”声”
〜Side タクミ〜
ウソップのヤツ、本当にメチャクチャだ。アイツがロビンの海楼石の手錠を斬った方法を話せば、誰もが同意するだろう。
ウソップはロビンが支柱から出てくるのを確認して直ぐに、がまぐちからS・A・Bと二発の鉛玉を発射した。
回転しながら飛んでいくS・A・Bのスイッチを一発目が押し、手錠を焼き斬ったタイミングで側面から弾き飛ばしたんだ。
少しでもタイミングがずれていたら、ロビンの身体は真っ二つになってたっていうのに、成功させた後のあのドヤ顔。音速で謝罪に向わせた俺を責めるヤツは誰もいないハズだ。
狙撃の腕に自信を持っての行動だろうが、安全に解決出来る方法がある状況であんなクレイジーな事をやる必要は何処にもないだろ。
…………え? 聞きたいのはそんな事じゃないって? OK、今の状況は
「いつまでやっとんじゃこのボケェ!!!」
「のごっ!!!?」
「タクミ!!? 大丈夫!!?」
ロビンと抱き合っていた俺の頭を、強烈な一撃が打ち抜き、一瞬だが意識が飛びそうになる。
力なくふらつく俺の身体をロビンが支えてくれるが、背後に立つ何者かが只ならない戦闘力を備えてる事に俺は絶望した。
これ程の打撃は初めてだ。早くも中将達の到着かと考えながら振り返り、俺は変に納得してしまう。
「……サンジかよ」
そこには般若のような顔をしたサンジと、おそらくサンジが「月歩」で連れてきたであろう皆が揃っていた。
頭がクラクラして上手く覇気が使えないが、サンジの心境はだいたい分かる。”嫉妬9:怒り1”って感じだな。
「てめェ、なんて羨ましい事を!!!……ってそうじゃなくて、ココは戦場なんだぞ!!! いちゃつくなら船内で……いや、船内でもヤメろ!!! とにかく俺の目の届かないところでやれ!!!」
俺にマジギレされた手前、コイツにもイロイロと葛藤があるんだろうな。正直言ってる事がメチャクチャだが、ココは大人しく引いておこう。今のサンジには勝てる気がまるでしないしな。
「落ち着け、わかったから。頼むから暴れてくれるな。その嫉妬の炎は、敵の殲滅力に変換してくれるとありがたい」
「うるせェ!!! 言われなくてもやってやるよ!!! おらァ!!! かかってこいやァアアアア!!!!」
サンジは血の涙を流しながら、残り少なくなった衛兵達を殲滅しに行ってしまった。多分、今のアイツに手加減とか出来ないと思う……合掌。
「皆、私の為にこんなっ!!?……?」
ナミ達の前に一歩踏み出して、おそらくお礼を言おうとしたロビンの口を、ビビが笑顔で塞いだ。
「お礼を言われるような事は何もしてないわ。仲間を助けるのは当然でしょ? それに、わたしの場合は自分の為でもあるしね♪」
「ビビ……ありがとう」
手をどかされたロビンは、それでもお礼を言って、ビビは笑顔でそれを受け取った。最後の一言がなければ、『ビビも成長したなぁ』と言うところなんだが、どうも締まらないな。
「よかったわね、タクミ。ロビンが取り戻せて。でも、ココで落ち着いてる場合じゃないんじゃない? ココは海軍本部も近いんだし……って”噴風槍”!!!」
「お前いきなり何を!!? ってもう来たのかよ!!!?」
フランキーが言う通り、辺りにはいつの間にか軍艦が到着し始めていた。でも驚くところはそこじゃなくて、今のナミのアレは何だ!!?
名前からして”噴風貝”を搭載した新兵器なんだろうけど、大砲を撃ち落す威力なのにナミは反動を感じないのか!!?
戦車だって主砲を撃ったら車体が浮くんだぞ!!? いったいどんな覇気の使い方をすればあんな事が……ナミのつま先が……石橋に減り込んでる。
「あら、少し見ない間に、ナミまで人間を「ロビン!!……何も言わないでくれ」……わかったわ。アナタも苦労が絶えないわね」
笑いながら頭を撫でてくるロビンに和む俺……ってこんな事やってる場合じゃなかった!!! もう中将達が集まり始めてるんだ!!!
