ネズミなら絶対乗ってくると思った。悪徳大佐としてモーガンの方が印象は強くなりがちだが、俺としては頭脳派のネズミの方が厭らしさを強く感じて、悪役としては好みだ。

 海軍船ならバラティエでのクリーク戦に間に合うだろ。賞金首になっていない今だからこそ使える悪魔的奇手!! ナミの一億ベリーは原作であと七百万ベリーって言ってたから、どれだけ酒買っても1000万ベリー足せば足りるだろう。

 アーロンは約束は守る、ナミはそう信じているからそれだけで救われるだろうな。

 ……まぁ、どっちにしろアーロンパークは潰すんだけど。もしアーロンがすんなりお金を受け取っても後から奪還するつもりだ。

 悪巧みもすんだことだし、明日の戦いに備えて呑み直しますか!!
 
 
 

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