”ニコ・ロビン”
〜Side ロビン〜
夜明け前……月明かりの照らす中、私を見据えたその男の顔には、押さえ切れない歓喜が溢れていた。
私は、もう長い事、そんな顔を向けられていなかった。そんな私に、男はその笑顔のまま言葉を紡ぐ。
「ずっと逢いたかった!! ニコ・ロビン!!!」
!!?……私の事を知っている……その上で逢いたかったですって? この男、たしか副船長の”銀獅子のタクミ”だったわね……何者なの?
「ニコ・ロビン? タクミさんはミス・オールサンデーの正体を知っているの!!?」
王女の質問にも答えないで、この男は私だけを真っ直ぐに見据えている……意味がわからないわ。
「今度は何!? ”Mr.何番”のパートナーなの!!?」
オレンジの娘は慌てて聞いているけど、王女は様子を伺ってるみたいね。私と”銀獅子”の繋がりでも警戒しているのでしょうけど……この男、私にも見えてこないわ。元賞金稼ぎかしら? それにしては逢いたかったって言い方は妙ね。
「Mr.0の……パートナーをやってるのか?」
「ええ、そうよ」
私の正体を知っているなら容易にできる推論ね。これ以上喋るつもりは無いみたいだし、王女には少しだけ焦りを覚えて貰いましょうか。
「それより、さっきそこで、Mr.8にあったわよ? ミス・ウェンズデー……」
「まさか……アンタがイガラムを!!!」
そう、これでイイ。私はこの王女に憎まれる存在でいなければならない。アラバスタ王国を、自分の目的の為に、崩壊へと導いているのだから。この王女様は反乱軍のリーダーと仲がイイ。もしかしたら、反乱に迷いを生じさせる事が出来るかもしれない。
私は何としても目的を果たす。でも、アラバスタ王国に滅んで欲しいわけじゃない。勝手な自己満足かもしれないけれど、これがアラバスタ王国への、この王女への、私に出来るせめてもの罪滅ぼし。私を憎み、反乱を止めてみせなさい!!
「待つんだ、ビビ王女……ニコ・ロビンは、イガラムさんを殺してはいない。貴女を焚きつける為にあんな事をしたんだ」
!!? 私の考えを読まれてる!?……どういう事? 私はそんな素振は微塵も見せていないハズ……
「どういう事!? タクミさんはあの女の何を知ってるの??」
「ニコ・ロビンは能力者だ…………とびきり暗殺向きのな。イガラムさんは吹き飛ばされて海に落ちただけだ。殺すつもりなら能力で殺してから、見せしめと証拠隠滅の為に吹き飛ばすはずだ。イガラムさんは爆発の瞬間まで無事だったのを、俺はこの目で確認している」
この男、何て目をしているの!? 確実に視界の外に消えてから爆破したハズなのに!!?
「それなら、何でイガラムを助けなかったのよ!!」
「吹き飛んだイガラムさんが、自分から海に潜っていくのが見えたからだよ。あそこで死んだと思わせておいた方が得策だと判断したんだろうな。それと、ニコ・ロビンを誘い出すために見てみぬフリをした。王女にだけでもイガラムさんの無事を伝えるべきだったな……不安にさせてしまってすまなかった」
この私を誘い出す? 何の目的だか知らないけれど、やはり危険な男ね。まぁイイわ。自然系の能力者でも無い限り、私が負ける事はまずあり得ない。
「それで? 私を誘き出して何のご用かしら?」
情報では確か、この男は動物系の能力者。戦闘になったとしても、軽くあしらってみせる。
「……手を組まないか? 俺は、君の目的の”石”の在り処を、アラバスタを含めて三つほど知っている」
「何ですって!!!!? アナタは何者なの!!!?」
予想外の答えに、私はさすがに驚きを隠せなかった。
「ただのハンターだ。少しだけ……占いの得意なね」
占い?……ふざけてるとしか思えないけれど、話を聞いてみる価値はありそうね。
「私と組む事による、アナタのメリットは? それと、さっきの話の確証が欲しいわ」
「俺のメリットは、二つ目の”石”に在り処が記されているらしいポセイドンの平和的利用。話の確証は、そうだな……アラバスタの”石”にはプルトンの在り処が記されている……あまり詳しく話す訳にもいかないからな、これでイイか? まぁ、俺はあんな物には興味は無いけどな」
!!?……この男の持つ情報は、おそらく本物。それなら、無理にクロコダイルに付き合わなくてもイイ…………考えるまでもないか。
「それで十分よ……イイわ。アナタと手を組みましょう。よろしくねハンターさん」
この男には利用価値がある。目的とやらには、適当に付き合ってやろう。そう、利用する男が変わっただけ、それだけの事。
〜Side タクミ〜
よっしゃぁああああああ!!!!! ロビンを引き込んだぁああああああ!!!!! 原作なんか知るかぁああああああ!!!!!
