小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”エニエスロビー最後の戦い”



〜Side ルフィ〜



「何だよこの怪我!!? その技は使いすぎるなってタクミが言ってただろ!!! 死にたいのかよ!!!」


 ロビンに船まで連れてこられたおれの姿を見て、チョッパーはすげー怒ってるけど、これくらいやんなきゃルッチは倒せなかったんだ。

 一瞬で決めてやるつもりで使ったWギアなのに、アイツはあの技に対応してきやがった。

 ゾロがやられて頭に血が昇った後は、どうやってルッチをぶっ飛ばしたのかも覚えてねェ。それくらいギリギリだった。

 けど、おれよりも、そこに倒れてるおっさんの方がやべェみてェだな。


「悪ィ、チョッパー。おれは疲れただけだからよ、そこのおっさんを診てやれよ」

「おっさん? アイツはタクミを殺そうとしたんだぞ!!?」


 チョッパーはふざけんなって顔してるけど、おれは戦いが終わったんなら敵にだって死んで欲しくはねェ。

 それにこのおっさんは、なんかイイヤツな気がするんだよな。


「チョッパーは”万能薬”になるんだろ? ケチケチしねェで助けられるヤツはみんなまとめて助けてやれよ」

「……わかった。ルフィはそこを動くなよ!! どうせ動けねェと思うけど」


 チョッパーは納得いかねェみてェだけど、おっさんのところに鞄を持って歩いて行った。

 今は一人で考えたかったんだ……あの時、おれはどうやってルッチを倒したんだ?

 身体中の血が熱くなって、拳に今まで感じたことがねェようなパワーを感じた。

 きっとあの力でルッチを倒したんだ……あの力が、いつでも使えるようにならなきゃいけねェ。

 タクミに訊けばわかるかな?……いや、いつもアイツに頼りっぱなしじゃダメだ!!!

 あの力は、おれが自力で身につけるんだ。

 ……そういや、タクミはルッチに勝てなかったんだよな?

 全力を出す前にカクの邪魔が入ったけど、たしかに勝てなかったよな?


「……にししし」

「笑ってるヒマがあんなら出航準備を手伝いやがれ!!!」

「おいおい、ムチャ言うなよ。今のルフィは五年使った雑巾よりボロボロだぜ? 手伝わせるならサンジにしろよ……ってアイツどこ行ったんだ?」

「ホンット肝心な時に頼りにならないのがサンジくんよね。ほら皆!!! キリキリ働くのよ!!!」


 いつもと変わらねェ賑やかな出航準備と、ロビンに抱えられてコッチに飛んでくるゾロを見ながら、おれは静かに目を閉じた。

 タクミ、今回はおれの勝ちだ!!!



〜Side チョッパー〜



「コレって……でも何で?」


 タクミに斬られて倒れていたおっさんを診察してみたけど、この症状は……アナフェラキシーショックだ。

 てっきりタクミは刀に蠍の毒でも塗ってたんだと思ってたけど……まさか!!!?


「自分の血を使ったのか!!? 輸血副作用の免疫反応を狙って!!?」


 たしかに数mlの輸血でアナフェラキシーショックを起こすことはあるけど、ほとんど知られていないハズだぞ!!?

 タクミは奇術師でも魔術師でもない。医術を使ってあの強敵を倒したんだ。


「……やっぱタクミはスゲェな」


 取り合えずおっさんにステロイドを打ちながら、おれはタクミの知識の深さと応用力の高さに驚いてた。

 医術を戦いに利用する。おれには思いつきもしなかった。

 アレだけ強いのに、タクミは臆面もなく足掻いてるんだ。あらゆる知識を自分のモノにして、仲間の為に今もあんな怪我のまま、ビビと一緒になって戦ってる。

 すげェ……みんなすげェ!!!


