小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”素敵マユゲ”



〜Side タクミ〜



 なんとかナミに、アーロンと戦う事を承諾して貰えた。もちろんネズミの船でそんな帳簿は見ていない。事実を知っている、ただそれだけだ。

 実際にアーロンに1億ベリーを渡して様子を見ても面白かったんだが、コイツらと行動を共にしていたらまた出しゃばってしまうかもしれない。クロの時は力を試してみたくなって正直やりすぎた。

 その場のノリで”鷹の目”なんかに挑んで、万が一殺されてしまったら最悪だ。”鷹の目”が俺を将来性ありと判断して生かしておく保障は何処にも無い。全力でやりあったら負ける自身があるからな。

 クリークや”鷹の目”との戦いは、一味の成長に必要な事だろう。どうせルフィは開放されないし、サンジを気に入って連れて行こうとするはずだ。クリークとの戦いが終わらない事にはサンジは船出を決意しないだろうしな。

 適当なこと言って、俺とナミは、ココで役に立たないウソップと一緒に、ココヤシ村に潜んでおく事にしようと思う。

 ナミと軽く打ち合わせをして、俺が事情を説明する事になり甲板に戻る。


「ゾロ、ルフィはまだ戻らないのか?」

「ああ、派手にぶっ壊したからな。一ヶ月くらい雑用でもさせられんじゃねェのか?」


 ゾロの予想は概ね正しいけど、残念。単位が違うんだな。一年間だ。


「それは問題だな。飯のついでに様子を見に行ってみよう」

「お前はもう食ったんじゃねェのかよ?」


 レストランから出てきたせいでどうやら誤解を受けてるみたいだが、おれは喧嘩を売られただけで、食事する暇なんかなかったからな。ゾロにも忠告しておこう。


「俺もさっき着いたばかりだよ。店に入るところで揉めてたら、いきなり大砲の音がしたんで出てきてみたら……まぁ、アレだよ。気をつけろよ、ホール長がいないらしくて、とんでもない接客をするウエーターに出迎えられたからな。殴る寸前で我に返ったよ、ある意味ルフィに感謝だな」

「そりゃあ……よっぽどひでェんだな」


 怪訝な表情をするゾロ。俺がキレるなんてよっぽどって事か? 自分でもそんなに気が長い方だとは思ってないんだが、意外に人格者として認識されてるみたいだ。

 どっちにしろ、パティのアレは誰でもキレると思うけどな。喧嘩したって勝てないから、皆は黙ってるだけだろ。


「いらっしゃいませイカ野朗、ヘボイモ恐れ入ります、おとといきて下さい、だったかな」

「そんなウエイターいるかァ!!! 俺がいるからってお前のボケを全部拾うと思うなよっ!!」


 ゾロに説明してやっていたら、割り込んできたウソップがツッこんできた。


「お前は”ツッこみのウソップ”だろ? そんな事じゃ世界は取れないぞ?」

「”狙撃手”だっつうの!!! ルフィが決めたんだからお前も受け入れろ!!!」


 ”狙撃手”って言ってもなぁ、ウソップが”狙撃手”として活躍するのって、ロビン救出時以降だろ?

 でも、それでロビンが助かったわけだし、取り合えず認めておいてやるか。


「ああ、わかった」

「…………ボケろよ!!!? そこでボケるのがお前だろ!!!? 俺と二人で世界を目指すんじゃねェのかよ!!!?」

「おい、遊んでねェで行くならいくぞ」

「タクミ本当にわかってるの? うまく説明してくれるんでしょうね?」


 ウソップの世界を目指す宣言は華麗にスルーされた。冗談だとは思うが、人の夢をスルーするのはよくないと思うぞ?

 この世界にお笑いの世界一決定戦があるとは思えないが、夢見る事は自由だ。

 ……そうか!! 『ボケろ』と言われてボケないどころかスルーする。コレは二人からのフリ!! ならば俺も全力で協力しようじゃないか!!


