小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”リトルガーデン”


 
〜Side ゾロ〜



 賞金稼ぎの町から、ビビとロビンがこの船に乗った。

 ビビの事は納得したが、あのロビンって女は怪しすぎる。タクミを信じていねェわけじゃねェが、バロックワークスだけじゃなく、闇の世界を生きてきた女だと本能的にわかる。

 今はナミとニコニコ話しちゃいるが、この女は殆ど甲板にいる。逃げ場の無い船内に留まらないようにしてんだろうな。本を読んでる間も、周りへの警戒を解いてなかった。要はこの女も、おれ達を信用しちゃいねェってことだ。

 おれは自分の眼で見た物を信じる事にしている。タクミは全く警戒している様子がないし、ビビも警戒が薄れてきているのが解る……おれが最後の防衛線だ。一応コイツの能力を把握しておいたほうが都合がいいだろう。


「タクミ、そういえばアイツは暗殺向きの能力者だって言ってたが、具体的にはどんな能力なんだ?」


 自然に聞けたと思ったんだが、タクミの表情は僅かに固い。


「……まあ、かなり誤解を生むような言い方だったな。ロビンの能力には応用力があるからから、もちろん暗殺以外にも使い道がたくさんあるんだぞ? 俺が説明するよりも、本人に実演してもらった方が手っ取り早いだろ」


 そう言ってタクミはあの女を呼びに行き、ついでとばかりに”ロビンの能力お披露目会”っつう名目で一味を甲板に集めた。

 あの女もかなり困惑してるみてェだな。暗殺向きなんて言われた能力を、入ったばかりの一味に晒すのを躊躇してんだろう。

 だが、タクミと何か小声で話したかと思うと、意を決したのか両腕を胸の前で交差させた。


「”百花繚乱(シエンフルール)”」


 なっ!!? 女が呟くと、船の甲板のそこらじゅうから手が生えてきやがった!!! ナミやウソップなんかは悲鳴をあげてる。よく見ると生えてきた手はこの女の手と同じみてェだ。


「ロビンの能力は超人系”ハナハナの実”の力だ。ロビンの視界の範囲内なら、どこにでも自分の身体の各部を咲かせる事が出来る。かなり万能だろ?」


 なんて能力だ!!! 女の力っていっても、この数の腕に押さえつけられたら、抵抗できる人間なんかいやしねェ!! 逃走しようにも、この女の視界から出る必要がある以上、おそらく不可能だ。

 遠距離から関節技でも決めれば一撃だし、一対一ならほぼ無敵、多人数相手でも圧倒的な戦力を発揮する能力だ。あの女も大した弱点がないからこそ、この能力を披露しても問題ないと判断したんだろうが、一味に警戒心を持たせちまったみてェだな。


「俺が置いた高いとこの物を取るときには、ロビンに頼むとイイ」


 ……は?? さっきまでビクビクしてやがったナミ、ウソップ、ビビの三人は、タクミの発言に唖然として、結局笑いだした。

 そりゃそうだろう、自分で暗殺向きって紹介していた能力の説明をされて、皆マイナスの想像しかしていなかったような時に、随分と平和的な活用法を提案してきたんだから。

 ロビンの能力の平和利用を次々と提案するタクミに、当の本人も戸惑ってる。ナミやウソップに笑いながら話しかけられ、曖昧に返事を返しちゃいるが、笑顔に不自然さは無ェ。

 タクミの狙いは最初からこれだったんだろう。どうやったっておれの警戒を解けない事をわかっていながら、ロビンを早く一味に馴染ませるために能力披露をさせたんだろうな。

 タクミは楽しそうに話をするアイツらを見て、一人で微笑みを浮かべている。タクミがココまでしてやるのは、本当に目的の為に必要だからってだけなのか?

 …………少しだけ浮かんだ想像は、ナミの事を考えると、嫌な方向にしか向かわねェ気がした。

 おれはロビンの危険性を含め、しばらく静観する事に決めて眠りについた。



〜Side ロビン〜



「ロビンの能力を皆にお披露目しときたいからさ、これから皆を集めるから、ちょっと実演してくれないか?」


 航海士さんと話しをしていたら、ハンターさんがいきなり話しかけてきて、私の返事も待たずに、他の船員を呼びに行ってしまった。


「ロビンの能力って、『暗殺向き』ってタクミが言ってたヤツよね?」

「え、えぇ」


 航海士さんが不安げな顔で訊ねてくるのを、私は曖昧ながら肯定してしまった。あの男は何を考えているの?? 表面上はこの一味に溶け込めてきたと思ってたのに、コレで台無しにするつもりかしら?

 全員が警戒する事によって、自分だけが私の理解者だと思わせて、利用しやすくする策略とか??……考え出したらキリがなさそうね。

 私が意図を図りかねていると、彼の呼びかけで一味の全員が甲板に集まっていた。剣士さんなんかあからさまに警戒心を出しているし……どうしようかしら?

