小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ナミの決意”



〜Side タクミ〜



 ありえねぇ!! 何なんだアイツ!!? こっちの世界であんなにハッキリと出し抜かれたなんて初めてだ!! 逃げ場が無い海の上で断れるかよ!! 最後までかっこつけやがって!!

 ダメだ落ち着け……ある程度は警戒してたとはいえ、ネズミなんて端役が初黒星の相手になるとは思ってもいなかった。

 それに人獣形態になったのに体動かさなかったからストレス溜まってるんだ。

 ……とりあえずレストランに入るか。メリー号が無いって事は先についてしまったのか? 海軍の高速船凄いな。

 扉を開けて中に入ると、捻り鉢巻をしたジャガイモ顔の男が揉み手をしながら近づいてきた。


「いらっしゃいませイカ野朗!!」

「ふざけてんのかこの店は!! なんだイカ野朗って!! ホール長つれて来い!!!!」


 八つ当たりでは無い……ハズ。


「ヘボイモおそれ入りますが、ホール長は昨日逃げ出しました。おとといきて下さい」


 あ、ダメ、キレそう……見る分にはおもしろかったけど、今の精神状態では笑えない。思いっきりぶん殴ったら原作に影響するかな?……ないだろ? パティだし。よし!!

 拳をゆっくりと振り上げたその時、レストランには似つかわしくない砲撃音が聞こえてきた。

 あぁ、アイツらもう来たんだ。俺はパティを放置して、煙草に火をつけ店を出る。

 その瞬間ルフィに跳ね返された砲弾が、俺の頭上を通過して、レストランの二階部分に直撃した。

 ……まぁ、知ってるけれど聞いておこう。



「お前ら何やってんの?」


 
〜Side ナミ〜



 ルフィが砲弾をレストランに向かって撃ち返してしまった後、気づいたらタクミがレストランの入り口に立っていた。

 驚いているわたし達をよそに、タクミは呆れ顔でメリー号に上がってきて、『さっさと謝ってこい』とルフィを送り出した。聞くまでも無く状況を察したのだろう。

『誰か船内を案内してくれ』ってタクミに言われて、わたしがその役を買って出た。二人になれたので状況を聞いてみると、海軍の船がタクミの想像以上に速かったらしくて、わたし達が付くよりほんの少し先に到着してたらしいわ。

 海軍大佐に話を通したって聞いてたから、どんなヤツだったのかと思って聞いてみると、恐ろしく切れ者で、最後にタクミは出し抜かれて能力をさらしてしまったらしい。悔しそうに話すタクミはちょっと子供っぽかった。

 そう言えばタクミの歳を知らなかったのを思い出して聞いてみたら『たぶん二十五歳』って言ってたわ。わたしはいろいろ聞きたいことがあったんだけど『それより』ってタクミに話しを遮られた。


「単刀直入に聞くけど、ナミはアーロンパークがある島の出身なんだろ?」


 いきなり核心に触れてきたわね。わたしはタクミにはどうせばれているんだろうと思って頷いた。一応理由を聞いてみたら、刺青を見てしまったみたい。隠してきたつもりだったんだけどなぁ。

 それからタクミはしばらく考え込んだ後、最悪の可能性を示した。


「ナミは故郷の為にお金を貯めているんだろうけどそのお金が危ないかもしれない」

「どういう事!!!?」


 思わず血の気が引いた……あのお金は、わたしが8年間かけて必死に貯めたお金!!!

 タクミが言うには、ココに来る時に乗った船の所属は、海軍第16支部、アーロンパークの近くだ。情報収集のためにワザとその支部を交渉相手に選んだらしいんだけど、隙を突いて潜入した大佐の私室で、とんでもない書類を見つけてしまったらしい。

 わたしはその内容を聞いて絶句した……アーロンから大佐への、賄賂の記された帳簿。そしてアーロンが試算したのであろう、わたしが貯めているお金の帳簿まであったらしい。

 その記録は、わたしがアーロンに支配されることになった八年前から記されていたみたいで、タクミから聞かされたその金額はおおよそ間違ってはいなかったわ。

 おそらくアーロンは、目標金額に届きそうになったその時、その大佐を使って金を押収し、横紙破りをするつもりだろうというのがタクミの考え。

 多分その推測は間違ってない…………ココヤシ村は救われないんだ…………わたしは絶望に沈んだ。


「こうなったらもう、ルフィ達に本当の事を話そう。おれ一人じゃ解決できそうにも無い」


 タクミの意見はこう。ルフィが戻ってきたら、一旦コックの事は忘れて、全速力でココヤシ村に向かって、お金を移してから対応を考えようって事みたい。



 ………………迷ったわ。おそらく数分間、わたしは思い悩んでた……みんなに迷惑をかけてしまう。そのことが怖くて堪らなかった。



 何でわたしは、今までアーロンの事なんか信用してたんだろう。

 アーロンはわたしが1億ベリーをそろえて持っていったとしても、何とかして受け取らないつもりなんだわ。そんなに目立つ荷物をもってわたしが戻ってきたら、何処かに行方をくらますに決まってる。ココヤシ村を救うには戦う以外に選択肢は無いんだ。

 タクミなら何とかしてくれると思った時も何度かあった。でも、アーロンには、タクミを出し抜いた海軍の大佐まで味方についている。もうどうしていいのか解らない…………

 不意にタクミがわたしの肩に手をかけて、笑顔を浮かべながら力強く言った。


「大丈夫!! 俺達を信じろ!!」


 ……涙が零れそうになる。どうして、どうしてそこまでしてくれるんだろう。わたしは何もしてあげてない。みんなが手を貸してくれるのかも解らないのに。タクミは”俺達”って言った。


 …………わたしは、みんなの事を考えてた。とっくに仲間だと言ってくれたルフィの事を、不安な時に黙って傍にいてくれたゾロの事を、村のために一人で身体を張ろうとしていたウソップの事を、そして、クロに仲間の大切さを叫んだタクミの事を。


 ……わたしの決意は固まった。アーロンと戦うんだ!! みんなに頼るだけじゃない、わたしも戦う!!!


 だからみんなに本当の事を話そう。きっとみんなは聞いてくれる。



 わたし達は”仲間”だから。
 
 
 

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