”VS クロネコ海賊団”
〜Side タクミ〜
泡を吹いてるウソップを起こそうとして手を伸ばしたら、いつの間にか人獣化してた。そりゃあウソップも泡吹くわな。俺は一人納得し、寧ろ話してはいたが初見で眉ひとつ動かさないゾロに驚いた。
俺のことを仲間だと思ってくれてるからだろうと思うとうれしかったな。
人獣形態での初めての対人戦闘に興奮してたんだろうけど、未だに制御が完璧に出来ていないとは情けない……はっ!? それより早くウソップ起こさないと!!
俺はウソップを強めに揺さぶって起こそうとしたんだが、まったく起きる気配がなかったので、仕方なく背中を平手で叩いてみた。
「ごほっ!!!?……ん?? ぎゃーーーーーーー!!!! ライオンにんげんーーーーーーーーーー!!!!! やっぱ夢じゃなかった……」
ウソップはもう、初めてこの姿を見たガイモン以上に驚いている。この世の終わりとでも思っているんだろうか?
別に取って喰うつもりはないんだが……あぁ、そもそも俺だと気づいてないのかもしれないな。
「ウソップ?? 驚かせてごめんな? タクミお兄さんだよ? 説明しそびれてたんだが、俺とルフィは悪魔の実の能力者で、ライオン人間とゴム人間なんだ。ちょっと戦いが待ちどうしくて能力の押さえが利かなくなってな、別に海岸を間違えたウソップを噛み殺そうとしたわけじゃないと思うからから安心してくれてイイぞ?」
「冗談にもなってねェよ……」
ウソップはブツブツと何かを呟き、完全にトリップしてしまっている。こんな所で時間を食っていたら本当に最悪の事態になりかねない。
「おーぃ!! 聞いてるか? 海岸間違えたんだろ? 早くいかないと厄介なことになるぞ?」
「はっ!!? そうだった!!! こうしちゃいられねェ、早く北の海岸に行かねェと!!!」
俺の言葉でようやく覚醒したらしいウソップは、勢い良く立ち上がった。
「よーし、じゃあ俺はウソップ連れて先に行くから、ナミはそこの迷子顔の二人を連れて来てくれ」
「誰が迷子顔だこらァ!!!」
ゾロは憤慨しているけど、ルフィは笑ってる。ルフィ? 俺はナミに、二人って言ったんだぞ? お前も怒ってイイんだぞ?
ルフィに嫌味は通じないようなので、俺はウソップを抱えてスタートの体勢を取る。
「は? おいっ!? なんだ? 自分で走るぞ? 俺は脚には自信があるんだーーーーーーーーーーーーーー!!!?」
「剃」で移動する俺のスピードに、ウソップは絶叫しているけど、コレはウソップ気絶分の遅れを取り戻す為には仕方が無い。
「ごめんな、怖いか? 直ぐに着くから我慢してくれ」
ダメだ。ウソップは話を聞ける状況じゃない。目を見開いて固まっていて、ひょっとしたらそのまま気絶するんじゃないかと思っていたけど、到着すると直ぐに反応を示した。
「急に止まるなクラァ!!!死ぬかと思ったわぁーーーーー!!!」
「つっても、もう着いたぞ? 北の海岸」
僅か十数秒での到着にウソップは驚いて再び固まっていたけど、突然現れた俺に対するクロネコ海賊団の連中の反応も、似たようなモノだった。
〜Side ナミ〜
「誰が迷子顔だこらァ!!!」
「は? おいっ!? なんだ? 自分で走るぞ? 俺は脚には自信があるんだーーーーーーーーーーーーーー!!!?」
タクミの発言にゾロが憤慨し、ウソップが抗議をしてる途中で、タクミはウソップを抱えて風のように消えてしまった。
あいかわらずとんでもないスピードね! わたしたちも早く行かなきゃ、北の海岸にはわたしのお宝があるんだから!!!
「北へ真っ直ぐーーーー!!!」
「ちょっと待ってルフィ!! そっちは東よーーー!!……ダメだわ早く追いかけな、きゃああ「おいナミ!! 何やってんだ!?」助けて! 落ちるッ!!」
ウソップが撒いていた油に足をとられて滑り落ちそう、でも大丈夫、ゾロの服に手が届いたから。
「は!?」
巻き込まれたゾロはわたしの前に、身体を張って道を作ってくれたわ。
「うわああああっ!! 手ェ離せバカ!!」
「ありがとゾロ!!」
「う、が、がっ!!」
わたしは犠牲となったゾロに感謝を込めて、その背中を三段跳びで駆け上がった。
「のわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」
ゾロはまぬけな叫びをあげながら、ツルツルと油坂を滑り落ちていく。ちょっとだけ気の毒な気もするけど、アイツなら何とかするでしょ。
「わるいッ! 宝が危ないの!!」
わたしはルフィを連れ戻すのを諦めて、全速力で北の海岸へと向かった。
〜Side ウソップ〜
「俺はあの船長を潰すから、ルフィとゾロが来るまで、ウソップは他の連中の足止めをよろしく頼む!!」
未だに固まっていたおれにそう告げると、銀髪……タクミって言ってたな。タクミはさらに巨大化して駆け出していった。さっきよりスピードは落ちるみてェだが、あれがタクミの全力の姿なんだと解る。
飛び道具使いの船長の下へ真っ直ぐ、本当にまっすぐに進んでいく。進路を阻む者を紙屑のように屠りながら、タクミは進撃を止めない。
おれはその姿に震えていた。これは恐怖じゃなくてたぶん憧れ、これが海賊!! ”勇敢なる海の戦士”!!
おれはたぶんあんなに強くはなれないだろけど、それでも海に出よう! 早いほうがいい、この戦いが終わったらすぐにでも!!
そんなことばかり考えていたら、おれの頭を味わったことの無いような衝撃が襲った!! そうだタクミは敵をすべて倒しながら進んだわけじゃないんだ。おれの力を信じて、この坂道での敵の足止めを任せてくれたんだ。それえなのにおれは……
「ッ!!!」
声も出ねェ。でも、もう情けなく気絶なんかしない! おれの心はもう”勇敢なる海の戦士”なんだ!! 気力だけで身体を動かして、こっそりとパチンコに手をかけ、石オノ男に狙いをつける。
「おい! お前ら早くいくぞ!! あのバケモノには船長かニャーバン・兄弟しか勝てなねぇ!! 俺達はC・クロの計画を狂わせないことだけ考えてりゃいいんだ!! 計画が狂ったらそれこそ殺されっっっがぁは!!?」
「へっ!! この坂道……たとえ死んでもお前らを通すわけにはいかねェ!!! おれはいつも通り嘘を吐いただけだから!!!……村ではいつも通りの一日が始まるだけなんだ!!!」
おれはゆっくりと立ち上がる。さあこい!! キャプテン・ウソップ様の本領はココからだぜ!!!
「トラっ!? 大丈夫かっ!? このクソガキふざけやがって! 死ねェ!!!」
今度はカトラス、良く手入れされてやがる……ははッ、二発目の発射準備は整ってるんだ。この距離で狙いは外さない!! 気力雄雄しくおれは雄たけびを上げる。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
ッ!!? 立ちくらみ!?……やべぇ……手から滑り落ちていくおれのパチンコと、まっすぐに迫ってくるカトラスの突き。
その瞬間…………おれの世界はスローモーションだった。