”歓迎の町”
〜Side ウソップ〜
「おっしゃ、できた!! 空から降ってきた男”雪だるさん”だァ!!!」
現在メリー号はウイスキーピークに向かって航海中、天候は冬、時々−春。
「はっはっはっは……まったく低次元な雪遊びだな……てめェのは!!」
「何っ!?」
ただの巨大雪だるまなんかを作っているお子様に、芸術ってヤツを教えてやらねェとな。
「見よ、おれ様の魂の雪の芸術っ!! ”スノウクイーン”!!!」
「うおおスゲェ!!!」
最近のおれ様は”ツッこみ”としての出番ばかりで、”芸術家”としてのおれ様を見せる機会がなかった。ルフィとおれ様じゃ、芸術レベルに差がありすぎるかと心配したんだが、どうやらコイツにも、おれ様の芸術の素晴らしさがわかったようだな。
「よし、雪だるパンチ!!!」
……ルフィのブサイクな雪だるまからロケットパンチが発射されて、おれの魂は砕け散った……
「何しとんじゃおのれェ!!!」
「がァーーーーっ!!! 雪だるさん!!!」
おれのツッこみキックで巨大雪だるまは破壊されて、おれ達は睨み合う。
「やってくれるじゃねェか……ルフィ」
「お前こそよくも、こうなったら……」
フ、おれ達の考える事は同じか……イイだろう。君の挑戦を受けて立とうじゃないか。
「「雪合戦だァ!!!!」」
「180度!! 船を旋回!! 急いで!!」
おれ達の戦いの叫びに被せるみてェに、ナミがクルーに指示を出す。イイとこだったってェのに……
「180度!? 何で引き返すんだ?」
「忘れ物か?」
「違うわよ!! タクミに言われるまで気づかなかったわ!! ちょっとログポースから目を離したスキに進路から逆走してるのよ!!! 波は静かだったのに……」
おれとルフィが質問したら、ナミがパニクりながら説明してくれたけど、いくらなんでも180度もずれるまで気づかねェとは……一言だけ言ってやろうかな。
おれが声を発しようとしていたら、あのミス・ウェンズデーが大きな溜息を吐いた。
「あなた本当に航海士? この海でログポース以外を信用してはいけない!! 最低限の常識よ?」
そこまで言うか。今度はナミを庇ってやるつもりでいると、寒さでイラついてるのか、あからさまに不機嫌なタクミが、爪を剥き出しにしながら詰め寄った。
「客人とはいえ、今は姫もこの船の船員。帆船は全員で操舵するものですからね。アホの王様共々……黙ってキリキリ働けェ!!!」
「「はっ!!はいぃぃ!!!!」」
タクミに脅しをかけられた二人は、ビビリまくって慌てて甲板に出て行く。ありゃビビるわな……ナミに何も言わねェでよかったぜ。
「ナミ、指示をくれ」
タクミに訊ねられて、ナミは現状で最良の指示を出してるっぽいけど……
「おい待て……風が変わったぞ!!!」
「うそっ!!?」
明らかにさっきとは違う風が吹き始めた事をナミに伝えると、ナミは驚いて身を乗り出し、例の二人組みは気持ち良さそうに風を全身で受けている。
「「春一番だ」」
「何で!!?」
クロッカスのじいさんから聞いちゃいたけど、本当に出鱈目な海だ……その後にも急な高波、海流の変化、突然の濃霧、巨大な氷山に擦っちまって船底の水漏れ、突風、雷、大渦、etc……
皆、疲れてぐったりしてるけど、ルフィとタクミは、あんだけ動いてたのに平気そうな顔してる。あの二人はバケモノだな。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、くはっ、あーーーーーーよく寝た……ん?」
……そういやコイツはずっと寝てたんだ。何度起こしても起きなかったクセに、今頃になって目を覚ましたゾロは、軽く屍となっているおれ達を見渡し、あろうことか苦言を言ってきやがった。
「おいおい、いくら気候がイイからって、お前らダラけすぎだぜ? ちゃんと進路はとれてんだろうな?」
空気を読めないゾロに、言葉は出せずともおれ達の意見は一致していた。
”お前な……!!!”