「ナミ、お前の例のアレの射程はどれくらいなんだ?」
「例のアレ? ”音速拳”の事? 大体30mくらいだけど、軍艦を撃沈するほどの威力はないわよ?」
本家の射程を軽く超えてるな。ウソップは俺が潰してしまったし、ゾロもいない。フランキーだってまだビームが使えるわけじゃない。俺とナミだけでどこまで持ち堪える事が出来るか……
「……タクミさん!!……タクミさん!!!」
「!!? 何だ!?」
この状況をいかにして打破するかを考えていると、ビビが大声で俺を呼んでいた事に気がついた。俺の反応が得られたビビは、気合を入れ直すように髪を結び直し、もの凄くイイ笑顔で訊ねてくる。
「アレも殲滅対象って事でイイのよね?」
「いや……殲滅って言ったってあの人数だぞ? 五人の中将以外にも、海軍本部の大佐と中佐が二百人は乗ってるんだ。いくら何でもまともに「イイのよね?」……わかった……やれ。無理はするなよ」
ビビはどうせ止めたってやるんだ。アイツがルフィ以上の賞金額になっても、俺はもう知らん。
「流石タクミさん!! 話がわかる〜♪ じゃあ行ってきます!!!」
「ちょっとビビ!!? アンタ何処に!!? って聞いてないわね。タクミ!! 早くコッチを手伝ってよ!! わたし一人じゃ捌ききれなくなってきたわ!!」
”ナミパ〜ンチ”の連発で砲撃を食い止めていたナミの横を通り、ビビは両手のジェット噴射で飛んでいってしまった。アイツの能力も大概何でもアリだな。
ナミの言う通り、大砲の射程内に入って来た軍艦は一隻から三隻に増えていて、一人でカバーするのは辛そうだ。俺も防衛戦に加わるとしよう。
「わかったよ。俺も手伝うか……ら……は?」
ナミの方へと足を進めようとしていた俺は、いつの間にか自分の腹から生えていた刀を目にして、状況がまるで掴めていなかった。
「討ち取ったぞ……”予言者”」
「ごぼッ!!!? てめぇ!!!」
引き抜くのではなく、そのまま俺の身体を強引に割こうとする刀を右手と獅子鉄塊で止めて、俺は首だけで振り返った。
「タクミ!!? 刀を抜きなさい!!! 私はアナタを許さない!!! ”百花繚乱”!!!」
俺を背後から刺した男を見たロビンは、百本の手を咲かせて男の身体を拘束しようとしたが、刀を握るその男に、微塵の揺らぎも見られない。
「何て力!?……アナタまさか!!!?」
「ヤメロ!!! ロビン!!! ソイツに手を出すな!!! 直接乗り込んでくるとは思わなかったよ……モモンガ中将」
モヒカン頭と口髭が特徴の海軍本部中将、モモンガは余裕ぶった俺の言葉を聞いて、いかにも不快そうに顔を歪めた。
「私の事も知っているのか。気味の悪い親子、そして兄弟だな。殺すなとは言われてるんだが、スパンダムの覇道の邪魔をしたお前を、今すぐこの手で殺してやりたい気分なんだ」
「あ、あぁ……あああぁあああああぁあああ!!!!?」
「タクミ!!? チョッパー!!! 手伝って!!!」
「何を手伝うんだ? !!!? タクミに何してんだァ!!!」
「うお!!? スーパーにやべェじゃねェか!!!」
俺の力も、ロビンの力も無視して、刃は少しずつ俺の身体を進んでいく。流石に両断されたら「生命帰還」でもどうにもならない!!!
周囲の喧騒そっちのけで遊んでいたチョッパーとフランキーも加勢してモモンガの動きを止めようとするが、それでもヤツの刃は止まらない。せめて左手があれば対処のしようもあったのに、今この状況じゃエボニー&アイボリーを抜く事すら出来そうに無い。
「生命帰還」に回していた集中力も腕力強化に割いた結果、俺の腹からは見たことも無い様な量の血が噴出している。
……皆の声も聞こえなくなってきた。状況を察知したナミが手助けにこようとしてるけど、砲撃を防ぐので手一杯……詰んだかな。
(…………しょうがねェな…………助けてやろうか?)
俺が生きることを諦めかけ、意識を手放そうとした瞬間……どこからかそんな声が聞こえた気がした。