「チョッパー、ゾロの身体中の骨がバラバラになったらしいから、何とかしてあげてくれる?」

「それをやったのは!!!?……まぁイイ」


 ステロイドだけじゃ安定しなかったから、抗ヒスタミン剤を投与していたら、ゾロがボロボロの状態でロビンに運ばれてきた。


「みんな怪我しすぎだぞ!!! 全く、ゾロはルフィの隣に寝かせといてくれ。後で診るから」

「わかったわ」

「おれは敵のおっさんより優先順位が低いのかよ……もうイイ」


 なんかゾロが拗ねてる気もするけど、アイツはタクミと一緒で、殺しても死ななそうだから後回しでイイんだ。

 ……すぐに包帯とか取るしな。


 ……よし、このおっさんは取り合えずコレで大丈夫だ。バイタルも安定してるし、ココに寝かせとけば海軍の誰かが連れて行くだろ。


「おーい、ゾロー!! 次はゾロの治……療を……」

「? どうしたチョッパー? 薬が足りなくなったのか? 別にほっときゃ治るからイイけどよ」


 いつの間にか船に乗っていたソイツを見て、おれは全身が氷付けにされたような錯覚に陥った。

 話に聞いただけで直接見たことはねェけど、たぶんアイツは……


「青……キジ?」

「な!!? てめェ!!!」

「よく勉強してるじゃない、子狸ちゃん。お前ら……ちょっとふざけ過ぎたんじゃねェの?」


 船の縁に座っていた青キジは、氷の槍を作り出して、ソレを海に投げつける。

 脱出船の周りは一瞬で凍り付いて、おれ達の逃げ道を失くしちまった。


「アンタあの時の!!? ”音速拳(ソニックフィスト)”!!!!」

「ナミ!!! お前が敵う相手じゃねェ!!!」

「おっと、もう報告は上がってるからな。その技を食らうわけにはいかねェんだ」


 さっきまで大砲を撃ち落してたナミの飛ぶパンチを軽々と避けた青キジは、一瞬でナミの背後に回りこんだ。


「お前らやっぱ危険だわ。この場で全員「がぁあぁああああぁああ!!!!」ごほッ!!!?……リングローズか」

「「タクミ!!!」」

「タクミーーー!!!」


 ナミを凍らせようとしていた青キジは、凄いスピードで飛んできたタクミにぶん殴られて、船尾までふっ飛んだ!!

 やっぱタクミは助けにきてくれたんだ!!!


「何でおれを殴れるんだ!!? 覇気じゃないな……零毀の力なのか?」

「……が……がるるらぁあぁぁあああ!!!!」


 タクミの一撃を受けて平然と立ち上がった青キジに対して、タクミはさらに巨大化して殴りかかる。

 青キジはその攻撃をことごとくかわし続けてるけど、タクミのスピードは段々上がってるように見えるな。


「……お前には常識ってもんが通用しねェみたいだな。ココは避かせてもらうよ。お前にやられた傷もまだ治ってないしな」

「がぁああぁあああぁ!!!」


 青キジは避くって言ってんのに、タクミは追撃の手を緩めようとしない……流石におかしくねェか?

 タクミはひょっとして、意識がないんじゃ……


「もうヤメて!!!!」

「が……」

「タクミ!!?」


 暴れ続けるタクミを、飛んできたロビンが後ろから抱きしめると、タクミは急に大人しくなって、そのまま前のめりに倒れこんだ。

 身体を覆っていた血の鎧も、傷口から体の中に戻っていって、静かに寝息をたててる。


「さすがは悪魔の子。ソイツの扱いは手馴れたもんだな」

「ロビンをそんな名前で呼ばないで!!! アンタ『避く』って言ったわよね。タクミが倒れたからって、二言はないでしょうね!!!」


 ナミの言葉を聞いた青キジはめんどくさそうに頭をかいた後、首を鳴らしながら口を開いた。

 一味に一瞬の緊張が走る。


「まぁ、不本意ながら言っちまったもんはしょうがねェな。大人しく退散しようじゃないの。どこにでも逃げればイイ。ただ……」


 青キジは数本の氷の槍を作り出して、それをあたりの海にばら撒いた。脱出船の周り以外も凍り付いて、一面は氷の世界に変わる。


「逃げられればの話だけどな」

「ちょっと!!! アンタ待ちなさいよ!!!……性格悪いわね」


 ナミが引き止めるのも聞かずに、青キジはダイアモンドダストみたいになって消えていった。


「ただいま!! 強いのが四人いるわ!! アレは無理ね、そろそろ逃げましょう!!」

「ビビ……状況わかってんのか? 海が凍り付いて身動きとれねェんだよ」

「出航準備終わったぜー……ってなんじゃこりゃぁああ!!!?」

「そのセリフはあのモジャ男に言わせたかったわね」

「何でだよ……ってこの氷はおれのフレッシュファイヤーでも、どうにもならねェな」


 みんな逃げることだけ考えてるみたいだけど、おれはタクミが心配だったから、ロビンの膝枕で寝てるタクミの様子を診に行った。


「かなりムチャな戦い方だったけど、大丈夫かな?」

「今は眠ってるだけみたいだけど、それを診断するのがチョッパーの仕事でしょ? 頼りにしてるわ♪」


「そんな頼られたって嬉しかねェぞ!!! コノヤロ〜が〜♪」


 タクミのバイタルは安定してるみたいだし、本当に寝てるだけみてェだな。


「コレなら大丈夫そうだぞ!! 後はどうやって脱出するかだけだな!!」

「見て、チョッパー。アレ」


 ロビンの指差す先を見てみたら、大きな扉が閉じていくところだった。


「扉のせいで海流が変わって、渦潮が発生してる!!?」

「おい、氷が砕けて行くぞ!!」

「おー、想定外だったが、こりゃラッキーだな」

「サンジさん!!? まさかコレって!!?」


 みんながサンジを褒めてる。珍しいこともあるんだな。よくわかんねェけど、サンジのおかげで脱出できるみてェだ!!!

