小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”拳骨襲来と賞金総額(トータルバウンティ)



〜Side ゾロ〜



「お前いくらなんでも呑みすぎじゃねェのか?」

「うるせぇ、ほっとけ」


 ロビンとデート中に兄貴の手配書を見せられたらしいタクミは、それから丸一日目を覚まさなかった。


「お、タクミ!! こんなところに手配書が!! こりゃあお前の兄貴の手配書じゃねェか!!? 3億3000万ベリーだって!!? ヒィイイ!! あばばばばばばば……」

「いつまでもそのネタ引っ張ってたら噛み殺すぞ!!!」


「だってよ、『あばばばばばば』だぜ? ぷっ!! 笑うなってほうがムリだっつうの!!」

「よーし、喧嘩売ってんだな!! 悪魔と……踊れぇえええ!!!」


 その時の状況をモノマネつきでチョッパーから聞いたウソップは、暇さえあればタクミをからかって、目が覚めてからのタクミはヤケ酒呑んでるかウソップを追い掛け回してるかのどっちかの行動しかしてねェ。

 フランキーの話じゃ明日には新しい船が完成するってェのに、副船長がこんなんでウチの一味は大丈夫なのか?


「よっ、ほっ、はっ、どうしたタクミ? 当てる気あんのか? 怒り狂ったお前の動きなんか手に取るようにわかるぜ?」

「ちょこまかと逃げ回りやがって!! 俺を本気にさせたな? イイだろう、お前がその気なら「タクミ……室内よ」……はい」


「もう終わりか? まだおれ様は一発も「うるせぇ、もうどっかいけよ」……つまんねェヤツ」


 ロビンに注意されて大人しく引き下がるタクミと、それを見てつまらなそうに出て行くウソップ。アイツはまたフランキーの手伝いでもしに行ったんだろうな。


「これから何が起こるかもしらないで……ホント気楽なヤツらだな」

「占い師のアナタと一緒にされてもどうしようもないわよ。何か問題でも起きるの?」


 タクミが”ヤツら”って言ったのは、一味のほぼ全員が浮かれ気分でこの街を楽しんでるからだろう。

 ルフィは食い道楽、ナミとビビは買い物三昧、チョッパーは街で知り合った悪ガキ共と遊んでるし、サンジは以前よりさらにナミに積極的になった。

 まぁアイツらも呑んだくれのタクミには言われたくねェだろうが、コイツはまたメンドウな事を黙ってるみてェだな。


「お前は言葉が足りねェって何度も言ってるだろ。一人で抱え込んでねェでロビンとおれにくらいは話せ」


 なんだかんだ言いながらタクミの正面に座って呑み続けていたおれが促すと、タクミはヘラヘラ笑ってやがる。流石のコイツでも呑みすぎたのか?


「誰に話したって無駄無駄。これからやってくるのは一味全員でかかったところで返り討ちにされるようなバケモノさ」

「な!!? もしかしてお前の母親でもくんのか!!?」


 おれは一味に再び危機が訪れるのかと慌てたんだが、タクミの隣に座るロビンは落ち着いてる。


「アナタが何の策も講じないって事は、プレッシャーはかかるけど戦闘にはならない相手ってことでしょ?」

「流石ロビンだな。まぁ誰かが余計な事しなけりゃ大丈夫なんじゃないか?」


 コイツはタクミの事ならなんでもお見通しってわけか。今回の事を乗り越えて、コイツらの間にはさらに深い絆が出来たみてェだな。


「脅かすなよ。で、結局誰が来るんだ? 元帥やら白ひげが来るなんて言うんじゃねェだろうな?」

「まさか、そこまでの大物じゃ……まぁ似たようなモノか」

「フフフ、名前は聞かずに待っていようと思っていたけど、興味が湧いてきたわ♪ いったい誰がやってくるの?」


 おいおい、元帥と”似たようなモノ”って、ホントに大丈夫なんだろうな?

 楽しげに訊ねるロビンと、怪訝なおれの表情を交互に見やり、タクミはもったいぶった口調で話し出す。


「聞きたいか? これからやってくるのは未来の海軍大将と、海軍伝説の「な、何だ!!!?」おいでなすったか」


 タクミの言葉を突然の轟音が遮る。おれ達の仮住まいとして提供されていたプレハブの壁が吹き飛び、そこには海軍の軍服と犬の被りモノを身に纏った屈強な老人が仁王立ちしていた。


「海軍!!!?」

「お前らか……”麦わらの一味”とは」


 それだけの短い言葉をヤツが紡いだだけで、腹の底に鉛の塊でも落とされたみてェな重圧を感じる。

 ……コイツ……只者じゃねェ!!! 犬の被りモノってとこからして、コイツが赤犬ってヤツなのか!!?

