小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”デカルチャー”



〜Side フランキー〜



 打ち寄せる波の音に合わせて、ここまで響く槌の音、朽ち果てた船の墓場にお似合いのメロディーを聴きながら、おれはついにその姿を顕在させた夢の船を見据えていた。

 予算の関係で諦めていた装備をイロイロ追加していたら、当初の予定より1.5倍くらいのデカさになっちまったが、この夢の船はまだ”完成”しちゃいねェ。


「アイツら……どうするつもりなんだ?」


 エニエスロビーに向う海列車の中でニコ・ロビンに勧誘されはしたが、船長からも銀獅子からも何も言われちゃいねェんだよな。

 一緒にこいって言われたら、おれはどうすりゃイイんだ。夢の船は、おれの夢の船は……


「何を考えてんだおれは、ザンバイ達をおいていくわけにはいかねェじゃねェか。この街を離れるわけには……」


 くそッ!!! 夢の船は、おれがコイツと一緒に航海をして初めて”完成”する。船を作って託しただけじゃ、おれはトムさんを越えられねェんだ。

 だけど、おれはこの街に借りがある。世界最高の造船技師をこの街から奪っちまったっていう、とてつもなくでっけェ借りがあるんだ。


「悩むのはおれらしくねェな。この街はおれが守るしかねェんだ。銀獅子の義手はまだできてねェが、船と”アレ”は形になったんだ。とりあえずアイツらに知らせて「フランキ〜〜〜〜〜!!!!」あ? 麦わら?」


 知らせに行く前にこっちにくるとは、よっぽど”アレ”が楽しみだったんだな。


「うっひょ〜〜〜〜〜!!! でけーーーーー!!! かっこイイ〜〜〜〜〜!!!」

「メリー号の三倍はあるからな、早く中を見てこいよ。例の”アレ”もできてるぜ?」


 子供みてェに目を輝かせる麦わらにグラサンをずらしてニヤリと笑って見せると、その輝きはさらに増した。


「なにィ!!? こんなすげェ船と同時に作っちまったのか!!? お前すっげェな!!!」

「いいから見てこいよ。その為に一番乗りできたんだろ?」


「そうじゃねェんだけど、あ〜〜〜!!! 説明がめんどくせェからタクミに聞いてくれ!!!」

「あ、おい!!……アイツらもきたのか」


 ガレーラから続く街道に目を向けると、銀獅子に乗ったニコ・ロビン、カルガモに乗った水色、チョッパーに乗ったオレンジがこっちに向ってきていた。男衆は走ってついてきている。


「お前らずいぶん早かったな。バカバーグにでも「グズグズするなロボンキー!! さっさと出航するぞ!!」まだ根に持ってんのかよ……って出航!!? 進水式もお前の義手もまだだぞ?」

「拳骨のガープが追ってきてるんだよ!! ったく戻ってくるなんて覚えて、いや、聞いてないっていうのに!!」


 は? ガープ!? 拳骨のガープ!!? 何だってそんな大物が……まぁしかたねェか。今回の一件で、コイツらはもうそれだけの海賊になっちまったんだ。

 これだけの大物海賊団になら、おれの夢の船を託す事に悔いはねェ。アクアラグナを難なく越えたらしいし、航海士の腕も確かなんだろうからな。

 でも、ガープ相手に大丈夫なのか? 船は破損するんじゃねェか? またあの継ぎ接ぎみてェな修理をするつもりじゃ……


「そいつは大変だな。食料も保存食なら積んでやったから、さっさと出航しろよ。義手は間に合わなくなっちまったから鼻の兄ちゃんにでも作って貰え」

「あ? 俺としてはめちゃくちゃ不本意なんだが、お前はロビンから勧誘されてウチの一味に入ったんだろ? ガープにもロビンがそう言ってるし後戻りはできないぞ?」


 …………へ?


「ちょっと待てよ!!? 何を勝手なこと言ってやがんだ!!! おれにはこの街にいなくちゃいけねェ理由があんだよ!!」

「ンマー、今のお前にいられるとこの街も迷惑だな」

「麦わらの一味の一員がいるってなると、何度追っ払っても将官クラスの海兵がくるだろうな」


 詰んだァーーーーーー!!!! 何だこの状況は!!! 完全に詰んでるじゃねェか!!!


「アニキ!! 旅の荷物です!!」

「アニキ……お達者で!!」

「ザンバイ!? タマゴン!! お前ら何のつもりだ!!?」


 突然投げつけられた荷物をとっさに受け取りながら、おれは子分達を見返した。


「アニキが麦わらさん達と一緒にいきてェってことくらい、船を作ってるアニキを見た時から気づいてました」

「おれ達バカだけど、皆で決めたんだ!! アニキを笑顔で見送るって!!」

「バカヤロウ!! お前らがおれの人生を決めるんじゃねェ!! 海軍が来るってんなら、おれが何度だって追っ払ってやる!! お前らにおれの代わりが「ダメですか?」……あ?」


