”真相”
〜Side タクミ〜
「貸せ!!! おい!! スパンダム!!! ふざけんなてめぇ!!!……切りやがった……」
「ちょっと!!? バスターコールって、軍艦に乗った中将が五人も来るってヤツでしょ!!? 標的は跡形も残らないって……自分が死んでも構わないっていうの……」
カリファとスパンダムの通信を、隣で聞いていたおれとビビは、あまりの衝撃に固まっていた。
厳密に言えば、おれとビビでは、衝撃を受けた内容がまるで異なるのだが、ビビにとっては関係ないだろう。
「残念だけど、アナタ達はもう逃げられない。ロビンだけなら、わたしのコネでなんとか出来るかもしれないけれど、他はどうにもならないわ。アナタ達が相手なら、政府はひょっとしたら司法取引に応じてくれるかもしれないけどね」
おれの手から愛おしそうに小電伝虫を取り上げたカリファは、意味のわからない事を言ってくる。
「ビビはともかく、おれは取引の材料にはならんだろ?」
「アナタ、自分の価値を分かってないのね? 復活して暴れまわっている”熱愛のジキタリス”の実の息子。それだけでもアナタの身柄を確保する大きな理由になるのに……アナタは稀代の予言者なのよ? 政府は血眼になってアナタを探しているわ」
カリファは呆れたように言ってくるが、フォクシーの時から謎だったんだ。どうして俺が”占い師”……いや、”予言者”って呼ばれてるんだったな。
まぁとにかく、俺に予知能力があるって話があんな一瞬で、何処から広まったのかっていうのが、頭の隅に引っかかってたんだ。
「素直に答えるとは思っていないが、俺が”予言者”だって話は、何処から政府に伝わったんだ?」
「あら、アナタ新聞を読まないの? 政府どころか、世界中が知ってるわよ……ほら」
カリファが胸の谷間から取り出した手帳には、スパンダムから伝えられたと思われる俺達の情報が、細かくメモされている。
それだけでも十分驚きなんだが、最後のページに挟まっていた新聞の切抜きを広げた俺は、驚きと怒りと呆れで、声一つ出せなかった。
「わたしは伝言を放送してから、長官を探しに行かなきゃいけないから、コレで失礼するわ。その記事はアナタにあげるわよ」
そう言ってカリファは、俺から手帳を取り上げて、この場を去ろうとする……待て、聞きたい事が山ほどあるんだ。
「いったい何の記事なの? え!!!?……」
「そこまでの大物の発言じゃ、信憑性は大よね。そう、最後に取引に応じてくれないかしら? その記事をあげたお礼に、長官の居場所を占ってくださらない?」
ただの新聞の切り抜きにそんな価値はないだろ。だいたいスパンダムが何処にいるかなんて、俺の知った事じゃ……いや、待てよ? 通信に入った雑音はゾロの声だった。駆け寄るゾロの足音が反響していた……地下通路か。
コレを材料に、カリファから少しでも情報を引き出そう。誰だよあのスパンダム!!!?
カリファの態度が妙だったり、カクの最後の言葉がおかしかったりと、不自然な点が満載だったから、ちょっと話をしようと思って部屋に入ってみれば、カリファは化粧直ししてるし、電伝虫が鳴った瞬間に『静かに!!!』とか言って慌てて応答するし、完全に意味不明。
この部屋に入るまでは、億に一つも、男気溢れる正義の上官みたいなスパンダムのセリフを聞かされるだなんて思ってもいなかった。
ゾロは雑魚相手に時間を浪費したりしない。おそらく好敵手の最後の望みをゾロが聞き入れたって感じの展開が、さっきの通信なんだろうけど……如何せん情報が足りなさすぎだ。
「スパンダムなら、ためらいの橋に続く地下通路で倒れてる。ゾロに斬られたみたいだな。ただ、情報の価値に釣り合いが取れていない。スパンダムについて話してくれ」
「……”予言者”ってホント恐ろしいわね。僅か数秒で、何の予備動作もなしに……まぁイイわ。長官は、そうね……わたしの愛する人よ」
「きゃああああ!!! やっぱりそうなのね!!! なんかそんな気がしてたのごっ!!!?……何で?……」
下のフロアでやった時の三倍くらいの力で峰打ちをして、ビビを黙らせた。コイツがいたらまともに話も出来ん。
そもそも俺の前でよくこんなふざけた態度がとれたもんだ。さっきの新聞の切り抜き、コイツのバカ親父が載ってやがったんだぞ!!?
