小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”悪魔の実”



〜Side タクミ〜



 ガイモンとこの島で暮らし始めて二ヶ月が経った。島の動物たちの調査はあらかた終わり、今は釣りでその日の食料を確保しながら魚類の調査をし、さらにこの世界の植物の知識をガイモンに学んでいる。まぁ、ガイモンにわかるのは喰えるか喰えないかぐらいのもんだが……

 二人で生活するうちにガイモンは俺の料理の腕を気に入ってくれたようだ。俺は料理にはちょっと自信がある。世界を旅するためにはと、サバイバル技術を元の世界で学んでいた頃、まずい飯は食いたくないと思ってサバイバル料理を独自に習得したんだ。

 仕事が休みの日は、山奥の自然地にキャンプに行ったりして訓練をしていたので、レストランの厨房に慣れているサンジには負けないつもりだ。まあ作れるのは所謂The男飯だけなだけどな。

 ちなみに原作でルフィが確認した空の宝箱は、俺の手によって既に確認済み。ガイモンはちょっと悲しそうだったけど、原作ほど号泣してはいなかった。まあ、その理由はガイモンがこの島にいる期間がまだ三年だという事が大きいだろう。

 にしても三年でアフロがあの大きさに成長するとは驚きだったな。容姿は原作とたいして違わないんだ。

 俺は暫くしたらこの島を出るつもりなので、ガイモンも一緒に来ないかと誘ったのだが、


「森の番人を続けてェんだ」


 と、原作どうりのことを言っていた。たったの三年で、自分の生涯をかけて守っていくほどの情を動物達に抱くなんて、やっぱりガイモンはいいヤツだな。


 そんなこんなで、珍獣島でのガイモンとの愉快な日々を過ごしながら、『そろそろイカダでも作ろうかな?』なんて考えていたある日。


「お〜〜ぃ……タクミ〜!! 珍しい果物を見つけたんだ!! 食ってみねェか?」


 釣りをしていた俺のもとに、ガイモンが果物を持ってやってきた。ずぼらな彼にしては珍しく、きちんとカットされている……余計な事を。


「皮剥く前に持ってきてよ。これじゃあどんな果物かわかんないじゃん」

「あっ!! すまねェな〜お前ェに植物の事教えるなんて言っときながら。ま、どっちにしろこいつはおれも初めてみる果物だからな!! 喰えるかどうかはおれにもわからねェ!!」


 ガイモンのヤツ、謝ってはいるが、大して問題ないと思ってるな? 元の世界での常識は、コチラでもある程度は通用するらしく、きのこ類や薬草の選別なんかは俺にも出来たんだから、事前に見せるくらいはして欲しい。


「そういう問題じゃないんだけどなぁ」


 悪食も吝かではないが、俺は基本的に食べ物にアタるタイプなんだ……まぁ、せっかくガイモンが採って来てくれたんだし、いざとなったら食中りに利く薬草もあるし(俺が発見した)、取り敢えず喰ってみるか。

 手近にあった一切れを摘み上げて、俺は口の中に放り込んだ。



「(まっずっっっ)っっ!!!?」



 何というか表現し難い強烈な味がしたが、吐き出すのは見っともないので、我慢して何とか飲み込んだ。


「ガイモン!!! なんだよこれ!!? 滅茶苦茶まずいぞ!!!」

「はっはっはっは!!! まぁ、見るからに不味そうだったからな!! お前がどんな顔して喰うか見てやりたくてなァ!! っはっはっはっは!!!!−−−−


 涙目になりながら詰め寄る俺に対して、ガイモンはまだ笑っている。その態度は流石にムカつく!! 一発殴ってやろうか? いやサバット仕込の蹴りを……いや……こんなヤツ殺してしまおう…………??……!!?

 なんで!? 俺はこんな事ぐらい一発軽めに殴って赦してやる筈だ。こんないたずら、中学生がファミレスで究極にまずいドリンクを作成して友達に飲ませる遊びと変わらない。

 なのに俺はこんな事で一瞬だが本気でガイモンを殺そうと決意した。あれは明確な殺意だった……ような気がする。

 ふと我に返ってガイモンを見てみると、なにやら脅えているようだ。


「ガイモン?? どうした〜??」


 尋常じゃないその様子を見て、俺は努めて明るく聞いてみたのだが、ガイモンは尚も脅えた様子で、


「タクミ??…………さっきのありゃ何だ????」

「さっきのアレ??」


『わけがわからないよ』……ってふざけてる場合じゃなかった。ガイモンの脅えっぷりは少々異常だ。まさか俺が覇王色の覇気を使えるわけでもないし……まさか使えるのか!!? 期待してなかった転生者特典ってヤツか!!?

 試してみようと思ったのだが、やり方が解らないので、俺は先ほどと同じようにガイモンに殺気を強く向けてみる。気絶したら後で謝ろう。

 ガイモンは今度は気絶こそしなかったが、その表情は今にも叫び声を上げそうだ。覇王色が使えてるのか? と疑問に思っていると、俺の目線が段々と上がっていき、それに合わせて体中に力が漲ってきた。不思議に思い自分の腕を見ると、太く毛深くなっており、立派な爪が生えている。

 俺はガイモン愛用のかわいい鏡をガイモンのアフロの中からひったくると、脅えるガイモンをスルーして鏡を覗き込み……ガチガチと牙を鳴らしてみた後に……とりあえず一度吼えてみた。



「ガァアオォゥ!!!」



 そこには一風変わった百獣の王、銀髪の獅子がいた。
 
 
 

-3-
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