”どたばた出航劇”
〜Side ルフィ〜
悪執事たちを倒してから、おれとゾロは飯屋に行った。ホントはみんなで来ようと思ってたけど、ナミは宝の整理をしてるし、ウソップはお嬢様を送りに行っちまった。タクミにまで『用事があるから先に行ってろ』と言われて、おれは結局ゾロと二人でココに来たんだ。
ナミが遅れてきた時にも、タクミは一緒じゃなかった。てっきり二人で来ると思ってたからナミに聞いてみたんだけど、タクミは海岸で”一人バーベキュー”って寂しーーーい事をやるから飯はいらねェらしい。しかもこの島の生物調査を丸一日かけてやるらしくて、今日は帰ってこねェんだと。
その後はナミが一味に入れろとか今更なことを言ってきて『おれ達とっくに仲間だろ』って答えたり、のどに引っかかった魚の骨をとってたらナミに呆れられたりしたけど、とりあえず飯は食ったから、食料の買い込みでもして、舟に戻ることにした。
そしたら店のドアが開いて、知ってる顔があったからおれは取り合えず声をかけた。
「よう!! お嬢様っ」
「ここにいらしたんですね」
どうやらおれ達を探していたみてェだ……って事は?
「どうした!! 船くれるのか?」
思った事を言ってみたら、お嬢様は何か驚いてたみてェだけど、どうかしたのか?
「えっ……えぇ。船、必要なんですよね」
「やっほーーーーィ!!!!」
お嬢様イイヤツじゃねェか!!!
「北の海岸に明日用意しておきます。航海に必要な物も積んでおきますよ」
「飯もか!?」
悪ィけどココだけは譲れねェからな。
「……はい。食料も積んでおきます」
「ありがとう!ふんだりけったりだな!!」
素直に感謝の気持ちを伝えたってェのに、ゾロが溜息を吐いてやがる。
「至れり尽くせりだ、どあほ」
「”ど”は付けるなよ!!!」
心外だ!!失礼なヤツめ!! しばらくゾロと言い合ってから振り返ったら、
「……ナミとお嬢様は?」
「さっき出てったよ。お前がどうでもイイことで絡んでる間にな」
二人は居なくなってた。あれ? おれ船長だよな?……シャンクスはこんな感じだったな。ん、問題ねェ。
〜Side ナミ〜
タクミと別れてルフィたちと合流したら、タクミはどうしたのかと聞かれた。ほんの冗談のつもりで『タクミは一人バーベキューするらしいわよ』って言ったら信じちゃったから、本当の事を言うタイミングを失ってしまったわ。
どうしようもないから、とりあえず急場しのぎに、タクミは明日の出航まで戻らないと言っておいた。
でも、これだけは、今……今言っておかなくちゃ!!!
「ルフィ!! 単刀直入に言うわ!! ”わたしを一味に入れなさい”!!!」
言った!! 言ってやったわ!! 何か”わたしの真似をするタクミ”を真似してしまったけど似てたかしら?
「何言ってんだ? おれ達とっくに仲間だろ」
へ?? 勝手に仲間に昇格済み?……わたしバカだなぁ、手を組むだけって言ったって、ルフィは聞いちゃいなかったんだ。わたしはとっくにこの船の仲間だったんだ。
その後はいつもみたいに馬鹿な話しをしながら、わたしはゾロとお酒を飲んで、もう店を出ようって時に屋敷のお嬢様がやってきた。
お嬢様はわたしたちに船をくれるらしい、どんな船かしら? 楽しみだわ♪
「さぁ、行きましょう」
「……はっ、はい、よろしいんですか?」
ルフィは何時までも騒いでたから、この場に置いていくことにした。ゾロがいれば大丈夫でしょうし。
「イイのよ、いつもこんな感じだから。それよりお酒だけは追加しておきたいんだけど、何処で買うのがおススメかしら? うちのクルーがこの村で買った「オロロソ・シェリー」を気に入ったみたいで、樽で10個くらい欲しいんだけど」
「……樽では売ってないと思います」
ボトルでしか置いてないみたいね。まあ足りないときは海上レストランで追加すればイイわね。
タクミの事については、ゾロにだけ軽く話しとけばイイかしら? ルフィは出航直前で丸め込めば問題ないでしょ。
〜Side ゾロ〜
「と、いうわけで、タクミはこの島に少しだけ残るから。アンタはルフィを説得するのを手伝いなさい」
「いや、『というわけ』も何も、何の説明もされちゃいねェんだが」
夜になって村に宿屋がねェって事で、お嬢様の屋敷に泊めてもらったんだが、ルフィが寝た途端に言ってきたナミの言葉は理解不能だった。
「ノリが悪いわね。お酒の勢いで頷きなさいよ」
「怖ェな、おれはどんな不利な条件を呑まされるとこだったんだよ。悪ィがおれももう寝かせてもらう」
タクミもいねェのに、ナミのヤツがやたらとおれに酒を勧めるから、何かあるとは思っていたが、関わらねェ方が良さそうだ。
「ゾロ〜、アンタそんな意見が通るとでも思ってるわけ? そのお酒を買ってあげたのは誰かしら?」
クッ!!? 何て汚ェ女なんだ。おれを酔わせて頷かせる為だけじゃなく、借りを作って逃げられなくする二段構えの策を用意してやがるとは……逃げられそうもねェな。
「わかった。手伝ってやる「やる?」……手伝わせてくれ……で? ルフィを説得するって何なんだよ?」
「…………タクミがこの島の生物調査を延長したいらしいんだけど、占いによると海上レストランバラティエってところにも早くいかなくちゃいけないらしいの。アイツは後から何とかして追いつくから、わたし達に先行しておいて欲しいらしいんだけど、ルフィが納得するわけないでしょ? だからわたしが説得を頼まれたんだけど、一人より二人の方がイイじゃない? 力ずくの時とか」
占い? そういやルフィが前にそんな事を言ってたような気もするが、ありゃマジだったのか?
