小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”メリー”



〜Side タクミ〜



 暗い、黒という色では表せないような闇の中で、俺はただひたすらに歩いていた。

 右も左もわからない。上も下もわからない。そんな闇の中を歩き続ける俺は、どこか既視感のあるこの空間で、この世界の不自然な点をあらためて考えていた。

 ……ココは本当に『ONE PIECE』の世界なのか?

 俺が知る物語とは随分と違う点が多いのに、どうして俺は深く考えなかったんだろう?

 俺の持つ印象だけで補正がかかっているなんてありえないよな。神様だってそんなに暇じゃない。神様に会った記憶すらないもんな。

 そもそも神がいるのか? 神様ってヤツを最初に考えたヤツは無から創造したわけではなく、神を連想するような何かの事象を目にして、その存在を想起した。それ故に神という概念てきなナニカは確かに存在する…………哲学に逃げている場合じゃないな。

 俺は……いったい誰なんだ? アイザワ・タクミ、バジル・リングローズ、この世界で俺が名乗れる名前はおかしなことに二つもあるけど、どちらも本当の俺じゃないような気がしてならない。

 ……俺はこのまま麦わらの一味に……ロビンの傍にいてイイのだろうか?

 今まで楽観的に考えている部分が多かったけれど、ひょっとしてとんでもなく厄介な事にみんなを巻き込んでしまってるんじゃないのか?

 世界が俺を中心に回っているなんて事はありえない。そんな事はわかってるんだが、俺はこれからも騒動の中心に居続ける、そんな気がしてならない。

 自分が誰なのかもわからないようなこの俺が、これから起こるであろう嵐の中に、みんなを巻き込んでしまうくらいなら……いっそ……


(……つまんねぇ事ぬかすなよ……まだおもしれェもんを見せてくれるんだろ?)


 この”声”は……確かモモンガにやられる寸前に聞いたような……

 お前はいったい誰なんだ? 神様ってガラじゃないだろうが、


(タクミ……起きて……大切な仲間の最後よ)


 ロビン? どこにいるんだ? 起きて? 俺は眠っているのか?


 突然聞こえてきたロビンの声に俺は”声”の正体を考える事をヤメた。


(アナタは海賊王の導き手なんでしょ? アナタを信頼してきた仲間が、アナタに最後のお別れを言いたいそうよ)

(−−−−タクミ、いつも大切にしてくれてありがとう。ぼくの限界に、タクミだけは気づいていたよね)


 この声は……メリーなのか?


(−−−−ぼくの事を黙っててくれたタクミの優しさが、とっても嬉しかった)


 そんな……そんな事を俺は考えてなんか、


(−−−−おかげで最後までみんなを運んであげる事が出来たよ)


 最後って、もう本当に限界なのか!! こんな所でウダウダ悩んでる場合じゃない!!

 仲間の最後も看取ってやれないなんて、それじゃホンモノの屑じゃないか!!



(さぁ、起きて)



 闇の中を差す一筋の光を見つけ、俺はそこに手を伸ばした。



「ただいま……ロビン」

「フフ、おはようの間違いじゃなくて?……おかえりなさい、タクミ」


 ロビンの手を掴んで立ち上がった俺は、辺りを見渡す。

 ルフィ、ナミ、ゾロ、ウソップ、サンジ、ビビ、チョッパー、ついでにフランキー……よかった。涙で顔がグチャグチャのヤツも多いけど、みんな無事だ。


「ココは……ウォーターセブンか?」

「あぁ、廃船島だ」


 俺の疑問に答えたのはアイスバーグだった。沈痛な面持ちで、目の前の海を見つめている。


「そうか……最後までって、ココまで辿り着けたのか。ありがとうメリー、助かった」

「アナタどうして……聞くだけムダね」


 廃船島の目の前の海では、メリーが燃えていた。


(−−−−うん、みんなにはもう話したけど)


「メリー!!……わかってる。男の別れに言葉はいらない。そうだろ?」


(−−−−ははっ!! タクミは最後までカッコイイなぁ。でもコレだけは言わせて…………ぼくは、本当に……幸せだった)


