”みかんと風車”
〜Side ネズミ〜
おれはアーロンと別れた後、タクミに懸賞金をかけに支部へと戻り、五隻の艦隊を組んでアーロンパークへと向かった。
アーロンが勝てばタクミを引き取り手柄に、万が一タクミが勝てば目撃者を全員排除して、アーロン討伐の手柄も頂くつもりだった。
甘かった”銀獅子”があの規模の艦隊からの砲撃を防ぎきれる事も驚愕だったが、アイツはおれに海賊であることを隠していた。
完全に出し抜かれた上に、あの実力で船長ですらなかったというのだ。
村に潜入させていた部下の話では、アーロンを倒したのは麦わらの船長だと言う。
おれは本部に連絡を取り、すぐさま”麦わら”の報告を行う。
後日、詳しく調べてみれば、一味の中にはあの”海賊狩り”のゾロや、”赫足”の弟子、「四皇」”赤髪”の所の幹部”追跡者”の息子まで所属している。
…………末恐ろしい一味だ。
コイツらには、今後一切関わらないと、おれは固く心に誓った。
〜Side タクミ〜
戦いが終わって、島全体で開かれた宴は、今日でもう三日目、殆どのヤツが寝ないで騒いでいるにも関わらず、皆が楽しそうにしている。
ルフィは食道楽、サンジはナンパ、ウソップはもうノリにノッて自作の歌を櫓の上で歌い続けている。
ナミは今頃、新しい刺青を彫っているのだろう。
俺はというと、ゾロと二人で飲みまくっている。ゾロの酒の強さは俺に並ぶのでは無いだろうか?
「ゾロ、そういえばもう腹の傷はイイのか?」
「ああ、酒は療治の水なんだろ? だいたい、心配なんかされると調子狂うからやめてくれ」
ゾロはカタカタとグラスを鳴らして、おかわりを要求している。子供か!! 口で言え!! ウチの妹が昔そんな感じだったぞ!!!
「そうか、程々にな」
「……お前はおれの兄貴か何かなのか?」
ゾロのグラスに六分目くらいの量のワインを注いでやると、不満気にそんな事を言ってきた。
「はっはっはっは。こんな可愛げのない弟、俺はいらないね」
「だろうな」
ゾロは自分で言ったくせに苦笑いしていた。直ぐにグラスを空にして、またもやカタカタと鳴らし始めるゾロ……この野朗。
「バカ!! ヤメろ!!!? ぐぼっ!!!?」
「むぉー、はぐひー!!!」
そんなに呑みたいならと、ゾロの口にワインボトルをまとめて四本突っ込もうとしていると、ルフィが口を肉で一杯に、ついでに両手も肉で一杯にしながら近づいてきた。
「ルフィ、食ってから話せよ」
「んぐ……っは。タクミに聞きてェことがあったんだ!!」
「げほっ、ごほっ……あほかァ!!!? 死ぬとこだ!!!」
酒に呑まれて死ぬなら本望だろう。ゾロの事は放っておく事にしよう。
「なんだ?」
「あの牛どうなったんだ? お前ェすっげー勢いで追いかけてったろ?」
牛?……モームの事を言ってるのか。ガイモンといいルフィといい、動物の分類の仕方が適当すぎる。モームは海王類、海牛科、ウシ目、ホルスタイン種だ。
そこらへんをキッチリと……分かるわけないか。分類したの俺だし。
「……モームは、一度は捕まえてペットにしようと思ったんだけどな。あの砲撃が直撃して海に沈んでったよ。まあ死んじゃいないだろうし、どっかで会えたらまた友達になれるさ」
「そっか!! 会えるとイイな!!」
ルフィと珍しくただの会話をして、何故かちょっと複雑な気持ちになった。
ゾロは黙って、懲りずに手酌で酒を飲んでたけど、少しだけ笑ってたような気がする。
…………何だこの空気。微笑ましいモノを見るような目で、二人して俺を見るな……ダメだ。耐えられん!!!
「よーし、俺も歌うか!!」
空気を変えたくて宣言したんだが、ルフィとゾロはかなり驚いた顔をしていた。そんなモノは無視して、俺はウソップのいる櫓に飛び乗り、メガホンを奪って大声で歌った。
この世界の歌で、俺が知ってるのは一曲だけ、それは海賊達の舟歌。
頭の隅に浮かんだ疑問を消し去るように、ハイテンションで歌っていると、いつの間にかウソップやルフィも一緒になって歌いだし、何故か何人かの村人まで櫓に登ってきて、皆で歌った。
この島最後の夜は、眠る事無く更けていく。
〜Side ナミ〜
あれから三日間も宴は続き、今日は出発の朝。
海賊になるってゲンさんに話したときは、ちょっと反対されちゃったけど、ベルメールさんが止めたって、わたしはあの一味と航海をする。
自分の目で見た”世界地図”を作るんだ。
ノジコはちっとも止める気が無いみたいで『コレ、持っていきな』って、いつもつけてた腕輪をくれた。
みんなが見送りに来てくれてるけど、湿っぽいのは嫌だから、わたしはメリー号に急いで飛び乗る……モチロン、悪戯心も忘れていない。
わたしに財布を抜かれた村の皆は、カンカンに怒ってたけど、すぐに笑ってた。
「じゃあね、みんな!!!! 行って来る!!!!」
ベルメールさんとゲンさんの事、裏切っちゃったかもしれないけど、この刺青がわたしの気持ち…………”みかんと風車”。