小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 
 
 
”箱庭の巨人達”


 
〜Side ルフィ〜



「見ろよこれっ!! イカみたいな貝がいるぞ!! イカガイ!!」


 島に上陸してすぐに、おれはイカガイを見つけて、一緒について来たビビに見せた。

 この島に来るのを、タクミはすげェ楽しみにしてたみてェだけど、こんなのがいるなら納得だな。


「太古の島なんだから、たぶんアンモナイトよコレ」

「アンモナイト!! イカガイのくせに強そうな名前だな!!」


 この島はおもしれェ!! 昔じいちゃんに放り込まれたジャングルでも見たこと無いような、植物とか動物でいっぱいだ!!

 巨人に真っ直ぐ会いに行くつもりだったのに、おもしれェ物がありすぎて、まだ巨人はまだ見つからねェけど、この島ならもしかして!?


「ビビ!! この島にアトラスとヘラクレスもいるんじゃねェか!?」

「へ?? カブトムシ?? どうかしら? もしかしたら、もっと大きなカブトムシもいるかもしれないわね」


「うっひょ〜!!! 本当か!! よしっ、探しに行くぞビビ!!! おれについて来い!!」

「……巨人はもういいのかしら」


 ビビは何かテンション低そうについて来てるみてェだ。巨カブトに興奮しねェなんて、アイツはまだまだだな。

 鳥に乗ったビビを引き連れてしばらく走り回ってたら、地響きが聞こえてきて首の長ェ恐竜が何匹も歩いてきた。


「ビビ!! あれは何だ!?」

「詳しい名前はタクミさんじゃないとわからないけど、『首が長い恐竜は草食だから大丈夫だ』って言ってたわ」


「そっか!! じゃあアイツのてっぺんから巨人を探してみっか!!」

「本来の目的を思い出してくれたのはよかったんだけど、『この島の恐竜は普通じゃないかもしれない』とも言ってたから注意してね」


「大丈夫だって!!」


 おれはビビをおいて首を駆け登った。目の前にはたくさんの恐竜と火山、なんかでっけェ穴ボコも見えるな。


「ここで弁当食いてえなー…………あ」


 恐竜の頭の上で景色を眺めてたら、急に身体が宙に放り出されて、気づいた時には恐竜に食われちまってた。ビビが何か叫んでた気がするけど、どうやってココから出りゃいいんだ?


「お!?」


 何か知らんけど、恐竜の中から出られたみてェだ!! おれはそのまま地面まで落っこちるのかと思ってたんだけど、すぐにでっけェ手のひらに受け止められた。

 見上げてみたら、イカス兜を被ったでっけェおっさんが、おれの方を笑いながら見返していた。


「うお〜〜〜〜っ!! でっけェなーっ!! おっさんが巨人か!?」

「ゲギャギャギャギャ!! いかにも!! 我こそがエルバフ最強の戦士!! ドリーだ!!!」


 取り合えず言葉は通じるみてェだな。ビビはこのおっさんに用があるらしいしラッキーだ。そうだ、おれもちゃんと名乗らねェとな。


「そっか!! おれはルフィ!! 海賊王になる男だ!! 今日は巨人のおっさんに会いに来たんだ!!」

「ゲギャギャギャギャ!! おもしれェチビだ!!! お前達、うちへ招待しようっ!!」


 おれが飛び降りてビビの所に行くと、鳥が気絶してた。何やってんだコイツ??

 巨人のおっさんは、今仕留めた恐竜の肉を引きずって歩き始めたから、おれも気絶した鳥を引きずって歩き出したんだけど、ビビが立ち止まったまま動かねェ。何かブツブツ呟いてるみてェだ。


「……いくらなんでも大きすぎよ」

「タクミが仕留めたイルカよりは小さいんじゃねェか?」


 ビビはもう言う事がなくなったのか、今度は黙っておれについてきた。

 それよりあの恐竜の肉はうめェのかな? 食ってみてェから、サンジの弁当と交換してもらおう!!


「……この一味についてきて、本当に良かったのかしら?」


 ビビが何か言ってたみてェだけど、おれは恐竜肉の事で頭がいっぱいだった。



〜Side ブロギー〜



 自慢の斧の手入れをしながら、おれは”真ん中山”に目をやった……今日はまだ噴火しないな。狩りでもして昼食にするか。

 それにしても、今日はやけに森が騒がしい、久々に誰か人間でも来ているのか?