「メリーーーーー!!!」


 ルフィの慟哭を聞きながら、メリーはその命を静かに、それでいて激しく燃やしていった。

 泣きじゃくるルフィ達をよそに、ゾロとサンジは涙の一つも見せない。

 俺も泣かなかった。男の別れには、涙もいらない。


「(メリー……本当にありがとう)」


 涙を堪えながら、囁くように発した俺の言葉を、隣にいたロビンだけが聞いていた。


「男ってめんどうなのね」


 滅多に泣くことなんてないハズのロビンが流した涙を、俺は見なかった事にして、黙ってその肩を抱き寄せる。

 メリーを守りきれなかったのは俺の責任だ。未来を知っていた俺なら、いくらでも対処のしようがあったハズ。

 厄介事に巻き込まない為に一味を去る? 俺は何をふざけたこと考えていたんだ。

 俺はもうみんなを巻き込んでるんだ。最後まで責任をもってこの一味の副船長を勤め上げて、みんなの夢を叶えなくちゃならない。

 俺はもう、この先なにがあっても、誰一人として仲間を犠牲にはしない!!


 メリーが燃え尽きるまで見守っていた俺達は、海ではなく空を見上げていた。

 メリーはこれからも、そこから俺達を見守ってくれる。誰が言ったわけでもなく、みんな同じ事を考えていただろう。


「それにしても、よくあの状況で俺は生きてたな。誰がモモンガを倒したんだ?」


 みんなが泣き止むのを待って、気になっていたことをロビンに聞いてみたんだが、ロビンは今まで見たことがないくらいに怪訝な顔をしている。


「アナタ、覚えてないのね? やっぱりあの時の「あーーーーーーっ!!!?」……ナミ? どうかしたの?」


 何か重要な事を話そうとしていたロビンの言葉を、ナミの絶叫が遮った。

 一味のみんなも何事かとナミに注目している。


「どうしたんだ? 奪った財宝でも忘れてきたのか?」


 早くロビンの話の続きを聞きたかった俺は、ナミのくだらないハズの話をさっさと切り上げたかったんだが、


「財宝と情報はモチロン持ってきたんだけど……お兄ちゃん?」


 ……ナミのお兄ちゃんには、嫌な予感しかしないな。


「わたしだけじゃなくて、お兄ちゃんのせいでもあると思うんだけど…………カルーを忘れてきちゃったわ」

「…………マジか」


 やっちまったーーーー!!!! 仲間を誰一人として犠牲にしない!!? さっそくやらかしてんじゃねぇか!!?

 あの状況下でカルーがどうやって生き残るってんだよ!!? 砲撃のほとんどをナミが完封してたと言っても、アイツは司法の塔に取り残されてたハズだぞ!!?


「ちょっと!!? カルーはナミさんが乗って行ったじゃない!! どうしていないのよ!!」

「途中で降りたらはぐれちゃったのよ!! それに探すって言いながらほっといたのはタクミも同じなのよ!!」

「イヤ、俺が探し忘れたのは、お前らがメチャクチャだったり、サンジが喧嘩売ってきたからでな?」

「お前らパニクりすぎだ!! すぐに助けにいきゃイイだけの話だろうが!! どうせタクミの占いでなんとかなるんだろ?」


「「その手があったわ!!!」」


 ゾロの言葉を聞いて二人は期待に満ちた眼差しで俺を見つめてくる……やるしかないか。


「やるにはやるが、まぁ覚悟しとけよ? 俺たちのペットって事で、海軍本部に連れていかれてる可能性もあるから、救出は今回以上に困難になるハズだ」

「知るか!! とられたもんは取り返す!! ソレだけだ!!」


 ルフィはバカシンプルでバカナイスガイだな。コイツの真っ直ぐさには救われる。


「意味のない話だったな。待ってろよ、すぐに特定する」


 コートから取り出したタロットカードをばら撒きシャッフルする。今カルーがどこにいるかはわからないが、取り敢えずは現在の状況だけでも見当をつけておきたいところだな。


「とりあえずワン・オラクルで……No.? ”The Wheel of Fortune”……正位置の”運命の車”か」

「相変わらずそれで何かがわかる理由がさっぱりなんだけど、どういう事なの?」


 隣でいつものように覗き込んでいたロビンが、聞いてくるが……状況が状況だけに判断しかねるな。


「んー、幸運、幸福、神の賜物」

「やった!! カルーは無事なのね!!」


 ビビは無邪気にはしゃいでるけど、占いってのはどうとでもとれる内容で、最後は占い師の直感みたいなもんだからなぁ……宿命だとか不可避の事態って意味は伝えない方がよさそうだな。