「!?……何でお前らがこの船に?」
「おそーーーーーーっ!!!!」
Mr.9の驚きも無理はねェけど、ゾロは双子岬出航前の宴会の時から、今までずっと寝てたからな。
「今そいつらの町へ向かってるんだ」
ルフィに言われて、ゾロは怪訝な顔を見せた。まぁ、コイツら普通に怪しいし。
「まさか送ってやってんのか? 何の義理があるわけでもなしに」
「うん、ねェよ」
「ゾロ、言いたい事はわかってる。俺に考えがあるんだ、少しだけ楽しもう−−−−」
タクミはゾロに何か耳打ちしたみてェだ。それを聞いたゾロは、表情を一転させてニヤリと笑う。
「まあ、タクミがそう言うんなら付き合ってやるよ」
「それより、お前が寝てる間の航海はそりゃあ大変だったんだ。ナミに謝っておいたほうが…………」
タクミが忠告しようとしたけど、遅かったか。最近手が早いナミは、今回にいたっては、説教すらしてねェから、ゾロは何がなんだかわからねェみてェだ。ていうかナミのパンチ力がどんどん上昇している気がするのは俺だけか?
「”偉大なる航路”がどれだけムチャクチャな所か分かったわ。わたしの航海術が、全く通用しないんだもの!!!」
いや、自信満々に言われても…………逆らうのはヤメておこう。
「大丈夫だろ。最初の航路は七本から選べるくらい複雑なんだ。ここから先は、こんなに不安定になる事もないハズだし、ナミは優秀だからすぐに慣れるさ」
「タクミは相変わらず冷静ね。でも、その通り!! その証拠に、ホラ!! 一本目の……航海が終わった」
おれ達がサボテン岩に見とれていると、ミス・ウェンズデーとMr.9は海に飛び込んで去っていった。その様子を見ながら、タクミが何処かニヤついた表情をしている。
何を考えてやがんのか聞いてみようと思って、タクミに近づいていってたんだが……歓声が聞こえる??
霧の中、入り江を進むと、おれ達を総出で歓迎する町民のヤツらの姿があった。
やっぱ海賊はヒーローなんだ!!! 町長のおっさんが歓迎会をやってくれるってんで、おれ達はすぐに会場に向う。
その途中、タクミ、ゾロ、ナミの三人が、悪人の笑みを浮かべてるのが目に入ったけど……おれは見なかった事にした。
〜Side ゾロ〜
「うっぷ!!」
「どあーーっすごいぞ!! 十人抜きだァ!!!」
おれは安いエールを飲み続けて、少しばかり飽きてきた。最近はタクミの趣味でイイ酒ばかり飲んでるからな……うちの一味の金は大丈夫なのか? タクミのおかげで食費が抑えられているし、まあ大丈夫なんだろ。
ナミは十二人抜きしてるみてェだし、もう少し付きあったらおれはヤメにしようと思う。
ウソップは六杯くらいでもう出来あがって、虚実を織り交ぜた(まあ、九割方が嘘だな)話で場を沸かせている。
ルフィは食いまくってもう体型がおかしなことになってやがるが、ゴムだから大丈夫だろ。
……アホコックもあんまり酒には強くねェみてェで、ベロベロになりながら女を口説いてやがる。まあ、アイツの場合はいつもの事か。
問題は…………タクミだ。
「こんな安っぽいワインが飲めるか!! さっきのはもう無いのかよ?」
「あ、あのワインはもう出荷用の物しか残っておりませんので……そうだ!! ウイスキーなんていかがでしょう?」
なんかもうやりたい放題で、完全に族になってやがる。
「シングルモルトのヤツがあるなら、出せるだけ出してくれ」
「か、畏まりました……」
勝負に乗る事も無く自分のペースで、それぞれの酒の上物だけを飲みつくしてるみてェだ。と言っても、飲んでる量も明らかにおれ達より多いんだけどな。
おれも誘われたが、あそこまで鬼畜にはなれねェ…………しかも最後には金品奪ってとんずらって計画を、アイツがナミと話してるのが聞こえた。
「……イカン、もうヤメだ」
ココが賞金稼ぎの町だって知ってんのは、おれとナミとタクミの三人だけ。完全に潰れるわけにはいかねェからな……ってのは建前で、なんかコイツらが哀れに思えてきたし、本格的にエールに飽きたから、おれは13人目で潰れたフリをした。
