”カーテンコールのその後で”
〜Side タクミ〜
クロ、ブチ、シャムを縛り上げる為のロープが欲しくてクロネコ海賊団に話しかけると、一人の船員に名前を聞かれた。
「俺はアイザワ・タクミ。ハンターだ」
「やっぱ聞かねぇ名だな……アンタ何者なんだ?」
名乗ってやったら皆して怪訝な表情を浮かべてくる。そりゃあ俺の事なんか知ってるわけないよな。珍獣島を狙うような密猟者の間では、密かに話題になっていそうだが、珍獣島の”怒れる守護獣”って呼ばれてたらしい。
「だから言ってるだろ? ハンターだって……それと覚えておくとイイ。俺は未来の海賊王の船員だ!!!」
『コイツ頭おかしいんじゃねぇの??』って感じの眼で見られたので、取りあえず追加で言っておいた。
「モンキー・D・ルフィ!! いずれ海賊王になる男の名前だ!! お前らは、いや、世界の海は近いうちに必ずその名を聞く事になる!!!」
コレでルフィの中の俺評価は上がるかな? 飯以外あまり接点が無いからたまには殊勝なことを言っておいたほうがイイだろう。サンジが加入したら俺の貢献度下がるし。
ロープを受け取り『お前らは帰っていい』と伝えると、クロネコ海賊団の連中は、驚きながらも、傷ついた船員達を船に運び始める。クロと違い、ニャーバン・ブラザーズの事は返して欲しそうだったが、人獣形態になると悔しそうに引き下がった。コイツら意外と慕われてんだなと思いながらも、俺は三人それぞれをきつくロープで縛りあげた。
クロの”猫の手”はコイツがクロである動かぬ証拠として提出するつもりだ。ゾロが何故か物欲しそうな眼でこちらを見ていたがスルー。俺が介入した影響で、今後のゾロの武器が”猫の手”なんかになったらたまらない。
最後にカヤお嬢様たっての希望でクロと対面させ、ウソップはカヤを送っていった。
クロネコ海賊団の船も出航し、ようやく海岸は静かになったので、俺はナミにあの計画を打ち明けることにした。
〜Side ナミ〜
タクミは普通にアーロンに勝てるんじゃないかと思う。なんか頼んだらあっさり引き受けてくれそうだし。
…………ダメダメダメッ!!! ワザワザそんな危険を冒さなくても、もう少しでアーロンから村を買う為の一億ベリーが貯まるんだから!!
でも、その時はみんなを裏切らなくちゃいけない……こんなに辛い裏切りは初めてだ……
気持ちを落ち着かせてから、縛った三人の横に座るタクミの元に向かうと、彼の口から思いもよらない提案を受ける事になった。
「俺はまだ海賊として政府に追われてない身だからさ、昨日、賞金稼ぎだって身分を偽って、海軍にクロのことを密告したんだ。手配書は失効してるけど、ここまで引き取りに来てくれる上に、懸賞金は即金で払ってくれて、そのまま次の目的地に連れて行ってくれるらしい」
タクミの言葉を聞いて、わたしの心は躍った!! もしかしたらソレで一億ベリーが貯まるかもしれない。今回の収穫と合わせてあと八百万ベリーで足りるハズなんだから!!!
「そっそれで!!?」
「本当ならそのまま海軍船に引っ張っていってもらってラクラク航海といきたいところなんだけど、ルフィが居たらダメだろ? アイツ嘘つけないし。”おれはルフィ、海賊王になる男だ!!!!”とか言いかねないからな。だからナミは二人を連れて次の目的地に先行しといて欲しいんだ。ダメか?」
肝心の金額を早く知りたいのだけれど、あまりがつがつしたところを見せたくない……何考えてるんだろ、そのお金を持ち逃げした時が、タクミと別れる時だというのに。
「イイけど、次の目的地って何処?」
「海上レストラン・バラティエって所!!! 俺の腕じゃ味付け一緒で飽きてきたし、栄養に偏りがあると思うから、本職のコックを誘いたいんだ」
確かにタクミの作る料理はおいしいんだけど、何ていうか豪快過ぎる感じがたまにするわね。何より食材の調達から調理までを一手に引き受けるのは、いくらタクミでも負担が大きいのかもしれない。わたしも後片付けくらいは手伝ってるけど。
「なるほどね。ちなみにアイツらの懸賞金っていくら貰えるの?そんな条件じゃ満額じゃないんでしょ?」
自然な感じで聞けたかしら? あきらかに不自然だったかもしれないわね。
「流石ナミ!! 察しがいいね!!! 結構がんばって交渉したんだけど1000万ベリーしか取れなかったよ」
1000万ベリー!!!? やった!!! これでココヤシ村を救える!!! みんな笑えるんだ!!!
「タクミはそういう交渉得意そうね……まぁわたしなら元の懸賞金のさらに上を狙えてたと思うけど」
わたしは軽口を言って内心の歓喜を誤魔化した。
「結構がんばったつもりなんだけど……まぁイイか。で、この金は一味の金だ。ナミに預けるから自由にしてよ」
????????????? ん? 意味が解らないわ。
「……はぁ? どういう意味よ自由にしていいって」
「そのまんまの意味だよ。その金をナミがどうしようが、俺は構わないって事……金……たくさん必要なんだろ?」
!!? えっ!? 何を言ってるの? タクミのこの言い方は……
「タクミ……アンタ何を知ってるの?」
「俺は占いも出来るって言っただろ?……って事で見逃してくれないかな? ナミを助けたいだけなんだ。お金を受け取ってくれるならさ、ルフィにこのことを旨く伝えてから言ってやってくれ……”わたしを一味に入れなさい”って」
本当の理由は言ってくれないけど、タクミは全部知ってたんだ……わたしの為に、ここまでの事をしてくれた。これからもみんなと一緒にいられる……ココヤシ村は救われるんだ……そう思うと自然と涙が溢れてきた。
「……なっ何それ……わたしの……っ真似のつもり?……っ似てないわよっ!!!」
こんなことを言いたいんじゃない……涙はなんとかおさまった。ちゃんと気持ちを伝えなきゃ!!
「でも!!……ルフィにちゃんと言うわ」
「そっか」
タクミは優しく微笑んでくれた。わたしも自然に笑顔がこぼれる。
「それからタクミにも…………ありがとう」
その時、最近のわたしは心から笑えていることに気づいて、またちょっと泣いた。