小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”変化”



〜Side スモーカー〜



「あっ、大佐!! 曹長!!」

「状況は」


 おれは今、この広場で海賊共がバカやってるって報告を受け、部下のたしぎと現場にやってきている。


「民間人が取り押さえられています」


 海賊ってのはバカばかりだ、この町の出身であるおれは、それをよく知ってる。

 海賊王G・ロジャーの一言から始まった大海賊時代は、この町の治安を最悪にしちまった。

 東の海からグランドラインを目指すバカ共は、大概この町に寄ってからグランドラインに入ろうとする。まっとうな人間には住みずれェ町になったもんだ。

 おれは海軍将官学校を出て実践を積み、本部大佐の地位を得てからこの町に戻ってきた。

 それから今まで、この町に立ち寄った海賊を、おれが取り逃がしたことは一度もない。

 まあ、この町はかつての治安を取り戻したと言っていいだろう。

 クリークのヤツがこの町を素通りして行きやがった時はおれの苦労が報われたと一人で祝杯をあげたもんだ。


「まず、今広場にいる賞金首は3人、”金棒のアルビダ”、”道化のバギー”、”麦わらのルフィ”」

「ん!? ルフィ!? 知らねェ名だ」


 おれの頭の中には、この東の海の賞金首の顔と名前が殆ど記憶されているハズなんだが、東の海の大物2人と騒ぎを起こすようなヤツの中に、そんな海賊は記憶にねェな。


「先日に手配されたばかりですが、なんと3000万ベリーの大物です。しかも、一味の副船長”銀獅子のタクミ”にも1900万ベリーの賞金が懸けられています」

「そりゃ久々に骨がありそうだな」


 賞金アベレージの低い、この東の海で3000万と1900万。一つの海族団に懸けられた懸賞金としては、ひょっとしたら史上最高額かもしれねェな。


「いえ、それが、その男、今……殺されそうです」


 あ!?……意味が分からん…………


「……なるほど、海賊同士のいざこざか」


 しばらく広場の様子を見ていて、状況はなんとなく理解した。


「す、すぐに突撃を!?」


 ったくビビリやがって。


「バーカ、あわてんな」

「しかし、ぐずぐずしていては……」


 コイツ、状況が丸で見えてねェな。


「おれがこの町から、海賊を逃がした事があるか?」


 愚問だったな。部下がしどろもどろになりながら返答している。どうも、おれは無自覚に人を威圧しちまってるみてェだ。


「なら黙ってろ。海賊が海賊を始末してくれようってんだ。世話ねェこった!! それに放っておいて”銀獅子”ってヤツが”麦わら”を助けに来たらおもしれェじゃねェか。探す手間が省ける上に、上手くいけば相討ちになるかもしれねェ」


 こんなことで関心してんじゃねェ。ったく大丈夫かこいつら?


「イイか、このまま”麦わら”の首が飛んだら、バギー、アルビダ及びその一味を包囲、たたみかけろ。”銀獅子”が現れた場合はしばらく様子をみる」


 おれの言葉に敬礼で応えた部下たちは、緊張感を漂わせながら、それぞれ装備の確認なんかを始めた。そうだ。それでイイんだ。

 双眼鏡を片手に、紫煙を燻らせながら、おれは状況を見守った。



===============================



「その死刑待て!!!!」


 おれ達が見守る中、良く通る男の声に、途端に広場が騒がしくなる。


「どうした!!」

「ロロノア・ゾロです!!」

「ロロノア・ゾロがこの町に!!?」


 この刀ヲタクが目の色変えてんじゃねェ。何にしても面倒だな。


「賞金稼ぎか!! こんな時にっ!!」


 下手に状況を掻き回されたら溜まったもんじゃねェ。おれの中ではアイツらを捕縛するプランはもう出来てんだ。


「いえ、それが、”銀獅子”と行動を共にしており、あの”麦わら”の一味だという情報で……」

「何!!?」


 広場ではバギーの持つ剣が、”麦わら”の首に振り下ろされようとしていた。



〜Side タクミ〜



 ……いや、忘れていたわけじゃないんだ。

 イロイロ買い込んだモノをメリー号に積んだ後、ちょっとウソップで(?)遊んでたら、ルフィ救出がギリギリになりそうな状況だ。

 原作通りならルフィは大丈夫だと思うんだが、バタフライ効果がどこで発生するかわからない以上、いつでも助け出せる位置に控えておくつもりだった。

 だが、この原作の流れは、後に重要なポイントになるから、言い訳をするなら、なるべく変えたくは無かった。

 現在、死刑台まで10mといった位置。今にも雷が落ちてきそうなのは確かなんだが……どうだろうか?

 雷が落ちるかどうかを判断している間に、最悪の場合ルフィの首が飛ぶかもしれない。「嵐脚 線」の射程ギリギリといった所だ。

 広場には、ルフィの皆の名前を呼ぶ声が聞こえている。


「わりい、おれ死んだ」


 俺は……気がつけば「嵐脚 獅終」をバギーに放っていた。


 俺は何やってんだ!!? 「嵐脚 獅終」は、斬撃を一点にぶつけて、小規模な爆発を起こす技。バギーの能力では防げない技だ。

 バギーを殺すのも原作的にまずいっていうのに…………

 俺が困惑している間に雷はバギーの剣に落ち、ルフィは助かった。

 俺の「嵐脚 獅終」は収束点がずれ、ただの「嵐脚 獅連」として、バギーを意味無くバラバラにするという結果に終わる。

 この技が未完成で、今回ばかりは助かった。無意識に心臓を目がけて放ったあの技が直撃すれば、おそらくバギーは死んでいただろう。


「なははは、やっぱ生きてた。もうけっ。ありがとなお前ら!! 助けようとしてくれて」

「あ……ああ」


 俺はついさっきの自分の行動が理解できず、ニカッと笑いながら話しかけてくるルフィに、曖昧な返事しか返す事ができなかった。

 麦わらの一味は、俺が自分の夢を叶える為に利用する存在。ロビンにさえ逢えれば、その先にはそれ程の未練は無い。その程度の認識だったハズなのに。

 …………ゾロとサンジが話す言葉も、今の俺の耳には入ってこない。


「逃げろォ!!!」


 俺はルフィのその言葉で我に返り、取り敢えずはそれが先決だと冷静に判断し、疑問を記憶の隅に追いやった。
 
 
 


〜おまけ〜



「おい、ウソップ!!! 見ろよこの仮面!!! 絶対お前に似合うぞ!!!」

「どれどれ……ってどこの舞踏会に行かせるつもりだァ!!!」


「えー、そげキングの仮面に比べたら、結構イイセンスしてると思うけどな」

「『そげキング』って何だよ!!? どこの三流ヒーローだよ!!? おれならもっとカッコイイ名前を名乗るぞ!!?」


「…………このピノ〇オが」

「ピノ〇オも知らん!!! お前はおれに何を求めてんだ!!?」


「……特に何も? そんなに期待してないし?」

「……お前いつか泣かす。絶対に泣かす」


「ウソップが!!? 俺を!!?……っぷ」

「…………もうイイ」



〜Fin〜
 
 
 

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