小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ネズミ大佐の贈り物”



〜Side タクミ〜



 海軍船での航海三日目、この船で唯一できた俺の呑み友達は、おそらくネズミに目をつけられて、スパイになってしまったようだった。少しだけ寂しいが仕方が無い。

 一人で酒を呑んでいると、ネズミが煙草を吸っているのが目に入って、おれはメチャクチャ驚いた。横長のブルーのパッケージにジプシーの踊り子、元の世界で俺が吸っていた白銀比の煙草。

 今は本名として名乗っている俺の源氏名は、この煙草をを愛煙する、とある架空のキャラクターから頂戴したものだ。懐かしくなっておもわず大佐に声をかける。


「大佐殿? その煙草を拝見してもよろしいですか?」

「……構わんよ?」


 煙草を見せてくれなんておかしなことを言う俺に、困惑気味で大佐は俺に箱を渡してくれた。


「すみません。昔吸っていた煙草にパッケージが似ていたもので」


 パッケージに書かれていたロゴは……『GIGEN』

 ……ルパン〇世!!? しかも仲間の方かよ!! 設定にはあるけど実際吸ってんの見たことねぇよ!!!


「気に入ったんならあげてもかまわんよ? 買い置きならいくらでもあるからな」

「本当ですか!? いくつか売ってくれると、嬉しいんだけど!!」


 ネズミ大佐の言葉に、俺は自分でも驚くほどに食いついてしまった。少し恥ずかしいな。


「チチチチ、おれがやった金で買うっていうのか? 金はいらんから貰っとけ。喋り方もそのほうが自然だからそうしろ。おれも疲れた、堅苦しいのは嫌いなんだ。おい、そこのお前!! おれのタバコ十箱くらい持って来い。タクミに渡してやれ」


 若い海兵の一人が煙草を取りに走っていく。ネズミってイイヤツなんじゃないのか? 一瞬そう思ってしまったがそれは無いだろう。利害関係が一致してる間だけの友人だ。もうすぐレストランに着くといってたし、まあそれまで仲良くしとくのもいいか。


「ありがとうございます。ネズミ大佐」

「別にいい」


 そういって大佐は船内の見回りに戻っていった。もう少し会話が弾むかとも思ったが、誘導尋問なんかされたくないこっちとしては別に構わない。


「賞金稼ぎ殿!!」


 若い海兵が煙草を持って帰ってくる。お礼を言うと敬礼で返される。この船で俺は”賞金稼ぎ殿”と呼ばれており、行動自由、酒飲み放題の結構な厚待遇を受けている。用心棒のような扱いなのだろう。

 船の手摺りに腰かけ、タバコを取り出す。マッチを貰い忘れていた事に今頃になって気づいたんだが、某美食屋の指マッチが今なら出来るかなと思い、やってみたらあっさり出来た。やり方は美食屋と違うと思うけど。

 一口目を軽くふかし、二口目を大きく吸い込む。

 ……同じ味? 正直よく解らん。この身体でタバコを吸うこと自体が初めてだ。あまり美味しいとは思わないが誰だって最初はそんなものだろう。1箱だけネズミに貰った防水ハンティングポシェットに入れ、残りは1000万ベリーと一緒にこれまたネズミに貰った革の鞄に入れる。どちらも上等な品だ。何かネズミからは貰ってばっかだな。

 海を眺めて紫煙を燻らせているとバラティエが見えてきた。船がバラティエの目の前まで来たそのとき、不意に肩に手がかかり、俺はおもわずその場を飛び退いた。



〜Side ネズミ〜



 今日は賞金稼ぎの男、アイザワ・タクミを乗せて三日目、目的地の海上レストランにはもうすぐ着く。

 この男がこの三日間、殆どの時間を船室ではなく甲板で過ごしているのは、おれと手を組んだと言っても、この船において自分が異分子であることを自覚しているからだろう。

 今日までに船員の一人とは仲良くなったようで、そいつと二人でいることが多かった。何か探れるかと思い指示をだしたのだが、当たり障りの無いこと以外喋らず、重要なことははぐらかされたようだ。

 その一件で警戒されてしまったようで、ヤツは今、一人で手摺りの上に座ってタバコを取り出している。先程、おれが吸っている銘柄が昔吸っていたタバコと似ているとかで興味を示してきたので、買い置きを十箱程渡してやったんだが、えらく喜んでいたな。

 マッチを持っていないようだからやろうと思って近づいたのだが、タクミは何気ない仕種で指を弾いた。指先からは明らかな金属音がして、信じられない事に、それで発生した火花で、タバコ火をつけた。

 この男は一体何なんだ!? 人間ではない何かを見たような気分になり、おれは目的地寸前で声をかけてみる事にした。

 声をかけた瞬間タクミの姿が消えた。そう、消えたとしか言いようが無い速さだった。辺りに目を向けるとタクミは後ろにいた。これがクロを倒した力か。つくづく人外な男だ。

 ……? 今の反応はおかしくないか? この男、これまではコチラを警戒していることをなるべく表に出さない様に振舞ってきたと言うのに、この反応はあからさま過ぎる。


「驚かせてしまって悪かったな。そう警戒しないでくれ。あんな所にいたら海に落ちてしまうから注意しようとしただけだ」

「そうですか。煙草の灰が甲板に落ちないようにあそこに座ってたんだけどもう止めておくよ」


 本当にそんな理由で?…………!? なるほど、そういうことか。今の言葉に嘘はなさそうだが、警戒を解くために言ったおれの言葉への僅かな表情の変化。武器を持ってないタクミがつけたにしてはおかしなクロの傷跡。答えは一つしかない。


「チチチチ、気をつけてくれよ大事な共存相手なんだ。能力者が海に落ちては大変だからな」

「!!!?…………はぁ、なんでそのことを? お話してなかったと思いますけど」


 やはりそうか、チチチチ、張ったりは言い切ってこそ意味がある。相手が認めてしまえば理由なんてどうでもいいんだ。

 船はゆっくりとレストランに横付けされる。


「わたしは何人かの能力者と会ったことがあるが、みんな同じだ。海を過剰に怖がる。武器を持っていないものがつけたとは思えない”百計”の傷跡と、さっきの君の行動を見れば答えは誰でもでるだろ?」

「……大佐は優秀ですね。誰でもなんて無理ですよ」


 タクミは自分の行動のせいで能力者だと知られた事を悔しがっているようだ。ココらの反応はまだ若いな。


「褒め言葉は素直に受け取ることにしてるからな。褒美をくれないか?」

「何ですか?」


 おれの提案にタクミは怪訝な表情を見せるが、この状況でおれが要求する事は一つだけだ。


「能力をみせてくれればいい」

「…………わかりました」


 嫌々ながらという表情で了承したタクミの容姿が、大きく変化していく。おれはその光景を固唾をのんで見守った。



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 タクミが船を下りる時、おれはその背中に声をかけた。


「タクミ、共存相手となる君に褒美を受け取ったままなのは心苦しい。おれからは、この二つ名を君に送る事にしよう……”銀獅子”……”銀獅子のタクミ”君の武運を祈る」

「……ありがとうございます。まさかあの”金獅子のシキ”と似通った二つ名をいただけるとは思っていませんでした」


 タクミは複雑そうな表情を浮かべて、そのままレストランへと入って行った。

 空飛ぶ海賊”金獅子のシキ”。歴史に名を残す大物ではあるが、所詮は海賊。おれが二つ名に込めた皮肉を瞬時に理解するとはな。


 ”銀獅子のタクミ”…………オモシロい男だ。
 
 
 

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