小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”アーロンパーク”



〜Side アーロン〜



 …………何なんだ、この状況は? 警戒する必要があるのは”銀獅子”一人じゃなかったのか?

 おれは目の前の現状をどう受け止めればいい?

 ”銀獅子”が大暴れして去った後、狙撃してきた敵を追いかけていったチュウは戻ってこねェ。

 魚人島でヒョウゾウに次ぐ剣士だったハチも、三分持たずにやられた。

 クロオビにいたっては何もできずに瞬殺。

 そして、さっきまではふざけているとしか思えないような戦い方をしてやがったこのクソゴム小僧の両足が今、おれの腹に突き刺さるような勢いで打ち込まれた。

 戦いの余波に巻き込まれて、おれ達のアーロンパークは所々壊れちまった。

 アーロンパーク…………ココはおれ達が夢見た楽園。ガキの頃に憧れた、人間達しか入れないシャボンディパーク。

 その代わりに建てたのが、このおれ達の夢の城。東の海のこの島は、広大なアーロン帝国を建国する足がかりに過ぎない。

 誰に蔑まれる事もなく、同胞達がこの太陽の下で生きられるように……タイの大アニキが作った海賊団じゃ足りなかったんだ。

 至高の種族……魚人が、人間に劣ってるだなんて言わねェ。その為には、おれはココで、こんなヤツに負けるわけにはいかねェんだ!!!


「下等な人間がァ!!!……魚人のおれに……何をしたァ!!!!」


 おれはクソゴムを掴んで、渾身の力で壁に投げつけた。またおれ達の城を……今のはおれのせいか。

 下らねェ人間共が土足で踏み込んできたアーロンパークにはケチがついちまった。コレを機に建て直しだ。

 ココの作りは寸分違わず覚えているおれは、壁に手を突っ込んで、自慢の愛刀キリバチを取り出した。

 ノコギリザメの魚人であるおれに相応しい、巨大な鋸を模した形状だが、見た目に反してコレは敵を切り裂く為の武器。コレを使って仕留められなかった敵は今までいねェ。

 おれがキリバチを手にしたってェのに……クソゴムの仲間は手出し無用を決め込んでいやがる……ふざけやがって。コイツら全員、必ず殺してやる。

 まずは目の前のクソゴムからだ!!


「うおっ!!!?」


 横薙ぎに振るったキリバチを避けて、クソゴムは上の屋根へと上がる。追撃、追撃、追撃、追撃ィ!!!!