 そうなれば酒が飲めるかもしれん。おれは少し船を探して見る事にした。

 船を探し、木を掻き分けて水辺に出てると、すぐに一隻の小さな船が見つかった。


「酒を「ぎゃあああああああああああああああ!!!」酒を「いやああああああああああああああ!!!」……酒を持っているか?」


 まったく人の話はちゃんと聞くもんだ……?? 何だ?? 放心状態で聞こえてないのか??


「酒を持っているかと聞いたんだ」


 静かになったところで、もう一度訊ねてみたが、どうも反応が鈍いな。


「……さ、酒!? あ、あります!! 酒なら売るほどあります!!」

「そうか!! 持ってるか!!」


 久々に酒が飲めるってんで思わず笑顔になったんだが、何やら揉めているみたいだ。


「ちょっと!? アレ全部渡すつもり!? タクミに消されるわよアンタ!!」

「知るか!! おれは命が惜しいんだ酒で解決すんならタクミに怒られたほうがマシだ!!!」


 どうやら無類の酒好きの男が乗る船らしいな。


「アンタはお酒が無くなった時のタクミの恐ろしさを知らないからよ!!!……トラウマになるわよ……アレは」

「そ、そんなにか……でも20樽と高級ボトルがあるんだから少しくらいなら……」


 何も根こそぎ奪おうとしているわけでもないのに、人の事をなんだと思ってるんだ……海賊だったな。


「わけてくれるだけでいいぞ。十樽もあれば十分だ」

「そ、それなら大丈夫です!!……たぶん」

「お詫びに船が引いてるイルカの肉をさしあげます!!」


 見るとコイツらの船は、その身に不釣合いなほど、巨大なイルカを引いていた。正面から一突き……かなりの手錬だな。


「ちょっと!? タクミの許可はいいの!?」

「大丈夫だ。もうスケッチやデータ収集、各部位の切り出しも済んでたからな」


 酒好きの男は生物学者か何かのようだ。森が騒がしいのはその男のせいか。


「ありがたくいただぬあう!!!!」

「「ギャーーーーーーーーーーっ!!!」」


 臀部に鋭い痛みを感じて振り返ると、よく見かける恐竜が噛み付いておった。

 おれはすぐさま斧を横薙ぎに振るい、その太い首を斬り落とした。落とした首を拾い上げ、戦士の勝ち名乗りをあげる。


「我こそがエルバフ最強の戦士!!!! ブロギーだ!!!! ガバババババ!!! 貰ってばかりでは悪いからな。肉も取れた!! もてなすぞ!! 客人よ!!」


 …………返事がない。騒ぎ疲れて眠ってしまったのか?? 仕方ない。酒を貰わねばならんし、起きるまで待つとするか。


「(ちょっとウソップ!! 座り込んじゃったわよ!! 死んだフリは無理があったんじゃない!?)」

「(そうかもな……どうせ食われる時は殺されるんだ)」


「「………………」」


 客人は五分後には起きた。なぜか酷く疲れた様子だった。



〜Side タクミ〜



「サンジ!! 次はコイツだ!!」

「どれだけ仕留めるんだよ。食いきれないだろ絶対」


 おれは単独でジャングルを走り回り、次々と恐竜を仕留めて回った。仕留めた獲物は、データを取ってからサンジの居る野営地に運んでいく。

 ロビンはその場で視界の範囲に入った鳥類などを捕獲してくれているが、俺を見て若干呆れているように見えるな。


「大丈夫だ!! 残った分は巨人族にあげるからな」

「それならイイか、食材を無駄にはするなよ?」


 サンジが念押しするように言ってくるが、そのポリシーはおれも同じだ。食えない獲物以外は全て食うようにしている。まぁ、ルフィがいるからそこら辺は困らないけど。


「わかってるさ。仕留めるのは一種につき一頭だけだ……ってプテラノドン・インゲンス!!? ロビンが仕留めたのか!?」

「えぇ、珍しい生き物なの?」


 ジャングルに戻ろうとしたら、ロビンが仕留めた獲物が目に入ったんだが、驚く俺をよそに、ロビンは涼しい顔だ。

 もっと興奮しろよ!!! プテラノドン・インゲンスだぞ!!! 一番有名な翼竜じゃないか!!!

