小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”二人は切れ者”



〜Side アーロン〜



 ナミが長旅から帰ってきていると報告を受けたが、一つ気になることがあった。男が二人一緒だというのだ。コイが撮影してきた写真を見たが、一人は立ち姿がすでに只者じゃない。

 気にはなったがこの東の海に、おれ達魚人の敵になるヤツなんぞはいやしねェ。おれ達は至高の種族だ。まあ、明後日にはあの大佐が今月分のみかじめを受け取りにくるはずだ。その時にでも調査させればいいだろう。

 そうこうしてたらナミがおれのところにやってきた。どうやらあの2人とは別行動のようだな。おれは素知らぬ顔で話しかけた。


「おお!! 帰ったか、長旅だったな!!」

「相変わらず不用心ね、この屋敷は」


 ナミはおれに視線も合わせず、呟くように言葉を溢した。門番すら立てていないこの”アーロンパーク”の事を言ってるんだろうが、ココはおれの夢の形。

 誰の目を気にするでもなく、おれと同胞達が暮らす楽園なんだ。そんな無粋なもんを立てるつもりは欠片もないし、第一必要もない。


「フン……このおれを誰だと思ってる!! どうだった、今回の収穫は?」

「上々よ!しかも、今回は使える手駒まで手に入ったわ!!」


 自分から言い出すとは思っていなかったが、十中八九、あの写真の男達の事だろう。


「手駒?」


 おれは事前に情報を得ている事を気取らせないように、ナミに続きを促した。


「そうよ。今まで見たいに潜入して裏切ったり、こそこそ盗みに入る必要はなくなったわ。わたしが情報を集めて、アイツらが獲物を狩る。お金の関係って素敵ね」

「シャハハハハハハハ!!!……お前もいい女になったもんだぜ!!!」


 そういうことか。そうだ、コイツには仲間なんかできやしねェ。人を疑うことしか出来ず、金しか信じられねェ。そういう女になるようにおれが育ててやったんだ。


「約束の1億ベリーも、次の航海で貯めて見せるわよ。今回はわたしの測量士としての仕事はあるのかしら? 早く次の航海に出たいんだけど」

「まあ、そう言うな。海図のデータは集まっていないが、久しぶりに帰ってきたんだ。ゆっくりしていけ」


 次の航海でって事は、予想通りまだ貯まっちゃいねェんだな。まあ、そろそろ頃合いだ。あの大佐に回収させるか、コイツが頼れるのはもう姉の女だけだ。かならずあの家の近辺に隠しているハズ。

 まあ見つからなければ、村ごと掘り返してでも探すだろう。あの男の金に対する執着はおれ以上だからな。

 ひとまず明後日まで、コイツはこの村に引き止めておかなくちゃならねェ。あの金はコイツの目の前で海軍に押収されてこそ、意味があるんだ。おれは約束を破ってないって証拠にな。


「オウ、同志達よ、仲間が帰った!! 宴の準備だ!!!」


 おれの声に反応して、次々と集まってくる同胞達。魚人は至高の種族。この女はおれ達の野望の為には、決して手放せない女だ。

 精々今は宴を楽しめ……逃がしは……しねェからよ。



〜Side ネズミ〜



「チチチチ、君は実に世渡りがうまい……いつも悪いね」

「シャハハハ!! 何を今さら!! 水くせェ!! いい世の中ってのは金がうまくめぐるもんさ!!!」


 今日は月に一度のアーロンパーク集金日だ。毎月100万ベリー、この金でおれは、コイツの一切の海賊行為の黙認、本部への救援要請の妨害、賞金額の増大阻止を受けおおっている。

 まぁ、この金はただの顧問料で、実際に動いたときにはその分がプラスされる契約だ。

 ウス気味悪い連中だが金払いは最高にイイ。おれの出世の為には必要な男だ。今後は”銀獅子”に、コチラから契約金を渡してやるつもりだからな。金はいくらでもあったほうがイイ。