てっきりルフィを誤魔化す為に適当な事を言ったんだと思ってたが、まぁ、今は話半分に聞いておくか。
コイツは僅かに言いよどんだ。タクミがこの島に残るのは、何か別の理由があるんだろう。おれ達にも言えねェ理由ってのが気にはなるが、借りを作りたくはねェし、ココは素直に騙されてやるか。
「構わねェ。ただ、説得はお前が主体になってやってくれ。おれはお前の言う事に反論したりしねェようにする。それでイイか?」
「十分よ。力ずくで連れ出す事になったらお願いね」
ナミはひらひらと手を振りながら、一人部屋として宛がわれた向かいの部屋へと入っていった。
「占いねェ、アイツらはいったい何を隠してやがるのか……まぁ、イイか」
ナミが置いていった酒は、おれが普段呑まねェような上物で、窓から覗く月を見ながら、一人で呑みなおす事にした。
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「ダメだ!!! タクミは絶対に連れて行く!!!」
翌日の出航前、屋敷の執事からのメリー号の説明も終わって、タクミがこの島に残るって事をルフィに説明したんだが、ナミの予想通りの反応だな。
「だから、タクミは後から追いかけて来るって言ってるでしょ? 海上レストランにはコックを探す為に行くんだから、ほぼアンタの為じゃない」
「コックはいらん!! タクミがいるだろ!! 他のコックを探せって事は、タクミは一味を抜けるつもりなんだ!!! そんな勝手はおれが許さん!!!」
ルフィの意見はもっともだな。タクミの行動はそうとられてもおかしくねェ。けど、実際のとこはナミとの間に何か隠し事があるみてェだからな。
ルフィとナミの言い合いは続いてるけど、おれはどうすりゃイイんだ? ついでにウソップは来ねェのか? てっきりおれ達と一緒に船出するつもりだと思ってたんだがな。
「何度言えば分かるのよ!!? タクミは……ゾロ、ちょっと説得を続けてて」
ナミは視線を崖の方に向けると、話を中断してそっちに歩いて行った。ウソップでも来たのか?
「逃げるなナミ!! タクミが今どこにいるのか言え!! おれが直接連れ戻してやる!!」
「落ち着けルフィ。おれもナミから事情は聞いてる。話ならおれが聞いてやるから」
呑んだ酒の分くらいは働かねェとな。ルフィを足止めして何かが変わるわけでもねェし。
そんな事を考えながらルフィを適当にあしらっていると、おれ達の頭上を何かが通りすぎて行った。
「ありゃあ、ウソップじゃねェか?」
「ウソップ!!? アイツやっぱ来たのか!!!」
メリー号に飛び乗ったウソップを追いかけて、ルフィも甲板へと飛んで行った。
「アイツあんなに身体能力が高かったのか? そうは見えなかったが「んなわけないだろ!! 俺が飛ばしたんだよ!!」タクミ!!?」
後ろから声をかけられて振り向くと、いつの間にかタクミが立っていた。驚くおれをよそに、タクミは続ける。
「俺の事はイイから、船に行ってルフィの足止めをしてくれ!! ナミが準備を進めてるから直ぐに出航出来るハズだ!!」
「ちょっと待て、おれはお前に聞きたい事が「イイから行け!!!」なぁぁああああ!!!?」
おれはタクミに投げられて、そのままメリー号の甲板に不時着した。あの野朗ムチャクチャしやがる。
甲板ではウソップがルフィとの会話を切り上げて、お嬢様に挨拶しに行くところだった。慌てて起き上がったおれは、すぐさまルフィに話しかける。
「話の続きがあるんだろ? おれが聞いてやるから全部話せ」
「ゾロに言ってもしょうがねェ気がするけど、まぁイイや。大体な!!! お前らは−−−−」
再び始まったルフィの話に適当に相槌を打っていると、船が動き出した。操縦はウソップが手伝ってるみてェだが、ルフィが気づく様子はない。
この船は、タクミを乗せないまま、これから次の目的地、海上レストラン”バラティエ”とやらに向うんだろう……どうなってもおれは知らねェぞ?