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「いつまで飲んでやがる!!? 限度ってもんがあるだろ!!! 限度っで……マ〜〜マ〜〜〜〜♪ 限度ってもんが!!」
一味の全員が眠りに落ちても、横暴の限りを尽くし続けたタクミに、町長を名乗っていたおっさんがついにキレた。
「歓迎セレモニーはもうお終いか? それじゃあ海賊と賞金稼ぎの異文化交流会でも始めるか。ゾロ、起きろよ」
「はぁ〜〜、いくらなんでもやりすぎなんだよお前は」
「きっ、貴様らいつから気づいてやがった」
おっさんは驚愕を隠せないみてェだな。ナミは狸寝入りを続けるみてェだし、タクミも説明する気はなさそうだ。おれは後ずさりするおっさんを威圧しながら表に出る。
「Mr.9とか言う怪しい男を送り届けた町で、こんなに歓迎されるわけねェだろ。だいたいおれは昔、お前らの会社からスカウトされたことがあるんだよ”バロックワークス”」
正体を知られていた事に表で待機していた賞金稼ぎども全員が驚いている。
「こりゃ驚いた……!! 我々の秘密を知っているのなら、残念ながら消すしかあるまい……また一つ……サボテン岩に墓標が増える……!!!」
冷静さを取り戻したおっさんは、おれたちに死の宣告をしてきやがった。タクミの懸賞金が半分になっても構わねェって事か。
相手の本気を察したおれが身構えようとすると、タクミが何かを引きずりながら、扉から出てきた。
「墓標は増やさなくても構わない。楽しい想いをさせてくれたせめてもの礼だ。殺さずにおいてやる。ゾロ、賞金稼ぎざっと百人だ。何人潰せるか勝負しよう。俺は取り合えず五人だ」
タクミは自分に酌をしていたヤツらを、真っ先に潰してきたみてェだ。イイ性格してやがる。
「構わねェけどよ、数えんのが面倒だぜ?」
「そうだな、じゃあ俺が雑魚を潰すから、ゾロは?付をやってくれ。さて、楽しい楽しい異文化交流会。ダンスパーティーといこうじゃないか……悪魔と……踊れ!!!」
そう言うとタクミはいつもの戦闘体型になって駆け出していった。最近はなんとか目で追えるようになったが、相変わらずとんでもねェスピードだな。
混乱している敵の間を縫うように駆け回り、次々と仕留めていく。雑魚を相手にするときのタクミは心底楽しそうに見える。酒と違って、敵の質には拘らねェタイプみてェだ。
「さあ、おれ達も始めようか」
おれは?が何なのかしらねェが、おそらく幹部クラスであろう町長のおっさんに向かって駆け出した。
〜Side タクミ〜
……弱い、あまりに弱い。こんな貧弱な身体で、よくもまあ賞金稼ぎを名乗れたものだ。アーロンパークの下っ端の半分も強度がなさそうな肉体だったもんで、一人目は生死不明だ……死んでたらスマン。
打撃では殺しかねないので、淡々と武器を破壊しながら、敵の足を貫いていく。数が多いから、全員の無力化に少々時間がかかってしまった。
「よう、随分と時間がかかったな」
気づくとゾロは屋根の上で、俺が飲んでいたグラッパを飲んでいた。
「酔いが回って動きが鈍くなってたんだよ。それより、そのグラッパは最後の一本なんだから返せ」
「……これぐらいはイイじゃねェか。酒蔵にはまだイイ酒があるんじゃねェのか?」
ゾロは若干呆れ気味に見える、失礼なヤツだ。俺は酒蔵に行く前に、酒場で暇そうにしていたナミに声をかける。
「ナミ、収穫はどうだ?」
「全然ダメ、200万ベリーくらいにしかならないわ」
ナミは小さな袋を掲げて見せる。あの量からして、現金と僅かな宝石ってとこだな。
「タダで宴会出来て、200万も手に入ったら十分だよ。俺は酒蔵の高級酒をありったけ船に積んでおくから、朝になったら出航しよう。それと、あのミス・ウェンズデーって女はどっかで見た覚えがあるんだ。気になるから、暇だったら監視しといてくれないか?」
「それってお金になりそうな感じ?」
