小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”双璧”



〜Side ルフィ〜



「ロビン!!! 助けに来たぞ!!!」

「船長さん!!! 剣士さんも!!!」


 長い長い地下通路を抜けた先、広い部屋に出たところで、おれとゾロはようやくロビン達に追いついた。

 さっきまでいた塔と変わらねェくらいの天井の高さ、たぶんココが地下通路の行き止まり。

 ロビンを抱えているルッチはニヤリと笑っておれを見た。その隣にいる黒い鼻の男は、ルッチみてェな余裕はないみてェで、目を見開いて、背中の剣に手をかけている。


「麦わらのルフィか!!? 一緒にいるのは海賊狩り……銀獅子は来てねェんだな?……ルッチ!! ネロからの通信はどうした!!?」

「入電はありません。長官殿、あの男には、僅かでも期待をしてはならないという事でしょう。ココはお任せ下さい。長官殿はニコ・ロビンを連れて……どうぞお先に」


 ルッチはロビンを降ろすと、W7で見せたでっけェ豹人間のカッコウになった。

 横槍があった勝負だったけど、アイツはタクミが勝てなかった相手。

 おれに、アイツを倒せるのかはわからねェ……けど、おれはアイツを倒さなくちゃいけェんだ!!!

 タクミが”真の姿”と”血の髑髏”を切り札にしてるみてェに、おれだって切り札がある。


「お前の相手はこのおれだ!!! ぶっ飛ばしてやる!!!」

「二人がかりでも、おれは構わない。纏めてかかってきたらどうだ?」

「……ルフィ、時間がねェんだ。納得いかねェかもしれねェが、ココはアイツの提案に乗った方が、ロビンの為にはなるぞ」


 ゾロの言ってる事は正しい。ココでルッチを倒さねェと、結局はタクミがまたムチャをする事になるんだ。

 でも……


「……ゾロは手ェだすな。おれが……戦う」

「……そうか、負けんなよ」


 ……どうしても、一対一でやりたい。もっとおれを頼ってイイんだってタクミに、ロビンに、教えてやりてェんだ。

 両脚をポンプにして、全身の血の流れを一気に加速させ、おれはギア”2(セカンド)”を発動させる。


「それがお前の奥の手か。あの銀獅子の上に立つ男の実力……見せてもらおう」

「待て、ルッチ」


 ルッチが笑みを浮かべて構えを取ったその時、黒鼻がその肩に手を置いて、制止をかけた。


「麦わらの一味を侮るな。お前があの男を倒したところで、そのまま連戦する事になる。海賊狩りは……おれが殺ろう」

「長官殿、それではニコ・ロビンの護送が遅れますし、戦いに集中してる間に、逃げられてしまっては元も子もないかと」

「痛ッ!!!? 何を!!? うっ!!?……」

「ロビーーーン!!! ロビンに手ェだすな!!!」


 黒鼻はルッチの進言を聞いた後、表情一つ変えずにロビンを引き摺っていって、腹を一発殴って気絶させた。

 そのまま扉の外にロビンを放り出すと、軽く手を叩いてからコッチを見据える。


「コレで問題ない。あの女が目を覚ましたところで、この先にはためらいの橋、そして正義の門があるだけだ。どこにも逃げる事なんて出来やしない」

「しかし、鍵を入手した銀獅子が、海を渡っていく可能性もあるのではないでしょうか?」


 ルッチの方が慎重だな。タクミなら絶対に他のCP9の連中から鍵を奪って、ロビンを助けにいくハズだ。

 それなのに……


「何が可笑しいんだ!!! タクミをバカにしてんのか!!!」


 黒鼻は笑ってた。その笑い方がタクミに似てる気がして、おれは嫌な予感がする。


「アイツらじゃお前達を倒す事が出来ないのは解ってる。それなのにおれが、本当に鍵を託すとでも……思ってるのか?」

「てめェ……ろくな死に方しねェぞ」

「フ、さすが長官殿」

「ゾロ……どういう意味だ?」


 黒鼻の手には、一つの鍵が握られていた。手の中でクルクルと鍵を回すと、黒鼻はおれ達の目の前で、ソレを飲み込んだ。

 鍵を食うなんて、頭おかしいんじゃねェか? ワポルじゃねェんだから、あんなもん食ったって強くはならねェのに。


「……ロビンを助けるには、アイツの腹をかっ捌く必要があるって事だよ」

「…………まさか!!? アレがホンモノの鍵なのか!!!?」

「頭の出来はあまり良くねェみたいだな。予言者に頼ってるからバカになるんだ」


 黒鼻は満足気に腹を一撫ですると、背中の剣を抜いた。その目はもうふざけちゃいなかったけど、おれはどうしても、コイツに一言いってやりたかった。


「仲間をなんだと思ってんだ!!! 捨て駒にする為に、ニセモノの鍵を渡したのか!!!」

「おれの部下達をバカにするな。正義の為に、決死の覚悟で戦う事を、アイツらは捨て駒とは思わん。お前の言い分だと、どれかがホンモノの鍵だと言ってる時点で、他の鍵を手に取ったヤツは捨て駒って事になるだろ? 誰一人として反発しなかった。それがアイツらの覚悟だ。それに、カリファなら、おれの意図に気づいてるかもしれんしな」