 おれに怒鳴られて顔を伏せていたザンバイは、肩を震わせ、振り絞るみてェに声を発する。


「おれ達バカだけど……おれ達みてェなゴロツキを拾ってくれた”大恩人”の……あんたの幸せも、考えたらダメですか!!?」

「な!!!?」


 ザンバイは涙を堪えながら、それでもおれを笑顔で見送ろうと笑ってやがった。

 おれがウジウジ悩んでる間に、コイツらはコイツらなりに、おれの代わりをやっていく決心をしてやがったのか……おれのために……


「どうやらバカはお前だったみたいだな」


 泣いているおれの顔を見ないように気を使ってやがるのか、銀獅子はおれの肩に後ろから手をおいて語りかける。


「みんなサニー号に乗り込んでるぞ、お前も早くしろ」

「てめェ何でその名前を!!?」


 思わず泣き顔のまま振り返ったおれに、銀獅子はおれに見せた事のない笑顔で告げる。


「小さい事を気にするな。ようこそ麦わらの一味へ……フランキー」

「おーーーぃ!!! 早く乗れよ!! おれの船に!! なんかじいちゃんの他にも海賊船まできてるみてェだし!!」

「……やっとまともな名前で呼びやがったか。いいだろう、お前らの船の”船大工”、このフランキーが請け負った!!」


 銀獅子はおれの言葉を聞くとニヤリと笑って船に飛び乗った。あいかわらずバケモノみてェなヤツだな。

 ……おれは、振り返らなかった。ザンバイ達に遅れてきた子分達、アイスバーグに続いてきたガレーラの職人共、騒ぎを聞きつけて集まり始めた街の連中、そいつらを見ちまうと、せっかく堪えた涙が溢れちまいそうだったから。


「ちょっと行ってくらァ!!!」

 
 その頂に流れ出る 伏流水は美しく 街の活気に調を合わせ 響き渡るは槌の音 白煙を引き海原駆ける 鉄の列車に想いを乗せて 振り返らざる島の名は ”水の都”『ウォーターセブン』


 ……おれは…………この島を忘れねェ。


「こ・の・大バカ野朗がぁぁああああ!!!!」

「ごぺむッ!!!?」


 おれが折角かっこつけて船に乗り込んだってェのに、銀獅子の野朗にいきなり殴られて甲板に沈んだ。


「甲板が芝生でよかった、あんな勢いで叩きつけられたら凹んじまうとこだったぜ」

「んなことはどうでもイイんだよ!!! ”アレ”は何だ!!!」

「フランキーありがとな!! 注文以上の出来で驚いたぞ!!!」


 甲板の中央にそびえ立つのは、黄金に輝く麦わら像。船長からのリクエストで作ったもんだが、気に入ってくれたみてェでよかった。


「ちょっと……あんたの取り分だけであの像ができるとは思えないんだけど?」

「あぁ、船の代金とタクミの義手の金を入れても足りねェって言われたから、でけェ箱の中に入ってた宝を全部やっばぼろべぇっちぇ!!!!?」


 オレンジに殴られて麦わらは木の葉みてェに宙を舞った。どうもありゃあ手をつけちゃいけねェ金だったらしいな。


「ほげばっ……」

「ルフィさん大丈夫!? じゃなさそうね」

「体の芯までダメージが通ってるな……合掌」

「アホか」

「悪は滅び……まだいたわね」


 オレンジは幽鬼みてェな動きで振り返ると、虚ろな瞳でおれを見据えてきた……嫌な予感しかしねェ。


「一人の頭の取り分だけじゃ飽き足らず、わたしのヘソクリにまで手をつけるだなんて」

「ちょっと待て!! おれはそんな金だなんて知らなかったし、第一この一味の船長は麦わらだろ!!? 何をどうしようがアイツの勝手なんじゃ「フランキーさん」なんだよ?」


 もの凄くイイ笑顔の水色に声をかけられてそちらを向く。というかあのオレンジと目を合わせたくなかった。


「この一味で逆らっちゃいけないのは、タクミさんとナミさんよ……アキラメロン☆」

「俺はそれを教えた覚えはないんだが」

「わたしの話を聞けぇえええ!!!」

「でがぶぢゃ!!!?……」


 さっき銀獅子に殴られた時とは比べ物にならないほどの衝撃を受けて、おれの意識は遠のいた。

 まだ船の機能を全然説明してねェのに……


「おしい!! ちょっと違う!!」

「……時々アナタについていけなくなるわ」


 瀕死の重傷を負っているおれを前にしてのん気に会話をしている二人の声が、やけに耳に残った。
 
 
 


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(後書き)



 どうも、羽毛蛇です。また久々の更新になってしまいました。申し訳ない。

 感動の船出を書くハズだった。タイトルはディパーチャーだったハズだった。どうしてこうなった。

 ディパーチャーを一回タイトルで使ってる事に気づいてタイトルを考え直したら何故かデカルチャーになってしまい、それならラストをちょっと弄ろうとしたらこうなりました。

 後悔も反省もしてる。やっぱ原作をリアルタイムで読んでいないとモチベーションが下がりそうなので、週間連載を追いかける事にします。

 最近はオリジナルの執筆に忙しいのですが、どうも上手くいかないので公開はもう少し先になりそうです。素晴らしい原作があり、ある程度説明が省けてしまう二次創作になれてしまっているのが原因でしょうね。

 同時進行で書き進めているので週一か隔週くらいになりそうですが、こちらも続けていきますのでよろしくお願いします。
 
 
 

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