世界中から記者を集めて開いた会見で、俺の事をムチャクチャに話したみたいだ……以下抜粋。
『麦わらの一味、”副船長”のアイザワ・タクミは、百発百中の占いを利用し、ライオンの本能に従ってハーレムを形成しようと目論む男の敵である!!! 私は愛娘と……愛する女性を奪われた!!! このままではあの男は、世界の女性に魔術をかけるだろう!!! コレでよいのか!!! 世の男性諸君!!! 否!! 断じて否である!!!−−−−』
………………アホか。
読むのもアホらしいからココら辺でヤメにしたが、記事はまだまだ続いていた。じゃあ何か? 俺は世間的にはアラバスタの王女を誘拐した事になってんのか?
まぁ、そこら辺の誤解は今回の一件で解けるだろう。嬉々として衛兵を殲滅してる姿が、数千人に目撃されてるからな。そこに転がってるアホのコも、億クラスの賞金首の仲間入りだ。
ビビに当たってもしょうがないし、恩を感じろとか言うつもりはないが……コブラ……常識がなさ過ぎるだろ……
「盛大に時間を無駄にしたな。カリファ、俺が聞きたいのはそういう……事じゃ……っていねぇのかよ!!!」
俺が考え事をしている間に、カリファは行ってしまったみたいだ……落ち着け、心網が乱れる。
って冗談をやってる場合じゃなく、”コレ”ってやっぱ見聞色の覇気だよな。複数人には対応出来ないみたいだし、効果範囲は狭い感じなんだが、一度会ったヤツの気配を追えるようになった……らしい。
細かい実験をしない事にはよくわからないんだが、少なくとも気絶したフリをしているビビの単純な思考くらいなら読めるし、大量の押収品を担いでコッチに向ってきているナミの欲に塗れた思考もある程度はわかる。
どうせなら武装色が最初に目覚めればよかったんだけどな……ぶっちゃけ見聞色ってイマイチ役に立たないだろ。
高速戦闘が主体の俺にはよく分かるんだが、思考を読まなくても、コッチが速ければ避けられるし、当てられる。思考を読んでも、相手が速ければ避けきれないし、当てられない。
……心理戦以外に、使い道なくね?……効果範囲を広げる事が出来るようになれば、人探しくらいには使えるか。
今は深く考える時じゃないし、ビビを起こしてさっさと脱出しよう。ルフィが苦戦してるようなら助っ人に入らないといけないし、ウソップなら既に船を確保してるだろうから、中将達がお出ましする前に、さっさと逃げよう。
イマイチ実力がハッキリしないが、モモンガとオニグモの二人は、そこそこ強かったハズだからな。逃げるが勝ちだ。
「ビビ、下手な演技はヤメてさっさと起きろ。マジでナミ「はいっ!!!」……よし」
”ナミパ〜ンチ”使えるな。なんか物騒な名前に改名してたけど、俺はこれからもせめてもの抵抗として、可愛らしい旧名で呼び続けよう。”ナミパ〜ンチ”……うん、可愛いじゃない……か……
「タクミ!!! やったわよ!!! ここの押収品かなり質がイイわ!! 現金と合わせて5億ベリーはかたいわね!! 機密文書みたいなのもついでに持ち出してきたから、凄くかさばっちゃったんだけど……ってどうかしたの?」
……部屋に現れたナミに、俺は固まった。あの黄金80億ベリーとか言ってなかったっけ? まだ盗るつもりかよ? とか、俺が言いたいのはそんな事じゃない。
「ナミさん……それは流石に……どうかと思うわ」
「お金の為なら、わたしはメリーだって背負ってみせるわ。何か問題ある?」
ナミの背負っている荷物の量が、尋常じゃないんだ。俺やゾロなら普通に持てるような量だろうけど、とてもじゃないが女のコが持ってイイ量じゃない。
覇気で強化されてるからこそのパンチ力だと思ってたけど、単純な力作業に覇気って関係ないよな?……考えるな。考えたら負けだ。アレは覇気を異次元で使いこなしてるんだ。そういう事にしておこう。
「……大丈夫だ。問題ない」
イロイロと考えるのが煩わしくなったおれは、取り合えずアイスバーグに連絡を入れる事にした。