小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”続・苦労人”



〜Side ゾロ〜



 砲撃の音が聞こえ出してから、戦いは激化してやがる。通信を終えた途端に力尽きたみてェに動かなくなったスパンダムは、秘書の女が剣と一緒にどっかに連れてっちまったし、おれはこの戦いを見守る事しかできねェ。

 ルフィとルッチの戦いは、今のおれのレベルとは次元が違う。何度か目にした事のある高速戦闘術以外にも、ルフィには奥の手があったみてェだ。

 巨人みてェな腕を振るいながら、最小限の動きで回避と攻撃を繰り返すルフィに、ルッチはフェイントを織り交ぜながら応戦しているけど、おれにはその動きの全てを目で追う事すらできねェ。

 だが……このままじゃルフィの体がもたねェだろうな。ルッチの方にはまだ余裕があるみてェに感じる。

 こんな時、アイツならどうする……決まってる。ルフィに文句言われるの承知で助太刀するのが当然だ。

 このままじゃ……ルフィは負ける。多分タクミでもルッチに勝てるかは怪しいからな……いくか。


「ルフィ!!! 時間切れだ!!! おれも加勢に゛!!!?」


 戦いの場へと一歩踏み出した瞬間、おれの頬には見えないナニカが叩き込まれ、壁に開いていた穴から勢い良く外へと放り出されちまった!!

 ……意識が飛びそうだ……ルフィはこんなバケモノと戦ってやがったのか……スパンダムに勝ったからって、浮かれてたのかもしれねェな。

 おれじゃあの戦いに関わる事すらできねェんだ……クソッ!!! 結局はタクミに頼るのかよ!!!

 ルフィが何か叫んでるのが聞こえてやがるが、ムチャはしてくれるなよ……今……タクミを連れて行く。


「あら、こんなトコまで飛んできて、ゾロも戦闘狂だったの?」

「な!!? ロビン!!? なんでお前が!!?」


 このまま海に落ちて一旦頭を冷やすのもイイかと思ってたんだが、空中でロビンに受け止められたおれは驚いた。

 見れば背中から大量の腕を翼みてェに咲かせて、コイツは空を飛んでやがる。


「お前の能力も大概デタラメだな。それより状況はどうなってやがんだ? タクミをルフィのトコに行かせねェとやべェかもしれねェ」

「その必要はないんじゃない? だってアレ」


 ロビンが指差す先には、ぐったりとした状態でおれみてェに吹き飛ばされていくルッチの姿があった。


「アイツ!!? あの状態から決めたってのか!!!?」

「ルフィは彼が認めた船長なのよ? ソレくらい当然だわ♪」


 この戦場で見せるには大よそ相応しくない蟲惑的な笑みを浮かべて、ロビンは軍艦の方を見ている。

 無数の水球を引き連れながら戦ってるアレはビビだとして……あの悪魔がタクミなのか!?


「おい、わかりやすく状況を説明しろ」

「最初は逃げるつもりだったんだけど、ビビがどうしても殲滅したいらしくて、タクミと私がそれに付き合ってるって状態よ。脱出の準備ならナミが整えてるんじゃないかしら? 向こうはもう砲撃どころじゃないみたいだしね」


 やっぱこの乱戦はビビが原因で、やっぱアレはタクミなのか……もうアイツの事で驚くことはねェと思ってたんだが、ありゃ何なんだ!!!?

 赤黒い身体で飛び回って、敵を一撃で仕留めていってるが、あの状態に危険はねェのか!!?

 いつでも使える力なら、アイツは出し惜しみなんかしねェハズだ。


「あっちの加勢にはおれが行く。お前はルフィをナミ達のところへ運んでやってくれ。多分指一本動かせねェくらいに疲労してるハズだ」

「わかったわ。それじゃあ」


 ロビンはおれを掴んでいた腕からさらに腕を咲かせていき、宙吊りの状態に……嫌な予感がしやがる。


「あ!!? ちょっと待て!!?」

「行って」


 そのままユラユラと揺らし始めた腕はだんだんと加速していって……


「まさか!!? お前も!!?」

「らっしゃーーーーい」


 最大限にスピードがのった状態でおれを再び空中へと放り投げた。


「のわぁぁぁぁぁああぁあああぁああ!!!!」


 あのバカ夫婦はどういう神経してやがるんだ!!! 軍艦に向って投げられたおれは、一直線にタクミのところへと飛ばされていく。

 助かった、取り合えずコレで甲板に減り込むような事はねェだろ。


「タクミ!!! 受け止めぼッ!!!?」

「……?……がぁあぁああぁああ!!!!」


 ……あのドアホ……おれを敵だと思って思い切り叩きつけやがった……一瞬だけ動きを止めたみてェだが、今は獣みてェな咆哮を上げながら殲滅作業に戻ってやがる。

 どこの狂戦士だよてめェは!!!?……あー、マズいな。骨が何本かイカれてる。敵に襲撃されたらお終いじゃねェか。


「ゾロ!!!? どうしたの!!!? 酷い怪我よ!!!?」


 身動き一つ取れねェでいると、ビビがおれを見つけて飛んできてくれた……けど……


「……コイツらにやられたのね……許さない……わたしのゾロに……何すんのよ!!!!」


 ビビはそのままおれを置いて、さっきとは比べ物にもなんねェ気迫で海軍の殲滅に戻っていきやがった。

 そうだよな。アイツはそういうヤツだ。これ以上戦う必要なんかねェんだから、取り合えずおれを連れて逃げろよ。


「あら、もうダウンしてるの? 船長さんなら船まで運んだけど、アナタも運んだ方がイイのかしら?」

「…………頼む」


 戻って来たロビンに情けなく抱きかかえられ、おれは脱出用に奪った護送船に乗せられた……最近ついてねェな。
 
 
 

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