小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”海賊 〜百計のクロ〜 ”



〜Side クロ〜




 おれはこの眼を疑った、何だこの状況は!!? 船員の半数以上は倒れ伏し、ジャンゴのヤツまでいなくなってやがる。おれの計画が狂う? 馬鹿な!!? 3年、3年だぞ!? おれの最後の計画だ!!!

 それが、こんな餓鬼どもにじゃまされたっていうのか!?……何だあの銀髪は? 髪は鬣のように見えるし、あの顔はとても人間には見えん……そうか悪魔の実!! なるほど、コイツらじゃ手に負えないわけだ。くそっ!! 失敗の可能性なんて考えてもいなかったからメリーのやつを殺してしまった…………もう後戻りはできない。いや? 屋敷の使用人や村の住人の命を盾にすればあの夢見るお嬢様は自ら遺書を書き死んでくれるかもしれない。

 当初の計画とはだいぶ異なるが仕方ないだろう。結果は変わらない。

 そうと決まればコイツらに用はない……いや? 待てよ? 脅しをかけて餓鬼どもの始末をさせてみるか。成功しようが失敗しようが、おれのマイナスにはならない。どうせ皆殺しにするのだから……


「貴様、悪魔の実の能力者か?」


 半ば確信を持って訊いてみると、銀髪はニヤリと笑った。その表情は余裕が伺える。


「教えてやる義理はないがいいだろう。おれはライオンの力を手に入れた能力者だ!!」


 コイツ、自分が負ける姿なんぞ想像すらしていないタイプだな。若造が、能力を過信しやがって、こういうヤツは脆いと相場が決まっている。

 思っていたよりも消すのは容易いかもしれんな。元部下どもがどよめく中、おれは自慢の武器”猫の手”をはめ、”抜き足”で瞬時にシャムとブチの後ろに回り込み、その刃を突きつけた。


「おいお前ら……五分やろう、その餓鬼どもを消せ!! それが出来ないのならお前ら皆殺しだ……その銀髪はおれがやる」


 銀髪は、おれの”抜き足”を見て驚いているようだ。”疾さは強さ”その事はコイツも良く分かってるんだろう。最近話題のクリーク海賊団なんかも、おれがその気になれば簡単に潰せる自信がある。

 平穏が欲しいおれは今さらそんな事に興味はないが、コレで動揺した銀髪を仕留めるのは簡単……何!!!? 笑ってやがるだと!!!? 俺の疾さを見ても、まだ勝ち目があると思ってやがるのか!!?


「よっよし!! 五分あれば何とかなる!! アイツら大して強そうじゃねェ!! 五秒で片つけるぞ、ブチ!!」

「よしきたシャム!!」


 苛立ちを隠せずに”猫の手”の先端を軽く刺してやると、シャムとブチは、逆らうことは無謀と察したのか、素直に命令に従った。

 二人が敵に突っ込んでいった後、おれと銀髪の間には、忘れかけていた戦場での緊張感が漂う。コレを心地よく感じてるようじゃ、平穏なくらしは送れないな。

 そんな事を考えて笑みを零すと、銀髪の方も口元を歪め、おれに見せ付けるようにその爪を30cmほど伸ばして見せた。

 アレがヤツの戦闘スタイル……おれと似ているタイプって事か?

 おれの表情が僅かに曇ったのを見た銀髪は、傍に居たあの小僧とオレンジ髪の女に何かを告げ、中々のスピードで海岸へと移動して行った。

 おれは銀髪を追って、海岸へと駆けた。スピードに自信があるのは自分も一緒だと言いたいらしいな。イイだろう。格の違いを見せてやる。



〜Side ゾロ〜



「「ネコ柳大行進!!!」」


 しばらくの睨み合いの後、二人がかりでの猛攻!! ルフィは爪を防ぐ術が無いからか高く跳び上がった。初撃は武器の性質を見極める為、見(けん)に入ったが、どうやら愚策だったみてェだな。一撃で仕留めてェところだが、連撃を捌きながらの攻撃は得策じゃねェ。

