小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”本戦開幕”



〜Side ゾロ〜



 ……おれは迷ってる……おれらしくねェな。

 おれの頭には、タクミの言葉が焼きついて離れねェ……「殺される覚悟」と「殺す覚悟」……

 言いたいことはわかったんだ。己が信念の為、仲間の為、信念ある敵の為、命を軽んじることなく全力で生きろとタクミは言ったんだ。

 おれも共感できる、そのように生きてきたつもりだった。けど……


 おれは賞金稼ぎを名乗ったつもりは一度もねェが、今では「海賊狩りのゾロ」と呼ばれてる。生きる為に賞金首を狩ってきた。おれは大剣豪になる。それが、くいなとの約束だ。その為に生きてきたんだ。

 だけどおれは、コイツらに出会うまで、碌に航海もできないまま海を流離う賞金稼ぎでしかなかった。始めのうちは賞金首を殺しちまうこともあったが、政府は公開処刑を望んでやがる。『殺しちまったら賞金額が半分になっちまう』ってジョニーのヤツがうるさかったから、いつの間にか手加減して殺さねェようになった。

 おれに狙われて逃げ出そうとしたような、覚悟のねェヤツらはどうでもいいが、全力を持って向かってくる相手にも、おれは手加減をした。

 賞金稼ぎとしてなら合格だろう。捕らえること、それが目的なんだから、だがおれが目指す高みは大剣豪だ!! 一つひとつの戦いに全力を出さないようなヤツが、そこへ行けるのか?

 これからおれは全力で戦おう。殺すことが目的じゃ無ェ、ただ全力で戦う。大剣豪の名を手に入れる、その時まで。



〜Side タクミ〜



 ルフィとゾロは坂の中腹に並び、クロネコ海賊団の連中と対峙している。何か俺の演説を深く受け止めてくれたみたいで、両者ともに覚悟を宿した眼つきに見えた。

 まぁ敵さんの何人かは逆にビビッたみたいで船に引き返していった。それでイイんだ。ウソップがこの戦闘をなかったことにすると言った以上、クロネコ海賊団の船がここに残るわけにはいかない。元気な船員も何人か残ったほうがイイだろう。


「ここから先はおれ達に任せてくれねェか?」

「別にイイけど、危なくなったら助けに入るからな」


 ルフィに返事をしたつもりだったのに、返事は隣のゾロから返ってきた。


「相手が剣士じゃなかったらにしてくれ、これはおれの野望だ!!」

「ふっ、聞きそうにもないな。まぁ、程々に頑張れよ。船の中にそこそこのヤツが二人いるみたいだから気をつけるんだぞ」

「それも占いか!?」


 驚いたようにルフィが訊いてくるが、あの時咄嗟に出た”占い”って言い訳を本気で信じたのか……今後は利用させてもらおう。


「確かに占えば同じ結果が出そうだが、これはハンターの勘だよ」

「にししっ!! そっか!!!」


 何かルフィ楽しそうだな。イイことでもあったのか? 不思議に思っていたところ、途端にクロネコ海賊団の船員がざわつく、船を見るとどうやらニャーバン・ブラザーズが現れたようだな。

 船員たちの歓声をうけて、凸凹コンビって言葉が似合いそうな二人は船から飛び降りた。

 シャムは大した事なさそうだが、あの巨体で軽やかな着地を決めたブチの方はそれなりに出来るみたいだ。


「おいっ!!!なんだこりゃ!!?」

「ジャンゴ船長もやられちまったってのはマジみてぇだな」


 どうやら先ほどの船に向かった船員は二人を呼びに行っていたようだ。二人の身のこなしから、俺が話したそこそこのヤツだと判断したのだろうルフィとゾロが身構える。


「……ルフィ」

「あぁ……お前らァ!!! お前らの相手はおれ達だ!!! 覚悟があるなら前に出ろォ!!!」


 ゾロに急かされたルフィが二人に声をかけると、ブチは真剣な表情になる。原作では主導権はシャムにあるように見えていたが、この様子だと、どちらかと言えばブチが主体のチームみたいだな。


「猫かぶってる場合じゃなさそうだな、シャム!!!」

「あぁ、全力で行くぞブチ!!」


 背中を丸めてわざと隙を作っているシャムと、コタツ布団をたなびかせて並走するブチ。二人がコチラに駆けてくるが、スピードは大した事無い。爪を武器にする相手ということで、ゾロがルフィより一歩前に出た。

 後数メートルで両者が激突しようという時、不意に二人の足が止まり、何かに脅えて震えだした。先程まで覚悟を決めた目をしていたほかの船員たちも皆が震えている。

 船員の一人が何事かをつぶやき、がくりと膝をつく。その視線の先には、手首の内側で丸眼鏡を上げるクラハドールこと海賊”百計のクロ”。


「もう とっくに夜は明けきってるってのに、なかなか計画が進まねェと思ったら…………何だ、このザマはァ!!!!」


 この光景を見て激昂するクロ。原作は無視だ。お嬢様を待つ必要は無い。彼女には執事メリーの言葉で十分に真実は伝わっている。クロの口から辛い言葉を聞かされる必要もないだろう。

 ……ってメリーの事をすっかり忘れてた!!! 今頃クロにやられた傷が熱を持って相当苦しいハズ。どうせ原作に関わるなら出来るだけ良い方にって思ったんだが、考えが至らなかったな。

 次の日には平気そうに動き回ってたし、見た目ほど酷い怪我ではないのだろう。クロを討つ事で罪滅ぼしになればイイな。


 さて……舞台は整った。役者は海賊。観客はいない。それでも舞台の幕は開く。
 
 
 

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