ナミは眠気が飛んだみたいで、ニヤニヤしながら聞いてくる。俺が言うのもアレだが、欲望に忠実なヤツだ。
「まだ何とも言えないな。とにかく頼んだよ」
「わかったわ♪」
酔いつぶれる程じゃないにしろ、ナミも酔ってるんだな。あんなに上機嫌に頼みごとを聞いてくれるのは珍しい。
俺は酒蔵と船を何度か往復して、目ぼしい酒をほとんど積み終えた。途中で”Mr.5のヤラれペア”を見かけたが、俺の出る幕じゃないしスルーしておいた。
しばらくして俺が戻ると、イガラムが囮となって出航するところ。イロイロと見逃したみたいだな。
「ちょっとタクミ!!! アンタのせいでとんでもない事に巻き込まれたじゃないのよォ!!! 殴るわよ本当!!!!!」
まぁ、当然のように殴ってから言われた。今度から「鉄塊」でガードしようかと本気で思いたくなる痛さだ。俺はナミの今後が少しだけ心配になったが、強くなるならOKだろう。
「何の事だ!? もしかして、その娘はやっぱり潜入していたビビ王女だったのか?」
酒が入っていようとも、俺の演技は冴え渡る。アレくらいはまだ序の口だからな。無意識に「生命帰還」で身体を最適化しているのか、この世界に来てからの俺の酒の強さはハッキリ言って異常だ。
この力がアレば、急アルなんてマヌケな死にかたをする事もなかっただろうに……過ぎたことを考えてもしょうがないな。
それに死んだおかげで、珍獣満載のこの世界に来れたわけだし、俺のもう一つの目的も……もう目の前か。顔がニヤけそうだ。
「そうよ!! わかってたんならハッキリと言いなさいよね!! しかも、組織のトップは王下七武海の”クロコダイル”だって言うじゃない!! アンタそれも知ってたんじゃないでしょうね!!」
「いや、そこまでは知らなかった。ただ、バロックワークスに、俺の目的の助けになる人物がいるってことは掴んでいたから、誘いに乗ったんだ」
俺とナミが言い争ってる間に、イガラムは行ってしまったみたいだな。まあ、ロビンにはイガラムを殺す気が無いから大丈夫だろ。アニメ版の表現じゃ、確実に死ぬような爆発だったけど……
そのまま沖合いに消えようとする瞬間、イガラムの船は盛大に爆発した……あのおっさん……アレでよく生きてたな…………よく見れば、水面から一瞬だけ顔が見えた。あのまま死んだフリをするほうがイイって考えたんだろうな。好判断だ。
「そんな……バカな!!! もう追っ手が!!?」
「いや、それは無い。あまりに早すぎる。単独犯だろうが……早く出航するべきだ。俺とゾロは、万が一を考えて、メリーの防衛に行く。ルフィはサンジとウソップを連れてきてくれ」
「うしっ!! 任せろ!!」
俺たちが船に着いたときには、カルーがすでに乗り込んでいた。ネズミは沈む船から事前に逃げ出すと聞くが、それに匹敵する生存本能だな。
俺とゾロはそのまま数分ほど待ち、遅れて全員が到着すると、カルーコントをこなしてから出航した。
サンジとウソップを黙らせて、船が支流に乗ろうかという時、ついに!!!…………俺の待ち望んだ声が聞こえた!!!
「霧が出てきた、もうすぐ朝ね……船を岩場にぶつけないように、気をつけなきゃね。あー、追っ手から逃げられてよかった♪」
「な!!!」
「誰だ!!!?」
うるさいお前ら喋るな!!! もっと余韻に浸らせろ!!! 俺は、警戒するゾロの刀の柄を押さえ、自らの高鳴る鼓動を抑え…………きれずに声をかけた。
「ずっと逢いたかった!! ニコ・ロビン!!!」
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後書き
どうも、作者の羽毛蛇です。
ようやくニコ・ロビン登場。ココからは、正史から大きく外れる事が多々あります。
そして、恋愛成分増加。ビビを筆頭にキャラ崩壊(魔改造含む)が大きくなっていきます。
賛否両論があるとは思いますが、ココからが『百獣の王』の書きたかった部分と言っても過言ではないので、宜しければお付き合い下さい。
コメントお待ちしております。