 一度距離をとろうかと考えていると、空中から伸びてきたルフィの腕が細身の男を拘束した。


「お前の相手はおれだァ!!!」


 伸びた腕を縮め、地面に降り立ち、今度は森の方に大きく首を伸ばすルフィ。


「ゴムゴムの……」


 コタツの男はその光景にに一瞬だけ気を取られる。それを好期と見たおれは、大きく1歩後退し距離を取った。

 コタツ(もうこの際そう呼ぼう)は距離を取ったおれの方ではなく、意図を察知したのか伸びきったルフィの首を狙いにいきやがった。

 させねェ!!!


「虎……」


 おれは十分に刀気を練り上げ、得意の大技を構える。ルフィの首にコタツの爪が届こうかというその瞬間、大きく踏み込み三刀を振るった。


「……狩り!!!」


 背面におれの渾身の斬撃を受け、コタツが宙を舞う。その時ちょうど、ルフィの頭がゴムの弾性で凄まじい勢いで細身の男のもとに戻ってきていた。


「…………鐘っ!!!!」


 ルフィの拘束から開放された細身の男は、ダラリと力が抜け、宙を舞っていたコタツと共に、地面に倒れ伏した。驚いたことに二人とも息があるみてェだ。

 コタツに入ったネコを狩るには”虎狩”は過ぎた技だと思ったんだが、頑丈なヤツみてェだな。

 さて、タクミはどうなったんだ??

 海岸の方を見ると、傷つき倒れるクロネコ海賊団の船員と、長い爪を生やしたタクミがいた。

 クロのヤツはどこに行きやがったんだ?

 よく見ると船員たちの傷は、次々に増えていってるみてェだ……眼を凝らしてみると、時折うっすらと影が見える気がする。

 隣ではルフィが肩を震わせてその光景を見つめていた。


「お前は……仲間を何だと思ってるんだぁ!!!!!」


 初めて耳にしたタクミの叫び声を聞いて、おれはその場の光景をようやく理解した。



〜Side ナミ〜



 元船長のクロの登場に、一番脅えているのは船員たちみたい。クロはいつの間にか二人の部下の後ろに立っていて、片手に5本の刃のついた手袋を突きつけて、小声で何か話しかけていた。


 その様子を興味深そうに見つめていたタクミは、眼を閉じて集中しだした。獣特有の鋭い爪の4本がメキメキと音を立て30cm程伸びていき、目を開くとわたし達に話しかけてくる。


「ナミ、ウソップ……あの武器からはまだ新しい血の臭いが漂ってる。そのクロがここに来たってことは、屋敷ではもう事が起こってるかもしれない。お嬢様はきっとヤツを止める為にここに来るだろうな。多分、ウソップ海賊団のお野菜三人組も一緒に……アイツらにこの光景をみせるのは酷だ。もしやって来たら、坂の上で食い止めてくれないか? 何にも心配するなって言ってやれ」


 そう言ってタクミはわたし達に笑いかける。

 タクミはクロと目を合わせた後、わたし達を巻き込まないため海岸のほうへと走っていった。わたしはさっきのお願いをウソップにまかせて、一人でクロネコ海賊団の船へ向かう。

 こんだけ面倒な思いをして、タダ働きじゃ割に合わないわよね。

 睨み合うルフィ達の横を通り抜けた先では、タクミとクロが爪と刃を交えて笑いあっていた。


 期待をしながら物色したクロネコ海賊団の船には、質の悪い宝と少しばかりの現金があっただけで、簡単にまとめられた。

 麻袋を抱えて甲板に上がると、傷つき呻いているクロネコ海賊団の船員達の中心で、タクミが叫び声を上げていた。


「お前は……仲間を何だと思ってるんだぁ!!!!!」


 状況はイマイチ理解できなかったけど、コレだけは分かった。


 タクミは怒ってる。ルフィに対して怒った時とは、比べモノにならないほどに。
 
 
 

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