 思わず刀に手をかけたおれを、タクミはその隻腕で制した。

 さっきまでのヘラヘラした表情をやめ、真っ直ぐに老人を見据える。


「その通りですが、生憎船長はW7食い倒れツアー3周目の最中でして、この場にはおりません。お話ならとりあえず俺が聞いておきますよ。海軍の英雄……”拳骨のガープ”さん」

「ガ、ガープですって!!? ホントに大丈夫なの!!?」


 タクミの言葉を聞いて、流石のロビンも動揺を隠せねェみてェだ。おれにいたっては言葉も出ねェ。

 ガープっていやぁ、あの海賊王を何度も追い詰めた伝説の海兵だ。そんなバケモノを前にして、コイツみてェに落ち着いてられるほうがどうかしてる。


「一味の副船長、”銀獅子のタクミ”か。お前の母親にも苦労させられとるわ」

「とばっちりはゴメンですよ? アイツはいずれ俺が倒すのでご心配なく」


 ガープは一瞬驚いた顔をしたが、突然笑い出した。実に豪快な笑い方だ。


「”熱愛のジキタリス”を倒すか、ルフィにはイイ仲間が出来たもんじゃい」

「お孫さんのサポートはお任せを。足りない頭には俺とロビンがついてますよ」


 …………は?


「『お孫さん』ってルフィの事を言ってるの?」


 思わずフリーズしちまったおれが抱いた疑問は、ロビンによって代弁された。


「あぁ、だから心配しないでイイって言っただろ? ガープさんはルフィとゾロの友達をココまで連れてきただけだ」

「!!?……”予言者”の通り名は伊達ではないようじゃの。オモシロい男じゃわい」


 ガープは愉快そうに笑いながら、外に向って手招きをする。

 その隣に走ってきた二人の男は、敬礼をした後におれのほうに向き直ったが……ありゃ誰だ?

 ルフィとおれの友達だってタクミは言ってやがったが、全く見覚えがねェな。


「お久しぶりですゾロさん!! 僕がわかりますか?」

「……すまん、誰だ?」


「僕です!!! コビーです!!! 覚えてませんか!?」

「!!? あのコビー!!? なんで”偉大なる航路(グランドライン)”に!!」

「イロイロあったんだろ、話でもしてこいよ。アイツは未来の大将だぞ?」


 さっきから驚いてばかりのおれの背中をタクミは押し出して、ガープの方へと歩いて行く。


「立ち話しもなんですし、一緒にどうです? 俺が出会ってからの事でイイなら、ルフィの事をお話しますよ」

「……なんともまぁ緊張感のないヤツじゃ。わしがお前らを捕まえる気がない事までわかっとるんじゃな?」


 酒瓶片手にテーブルを指差すタクミに、ガープも面食らったみてェだが、ロビンが引いた椅子にどかっと腰を下ろすと、なみなみと注がれたバーボンを一気に飲み干した。

 海軍の英雄とは思えないそんな立ち振る舞いには、どことなくルフィに通じるモノがある。


「あら、船長さんと違って飲めるのね。お好きなだけどうぞ、お酒だけは売るほどあるから♪」

「おっとっと、美人の酌つきとはこりゃイイわい」

「……一応、勤務中なんですが?」

「中佐も大変ですね、今日はもうイイじゃないですか。一緒に飲みましょう」


 副官らしき剣士の男も溜息を吐いて帽子を被りなおすと、諦めたようにタクミの隣に着座した。自由奔放な上官を持つあの男も、タクミに通じるモノを感じたんだろう。


「ルフィさんはいらっしゃらないみたいですけど、お話を聞かせてください!! お二人の活躍はイロイロと聞いてますよ!!」

「アイツもそろそろ昼寝に戻ってくる時間だろうし、外で話でもしながら待つか」


 コビーに促されて、おれは壁の大穴へと足を進める。テーブルに目をやると二、三杯で酔いが回ったのかロビンに絡んでいるガープを、タクミが拳骨で制裁していた。

 アイツ、海軍の英雄相手でもムチャクチャだな。副官も止める気がねェみてェだし、ロビンも笑って見守ってるだけだ。


「ガープ中将に拳骨をかますなんて、あの人勇気がありますね」

「アイツは嫁の事になったら世界政府にでも喧嘩を売るようなヤツだからな。隣に座らせただけでもおれとしちゃ驚きだ」


 あれじゃどっちが”拳骨”だかわからねェと思いながら、その場を去ろうとした時、さっきから僅かに疑問に思っていたことを口にしてみた。


「ところでお前は誰だ? コビーの友達か?」

「さっきからムシしやがって!! おれだよ!! ヘルメッポだ!! モーガン大佐の息子!! ヘルメッポだァーーー!!!」


 腰から二本のククリ刀を下げた長髪の男は、バイザーのようなサングラスをずらして名乗りを上げた………………誰だコイツ?




