”ウソップの決意”
〜Side タクミ〜
ネズミとの通話を終えた俺は、ゾロと飲み直そうと思ったんだが、軽く探しても見当たらなかった。今は仕方なく、南の海岸で一人酒の真っ最中だ。
シェリー酒ってヤツを始めて飲んでみたんだが、このシロップ村で手に入る酒の中では、かなり俺好みの味だ。
この時代、酔えればイイって感じの安いラムが多いみたいで、無駄にイイ酒を飲み慣れていた俺としては満足いくのはこのシェリーくらいだな。
安い酒も嫌いなわけじゃないんだが、ビールすらなくてエールが一般的っていうのは辛いモノがある。
そんな事を考えながらシェリーをボトルのまま飲んでいると、背後から複数の足音が近づいてきた。
「タクミ!? アンタこんな所に居たのね」
「ナミか、ちょっといろいろと情報収集していてな。それより、買ってもらう酒はこれがイイかな、十樽位買っておいてくれ」
「あの小舟に、そんなに載るわけ無いでしょうが!!」
ナミがツッこみ属性を持っているのは知ってるが、殴らなくてもイイと思う。「鉄塊」で防御するわけにもいかないし、拳骨ってわりとキツめの体罰だぞ?
「地味に痛いな。お嬢様に船貰うんじゃなかったのか?」
「今、そんな状況じゃないのよ!!」
状況は分かっているんだが、聞かないわけにもいかないんで、取りあえず訊ねてみたんだが、もう一発殴ってきそうな雰囲気だ。
ルフィはともかく、ナミまで本気で船が貰えると思っていたのか確認してみるのも面白そうだけど、もう拳骨は遠慮したいからヤメておこう。
「何だよカリカリして、そういえば長鼻くんが元気ないみたいだけど、何かあったのか?」
ワザとらしく(は見えていないハズ)心配する俺に、ナミは深刻そうな顔で話し始める。
「この村が明日襲われるのよ。クロネコ海賊団って海賊にね。この海岸から進攻してくるって情報を事前に掴めたのは幸いだったんだけど、問題は首謀者が村人からの信頼も厚いクラハドールっていう執事ってことなのよ」
「……えーと、何か問題がある? 上陸地点まで解ってるんなら、敵が船を寄せる前に殲滅すればイイだろ? 海上なら逃げ場なんかないし。その執事の事だって、実際に計画を話してるのを見たし聞いたって村の連中に言えば問題無いと思うけど?」
実際問題、クロ以外の面子しかいないクロネコ海賊団なら、俺一人で殲滅可能だろうけど、原作の流れをそこまで変えるつもりはない。あくまで俺が何の知識も持っていなかったらするであろう提案を考えて、言ってみただけだ。
「殲滅って!? そんな事……アンタなら出来そうね。でも住人の避難は難しいわ」
「なんで?」
理解不能って感じで出した俺の言葉に、ウソップが絞り出すような声で語りだす。何かこの演技は人として流石に罪悪感があるな。
「……あの執事が話してるのを聴いたのは、お前んとこの船長とおれなんだ。コイツはよそ者だから問題外だし……おれは嘘吐きだからよ、信じて貰えずにこのザマだ」
銃創がある左腕を押さえながら、ウソップは俯いている。ナミの為に電話する事を優先してしまったけど、ウソップの被弾も回避させてやるべきだった。
俺には知識があったのに、これじゃウソップを見捨てたのと一緒だ。コレからは、介入するなら思いっきりだな。
「腕に銃弾ブチ込まれようともよ……ホウキ持って追っかけ回されようともよ……ここはおれの育った村だ!! おれはこの村が大好きだ!! みんなを守りたい!!! こんなわけもわからねェうちに……みんなを殺されてたまるかよ!!!」
涙を押さえ込んで立ち上がるウソップを、俺は真っ直ぐに見据える。
「だからおれは、この海岸で海賊どもを迎え撃ち!! この一件を嘘にする!!!! それが嘘吐きとして!! おれの通すべき筋ってもんだ!!!!!」