 逃げ回るクソゴムは、最終的に測量室へと飛び込んだ。ナミを助けようとしたこの男に、絶望を与えて殺してやるには、なんとも御誂え向きな部屋じゃねェか。

 部屋を見渡すクソゴムの首にキリバチを添えて、おれは語ってやった。ナミがこの部屋で過ごした、奴隷としての八年間を。



〜Side ナミ〜



 ルフィとアーロンが測量室に飛び込んでいってからしばらく経つ、物音は止んだ。

 中の様子が気になり出した頃になって、静寂を打ち破り、一つの机が落ちてきた。


「何だ机か〜」


 心配そうに様子を見守っていたジョニーが安堵の声を漏らす。わたしも同じ気持ちだったけど……

 それに続くように、棚も、椅子も落ちてきた。そして…………八年間、わたしが書かされてきた海図も。

 その光景を見て分かった。ルフィは、アーロン一味としてのわたしの居場所を壊してくれた。


 ……ルフィ…………ありがとう……


 轟音と共に崩れ落ちていくアーロンパーク。


 その中から……傷だらけになって立ち上がるルフィ。


「ナミ!!!」


 ……? 突然名前を呼ばれて、わたしはその言葉の続きを待った。


「お前はおれの仲間だ!!!!」

「うん!!!」


 コレで、コノミ諸島は……ココヤシ村は開放された。村の皆の喜びは割れんばかりの大歓声になる。


「ネズミ!!! 貴様ぁーーーーー!!!!」


 その瞬間、皆の歓声を掻き消す突然の砲撃音と叫び声。

 そこには、コチラに向かう砲弾を、空中で正面から止めようとするタクミの姿。

 ……その向こうには、五隻の軍艦が鎮座していた。



〜Side タクミ〜
 


 あの後、モーム一本釣りに見事成功した俺は、モームを手なずけペットにすることにした。モームとメリーで網を引けば簡単に漁が出来ると思ったからだ。

 ルフィが戦える状態からのスタートである今回は、十分もあれば戦いは終わるだろうと思い、モームの頭に乗ってアーロンパーク近辺で待機していたわけだが、突然、島を回り込むようにして軍艦が現れた。

 ネズミの船かと軽く考えていたら、それに続く四隻の軍艦……おかしい。ナミの金を押収する為に来たのだとしたら、明らかな過剰戦力だ。


「あの野郎、艦隊組んできやがった。どういうつもりだ?」


 村人の歓声を聞きながら、ネズミと話をしようとしてモームを近づけると、二発の砲撃音が轟く。

 近くにあったネズミの船から放たれた一発は、俺がモームに指示を出す前にその腹部を捉え、モームは力なく海に沈んでいった。


「ネズミ!!! 貴様ァーーーーー!!!!」


 俺の血が一瞬で滾る。もう一発の砲弾が迫っている。俺は「爪 鉄塊」を発動させていなかったことを心底悔やんだ。

 この弾は避けてはいけない。そんなことをしたらみんなに直撃だ!!

 思考は一瞬、自分に出来る最高の選択を!!


「「嵐脚 獅終(シシマイ)」!!!!」


 俺が放て得る現状最高の遠距離攻撃、「嵐脚 獅連」によって放たれる四つの斬撃を、一点に収束させる大技。

 コレで撃ち落とせなければ、「鉄塊」も間に合わないこの距離、怪我ではすまないだろう。

 俺が放った四つの斬撃は、上手く一点で重なり小規模な爆発を引き起こす。点は多少ずれたが、線としては重なっていた為、砲弾は衝撃に巻き込まれて失速し、海へと落ちた。

 な、何とかなった……ありえねェ!! ココまでするようなヤツだったのか!!! おれが未完成の技に頼らなくてはならないような状況に追い込まれるなんて……

 俺は五隻の海軍艦隊を、正面から見据える。その中央の船の甲板で不適に微笑むのは、海軍16第支部 支部長 ネズミ大佐。

 俺は次弾が発射される前にと、集中力を高め「爪 鉄塊」を発動する。「紙絵 捌」コレで砲弾の軌道を見極め、逸らし、着弾を別の地点に誘導できる。

 次々と放たれる砲弾を捌きつつ、後退しながらルフィに助けを求める。さすがにこの弾幕じゃ「剃刀」を維持するスタミナが切れた時に庇いきれなくなってしまう。


「ルフィ!!! まだ動けるか!!? ”ゴムゴムの風船”を頼む!!!!」

「おれに任せろ!!!」


 俺が捌き、ルフィが跳ね返す。そのうち何発かが艦隊に着弾し、ネズミの艦隊は砲撃を停止させていく。しかし、一隻が転回する間は、他の艦が砲撃を放ち続け、砲撃はしばらく止むことは無かった。

 ネズミの撤退を確認すると、急いで陸へと駆け戻る。俺の脚力はもう限界だった。「月歩」で節約をしても、やはり三分程が限界みたいだ。


「タクミ!!! 大丈夫か!!!」

「疲れてはいるけど、ルフィみたいに怪我は無いから平気だ。それより……勝ったんだろうな?」


 すぐさま駆け寄ってきたルフィに、分かりきった質問をしてやったんだが、ルフィは嬉しそうに破顔した。


「にしししっ、あったりまえだ!!!」

「……そうか」


 村人達は勝利を確信し、本日二度目となる大歓声をあげた。


 カメラを持った不審者がその中に紛れていたが、俺はスルーした。
 
 
 

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