「詭弁だな。ルフィ、コイツと話すだけ時間の無駄だ。さっさと潰すぞ!!」

「長官殿を愚弄されたとあっては、おれも全力で相手をするしかないな……こい」


 おれは黒鼻の言葉に納得出来なかったけど、ルッチはもう待ちきれねェみたいで、さっきまでとは雰囲気が全然違ェ。


「来ないならコチラから行かせて貰う……「剃刀」!!!」


「剃刀」!!? タクミと同じ技の名前を聞いた瞬間、おれは本能的に裏拳を放った。

 おれの拳はルッチの右腕を弾いて、ギリギリのタイミングで攻撃を避ける事に成功したけど、コイツやっぱ強ェ!!


「JET ”銃(ピストル)”!!!」


 体勢を崩したルッチの顔面を、左の拳で狙い打つ。ルッチは首を曲げただけでそれをかわして、槍みてェな指でおれの咽喉を狙ってくる。

 伸ばしていた左手で柱を掴んで、おれはなんとかその場から脱出した。


「反応は悪くない。だが、パワー不足だな」


 ルッチはおれが裏拳で完全に弾き飛ばせなかった事を言ってんだろうけど、おれのパワーは伸びる事で何倍にもなるんだ。

 ゴムゴムの技が当たれば、ルッチにだって効くハズ。JETバズーカならタクミにだって効くんだからな。


「ゴムゴムの……」

「それが貴様の戦闘スタイルか。こい!!! 麦わら!!!」


 おれは拳を何度も往復させて、パワーを溜める。ルッチは一発受けるつもりみてェだな。

 それなら限界まで…………もらった!!!


「JET ”攻城砲(キャノン)”!!!!」

「「鉄塊」”剛”!!!?」


 おれの渾身の一撃を食らったルッチは壁を突き破って飛んで行った…………戻ってこねェのか??


「……勝ったァ!!!! ゾロ!! そっちはどうなっ!!!?……うっ、あ……」


 勝利を確信して振り返ろうとした瞬間、おれの身体中を何かが貫いた。

 何だ!!? 弾も何も見えなかったぞ!!!?

 ギア”2(セカンド)”が解除されて、全身を疲労感が襲う中、思わず膝をついたおれは、信じられないモノを見た。


「何を驚いている。あの程度でおれに勝った気になってたのか?」


 ルッチは、殆ど無傷で立っていた。あの距離からおれを攻撃したのか!!?


「何で、そんな距離から……」

「……なるほど、銀獅子は”斑撥”を使えないのか。武器なんぞに頼っているからだ……興醒めだな」


 ”まだらばち”!? 何だそりゃ!!?……タクミが使わない「六式」の技があるのは当然だけど、それよりも、あの技で無傷ってのはありえねェだろ!!!?

 おれは何とか立ち上がって、ルッチを睨みつけたけど、ダメージがデカい。気を抜いたら倒れそうだ。


「貴様にはもう興味が無い。長官殿の加勢にいかないといけないからな」

「ギア……うわっ!!? 何だコレ!!!?」


 おれの身体にはいつの間にかルッチから伸びた長い尻尾が巻きついていた。コレじゃ身動きがとれねェぞ!!?


「…………「六王銃」!!!!」

「!!!?……ゲボッ!!!……」


 ゴムのおれに何で打撃が……ナミと同じ力か!!?……このままじゃ、負ける。


「覇気を纏っての「六王銃」を受けて、まだ生きているのか!!? 危険な男だな……」


 ルッチの足音が近づいてくる……立たねェと……おれはまだ、戦える!!!

 膝がガクガクと揺れる、目が霞む。それでもおれは……立ち上がった。


「意識はあるのか? 銀獅子といい貴様といい……何の為にそこまでする?」

「……仲間の……為だ」


 もう、アレを使うしかねェ……


「ギア……”2(セカンド)”……」

「またそれか。その程度の攻撃ではおれには効かないと見せてやっただろ…………仲間の為か……それでイイんだな? 貴様が……死ぬ理由は」


 流石にこの状態で”2”はキツイ……でも、おれは絶対に、負けられないんだ!!!


「……ギア……”3(サード)”……」


 親指を銜えるおれを、ルッチは困惑した表情で見ていた……



〜Side ゾロ〜



「始まったか……ルッチの技に巻き込まれたら適わねェからな。場所を変えるぞ」


 今おれ達が通ってきた通路へと歩いて行く男に、おれは無言で従った。長官って呼ばれてたこの男、本人の実力はどの程度なんだ?

