小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”イルカ飯”



〜Side ビビ〜



 ミス・オールサンデーが、タクミさんとルフィさん(おもにタクミさん)のせいで仲間になってしまった……

 なんで!? 何で皆もっと疑わないの!? サンジさんの邪な感情は、ウイスキーピークでの女性に対する態度を見れば解るけど、ウソップさんなんか起き抜けに軽くタクミさんが説明しただけで納得しちゃったし、最初は疑ってたナミさんも、タクミさんの説得の前に、二分ももたずに陥落……

 この一味の危機回避能力はゼロに等しいと思うわ。それだけこの副船長が信頼されているってことなんでしょうけど、根拠が”占い”って……

 Mr.ブシドーは表面上は納得していても、警戒は解いていないみたい。流石ね!! この一味にもまともな考えの人がいてくれて助かったわ…………と思ってたら寝てしまった。

 何なのよ!!! 本当に大丈夫なのかしら?


 問題のミス・オールサンデーは、彼女が乗ってきたカメをタクミさんがスケッチしたりサイズ測定している間に、何か手紙みたいな物を書いているわ。


「何を書いてるのよ」

「あら、私には絶対に話しかけないって顔してたのに、もう良かったのかしら?」


 この女、わたしをからかって遊んでるんだわ。


「これは質問……いえ、尋問みたいなものだから構わないのよ。それで? 結局何なのそれ?」

「バロックワークス社への辞職願よ。バンチに持たせて帰らせるの。彼の困惑と怒りに歪んだ顔が目に浮かぶわ♪」


 ミス・オールサンデーはとても楽しそうに辞職願を書いている。覗き込んでみると、どうとってイイのか解らないような、ブラックユーモアに溢れた素敵な内容だったわ。コイツにとっては、あのクロコダイルさえもからかいの対象なの?

 でもクロコダイルにあんな過去や……へ、変態趣味があったなんて……本当かしら? どうでもいいわね。

 わたしが覗き込んでいるのを知ってか、書き終えたのに封筒に入れずに待っているあたり、案外まわりに気を使うタイプなのかしら? わたしがその場を離れると、書類を丸めて紐で括ってから、カメに載せて送り出してしまった。

 あんな辞職願を提出されたら、クロコダイルは怒り狂って、刺客を送り込まずに自ら乗り込んできたりして……

 ダメだわ、わたし。さっきから不安と疑問しか心に浮かんでこないもの。


「なァ!! 雪はまた降らねェのかなー!!」


 コッチの心配なんか気にしていないようすのルフィさんに、軽く呆れながら説明と注意をしていると、船内からサンジさんが出てきた。その手にはたくさんのグラス。


「おい!! 野郎ども!! おれのスペシャルドリンクを飲むか!!?」

「「「おおーーーーーっ!!」」」


 どこまでお気楽なんだろう、この一味……質問してきたハズのルフィさんも、サマーベットでくつろいでるし、タクミさんとミス・オールサンデーはすでにドリンク飲んでいる。、


「クエーッ!!!!」


 カルー、アナタまで……なんてイイお返事なのかしら。


「いいの!? こんなんで!!!」


 不安に耐え切れず、隣にきたナミさんに声を荒げて聞いてみると、シケでも来ればちゃんと働くそうだ。その事だけを言ったんじゃないんだけど……


「悩む気も失せるでしょ!! こんな船じゃ!!」


 楽しそうに笑いかけるナミさんの顔をみたら、なんかもうどうでもイイかなって思い始めたわ。


「……ええ、ずいぶんと楽」


 わたしの分のドリンクを受け取って、皆を眺めていたら、自然とそんな言葉が出た。


「おい、みんな見ろよ!! イルカだぜ」


 サンジさんの言葉に皆の視線が、海に身体を踊らすイルカに向かう。かわいいわね…………!!!?


「「「「「デカイわーーーーっ!!!」」」」」


 コチラに向ってくるイルカは、あり得ないほどに大きかった。一味のほぼ全員でツッこんだ後、わたしは慌ててナミさんに指示を仰ぐ。


「は、早く逃げましょう!!!」

「大丈夫よ、アイツ以外の全員が逃げるって言ったって、どうせ聞かないんだし、諦めて任せましょう」


 アイツ?? 任せる!? 何のこと?? 皆は大きさに驚きはしても、大して慌てた様子は無いみたいに見えるわ?

 わたしが困惑していると、タクミさんが”銀獅子”としての姿で船室から出てきたんだけど、いつもと違っていた。

 何度か見たことのあるライオンの能力だけど、いつものスマートな体つきじゃなくて、筋骨隆々って感じの体型だし、手には巨大な銛を持っていて、後なんか目が怖い。

 双子岬で食べた巨大カエルは、タクミさんが仕留めたって言ってたけど、まさかアレも仕留める心算なの!? カエルの二倍はあるわよ!!!


「いけーーーっ!! タクミーーーー!!! 今日の昼飯はイルカ飯だーー!!」

「おいっ!! イルカ飯って何だよ!!? その呼び方は食欲をなくすからヤメろ!!!」


 ウソップさん、そういう問題じゃないと思うわ。というより、あのイルカが食卓に並ぶのは、もう確定なの???


