”唇に火の酒”
〜Side ウソップ〜
…………やべぇな。完全に出るタイミング失っちまった。
おれは、魚人との戦闘にガチガチに緊張していたんだ。だから戦いの前にトイレを済ませる事にして、それをルフィにちゃんと伝えた。
……そのハズだったんだけど、どうやらルフィは聞いてなかったみてェだな。
アーロンパーク内ではタクミが「剃刀」での重力無視高速攻撃もとい”雑魚散らし”を発動している。
この間タクミに聞いたら、あの技は、高速で駆け回って、空気すら蹴りつけて相手を翻弄する技で、敵の数は関係ないらしい。
『俺よりも速いヤツには役に立たないけどな』とか言ってたから、そんなもんいるわけねェって呆れて意見したんだけど、『そんなヤツきっと、グランドラインにはたくさんいるさ。クロも俺より速かったしな』と言われ、タクミの語るグランドラインの凄さに驚いた。
おれが今から戦うのは、そんなグランドラインからきたヤツらだ、正直言って恐ろしい。
クロオビとの戦闘をシュミレーションしてた時、タクミから『勝てばなんでもイイけど、死んだら負けと一緒だ』と言われた。
最初は言ってる意味が分からなかったけど、相打ち覚悟の特攻の否定なんだと分かった。タクミは、いざとなったらおれがそこまでやる可能性があるって考えたんだ。
事態はおれが思っていたよりも遥かに深刻。それと同時に、その言葉は、負ければ死ぬとハッキリ語ってた。
そりゃあそうだ。これはガキの喧嘩じゃない、海賊ごっこはもう終わったんだ!!!
ココは勝者以外は語ることを許されない世界。逆を言えば、タクミの言う通り『勝てばなんでもイイ』んだ……どんな手を使っても。
勝算はある!! おれが考え事をしてる間に、タクミは海から出てきた牛の化け物を追いかけて、沖合いへ行っちまった。
ハンター魂に火がついたタクミの奇行に、アーロン一味の動きが止まっている。
今だ!! やるなら今しかねェ!!!!
紛れていた人ごみの中から飛び出し、おれの相手、魚人チュウに狙いをつけ、放つ!!!
「”火炎星”!!!!」
おれの”勇敢なる海の戦士”としての戦いが始まった。
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「待てコラァーーー!!」
おれは今、全力で逃げている。パチンコ以外で、唯一おれが自慢できるのが、この逃げ足だ。ルフィやタクミには負けるけど、その気になればゾロよりは速い。
コレは作戦通りの行動。あの場で戦うのは、飛び道具を使うおれにとって得策じゃねェ。周りに被害が出ないように、チュウを挑発して誘き出す。
クロオビ戦に備えて考えていた作戦だけど、たぶん万人共通で、コレを食らえばタダじゃすまねェハズだ。
勝負は一瞬。
チュウに気づかれないように走りながら”まきびし”をばら撒いて、おれはポーチに手をかける。
取り出すのは”酒”、ただの酒じゃねェ。アルコール度数95%”スピリタス”、『よく燃える酒を知ってるか』って訊ねたら、ニヤニヤ笑いながらタクミが調達してきてくれたモノだ。
タクミ曰く、”タバコを吸いながら飲めば死ねる酒”らしい。
まきびしに足を止められているチュウに向って、山形に酒を放る。チュウの手に酒が握られる瞬間、おれのパチンコがそれを捉えた。
「”鉛星”!!!」
「クッ!!!?」
割れたビンの破片と共に酒がぶちまけられ、どぎついアルコールの臭いに、チュウの顔が歪む。
「必殺”火炎星”!!!!」
間髪入れず放たれた少量の火薬は、チュウの体に炎をともし、断罪の業火へと姿を変えた。
「ぎゃああああああああああああああ……水!! 水!!! 水っ!! 水〜〜〜〜〜〜っ!!!」
叫べばそれだけ体の空気を奪われるってェのに、チュウは必死に叫びながら水田へと走る。
「ウソーーーーーーップ!!! ハンマーッ!!!!」
どうせ水の中に逃げられるなら、その前についでだ。おれは背後から不可避の鉄槌を叩き込む。
…………コレで終わりか?
チュウは生きてはいるみてェだけど、咽喉まで焼けてショック状態……もう立ち上がることねェかな?
〜Side チュウ〜
くそっ!! ふざけやがって!! 体中が痛ェ!!!!……意識がトビそうだ。
コイツは今、おれを倒したと思い込んで確認にきてやがる。近づいてくる足音は逆にお前への死の宣告だ!!!
コイツ必ず殺してやる!!さあ、近づいてこいっ!!
「ウソップハンマー! ウソップハンマー!! ウソップハンマー!!! ウソーーーーープハンマーッ!!!!」
「!!!!!!?」
立ち上がろうとした瞬間、ハンマーで頭部を何度も殴りつけられ、おれは再び水田に突っ伏した。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……止めはきっちりだったな、タクミ……勝った……魚人に……勝った……はは、やりゃあできるんだ!!!……ナメンなチキショオ!!!!」
その意見には概ね同意だが…………流石にコレはないわ。
長鼻の歓喜の咆哮を聞きながら、おれの世界は暗転した。