 仲間もみんな揃ったし、こんなとこ早く離れなきゃな!!


「でも……この船の舵が凍ってたら意味ないんじゃない?」

「それは……」

「早くしないとあの四人がくるわよ!!?」

「はぁ、アホコックに期待したおれがバカだった」


「なんだとこのマリモ!!! てめェなんか身動きすらできねェくせに偉そうにするんじゃねェよ!!!」

「あ!!? コレはタクミにやられたんだよ!!!」

「なんだ振り出しかよ…………おい、何だ?……なんか聞こえねェか?」


 ……下?……『下を見ろ』って……誰の声だ?


「お前ら何言ってんだこんな時に!!!」

「いや、聞こえるんだ……下を見ろって」


 フランキーにはこの声が聞こえてねェのか? 初めて聞く声なのに、なんだか安心できるようなこの声……


(−−−−帰ろうみんな!!!)


 声はだんだん大きく、ハッキリと聞こえてきだした。


(−−−−また……冒険の海へ!!!)


「……マジかよ!!? おい、みんな!!! メリーだ!!! メリーが助けに来てくれたぞ!!!」

「ホントか!!!?」

「嘘!!? 何で!!?」


(−−−−迎えに来たよ!!!)


 ウソップの声に反応して、動けるヤツはみんな下をみた。

 そうだよ!! おれ達にはまだ仲間がいたんだ!! 氷の割れ目を潜り抜けて、メリーはたしかにそこにいた!!!
 
 
「全員メリーに飛び乗れー!!!」


 疲労で眠ってるルフィとタクミの代わりに、ウソップが号令をかける。

 ゾロをビビが、タクミをロビンが抱きかかえて、ルフィはナミに担がれて皆でメリーに飛び乗った。

 氷にぶつかりすぎて、メリーは前よりボロボロだったけど、助かることに不安を感じてるヤツは一人もいなかった。


「おい!! 砕けた氷が流氷になってんぞ!! 大丈夫か!?」


 ……いや、フランキーだけはメリーとナミを信じてねェな。ぶち壊しだ。


「誰に口聞いてんのよ!! わたし達が乗ったメリー号に、越えられなかった海はないっ!! この船の航海士「この船の躁舵手は誰? そう、わたし!!!」……ビビ?」


 ナミの決めセリフに被せるなんて、ビビは命知らずだな……いつもの事か。


「わたしに任せて!! メリー、ちょっと我慢してねっ!!!」


 目を閉じたビビは両手を広げて何かブツブツ言い始めた……


「おれ、なんか嫌な予感がする」

「奇遇だなチョッパー、おれもだ」


 ゾロとおれの不安は多分当たる。ビビは真剣になるほど、イロイロとムチャクチャにするんだ。


「空気が……変わった?」

「えらく乾燥してやがんな」

「な!!!? なんだありゃ!!!?」


 フランキーの声を聞いて振り返ってみると……


「三度目の正直よ!!! コレがわたしの全力全壊!!!「字が違ェよ!!!」”大津波(タイダルウェーブ)”!!!!」

「ぎゃぁああぁあぁあぁぁぁあああ!!!! 転覆するわァ!!! 馬鹿ヤロウ!!!」

「死ぬーーーーーー!!!!」


 メリーは船を押し上げる波に乗って、流氷地帯を飛び越える!!! 豪快な着水!!!


「さぁ!! わたしに出来るのはココまでよ!! 全力で逃げましょう!!」

「アンタね!! やる事がムチャクチャなのよ!! あんな流氷くらいわたしの航海術でなんとでも「ナミさん、早く逃げなきゃ!!」……もうイイわよ」

「……なるほどな、空気中の水分まで掻き集めて使う事で、水量不足を補ったって訳か」

「マユゲ、お前よくこんな時に冷静でいられるな」


 気を取り直したナミの指示で、メリー号は海軍を振り切る為に動き出した。

 さっきは躁舵手だって宣言したハズのビビは、能力の使いすぎで疲れたみてェでゾロの横に座って話し込んでる。

 忙しく動き回るおれ達をよそに、ルフィとタクミは眠ってるけど、二人の寝顔はなんだか笑ってるようにみえた。
 
 
 

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