 子供の頃は化け物と言われたこの力も、裏社会で生きていくには役に立った。でも、この一味が求めている能力では無いでしょうから、披露したところで警戒されるだけよね。

『早く見せろ』と子供のように騒いでる船長さんを前に困惑していたら、ハンターさんが私に耳打ちしてきた。


「ロビン、俺の不用意な発言のせいで警戒されるかもしれないけど、ちゃんとフォローするから。どうせなら百本くらい盛大に咲かせて見せてよ」


 ……無責任な人。私はバロックワークス社を抜けたのだから、この一味での今後の評価を決められかねないこの状況を、そんなに楽観視できない。

 でも、こうなった以上は、戦闘に役に立つ事を存分に証明するのは、案外得策なのかもしれないわね。

 どうせこの男の持つ”歴史の本文(ポーネグリフ)”の情報を手に入れるまでは、一味の戦闘にも手を貸すことになるでしょうし。


「”百花繚乱(シエンフルール)”」


 私は十分にシュミレーションをした後、能力を披露した。予想通り、先ほどまでは仲良く話が出来ていた航海士さんが悲鳴をあげているし、剣士さんの表情は完全に敵を見据えるかのような眼だわ。

 私が自分でフォローを入れようとした時に、ハンターさんはどこで知ったのか、私の詳細な能力を冷静に皆に話してから、そのままの口調でこう続けた。


「俺が置いた高いとこの物を取るときには、ロビンに頼むとイイ」


 この男は何を言いたいの!? 私以外も唖然としているわ。どんなリアクションを取ったらいいのか決めかねていると、航海士さん達が突然お腹を抱えて笑いだしてしまった。


「確かに便利な能力ね」

「だろ? 飛んでる鳥だって簡単に捕まえられるし」

「タクミはそれが目的かよ!!」


 長鼻くんに指摘されて、ハンターさんは目が泳いでいる。別に構わないけど、そんな事までさせるつもりだったのね。


「……いや、他にも海王類を引き上げる時とか、何十人分もの力になってくれたりな」

「結局自分の為か!!!」

「てめェ!! ロビンちゃんに雑用なんかさせるために、この船に乗せやがったのか!? オロすぞコラァ!!!」

「ロビン、タクミにいいように使われちゃだめよ?」


 皆、彼のペースに巻き込まれてる? コレが彼の狙い通りの事だっていうの!?


「そうだぞ。コイツは敵には鬼みてェになるけど、身内には優しいヤツなんだから、嫌な事は嫌って言ったほうがイイぞ」

「え、えぇ。そうするわ」


 コックさんの反応は大体わかってたけど、航海士さんがこんなに早く元通りの態度になってくれるとは思わなかった。何より長鼻くんの”身内”って言葉には驚いた。

 まだ一味に入ったばかりの私を、そう呼んでくれるとは思ってもいなかった。どこまでお人よしなんだろうと思うと笑ってしまったけど、演技じゃない自然な笑いなのに、いつもの嘲笑とは違うように感じた。

 イロイロと話しかけてくる皆に応対していると、いつの間にか輪の外にいた彼の様子が目に入ったわ。私たちをみて、優しげな表情を浮かべているその顔は、微笑んでいるように見えた。

 彼の予想通りの結果ってわけね。自分の仲間が私を受け入れてくれると信じていたのでしょうけど、策略って感じでもないし、善意でやったつもりなんだろう。

 剣士さんも彼に呆れたのか、マストに背を預けて昼寝を始めてしまった……なんかもう、この一味で気を使う必要は無さそうね。

 私はこの状況を作ってくれた彼に少しだけ感謝をして、彼の喜びそうなネタを話してあげた。


「そういえば、そのログポースが次に導く島の事を知ってる? 占い師でもあるアナタは、とっくにご存知かもしれないけれど」


 突然私に話しかけられた彼は、その笑みをハッキリとさせ、嬉しそうに口を開いた。


「もちろん!! 巨人島”リトルガーデン”!! 太古の生物達と、巨人が生きる島だろ?」


 ハンターとしての血が抑えられない様子で、興奮気味に話す彼の言葉を、船長さん以外は青ざめた顔で聞いていた。



〜Side タクミ〜



「……見えてきちゃったわよ……リトルガーデン」


 ナミの絶望が混じった声を聞き確認すると、雄大な活火山が中心にそびえる島が見えていた。


「タクミ!!! 巨人はどこにいるんだ!!?」

「まぁ、適当に島を歩き回ってれば会えるんじゃないか?」


 ルフィは俺が巨人の話をしてから、ずっと興奮しっぱなしだ。


「待て!! この島には上陸しないというのが、先ほど我らが航海士とおれ様が出した結論だ!! 異論は認めない!!」

「へぇ〜、じゃあ恐竜と巨人がいる島で、俺が生物調査する間中、ウソップは船で待ってるんだな? きっとルフィもその決定を無視して上陸するぞ? ゾロは寝てるだろうし、サンジには食材の目利きとして同行してもらうからな」