18年…………ココまでの道のりは長かった。おもいっきり信頼されて無い感じではあるが、俺の苦労は報われたんだ。
ハンターと考古学者、コンビを組む機会も多くなりそうだし、これから時間をかけて、ロビンの心の闇を取り払ってあげよう。
「ルフィ、ロビンは俺の夢の実現の為に、長い間捜し求めていたヤツなんだ。俺の私兵としてでもイイ。この船に乗せてやってくれないか?」
「何言ってんだ?? タクミの仲間になるんだったら、おれ達の仲間になるって事だろ? この船に乗るのはあたりまえじゃねェか」
「あら、ありがとう。受け入れに感謝するわ♪」
マジでか!!? もっと紆余曲折を経て認めさせるシナリオを用意してたのに、何だか拍子抜けだな……ロビンも言葉では余裕を保ってはいるが、表情は驚きを隠せていない。
「ちょっと待って!!? この女はバロックワークスの副社長よ!? 信用できるわけ無いじゃない!!!」
ビビ、やっぱりそうきたか。ナミまで騒いでるし、ゾロもやっぱ警戒を解いていないみたいだな。
「ニコ・ロビンにとって、クロコダイルよりも俺のほうが3倍お得な男なんだから大丈夫だよ。それにニコ・ロビンは、クロコダイルの目的を達成させない為にビビを焚き付けに来たってさっき説明しただろ?」
「でも……」
「イイじゃねェか。タクミの占いは外れた事がねェんだ。それに、おれは何となくアイツはいい奴だってわかるんだ」
船長であるルフィの言葉に、ビビは反論する事は止めたみたいだが、警戒心は相変わらずのようだ。一緒に航海していくうちに打ち解けてくれるといいんだが。
「うちの船長が、仲間だって認定してくれたみたいだし、ロビンでイイか?」
「構わないわ。それより……!?」
アラバスタへのエターナルポースを取り出そうとするロビンの手を、俺は慌てて止める。
「それは必要ないんだ。この航海で、俺たちにとって大切な出会いが、ロビンの他にもあると出てるからな」
「……また占い?」
ロビンは少し興味があるみたいだな。
「そんなとこだ。占いっていうよりは、俺のは予知っていうのが正しいけどな」
ロビンを早期に引き込んだ事で、イロイロと変わってきそうだが……いきなり青キジが来たりしないだろうな? チョッパーがいなかったら死にかねないぞ。
「……私の未来も見えるのかしら?」
不意に訊ねてきたロビンに、俺は笑顔で切り返す。
「それは楽しみに取っておいたらどうだ? 皆にも極力言わないようにしてるしな」
「いじわるな人ね……」
ロビンは少し不満げだ。まさか予知だなんていうのを、リアリストのロビンが本気にしたのか?
少しでも明るい未来を期待したのだろうか?
「……俺の為にも、ロビンの未来は明るいものにしてみせるさ。アイツらと一緒ならきっとそうなる」
俺の言葉にロビンは少しだけ目を見開き、真偽のわからない完璧な微笑を浮かべた。