「イルカの肉は結構うまいんだぜ?ウソップはいらねェんだな?」

「ま、待てサンジ!!! 誰も食わないとは言ってないぞ!!!」


 サンジさんの言葉を聞いて、ウソップさんはイルカ以上に大きな反応を示す。


「どうでもいいけどよ、酒に合うもん作れよ」

「ちょっと可愛そうな気もするわね」

「でも何とかしないと、あの鋸みたいな歯で全員食いちぎられてしまうわ」

「オメーの想像がこえーよ!!! せめて丸のみって言え!!!」


 ウソップさんは忙しい人ね。それより、接近してくる巨大イルカに、この一味は微塵も恐怖は感じていないみたい。ミス・オールサンデーは良くわからないけど。

 そんな一味の光景に唖然としていると、タクミさんの手から銛が放たれて、もの凄い衝撃音がしたと思ったら、イルカはもう動かなくなっていたわ。


「嘘!!!? 信じられない!!! 今のアレは何!!!?」

「ハンタータクミの暴走モードよ。この一味にしばらくいるなら慣れなさい」


 満足げにロープを引くタクミさんの周りに皆が集まって、何人かは一緒になって加勢してるみたい。ナミさんも行っちゃったけど、流石にミス・オールサンデーは驚いているみたいね。

 その後、楽しそうにロープを手繰り寄せる一味の皆を見ながら、やさしげに微笑を浮かべたミス・オールサンデーを見て、わたしもルフィさんの言葉と、タクミさんの占いを信じてみようかなと思った。

 長い航海だもの。警戒してばかりじゃ息が詰まるわ。気持ちを切り替えて、わたしも皆の輪の中に加わった。



〜Side タクミ〜



「そういえば、ポセイドンって何なの? 私も聞いた事がないんだけれど?」


 イルカをスケッチして昼食分を切り出した後、いきなりロビンに声をかけられた。


「ポセイドンも古代兵器らしい、まあ兵器って言っても、海王類を意のままに操れる生物って話だ。俺は生物図鑑を作るのが夢なんだけど、海王類の調査は悪魔に呪われた身体じゃ厳しくてね」

「そんな事の為に古代兵器を欲して、私みたいな危険人物を仲間に引き込んだの?」


 俺の言葉を聞いて、ロビンは驚き半分、呆れ半分といった様子だ……そりゃそうだろうな。


「ロビンの過去は大体知ってるよ……俺は歴史を知る事が罪だとは思わない。ロビンは危険人物なんかじゃないさ。それに俺の夢をそんな事って言うなよ」

「……そうね、素敵な夢だと思うわ」


 ロビンは笑って答えてくれたが、危険人物の件はスルーされたみたいだ。俺の描いたスケッチを見て『上手ね』とか言って話をそらされてしまった。

 ちなみに『ロビンも絵を描いてみたら?』と、先程俺が渡したスケッチブックには、何か”画伯”的な絵が描かれていた……原作のクラーケンのスケッチとか酷かったしな。


 そんな隙があるロビンも素敵だ!!!


 ……ダメだ、思考が暴走しそうだ。コレじゃサンジとかわらん。だから一旦離れて欲しいんだけど、ロビンは俺の事を探ろうとしているのか、一番の味方を俺と認識しているのか、道具の手入れをしている俺の横で本を読み始めてしまった。

 たぶん、メリー号にあった読んだ事のない本を、ナミから借りて来たんだろう。俺の苦悩はしばらく続きそうだな。



〜Side ナミ〜



 タクミが強引に仲間に誘ったロビンは、この船が気に入ったみたいで、終始ニコニコしている。わたしもタクミが言うから納得したフリをしていたけど、そんな必要は無いかもしれないわね。

 わたしだってアーロン一味にいたわけだし、ロビンにも何か事情があって犯罪組織に身を置いていたんだろう。タクミが言ってた”石”っていうのが関係しているのは確かだろうけど、二人から話してくれるのを待つ事にした。

 さっきは本棚を覗き込んで『コレ、借りてもいいかしら?』って聞いてきたんだけど、ウソップの持ち込んだ良くわからない本だったから、『ウソップのだけど好きにしていいわよ』って答えたらお礼を言って部屋から出て行った。

 その後で、キッチンでサンジくんに何か飲み物を貰おうと思ったら、ロビンとウソップが話をしていた。たぶんウソップ本人の許可を貰いに来てたんでしょうね。ウソップにお礼を言ってからキッチンを出て行くロビンをみて、仲良くなれるかもって思ったわ。

 飲み物を受け取って甲板に出ると、ロープの手入れをしているタクミの横で、ロビンがさっきの本を読んでたんだけど……甲板は広いのに、椅子もあるのに、何でタクミの横で読むの?

 タクミは煙草を吸いながらロープを拭いているけど、なんだか落ち着かない様子に見えるわ、灰がロープに落ちてるし。『逢いたかった』とか言ってたし、緊張してるのかしら?

 いや、そんな性格じゃないわよね……まぁイイか。

 二人にはまだ、わたしたちに言えない事があるみたいだし、仲間意識が強いって事よね。


 …………別に、わたしが二人の事を気にする必要も無いし。


 ある程度ロビンに対する意識が固まった頃に、飲み物の中に入ってたチェリーを手に取ると、”ナミさんへ、愛を込めて”と器用に刻まれているのを見つけて、わたしはちょっとだけ溜息をついて、結局それを口に入れた。
 
 
 

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