やっぱウソップはキメるときはキメるな!! 中々カッコイイじゃないか!! でもまぁ、自分のこと棚に上げるけど嘘は良くないな。戦闘時以外ではあまり嘘は吐かないほうがイイと思う。
ちょっと自業自得な感じもするけど、なかなかの心意気をみせて貰ったし、被弾の罪滅ぼしもかねて、俺も手助けするか。
「ルフィ、俺は助けてやりたいんだが、どうする? 上陸地点はココなんだろ? 俺なら近づいた瞬間に船ごと殲滅できると思うし、そんなに手間じゃない。けどまあ、決めるのは船長のお前だ」
「あぁ、おれ達も加勢「言っとくけど宝は全部わたしの物よ!!」……するぞ」
ルフィのセリフはナミに被せられたけど、コレで俺たちのココでの行動は決まった。
俺の麦わらの一味としての初戦闘だ。あまり出しゃばるつもりはないが、最初の一回、今回だけは最前線で暴れて実力を見せないとな。
〜Side ウソップ〜
コイツら馬鹿なのか!? 相手はクロネコ海賊団なんだぞ!? C・クロの賞金は確か1600万ベリー。俺は決死の覚悟で狡い手(矛盾してない!)を使うつもりだったのに、銀髪は無茶苦茶な殲滅計画を次々と発表し、船長はソレを面白くないからと却下しまくる。
コイツらには緊張感の欠片も無い。この調子じゃ結局おれ一人で戦うようなもんだ。
決戦を想像して足が震える。そんなおれを毬藻頭が黙ってみてやがる。
「見世物じゃねェぞ!!! 怖ェもんは怖ェんだ!! ふざけた計画立てて馬鹿にしてんなら帰れ!!」
「笑ってやしねェだろ? おれはつまらねェ事に命賭ける程バカじゃねェし、立派だと思うから手を貸すんだ。だいたいタクミの計画は、おそらく全部実現可能な計画だと思うぞ?」
は??? 銀髪の計画って、遠距離から大岩ブン投げるとか、船まで跳んでいって単純に蹂躙するとか聞いて損したって言うような計画ばかりだぞ? それが実現可能? 一体何なんだこいつら?
不安になったおれは、一先ずコイツらに何が出来るのかを聞いてみた。
「斬る」
「のびる」
「狩る」
「盗む」
一人を除いて何とも海賊っぽい答えだな。しかも自信に満ちてる。『のびる』は正直意味不明だが、コレなら任せても問題なさそうだ。
『お前はどうなんだよ?』と言いたげな毬藻頭の視線を受け、さっきのコイツらと同じ様に、おれも自信満々で答えてやる事にした。
「おれは隠れる」
「戦いなさいよ!! 最前線で!!」
っ!!!? 目が飛び出るかと思ったぞ!!!? 本当にコイツは女か!!!? こんな拳骨をくらって『地味に痛い』の一言で済ますなんて、あの銀髪はそれ以上のバケモノだ!!!
もちろん隠れるっていうのは半分くらい冗談だったから、結局は銀髪の遊撃策と、おれの狡い作戦(油坂)の二段構えになった。
油坂の上で、おれ達五人はクロネコ海賊団の到着を待った。自信満々で待ち構えるコイツらに、おれはどっか安心していた部分があったのかもしれねェ。
船が見えたら銀髪が跳んでって(”飛ぶ”では無いらしい)上陸前に片付けるそうだ。瞬殺出来ないような敵が乗っていた場合は即帰還、五人で迎え撃つという策らしい。
跳んでいく!? この点には銀髪の仲間三人も若干驚いてはいたが『タクミは何でもありね!!』とのオレンジ髪の意見でなんか納得していた。
この銀髪の実力を早くこの眼で見てみてェと考えていると、綺麗な朝日が見えてきた。
………………あれ????
完全に夜が明けきったってェのに、クロネコ海賊団の姿は欠片も見あたらねェ!? 四人とも不審な顔をしているが銀髪の様子がおかしい。
長い髪がざわざわと総毛立ち、それを注視していると、いつの間にか顔がライオンみてェになって、肢体も獣のそれに変貌を遂げていた。
「なんか北から声が聞こえないか?」
銀髪の獅子の唸るような言葉を聞きながら、出会った時と同様、おれの意識は途切れたんだ。