「大丈夫だよ。みんなを信じてるんだろ?ルフィなら二つ返事で了承するさ」

「何の話だ?」

「ルフィも揃ってから……タクミが説明するわ。さ、行きましょ」

「…………俺を無視するなァーーーー!!!!!」


 今日もウソップはどこまでも”ツッこみ”だった。



〜Side ゾロ〜



 おれ達は今レストランで飯を食ってる。タクミが話があると言ってたのが気になってはいたが、料理がうめェからウソップも機嫌をなおしたみてェだし、おれも食事を楽しむことにした。

 タクミとナミが珍しく酒を飲まねェから、おれもヤメとくか。やっぱ重要な話みてェだな。

 しばらくするとルフィがやってきて、店のオーナーシェフから一年間の雑用を言い渡されたと報告してきた。


「で?ルフィは何日で許して貰うつもりなんだ?」


 おれ達が、タクミの言ってる意味が解らないでいると、ルフィが胸を張って堂々と言い放つ。


「一週間だ!! 一週間で許して貰うっておれは決めたんだ!!」


 なんて勝手な理屈なんだ。タクミはルフィのこんなとこまで見抜いてたのか。

 しばらく考え込んでから、タクミは重々しく口を開く。


「一週間じゃ……手遅れになるかもしれない……チーム分けをしないといけないみたいだな」

「チーム分け?」


 何の事か分からずタクミに聞いたが、理解出来ねェのはルフィとウソップも同じみてェだ。ナミは表情が読めねェ。


「そうだな、まずは話を聞いてくれ−−−−」


 そしてタクミは語り出した。ナミの事情と、タクミのこの間の行動の真意。そして……タクミが掴んだナミの村の危機。

 ココんとこナミが悩んでいた理由がようやく分かった。自分の為に危険を犯して、海軍との取引に行ったタクミを心配していたんだ。おれの考えは半分正解ってところだったんだな。

 でも、ルフィはともかくおれにはあの時本当の理由を言えばよかったんじゃねェのか?

 ルフィは黙ってタクミの話を聞いている。


「−−−−それで、こうなった以上、俺は総力戦でアーロンに立ち向かうしかないと思ってるんだけど、それで構わないだろ?」


 まるで夕食のメニューでも決める時みてェな気軽さで、タクミはおれ達に決をとる。ナミは隣で少し不安そうだな。断られるとでも思ってんだろう。


「当たり前だ!!!!」


 即答するルフィ。


「お、おう!!……ぎょっ、魚人がナンボのもんじゃーーぃ!!!」


 明らかにビビッてはいるが自分を奮い立たせて賛成を表明するウソップ。

 仲間の為だ。おれにも異論はねェ。


「構わねェ」


 そっけない返事になっちまったけど、ナミにはコレさえ伝わればいい。おれ達は、お前の為に戦うと。


「…………ありがとう」


 ナミは泣いてた。今まで不安で押し潰されそうだったんだろう。堪える事の出来ない涙が、頬を、テーブルクロスを濡らしていく。


「ほら、大丈夫だったろ?」


 ナミとは反対に、タクミは笑ってた。隣に座るナミの頭を、大きな掌でグシャグシャと乱暴に撫で回してるのに、ナミは振り払う事はしなかった……よかったな。



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 ナミがある程度落ち着いて、おれ達は今後の行動案をタクミから説明された。皆が了承してナミがまたお礼を言っていると、なんか”素敵マユゲ”な男が、酷いテンションでやってきた。


「ああ海よ、今日という日の出逢いをありがとう!! ああ恋よ♪ この苦しみにたえきれぬ僕を笑うがイイ!! 貴女に涙は似合いませんよ? お姫さま」


 素敵マユゲの詩的(?)なアプローチに、ナミはキョトンとしている。



 ……おれは本能的に理解した……コイツとはあわねェと。
 
 
 

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