〜Side ビビ〜



「コレどうなってるの?」

「わたしが知るわけないでしょ、タクミが何も言ってなかったんだから気にしなくてイイんじゃない?」

「ナミさん!! 銀髪の事なんかイイからおれに任せてくれよ!! 海軍のヤツらが襲ってきたら返り討ちにしてやるさ!!」


 ナミさんとサンジさん(荷物持ち)との買い物を終えてプレハブに帰ると、辺りには大勢の海軍がたむろしていた。

 皆一様にやる気なさげで、わたし達を見ても全く捕まえようとする気配がない。

 不審に思いながらも海軍の集団の真ん中を通りプレハブにつき、なぜかへたくそな修繕をされている扉を開けてわたし達は固まった。


「じじぃ!!!! 今ロビンの脚を触っただろ!!!? もう我慢ならん!!!」

「痛ッ!!? お前さっきからわしの頭を殴りすぎじゃ!!! ボガード!! コイツを斬り捨てろ!!!」

「嫌ですよ。もう勝手にしてください」

「そんなに暗くなっちゃダメよ? ほらアナタももっと飲みましょう♪」

「いいぞータクミーー!! もっとやれーーー!!」

「うっぷ、ゾロさん、僕はもう限界です」

「情けねェなコビー、大将になるような男がコレくらいで……ところでお前は誰だ?」

「ヘルメッポだよ!!! 何回目だよ!!? そして狸!! いい加減サングラス返せ!!」

「おれは狸じゃねェ!! トナカイでもねェ!! おれの名前はチョッパーマン!! このサングラスは変身アイテムだから渡せねェぞ!!」


 ……この状況は何? 海軍の軍服を着た人も数人混ざってるみたいなんだけど?


「ビビ、ゾロを連れてきて」

「タクミさんじゃなくて?」


「こういう時はゾロの方がイイのよ」

「……そうね」


 ロビンさんが絡んでる時のタクミさんはイロイロとむちゃくちゃだし、やっぱりこういう時に頼りになるのはゾロよね♪

 コビーっていう海兵さんと飲んでいた(ムリヤリ飲ませてた)ゾロを連れてきて事情を聞いてみたら、タクミさんにどつき回されてるのはルフィさんのお爺さんで、海軍の英雄らしい……意味がわからないわね。


「海軍の英雄もタクミにかかるとあんな扱いなのね。ちょっと不憫だわ」

「いや、あの爺さんにも落ち度はあるっつうか、あの爺さんが悪い感じだけどな」

「だとしても中将相手にあの態度ってのは、ロビンちゃんに危険が及ぶかもしれねェ事をちゃんと考えてんのかよ?」

「大丈夫なんじゃないかしら? あのお爺さんからはどことなくわたしやルフィさんと同じ匂いがするわ」


 わたしの言葉を聞いて三人がじっとコチラを見つめてくる……何よ、その哀れむような目は。


「「「自覚があったのか(のね)」」」

「? わたしはただ「な!!? 拳骨のガープ!!? ついにきやがったのか!!!」ウソップさん?」


 立場なんて細かい事は気にしなさそうって言いたかっただけなのに、何かを誤解してる皆に反論しようとしたら、ウソップさんの大声が外から聞こえてきた。外の海兵にでも事情を聴いたのかしら?