 男が扉を閉める寸前、ルフィの声と一緒に、何かが壊れる音が聞こえた。ルフィのヤツ、ひょっとしたらもうキメちまったかもしれねェな。

 おれの表情が緩みかけた瞬間、男の嘲るような笑い声が通路に響いた。


「お前、あの程度でルッチがやられたとでも思ってるんじゃないだろうな? おめでたいヤツだ」


 おれの懸賞金は知ってるハズなのに、この余裕……司令官のクセに戦えるタイプなのか?


「可能性の一つとして考えはしたけどな、そこまで甘い相手だとは思っちゃいねェ」

「ほう、中々冷静なヤツだな。好感が持てる。おれはCP9長官、”重剣のスパンダム”だ。名乗りは戦いの礼儀、お前も名乗れ」


「策を巡らせるわりには、戦いには礼を尽くすんだな。ロロノア・ゾロだ。いつの間にか”海賊狩り”って呼ばれてる」

「謀略を使うのは一対一をせざる得ない状況になるまでだ。ロロノア、お前は三刀流の使い手らしいな……剣士との戦いは久しぶりだ。精々楽しませてくれよ」


 両手で構えたヤツの剣は、圧倒的な存在感を放っている。隙が無いイイ構えだ。


「あぁ、おれもまともな剣士と戦うのは久しぶりだからな……行くぜ!!!」


 瞬時に抜刀し、ヤツを見据えたハズのおれは、既にヤツが視界にいない事に気づいた。

 背後から殺気を感じて振り向こうとした瞬間、気配が消える……いや……


「”巨象の一撃(アタッコ・ディ・エレファンテ)”!!!!」

「そこか!!!……なァ!!!?」


 再度回りこんでいたスパンダムの一撃を、おれは受け止めた。だが……


「おやァ? ロロノアは三刀流だと聞いていたんだが、おれの勘違いか?」

「……雪走……」


 右手で振るい、受け止めた時に一番負荷がかかった雪走は、たった一撃でへし折れた。

 コイツはもう打ち直してもらってもダメだ。何も感じない。雪走は死んだんだ……


「よく考えりゃ、口に銜えてる刀なんて意味ないからな。これからは二刀流に鞍替えしろ」

「てめェ……何だその剣は!!!」


 スパンダムが剣の背を一撫ですると……


「パオーーーン!!!!」

「象!!!? 悪魔の実を食った武器だったのか!!!?」

「おれの愛剣、象剣ファンクフリードだ。イイコだファンクフリード、元に戻れ……象の体重がどれくらいか知ってるか?」


 巨大な象は、再び剣の姿に戻り、スパンダムの手に収まる。それを手首の周りで回しながら、質問をしてきやがったが、タクミじゃあるまいし、象の体重なんかおれは知らねェ。


「種類にもよるがだいたい5t程度だ。ファンクフリードは特にデカくてな。軽く10tはある」

「それがなんだって……まさか!!?」


 タクミが人間の時でもライオンの性質を受けるみてェに、あの剣も、象の重量を備えてるってのか!!?


「ようやく察したか、おれは最初に名乗っただろう? ”重剣のスパンダム”ってな。残りの刀もへし折ってやろう。おれは剣士にめっぽう強いんだ」


 ハッタリじゃねェ。10tの剣を持ってあのスピードで動き回り、軽々とそれを振るう。おれ以上の豪剣使いだ。

 三刀流も使えない。得意の土俵じゃ敗北確実…………活路は一つしかねェ。


「感謝する。試したかった技があったんだ。被験者一号になってくれよ」

「正気か? この状況で実践で初の技を使うなんて、バカのする事だ…………引く気はないらしいな」


 鷹の目から身体に刻まれ、タクミからは記憶に刻まれた……柔の剣。

 おれは久しぶりに、右手で和道一文字を握った。くいな……見ていてくれ……大剣豪になるんだ。おれは、どんな剣士にも負けねェ!!!


「二刀流……」

「……こい!!!」


 大上段から振り下ろされる剣の切っ先と、鬼徹の切っ先が触れ合う瞬間……


「”波龍”」

「なっ!!!?」


 ……おれは力に逆らわずに、鬼徹に任せた。支点まで滑った鬼徹は、細身の刀身で、スパンダムの剣を一瞬支える。


「”刹兎”!!!!」

「がはっ!!!?」


 手首を返して剣圧を受け流すのと、和道一文字がヤツの腹を捉えるのは同時だった。


「……おれの勝……」


 倒れたスパンダムを見て、おれは勝ち名乗りをあげようとしたんだが……おかしい……何で血が流れねェ!!!?

 緩慢な動作で立ち上がったスパンダムには、傷一つなかった……「鉄塊」か。


「中々のパワーだが、呼吸が見えていないな。そんな技ではおれは斬れん。まぁ、打撃としては合格点だったな」


 体の汚れを払うスパンダムには、まだ余裕があるようにすら見える。

 こんなヤツを待ってたんだ!! 今のおれが、普通に戦ったって勝てねェ相手!! 現状の壁をぶち壊す必要がある、そんな相手!!!

 鷹の目以来の兵剣士を前にして、おれの心は奮えた。
 
 
 

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