小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”終幕 〜finale〜 ”



〜Side タクミ〜



 クロを警戒しながら俺は海岸へと駆けていく。

 俺の意図はわかっているだろうが、クロは俺についてきた。かつての船員達に囲まれるかたちで俺と向き合ったクロは、俺を見て僅かに笑みを零した。


「珍妙なナリだな。悪魔の実なんぞ喰いたくないと思わされる」


 そういえば東の海で動物系の能力者は見なかったな。


「そうだな、この実が持つ凶暴性にあてられて、今にもお前を喰い殺してしまいそうだ」

「やれるものならやってみろ!!!」


 クロは言った途端に仕掛けてきた。想像以上に速い!!!

 クロの素早い初撃にくらいつき、「爪(ソウ)鉄塊」で受け止める。


「やるな。かなりの速さだ。だが、悲しいかな。パワー不足だ」

「確かに、このまま押し切る事は出来なさそうだな。だが、それがどうした!!!」


 俺は余裕ぶってはいるが、クロの言う通り、スピードで負けてしまえばどうしようもない。

 俺は戦闘時「鉄塊」を身体の約5%以上にかけると動けなくなる。本来は50%程までいけるのだが、「生命帰還」による半自動制御の「獅子 鉄塊」に力を裂くとこれが限界。「爪 鉄塊」は爪を強化する性質上、指にまで「鉄塊」をかけてなくてはならない。

 刃物を使う相手との戦闘を考慮して修行したのだが、コレなら普通に武器を持った方が精神力的に楽だったかもしれない。でも動物系が武器を使うのが邪道な気がしてやめたんだよな。

「獅子 鉄塊」の反応速度も、自動制御のままではクロの速度に到底及ばないようだ。俺の無意識下での防衛本能によって、勝手に動いて守る万能の鎧になる予定だったんだが、まだ俺の意思で動かす際の初動を速めている程度の成果しかあがっていない。コレも修行が必要だな。

 俺はまだまだ上を目指せる。そう考えてクロをみると、ヤツは笑っていた。コイツ一般人になるなんてどっち道無理だったんじゃないか? 完全に戦闘狂の眼をしてやがる。

 俺が腕力にまかせてクロの刃を振り払うと、すぐさまクロも動く。数回切り結ぶが、”抜き足”対俺の「剃」は完全に互角。


「どうした? ご自慢のパワーは生かせないみたいだな」

「俺の本領はココからなんだよ。悪魔と……踊れ!!!」


 平面の戦いでは埒が明かないと感じた俺は、「剃刀」で立体の動きをしてクロを翻弄する策に出た。

 空中を蹴り、ありえない軌道で襲い掛かる俺に、クロの反応が僅かに遅れる。


「がら空きだ!!!」


 クロの背中目掛けて振り下ろした俺の爪は、確かにその背を切り裂いた。攻撃が浅かったとはいえ、一撃を受けてなおクロは不適に笑う。

 状況が理解出来てないのか? たった今、俺のスピードならお前を捕らえられる事が証明されたんだぞ? 殺そうと思えばさっき首を取れたんだが、今回は捕縛が目的。殺すわけにはいかないんだ。


「もうイイ……お前の速さはわかった。悪魔の実の力も大したモノだ。だが、お前はまだ、本物の海賊の恐ろしさを知らない。みせてやろう……速さの……その先を!!!」


 クロは脱力し腕をゆらゆらと動かす。クロネコ海賊団の船員は慌ててその場を離れようとするものや命乞いをするものなど様々だ。

 ”杓死”か、今さらそんな技で何が出来るっていうんだ? お前の速さがわかったのはこっちも一緒だって言うのに。


「”杓死”!!!」

「……はァ!!?」


 いや待て!! 速い!! 速すぎる!!? 何だコレは!!? 完全に想定外だ!!!

 ”杓死”って技は、周りで被害を受けてる船員が叫んでいるように、”抜き足”での無差別攻撃じゃなかったのか?

 ……そうか、そういうことか。”抜き足”の速さに目がついていってないコイツらは、”杓死”の速さが理解できてなかったんだ。

 ダメだ!! この速さが相手じゃ、目では追えても追撃を加えることはできない。精々迎え撃つだけだが、意識制御で広範囲に広げている俺の「獅子 鉄塊」を警戒してか近づいてこない……?

 何だ? 俺は何に引っかかってるんだ?

 ……!!? 俺は、原作で語られなかった真実に辿り着いてしまった。クロは”杓死”を完全に制御しきっている。おそらく関係ない部分をわざと攻撃して、そこに注意が向いたところを仕留めようとしているのだろう。

 試しに身体の右側にワザと隙を作り、「獅子鉄塊」を解除して「鉄塊」をかけていると、そこを攻撃して、浅く打って離脱した。なるほど隙の少ない相手にはヒット&アウェイでダメージの蓄積を狙っているんだ。一撃でしとめられる隙を相手が見せるその時まで。


 その為にこいつは仲間を無慈悲に切り続ける。


 ふっ!! 見つけた!! 勝利への一本道!! 決定的な隙を部分的に作る不自然さの無い行動!!! 圧倒的有利を確信した相手を地獄へと誘う!!! 悪魔の咆哮!!!


 原作キャラの台詞を奪うつもりは無かったのだが、俺は天を仰ぎ叫んだ。



「お前は……仲間を何だと思ってるんだぁ!!!!!」



〜Side クロ〜



 腕に鉄板でも仕込んでいるのか?

 唯一見えた隙をついたおれの攻撃は、金属音が響いただけに終わり、再び適当な場所を切りつけながらヤツの周りを旋回する。この男……本当に隙が無い。ヤツの鬣の力の正体が解れば対処のしようもあるが、おまけに服の下には鉄板を仕込んでいるようだ。

 だが僅か数秒後、おれの顔には三日月の笑みが張り付いた。


 勝機!!!


 銀髪が天に向かって生温い戯言をはいた瞬間、おれはヤツの咽喉を目掛けて”猫の手”を薙いだ!!!


「なぁっ!!?」


 信じられない事に、ヤツは明らかに生身の咽喉で、おれの”猫の手”を受け止めた!! ありえん!! コレも悪魔の実の力なのか!?

 おれの動きが硬直したのを見て銀髪が笑みを浮かべるのと、おれの身体を鋭い痛みが襲うのは同時だった。


「っがはぁ!!!!」


 両肩と両膝に痛みを感じて身体を見ると、四本の極太の針がおれの身体を貫いていた。

 おれの血に濡れて、怪しく輝くその針は、間違いなくヤツの鬣だった。

 十分に警戒していたハズなのに、結局はコレが切り札だったのか。


「「獅子針銃(シシシンガン)」こんなに早い段階で使う事になる技だとは思わなかったよ。クロ、お前は俺の想像以上に疾かった、強かった、でも、勝ったのは俺だ」

「イチイチ癪に触るヤツだ。負けは認める。好きにしろ」


 重要な間接が四つも貫かれたおれには、もう抵抗する力なんか残っちゃいなかった。”百計”のおれが罠に嵌められるとは、笑い話にもならねェ。


「終わったぞ、みんな!!!」


 その場の全員に伝わる大声で宣言する銀髪に、歓声が巻き起こる。

 仲間を使い捨ての道具として斬り捨てたツケが回ってきたな。まさか元部下達までおれの敗北を喜ぶとは。

 おそらくムリだろうが……もしもこの窮地を切り抜けたら、おれはもう一度海賊団を結成しよう。今度はコイツらに勝てるような……コイツらみたいな海賊団を。

 意識を失う寸前のおれの頭には、既に次の計画の全体像があった。
 
 
 

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