「じゃあついでにカルーの心境でも……うっ!! ある意味嫌なカードだな」

「王様のカード?……なんかパパに似てるデザインね」


 そう、俺が引いたのはアラバスタでも見せたNo.? ”The Emperor”のカードだ。


「まぁこの場合の意味は不屈の精神だろうな。ビビの親父さんを思い出したくないから、デザインの違うカードデッキに変えたいところだけど、馴染んだ物じゃないと上手くいかない事もあるし……しばらくはコレで我慢するか」

「何がなんでも生き残ってやる!! って意志をカルーは持ってるって事ね!! 流石わたしのカルー!!」

「最近は相手してやってねェくせによくそんな事が言えるな。だいいち…………ってありゃなんだ?」


 調子のイイ事を言ってるビビに苦言を呈したゾロの言葉は、打ち寄せる波飛沫よりも激しい水音に邪魔された。

 その視線の先を追うと、海の上を大きな水柱が、街の方へと移動している。


「アレは……カルーじゃないのか?」

「はァ!!? 海の上を走ってここまで帰ってきたってのかよ!!?」

「おそらく海列車の線路を走ってるんじゃねェのか? あの位置はちょうど線路の真上だ」


 サンジの言う通り、海列車の線路を走ってるにしても凄いスピードだな。

 カルーはそのまま街へと上陸して一直線にコチラに向ってくる。見聞色の覇気をある程度使えるようになった俺にはわかるが……鬼気迫るモノを感じるな。


「カルー!! わたしのカルー!! アナタはなんてイイ子なのかしら!!」


 ビビは両手を広げてカルーを迎える体勢だ。悪い事は言わん……やめておけ。


「さぁ!! わたしの胸に飛び込ん「グゥゥエエェェェエエエエエエ!!!!」でぶっ!!!?……なんで!!?」


 カルーはその凄まじい脚力でビビの腹にドロップキックをかました。アイツも覇気を使えるように……はならないな。流石にそれはない。

 この場合はガープが言うところの”愛”だな。うん、そうだと信じよう。


「グエッ!!? グエグエッ!!? グエーーーーーー!!!」


 カルーはそうとう鶏冠にキテルようだ。クエが基本なのにグエになってるあたりで、カルーの言葉がわからないみんなにも伝わっているのだろう。

 みんな遠巻きにカルーとビビの様子を伺っている。当事者のハズのナミは我先にと逃げ出しているし、さっきまでのしんみりした空気はどこにいったんだろう?


「なんで!!? なんでだと!!? どの口でほざきやがる、この脳味噌花畑バカ女が!!! ってカルーは言って「グロフグワップ!!!」痛ッ!!? なんでおれにも攻撃するんだよ!!?」


 カルーの言葉を若干拡大解釈して伝えようとしたチョッパーに対して、カルーはクロスチョップをキメた。

 ていうか今ほとんどクロスチョップに近い発音だっただろ。もうツッこまないけどな。


「ロビン、俺は腹が減ってるから何か食べに行きたいんだけど、一緒に食事にいかないか?」


 カルーの心配は不要みたいだし、明らかに血が足りていない俺は、ロビンを誘って飯を食いに行く事にしたんだが、


「アラ、デートのお誘いか「させるかァ!!! この一味のコックはおれだ!!! お前は外食なんかしねェで、おれが作る飯だけを食ってろ!!」……プロポーズ?」


 サンジに邪魔をされ、そんなサンジをロビンはからかった。ホモ客にしつこく絡まれたトラウマがある俺としては、その手の冗談はできれば勘弁して欲しい。

 サンジは俺たちの邪魔をしたかっただけだと思う、それはロビンもわかっていてふざけてるだけだ。たぶん、きっと、メイビー。


「違うよ!!? なんでおれがこの銀髪にプロポーズなんかしなくちゃいけないんだよ!!? それをするのはナ「ごめんなさい」勘違い!!? そして音速で振られた!!? チクショォオオオ!!!!」