「そういえば大佐に依頼してェことが二つあったんだ。聞いてくれるか?」

「構わないよ、君からの依頼なら喜んで引き受けよう」


 アーロンの目は普段よりいくらか真剣みを帯びている。今回は集金だけの予定だったが、思わぬ儲け話にありつけそうだな。


「シャハハハハ!! 日ごろの行いがイイと話も通りやすいな。金はイイ!! 何よりも信頼できる!!! そうだろう?」

「確かにな……今回も期待していいんだろ?」


 コイツの持論にはおれも賛成だが、今はそんなムダ話よりも、早く用件が聞きたかった。


「今回はデカいぞ。ココヤシ村のナミという女が、おれからの自由を求めて貯め続けた、約1億ベリーの回収だ!! 大佐の取り分は三割でどうだ?」

「!!?……チチチチチチチチチチ、そいつは胸が痛い仕事だな。君の頼みでなくては断るのだが、引き受けることにしよう」


 笑いが止まらなくなるかと思ったが何とか堪えて、おれは依頼を引き受ける。3000万ベリーの仕事とは、今回はついてるな。


「シャハハハ!! 辛い思いをさせてすまないな。まぁ、もう1つの依頼は簡単だ。この写真の男達の素性を探ってくれればイイ」

「それはわたしに頼む程のことなのか? まぁイイだろう。コチラの報酬は要らんよ、サービスにして…………何っ!!!?」


 わたしは絶句した!! 何故だ!!!? 何故この男が”銀獅子”を探っている!!!?


「どうした大佐? 顔色が悪いぞ?……コイツらを知ってるのか? コイツらは、さっき話した女が金で雇った私兵だ。何か知ってることがあるなら話せ!!」


 ……なるほど、一杯食わされた。あの男は最初からアーロンを狙っていたんだ。おれとアーロンの繋がりに気づき、いざアーロンを討とうとする際の障害におれがならないように、自分の有能さを示したんだ。

 おれが、自分とアーロンを天秤にかけた時に自分を取るようにと……がっかりだ。こんな打算的な男だったとは、どれだけ鍛えたところで、動物系の能力者では海でアーロンに勝てるわけがない。

 いかに将来的にアイツが有益な存在であっても、この場でアイツについてしまえば、いずれアイツが殺された時、おれとの繋がりがバレれば、とばっちりでおれまで殺される。もはやアイツの価値は、この場でどれだけ高く売れるかだけだ。


「この男の情報なら、流石に無報酬とはいかないな。わたしも懐を痛めて手に入れた情報だ。この男の磨いた牙は、君たちにも届きうるモノ……先程のわたしの取り分、4割5分でどうだ?」


 おれは随分ともったいぶった口調でアーロンへと告げた……さあ、喰らいつけ!!


「……それ程の男か。コイツは何をした?」


 かかった!! 情報を聞いたということは了承の証!! アイツは1500万ベリーで売れた!! まぁイイだろう。


「コイツは”銀獅子のタクミ”。処刑されたフリをして生き延びていた、かの”百計のクロ”を、一味まとめて相手取り、無傷で勝利を収めた男だ。表には出てこないが金で動く優秀な殺し屋で、わたしの手にした情報では、悪魔の実の能力者だ!! 詳細な能力は誰も知らない。何故なら、コイツに狙われた者は必ず殺されるからだ」


 かなり大げさに言ったが、アーロンは信じただろう。コレなら、アーロンと銀獅子が争うことになっても、コイツは能力を警戒して、すぐさま海中戦に持ち込むだろうから、おれのことはバレないハズだ。

 万が一、銀獅子が生き残っておれを始末しにくる可能性を考えて、小艦隊を呼んでおこう。陸の上での一個人の力など数の暴力で潰してやる!!


「……なるほどな、そういう訳だったか。大佐はすぐに金を回収しに行ってくれ、取り分はさっきの言い値で構わねェ。おれはココで、そいつらを待つことにするさ……必ず殺してやる。今のうちにその”銀獅子”の賞金首申請でもしといたらどうだ? 手柄はくれてやるよ」


 その手があったか!! 最後まで役に立ってくれる男だ。


「そうさせて貰うよ、わたしはこれで失礼する」


 タコの魚人の引く蛸壺に乗りおれは一度支部に引き返した。どちらが勝つにせよ、最後に笑うのはおれだ!!!
 
 
 

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