小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”副船長就任”



〜Side ナミ〜



「おれが来たからには、ナミさんをてめェの好きにはさせねェからな銀髪〜!!!」


 ついさっき、わたし達に合流したルフィチームなんだけど、何かあの時のコックの人…………確かサンジ君。あの人まで一緒に来ていて、自分も一味に加わることになったって、熱烈な挨拶をされた。

 それは別にイイんだけど、その後に、目の色を変えてタクミに言い放った台詞が問題だった。

 わたしはタクミの態度がそういう風に見えているのかと少しうれしかったんだけど、やっぱり恥ずかしいからヤメて欲しい。


「……サンジだっけ、なんで俺?? アーロンの好きにはさせないとかじゃなくて??」


 タクミは心底困惑しているみたいだった。やっぱりタクミにはそんな気なかったのかって少し落ち込んでしまう……こんなことなら、あんな台詞聞かなければよかった。

 わたしはサンジ君がちょっとだけ嫌いになり、いいように扱き使ってやると決めた。


「すっ呆けやがって!! てめェの魂胆は全部まるっとお見通しなんだよ!! アーロン一味はおれが残さずオロしてやるから、てめェはすっこんでろ!!」


 なんかこの人無茶苦茶だ。接し方がわからないわ。


「まあ、元から幹部連中との戦いに俺は出張るつもりはなかったんだけど、ゾロは大丈夫か? 顔色、かなり悪いぞ?」


 そういえばゾロの包帯、どうしたんだろう? 顔色はわたしには普通に見えるけど。


「問題ねェ。それより状況が知りたい。お前のことだから大体の計画が立ってんだろ? 話せ」


 …………やっぱりゾロはどこかおかしい。いつもなら、仲のいいタクミにあんな言い方はしないハズ。わたしにはどこか焦ってるように見えるわ。


「……わかったよ。あんまり無茶してくれるなよ?」


 タクミはゾロの心配をするのは諦めたみたいで、まだ騒いでいるサンジ君を他所に説明を始める。


「ルフィは親玉のアーロン。問題ないか?」

「ああ、うちの航海士泣かすヤツはぶっ飛ばしてやる!!!」


 わたしが悩んで来たことにルフィは簡単に答えをだす。ホント敵わないなぁ。


「その意気だ。ちなみにアーロンはノコギリザメの魚人だから気をつけろよ? パワーが桁違いらしい。コレはナミにも話してなかったんだが、アーロンの手配書は一度失効していて、この東の海で再手配された金額。しかも海軍を抱き込んで懸賞金が上がるのを阻止してるみたいだからな。2000万の敵だとは思わない方がイイ」

「ちょっと待って!!! そんな話、本当に初耳よ!!? 手配書が失効したっていうのも意味がわかんないし、元の懸賞金はいくらだっていうのよ!!?」


 アーロンの手配額が2000万ベリーっていう事に、今まで疑問を抱いたりはしなかったけど、確かに元は七武海のジンベエと肩を並べるグランドラインの海賊だったって事を考えたら、2000万ベリーは安すぎる。


「アーロンは一度だけ海軍に捕まった事があるんだ。それを助ける為にジンベエは七武海への加入を決断し、交換条件としてアーロンを無罪として釈放させた。もっとも、アーロンは人間に従う道を選んだジンベエと決別して、この東の海で再び賞金首になった訳だがな」

「アーロンにそんな過去があったなんて……それで? アイツの元の懸賞金っていくらなのよ?」


 タクミは両手を広げて首を傾げている。そこまでは分からないって事ね。


「七武海に勧誘された海賊の兄弟分って事は、1億くらいの懸賞金が懸けられていても不思議じゃない。でもアイツは、もう何年もの間、修羅の世界から遠ざかってるんだ。あくまで俺の評価って事になるが、実力だけで今のアーロンに懸賞金を懸けるなら……6000万ってとこだろうな