 ウソップはナミと二人で顔を見合わせて青ざめている。


「ロ、ロビン!! ロビンは船に残ってくれるわよね??」


 ナミはもう必死な感じでロビンにすがっているが、おそらくそれはムダだろう。ロビンはスリルが好きだからな。


「オモシロそうだし、私もハンターさんとコックさんについて行くわ。それに言い忘れてたけど、この島のログが溜まるのはかなり時間がかかったはずよ? ずっと船にいるのは難しいんじゃないかしら」


 ロビンに告げられた現実に、二人は思考が停止したようだ。そんな会話がされている間に、船は島へと近づいて行く。シダ植物の多い密林の中を通る頃には、二人もどこか諦めの入った表情になっていたのだが、上空を飛ぶ巨大な影に再び騒ぎ出した。


「あれは始祖鳥か!!!? あんな大きさの始祖鳥なんて記録にないハズだ!!!」

「古代生物まで記憶しているなんて、本当に生物に詳しいのね。あれ、捕まえてあげましょうか?」


 ロビンの提案は嬉しかったが、この島にはジュラ紀後期の始祖鳥や、白亜紀のトリケラトプスが混在している事を考えると、実際の古代生物史とはだいぶ異なる生態系のハズだ。巨大始祖鳥だけに構ってる場合じゃなく、次の目的地に早く向かうためには、効率的な調査が必要だ。


「……いや、今はイイ。この島全体を本格的に調査するつもりだから、どこかに野営地を作って、それから調査を始めようと思う。手伝ってもらえるか?」

「オモシロそうだし、構わないわ」


 ロビンが手伝ってくれるのなら、小型生物の捕獲は任せてもイイだろう。大型の恐竜が相手でも、ロビンが負けるとは思えないけど、念のためにサンジと行動させておくか。


「助かるよ!! サンジも一緒に来てくれないか? ”一流”の目利きが必要なんだ。それにロビンの護衛も頼みたいんだが引き受けてくれるか?」

「一流?? 超一流のこのおれを同行させるのは正解だな!! ロビンちゃんの護衛も完璧にこなしてみせよう」


 サンジにそんな度胸は無いだろうが、万が一ロビンに手を出したら、身体中を穴だらけにしてやろう。


「ついでに一番の大物を仕留めるのも、おれに任せてイイんだぜ?」

「はっ、冗談きついぞサンジ。プロは住み分けするもんだ。狩りは俺、調理がお前だろ? 料理人としての仕事に集中してくれ」


 サンジはえらく真剣な表情になって、少し考え事をしている。何か思うことでもあったんだろうか?


「……そうだな。おれは超一流の料理人だからな。任せておけ!!」


 拳を胸に当て語るサンジは、俺が料理人に護衛を頼んでいる矛盾には気づいていないみたいだ。本当にこのグルグル紳士は扱いやすいな。


「わたしも行こうかしら」


 巨人族がいると知ってなお島に上陸しようとするとは、この王女は凄いな。


「それなら、ビビはルフィについていってもらえないか? アイツを一人にすると何するかわからないから不安なんだ。カルーに乗っていけばついて行けるだろうしさ」

「わかったわ。巨人に話が通じるようならこの島のログが溜まる時間も聞いておくわね」


 いや、なめてたな。巨人と接触する気があったとは……そこはかとなくルフィと同じ香りを感じてしまう。

 まぁ、あまり気にしてなかったが、コレで大体原作どうりの事が起きるだろう……たぶん。

 正直分からないな。ロビンへの追っ手がすでに来ているという事は無いだろうけど、可能性はゼロでは無い。ポーラなら何とかなるけど、ダズの相手は俺には厳しい。念のために鉄線の網を持って行こう。

 サンジが弁当とカルーのドリンクを用意している間に、ゾロは散歩に出かけてしまった。ルフィ&ビビ・カルー組も俺たちより先に出発し、装備を整えた俺は、ロビンとサンジと共にジャングルに入っていった。





〜おまけ〜



「……本当にわたし達を置いて行ったわよ。ゾロまでいないし」

「じゃあ、今からでも追いかけるか?」


「巨人を探すのなんかごめんだし、ハンターモードのタクミが、わたし達を気にしてくれるか微妙だから」

「お前なら恐竜くらい倒せそうだけどな」


「か弱いわたしに何を言ってんの?」

「…………大人しく待ってるか」


 残された船の甲板で、二人は大きな溜息を吐いていたとか。



〜Fin〜
 
 
 

-49-
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