 危うい立て付けの扉を蹴破ってきたウソップさんは、壁際まで一足跳びでたどり着くと、武器の巨大パチンコを構えて周囲に視線を巡らせる。


「タクミ!! お前一人に戦わせたりはしないいぜ!! いくら相手が海軍の英雄だからっておれ達が……逃げるとでも……思ってんのか?……???」


 勢い良く叫びだしたウソップさんは言葉の途中から周囲の状況に気づいて失速、最後は疑問符だけを浮かべた状態でゾロに助けを求めるみたいな視線を送った。

 みんなこういう時にはゾロに頼るのね!! なんだか嬉しいわ♪


「……おれの決意はなんだったんだ」

「ウソップさん!! よくわからないけど元気出して!!」


 ゾロから説明を受けたウソップさんは床に膝をついて溜息を吐いてる。

 ガープ中将が来る事だけを伝えてウソップさんを脅して遊んでたのかしら? タクミさんならやりかねないわね。


「……!!!? タクミ!!! その爺さんおれ達の手配書を持って来てるみてェだぞ!!!」


 黙って様子を見ていたサンジさんが、突然出した大声にみんなの注目が集まる。


「はぁ? そんな大事な用事ならさっさと渡してるハズだろ?」

「……おれにはわかるんだよ」

「そうじゃ、わしはそんなモノ……そういや持って来ておったの」

「忘れてんじゃねェよ!! ホントに海軍の英雄か!!? ただのボケ老人じゃねェだろうな!!」


 そのやり取りを見て、今までだらけきっていた剣士の人が立ち上がる。

 その鋭い視線は、やけくそ気味にツッこみを入れているウソップさんではなくて、硬い表情のサンジさんに向けられている。


「キミ……この前半の海の段階で覇気が使えるのか」

「覇気? なんだよそりゃ?」


「誰に学んだ訳でもなく、心を閉ざした状態の私の思考を読んだというのか……中将、やはりこの一味は危険すぎるのでは?」

「ルフィはわしの孫じゃから捕まえん!! 息子のドラゴンはそろそろ野放しに出来んようになってしもうたんじゃがな」


 …………はい? 今ドラゴンって言わなかったかしら? 息子?


「「「「「「「えェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!?」」」」」」」


 ドラゴンの名前を聞いてみんなが一斉に騒ぎ出す。あのロビンさんですら固まってしまったわ。


「アンタはこんな時にまだ飲んでんのかァ!!!」

「ごぶっ!!!?」


 こんな状況で平然とお酒を飲み続けているタクミさんを、ナミさんの拳が襲う。

 普通の人なら頭がカチ割れそうな勢いだったのに、たんこぶだけで済むタクミさんは流石ね。


「そんなもん知ってたんだからしょうがないだろ。ローグタウンを脱出する時には助けに来てくれたしな」

「そういう大事な事はちゃんと話しなさいよ!!!」

「アレがおれの父ちゃんだったのか」


「まぁ今のところ大して関わりも無いし問題ないだろ。ロビンは近いうちに会う事になるかもしれないけどな」

「私が? どういう事なのか後でちゃんと話してくれるのよね?」


「今はそれよりこっちだろ? ボガートさん、手配書を見せてくれますか?」

「どうして私のほうが所持していると……キミも覇気が使えるのか、とんでもない一味だな」


 剣士さんが呆れたように懐から取り出した手配書を受け取ったタクミさんは、みんなが集まってきているテーブルの上に裏返しでそれを並べて、一枚ずつめくっていく。

 一味全員の目がテーブルに集中する。



−−−−「”麦わらのルフィ”懸賞金 3億7000万ベリー」−−−−


「うはーーーーっ!! 上がったーー!!!」


 喜ぶルフィさん、海賊としては正しい反応なのよね。



−−−−「”銀獅子のタクミ”懸賞金 3億ベリー」−−−−


「まぁ妥当なとこか」


 タクミさんは微妙な反応ね。ルフィさんより金額が低いのが不満なのかしら?