「なッ!!!?…………クロの四倍!!!? マジで言ってんのかよ!!!?」


 タクミの話を聞いてルフィ以外の全員が固まったけど、最初に口を開いたのはウソップだった。

 驚愕するウソップをよそに、タクミは笑いながら説明を続ける。


「そんなに驚くなよ。モリアの五分の一って考えたら、大した事なくないか?」

「誰だよモリアって!!!? どうせ七武海の一人とかそんなオチだろォが!!!」


 ウソップの慌てっぷりを見て楽しそうに笑っているタクミは、思考回路がちょっとおかしい。

 常識人だと思ってたけど、戦闘狂の気があるのかもしれないわ。クロと対峙した時も、二人して笑ってたし。


「冴えてるなぁ、ウソップ。後で5000ガバスやろう「ガバスって何だァ!!! 何処で使えるんだよ!!?」それはおいといて、ゾロは六刀流のハチ、タコの魚人だ」

「そいつだけか?」

「聞けェェェエエエ!!!!」


 ウソップは騒いでいるけど、タクミはそれを無視して話を強引に進めた。ゾロもタクミに倣って……というよりは、今のゾロには、ウソップに付き合ってる余裕はないみたいね。


「無茶するなって言っただろ? 一人一殺だ。確実に仕留めることだけ考えてくれ」

「……わかった」


 ゾロはもの凄く不満そうだったけど渋々了承したみたい。二人のあまりのスルーっぷりに、ウソップも諦めたのか、もう騒ぐ事はなくなっていた。

 ゾロの了承が取れて満足そうに頷いたタクミは思い出したみたいにサンジ君の方を向いて問いかける。


「サンジは強いのか?」

「あたりまえだろうが!! お前の百倍強ェから、残りは全部任せとけ!!」


 サンジ君はちょっと煩い。タクミの話をちゃんと聞いて欲しい。


「……じゃあ、空手家のクロオビを任せる。おそらく一味の?2、エイの魚人だ」

「?2ねェ……悪くねェな。お前ちゃんと解ってんじゃねェか」


 No.2を自分にあてがったタクミに、サンジ君はいきなり態度を軟化させて、肩をポンポンと叩いている。

 タクミはこの短い時間でサンジ君の扱い方を理解したみたいだ。ゾロがまた不満そうにしているけど、それはしょうがない。


「ウソップは予定変更で悪いんだがチュウを頼む。強力な水鉄砲を使うらしくてナミじゃ分が悪いかもしれない」

「何事もなかったみてェに話を振りやがって……まぁイイ。任せとけ!! 遠距離タイプの相手なら、絡め手も使いやすいからな。むしろ好都合だ!!」


 このやり取りから察するに、ウソップはタクミと戦闘の予定を話していたんでしょうね。ウソップの事を散々な扱いにしておきながら、こういうところはちゃんと信頼しているのだと驚いた。


「頼もしいな。俺は雑魚散らしと、戦闘員らしいグランドラインの生物、それとネズミ大佐の対応をする。作戦っていうか割り当ては以上だ」

「……? ちょっと待って!! わたしは? わたしも戦うわよ!!」


 あまりにも自然に話を纏めに入ったタクミに、一瞬流されそうになったけど、わたしの名前がまだ挙がっていない。


「ナミは……少々危険だが囮になってもらう。俺は雑魚共と海牛モームを倒したら急いで戻ってくるから、ネズミが来たときに備えてノジコと一緒に家に居てくれ。俺が戻ってくるまで出来れば手を出さないで欲しい」


 要は危ないから大人しくしとけって事か。でも、さっきの話だと、わたしはチュウと戦うハズだったみたいだし、サンジ君が一味に加わって、戦略的にあぶれたって事かしら……大人しくしてるしかないかな。でも……


「わかったわ。でも、手を出さない約束は出来ない!!」

「それでイイよ」


 わたしの精一杯の意志を、タクミは認めてくれた。たぶん、大佐が家に来ることなんてないんだと思う。タクミが一度負けを認めたような相手を、わたしにあてがうハズがないんだから。

 戦闘が始まったら、わたしはこっそりみんなの所に行こう。タクミは怒るかもしれないけど、そんなの知らない。当事者のわたしが蚊帳の外なんて真っ平ごめんよ!!

 作戦会議が終了すると、最初以降は黙っていたルフィが、口を開いた。


「戦いの前に、皆に言っておかなきゃならねェ事があるんだ!! おれは、タクミを副船長にしようと思う!!!」

「「「!!!」」」


 ルフィの突然の発表に、わたしは驚いた。ウソップとサンジ君も同じみたいだ。

 タクミ本人とゾロは、あまり表情を変えていない。少しの間を空けて、タクミはルフィに問いかける。


「なんで俺なんだ?」

「今回の事があって分かったんだ。一味を二つに分けなきゃいけねェって時、おれは皆を守れない。今回タクミの提案を受け入れた時から考えてたんだ。おれはタクミになら安心して他の仲間を任せられる!! だからタクミ、お前はコレから副船長だ!!!」


 わたしはルフィの考えに納得した。ゾロは始めから思うところがあったんでしょう、ウソップも納得したみたい。サンジ君だけ不満があるみたいだけど、口に出す程では無いらしい。

 タクミは少しだけ悩んだ後、複雑そうな表情で口を開いた。


「……わかった。何かもう決定事項みたいだし、どうせこれ以上言ったって聞かないんだろ? 副船長、引き受けるよ。でも、今後の作戦とか丸投げするなよ? 今回は先に現地入りして情報を集めてたから、俺が考えたってだけだからな」


 あぁ、何だか目に浮かぶようね。タクミはコレからも大変そう。


「にししし、わかってるよ!! この船の針路はおれが決める!!!……タクミは、偶にわかりやすくアドバイスしてくれ」

「結局そうなるのか、まあイイや」


 諦め気味にそう言うタクミを、気にするふうでもなくルフィは歩き出す。


「それじゃお前ら……行くぞ!!!」


 そうしてルフィを先頭に、皆はアーロンパークへ歩き出した。わたしはその背中を見送る事しか出来ない…………今はね。
 
 
 
 

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