”殺す覚悟”
〜Side ルフィ〜
北がどっちなのか解んねェから適当に走ってたら、何とか目的地に着いたみてェだ。おれは、ほぼ同時にココに来たゾロと一緒になって、タクミとウソップに文句を言う。
ゾロはナミのせいで遅れたらしい。遅れてきた理由をタクミに聞かれてゾロはくってかかってる。たぶんタクミはおれ達二人のことをバカにしたみたいだ。タクミの言うことは遠回しな言い方が多かったり、よく解んねェたとえ話をするからあんまり会話が続かねェ。
タクミはたぶんナミと一番仲がいいと思う。舟の上ではよく二人で話してる。タクミが釣りしてる時におれが話しかけても、釣竿の一部になったみてェに動かねェし、適当な返事したり無視したり、終いには『集中させてくれ』とか言いながら半獣になって威嚇してくる。
でも、ナミが話しかけたらちゃんと会話をするし、釣りを止めて話しに夢中になったりする事もある。タクミはおれの飯を釣ってくれてんのに。
昼寝ばっかしてて口数の少ないゾロも、起きてる間はタクミと楽しそうに話してることが多い。そういう時はだいたい二人は酒を飲んでることが多いけど、ココでもナミはタクミと一緒にいる。
酒を飲んでる時のタクミは難しいことはあまり言わないで、珍獣のおっさんや島の動物達の話、それと好きな酒の話をしてることが多いんだ。
だからおれは、あの日タクミが酒とつまみの話をしてるタイミングを見計らって、『そんなにうめェんならおれも飲んでみてェな!!!』って言ってみた。タクミは酒の話におれが入ってきたのが以外だったのか、少し驚いた顔をして何か考え込んでたみてェだ。これで話せる話題が増えると思ってたんだけど『ルフィは酒を飲まないほうがイイんじゃないか?』と言われた。
納得できねェから文句を言ってやったんだけど、『実は俺は占いも出来てな、ルフィには酒乱の相が出てるから、酒は飲んじゃダメだ』だと……馬鹿にされてるんだと始めて自分でわかった。いくらなんでも騙されねェ!!! 占いには虫眼鏡がいるんだ、常識だ!!!
だからおれは夜中にこっそり飲んで、タクミの嘘っぱちを証明してやろうと思ったんだ。けど、2杯くらい飲んだあたりから記憶がねェ。おれは酒を飲んで暴れたらしい、酒乱ってヤツだ。タクミが真っ先に気づいて止めてくれたってゾロから聞いた。
頭の中がぐちゃぐちゃだったけど、占いのことをゾロに聞いてみたら、『タクミなら何でも出来そうだな、それより虫眼鏡使うのは手相占いじゃねえのか? 占いにもイロイロあるだろ』って言われた……常識らしい。
タクミに悪いことをしてしまったと思って謝ったら、すんなり許してくれたんだけど、酒が無いタクミは釣りに集中するようになってあんまり喋んなかった。ナミとも喋ってないからタクミは本当に元気が無かったんだろう。タクミにとっての酒はおれにとっての肉みたいなもんなんだと思う。
この村について飯屋で酒を飲むとタクミは元気になって、ゾロと二人で喋っていた。元気になってよかった。これでタクミが酒が本当に大好きだってことと、占いが出来るってことが解った。短い付き合いだけどおれはタクミの事を信頼してるんだ。
…………でも、
やっぱりおれはタクミの事をよく知らねェんだ。
何なんだこの状況は? そこらじゅうに血が飛び散って、頭や腹がねェ死体が転がってる。
本当にタクミがこんなことをしたのか? 押し黙っているおれと、ナミとの言い合いが終わったゾロに、タクミが状況を説明する。
近くで気絶している六人はナミとウソップが、坂から舟にかけて倒れているのは全部タクミがやったらしい。信じらんねェ。おれは”殺す”って言葉は使うけど、本当に相手を殺そうと思ってトドメを刺したことは無ェ。
戸惑っているとゾロがタクミに質問をした。『何があったんだ?』って。タクミは加減をしていないからだって答えた。
おれと違ってタクミは本気で闘うだけで、一撃で相手を殺しちまうことがあるんだ。そんな力を持ったらおれはちゃんと闘えるのかわかんねェ。
タクミは相手を殺さないと思っていたとゾロが言った。ゾロは冷静みてぇだ。賞金稼ぎをやっていたから見慣れてんのかもしれねェな。
でもタクミは?……おれはタクミの事をよく知らねェ。
「??? 可笑しなこというんだな??−−−−」
タクミは答えてくれた”殺される覚悟”海賊はみんなそれを持ってるって言った。おれも死ぬ覚悟はある。夢のために戦って死ぬなら別にイイと思ってる。戦って死ぬ、それは殺されるって事だ。海賊にはみんな命をかけたそれぞれの”殺される覚悟”がある。
そんな相手に手を抜くのは失礼だってタクミは言った。”殺す覚悟”も持たないといけない。だからタクミは迷わない。だからタクミは強いんだ。
おれはタクミのことがちょっとだけ分かった。そして最後の一言で1番大事なことがわかった。
「−−−−そして仲間のためにな」
そうだ、はじめてあった時からタクミは守る為に戦っていたじゃねェか。そんなタクミがおれを信じて仲間になってくれたんだ。
今日だってタクミは仲間を守る為に戦ってくれたんだ!!!!
「……そうか」
ようやくタクミの1番大事な気持ちがわかってタクミに目を向ける。
その時のタクミは、おれに優しい目を向けてた。とてもじゃねェけど、こんな戦場で見せる顔じゃなかった。
……そうだ!! おれは、あのタクミの顔を知ってる!! みんなに飯を作ってくれたあと、いつも最後まで喰ってるおれに、あんな顔して聞いてくるんだ『うまいか?』って!!!
俺はタクミのことがいろいろ分かった気がする。