小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”それぞれの夢へ”



〜Side ゾロ〜



「ロロノア・ゾロ!!!」


 船に向かいつつ海軍から逃げていると、さっき武器屋で刀を見立ててくれた”くいな”に瓜二つの女が、海軍のジャケットを着て、おれ達の進路を阻むように立っていた。


「「「曹長!!」」」

「あなたがロロノアで!! 海賊だったとは!! 私をからかってたんですね!! 許せないっ!!!」

「お前、あの娘に何をしたァ!!!」


 コックが頭からおれを疑った発言をしている。仮にも同じ船の船員だってェのに……コイツの事はなんとなくだが理解し始めてる。ココは取り合えず無視だ。


「てめェこそ、海兵だったのか」

「名刀”和道一文字”回収します」


 コチラを見据えて構える姿は、様になってはいる。曹長の肩書きは伊達じゃねェってとこか。


「……やってみな」


 放たれた一閃を、おれは軽がると受け止めた。直前まで刀を抜かない所や構えから、この女は「居合い」の使い手と考えていたんだが、素早い抜刀からの大上段を放ってきた。

 悪くはないが……無駄が多いな。


「先行ってろ」

「おう」


 二本目に手をかけながらルフィに先に行くように促す。一本で簡単に押し切れないのは、コイツの体捌きの巧さからだろう。とてもこの細腕で支えているとは思えない圧力に、おれはまた少しだけ”くいな”を想起させられた。

 数回切り結んだが、三刀流を出すまでもなく圧倒できると感じ、壁に追い詰め刀を弾き飛ばす。


「この刀は渡せねェんだよ。どうあってもな!!…………じゃあな、先を急ぐんだ」


 刀を鞘に納め、その場を去ろうとしたが、コイツの言葉がおれを苛立たせ、足を止めざるを得なくなる。

 このパクリ女が〜〜〜!!!!!

 取り乱したおれは、自分でも訳がわからないような事を言ってしばらくの間、パクリ女と無益な口論をしちまった。



〜Side タクミ〜



「よっしゃ!! 偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやろうか!!」


 サンジの提案に、皆の顔が輝く。ココまで来たのだという実感が、ようやく俺にも湧いてきたな。

 ローグタウンからの出航は、それなりに大変だった…………少しだけ時間を遡ろう。


 スモーカーと対峙した瞬間、試しに放ってみた「嵐脚 獅終」は、見事なまでに無効化された。衝撃として伝わってくれないかと、少しだけ期待したのだが、煙を散らす事しか出来なかったな。

『「六式」使いか!!?』と、スモーカーの警戒を強めただけに終わるという残念な結果だった。あんな事になるなら大人しくしておけばよかったよ。

 煙の速度も想定していたものよりは速かったが、俺の「剃刀」を捕らえる程ではないので、逃げ回りつつ距離を取り攻撃を加えるが、ダメージが与えられない以上、俺達の戦いに決着はつかなかった。

 ルフィを狙う”ホワイト・ブロー”の先端を何度か霧散させることには成功したが、この技は数瞬のタメが要る以上、乱発には向かない。

 結果、ルフィは捕まり、俺は何も出来ないでいた。近づけば海楼石のしこまれた長十手の餌食になりかねないのでルフィ救出は非常に困難な状況。

『早くドラゴンこいよっ!!!』と内心毒づき始めた頃に、ようやく現れたルフィの父、革命家ドラゴン。

 ルフィ捕獲は俺の妨害もあって時間がかかったはずなのに、同じタイミングで現れた所をみると、様子を伺っていたのだろうか?

 ドラゴンの手助けでようやく船に向かう事ができた俺たちは、嵐の中を出航。

 現在に至るというわけだ。


 おっと、樽の用意も万全。今は進水式に集中した方がイイな。


「おれはオールブルーを見つけるために」


 サンジが華麗な動作で樽に足を乗せる。


「おれは海賊王!!!」


 ルフィはゴム人間なのに、身体が固いのか? と疑問を持つような動作だ。おそらく気合が入ってるんだろう。


「おれァ、大剣豪に」


 ゾロの目には確かな決意の色がある。たしぎに会って思うところがあったんだろうな。


「私は世界地図を描くため!!」


 ナミの顔は晴れやかだ。この夢が、本当にナミの夢として再び語れる様な状況になったのが最近だから、喜びも大きいのだろう。


「おれは勇敢なる海の戦士になるためだ!!!」


 ウソップの言葉に躊躇いはない。チュウを無傷で倒したのが影響しているのかもしれない。


 皆が俺の方を向く中、俺も静かに足を乗せる。


「この世界の、生物図鑑を作るために」


 ルフィが皆を見渡して声をかける。



「いくぞ!!! ”偉大なる航路”!!!!」



 それぞれの夢を乗せた足に踏み抜かれ、樽は大きな音を立てて砕けた。
 
 
 

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