−−−−「”海賊狩りのゾロ”懸賞金 1億8000万ベリー」−−−−


「フン」


 興味がなさそうなふりをして少し喜んでいるゾロ、ちょっとかわいいかも♪



−−−−「”拳王乱舞”ナミ 懸賞金 1億5000万ベリー」−−−−


「ちょ……何よこの二つ名!!?「お似合いじゃねェがっ!!?」ウルサイ!!!!」


 あれだけ飛ぶ拳を乱発すればそんな二つ名がついてもしょうがないと思うんだけど、ナミさんはルフィさんを殴り飛ばした。



−−−−「”絶対射程(キリングレンジ)”ウソップ 懸賞金 8100万ベリー」−−−−


「なかなかカッコイイじゃねェか!! ”ツッこみのウソップ”にされてたら泣けるとこだったぜ」


 そっちのほうが似合ってた……とは言わない方がイイわね。



−−−−「”黒足のサンジ”(写真入手失敗)懸賞金 5700万ベリー」−−−−


「誰だ……しかもナミさんより安い……」

「すまん、気が向いたらレンズカバー外してやるつもりだったんだが……って聞いてないか」


 サンジさんは……似顔絵だったわ。しかも全然似てなかった。タクミさんの言葉から察すると手配書を撮る人がミスしたみたいね。さすがに同情するわ。



−−−−「”悪魔の子”ニコ・ロビン 懸賞金 9800万ベリー」−−−−


「あら、上がったのね。コレからも私をちゃんと守ってね♪」

「モチロンだよロビン!! このじじぃには二度と触らせない、二度とだ」


 ……まぁこの二人はほっときましょう。



−−−−「”怪物(モンスター)”チョッパー 懸賞金 6000万ベリー」−−−−


「おれはバケモノ!! 強いんだーー!!」


 モンスターなんて書かれてるのに、トニー君は嬉しそうね。タクミさんの影響で考え方も変わってきてるのかもしれない。

 さぁて、次はいよいよわたしの番かしら? タクミさんが残りの手配書を捲る……ってまだ何枚かあるわね。



−−−−「”海駆のカルー”【ペット】懸賞金 50ベリー」−−−−


「クェ!!!?」


 カルーにまで賞金がかかってるなんて思わなかったわ。でも50ベリーはあんまりなんじゃない? 新聞より安いわよ。



−−−−「”溺愛のビビ”懸賞金 3億1000万ベリー」−−−−


「やった!!! 2位だわ!! タクミさんより上!!!」

「一国の王女が喜ぶなよ。でもまぁしょうがないか、暴れすぎたからな」


 タクミさんより上〜♪ これだけの頑張りを見せたんだから、ゾロからのご褒美は期待してよさそうね!!


「……あれ? もうカルーも含めて一味全員分の手配書を捲ったハズなのに、残ってる一枚は誰のかしら?」

「まぁコレはアイツのだろうな。ロビンがすでに勧誘しちゃってるらしいし、一緒に暴れたんだから…………」


 最後の一枚を手に取ったタクミさんは言葉を止めて固まっている。若干白目を剥きかけている気がするわね。


「コレは……前代未聞ね」


 ロビンさんはタクミさんの持つ手配書を覗き込んで、表情を強張らせている。

 放心状態のタクミさんの手から手配書を取り上げると、みんなに見えるようにテーブルの真ん中へとソレを置いた。



−−−−「”予言者”バジル・リングローズ 懸賞金 3億5000万ベリー」−−−−


「コレが……俺なのか?」


 そこには血の鎧を纏って悪魔の様に飛んでいるタクミさんの姿が写っていたわ、コレって……


「タクミさん二重手配されちゃったの!!?」

「やっぱりあの時の事は覚えてないのね。別人で押し通せるかもしれないけれど、二重手配なんて前代未聞よ」

「ずりィぞタクミ!! 二枚合わせたらおれより上じゃねェか!!」

「でるぞ!! でるぞ!! アレがでるぞ!!」

「……あばばばばばばばばばばばばば……」


 泡を吹いて倒れるタクミさんと爆笑するウソップさん。さすがのタクミさんも合計6億5000万ベリーの懸賞金には頭がオーバーヒートしたみたいね。


「笑ったらタクミに悪いでしょ、人一倍一味を背負ってるからしょうがないのよ。それと、リーゼントさんの分の手配書はないのかしら? 私、彼を勧誘してるのよ。タクミの義手も作って貰わなくちゃいけないし、無理やりでも連れて行くわ」

「おー!! おれも船大工はフランキーしかいねェと思ってたんだ!!」

「やはり彼も一味に加わるのか、とんでもない賞金総額(トータルバウンティ)になるな」


 ロビンさんに促されて剣士さんはもう一枚手配書を渡してきた。



−−−−「”鉄人(サイボーグ)”フランキー 懸賞金 4400万ベリー」−−−−


「よっしゃーーー!!! おれより下が出来る!! さすがロビンちゃん!! ぜひアイツを一味に入れよう!!」

「フフフ、元気になってよかったわ♪」


 本人の知らない間に勝手に一味に入れられてしまったフランキーさん。ルフィさんに目を付けられた時点で逃げられないわよね。

 ロビンさんの膝枕で介抱されているタクミさんに嫉妬する事も忘れてはしゃぐサンジさんを無視して、わたしは一味の賞金を二重手配を含めて計算してみたわ。


「……凄い一味に入っちゃったわね」


 海賊”麦わらの一味”賞金総額(トータルバウンティ) 20億……とんで50ベリー。
 
 
 

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