 今サンジはナミにしたいって言おうとしてたっぽいんだが、ロビンに被せるように断られて逃走していった。血の涙再び。


「ロビン、腕を上げたな。最近はビビの奇行にツッこんでばかりだったけど、俺もこれからはボケにまわることにするよ」

「ボケ? 私はなにか罵倒されるような事をしたかしら?」


 ん、忘れてた。ロビンのボケは天然だったわ。


「いや、何でもない。それよりロビンは何が食べたいんだ?」

「食事より先にシャワーを浴びたいんだけど、待っててもらえる?」


 良く見るとロビンはその美しさを微かに損なう程度には汚れていた。俺が寝てる間にロビンもそれなりに暴れたんだろう。

 まぁ俺は気にならないし全く問題ないレベルなんだが、ロビンが言うならしょうがないな。


「俺も血の匂いがするし先にシャワー浴びようかな。でもそしたら気持ちよくなって寝てしまう気がするんだよなぁ」

「じゃあ一緒に寝る?」


 …………!!!?


「今たしかに「言わせねェよ!!!」しつこいんだよお前は!! 帰ってくんな!!」

「タクミ!! 飯食いにいくならおれも行くぞー!!! フランキーも来いよ!!」

「宴か!!? このおれ様がスーパーな宴会芸で盛り上げてやろうじゃねェか!!!」

「あっちには関わらねェほうがよさそうだし、おれもいくか」

「おれはそれより酒が呑みてェ……おい、誰かおれを運べよ!!」


 いつも通りのパターンで邪魔された俺は笑顔のロビンに見送られながら、背の低いルフィに強引に肩を組まれて飯屋に連行された。

 イロイロ問題は山積みだけど、俺はこれからも、コイツらと一緒に楽しく冒険をしていこう。



 賑やかな海賊の集団はウォーターセブンを堂々と練り歩く。

 ボロボロの俺達だけど、これから開かれるのは勝利の宴だ。

 俺達の長い長い一日は、最後はみんな笑顔で眠りについて終わるだろう。

 もう一度空を見上げた俺は、今度は言葉に出さずに、心の中だけで語りかけた。

 メリー、これからも俺達を見守ってくれよな。
 
 
 


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〜後書き〜



 お久しぶりです。羽毛蛇です。

 まずはじめに、何の告知もなく一ヶ月もの長期に渡って休載してしまった事を深くお詫びします。

 えーとですね、転職してゴタゴタしていたとかイロイロあるにはあるんですけど、長期休載の一番の原因がですね……ネトゲなんですよ。

 ごめんなさい!! 石を投げないで!! このサイトに広告が載っていたので軽い気持ちで始めてみたんですけど、おもしろいんです!! どうしようもないんです!! なにを開き直ってるんだと思われてもしかたないんですけど、おもしろいんで暇だったらやってみてくださいw ココに名前を出してイイのかわからないんで控えますけど、一目で私だとわかるギルド名で遊んでいるので、よかったらゲーム内で声をかけてみてくださいねw

 趣味熱もある程度落ち着いたので、これからは以前のようにコチラの更新もしていきたいと思います。仕事の時間は前職に比べて格段に短いので、エタるような事はありません。

 一ヶ月も放置していたので読者が残ってくださっているか不安ですが、これからも頑張ります!! 生暖かい目で見守ってください。

 エニエスロビー編の後にはオリジナル展開を入れる予定と話していましたが、イロイロと考えた結果、その展開はもう少し引っ張って原作エピソードと絡める事にしました。そうしないと話の展開が遅くなりすぎて、いつまでも完結編を書けそうになんです。オリジナル展開を期待されていたかたがいらっしゃったらこの場でお詫びさせていただきます。

 次回更新は3日以内を予定しております。

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