 ……種小名がロンギセプスに変更になったらしいが、インゲンスの方がカッコイイし、子供の頃から慣れ親しんだ呼び名だ。今さら変えるつもりはない。

 そして、ココでは俺がルールだ!!! 俺の生物図鑑なんだから、好きにさせてもらう!!!……激しく脱線したな。一人で喜怒哀楽を表現していた俺を見て、ロビンがキョトン顔だ。


「翼竜の顔と言ってもイイくらい有名なんだけど、化石から推察されるには、魚を主食にしていたハズなんだ。ジャングルの中心に作った野営地で捕獲できるとは思わなかったよ。胃の内容物を調べてみる必要があるな。もし同じような翼竜を見かけたら、殺さずに捕獲しておいてくれないか? 亜種が結構いる種族で、パッと見では見分けがつき難いんだ」

「わかったわ……にしても凄いわね。私も大概の事には、専門家並の知識があると思っていたのだけれど……古代生物の研究はそこまで進んでいたの?」


 マズかったかな? ロビンの様子から察するに、この世界ではそこまで古代生物学は発展していないみたいだ。普通は名前すら知らないような生物の、詳しい生態を知っているなんておかしいよな。


「そういう家系なんだ。一族に伝わる膨大なデータがあってね。小さい頃から眺めているうちに、自分の眼で確認したくなったんだよ。先祖の誰も成しえなかった完全な生物図鑑を、何年かかってでも俺は作り上げるつもりだ」


 …………あれ?? 適当な理由を話したつもりだったのに……妙にしっくりくるぞ!? 記憶の靄が晴れていくみたいだ。俺が怪訝な表情をしていると、ロビンが訊ねてきた。


「どうかしたの??」

「いや、もしかしたら小さい頃の記憶が一部戻ったのかもしれない」


「記憶?」

「ああ、俺は七歳ぐらいの時に、人が一人しか住んでいない孤島で発見されたんだけど、それまでのエピソード記憶を殆ど無くしていたんだ。それなのに、さっきのロビンの質問に、自然に理由を答えられたんだよ……そうか、俺は生物学者の家系だったのか」


 見事に目的にあった転生をしたもんだ。ひょっとしたら神みたいなヤツにも会ったのかもな。


「アナタは記憶も無いのに、目的を果たそうとしていたの?」

「あぁ、夢の事だけは覚えていたんだ。魂の記憶ってヤツかもしれないな」


 この世界での俺の記憶。今まで大して興味はなかったけど、俺は改めてこの夢を実現させると誓った。



〜Side ロビン〜



 ”魂の記憶”親や故郷の名前さえ忘れても、彼が決して見失わなかった目的。きっと彼の目的は、揺らぐ事なんかないんでしょうね。

 記憶はあっても、私には親も故郷も残されていない。それでも、果たさなければならない夢がある。

 私と彼は似ているのかもしれない……目的のためなら誰かを利用するところまで。

 …………この男を試してみよう。


「アナタはどうしてこの船に乗っているの?」


 さあ、どう答えるつもり?


「俺の夢は一人じゃ叶えられない。正直な話、最初のうちは皆を利用していたかもしれない。でも、アイツらいいヤツだからな!! 今は皆の夢を叶える手助けもしたいと思ってるよ!!!」


 正直な答えね……皆の夢も叶えたいか、本心で言ってるみたいね。


「助けてもらう事も多いだろうけど、仲間なら当然だろ? ロビンも仲間になったんだし”石”の在り処を先に教えておこうか?」

「!!!?…………フフ、今はイイわ。その時が来たら教えてちょうだい。皆と旅をしながらで十分よ……仲間なんだから」


 私は何を言ってるんだろう……でも、この一味となら、しばらく旅を続けていけるかもしれない。



 だけど、それも私が政府に見つかるまでの事……私の夢には敵が多すぎるから……
 
 
 

-50-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




Portrait.Of.Pirates ワンピースシリーズNEO-DX トラファルガー・ロー
新品 \14000
中古 \11000
(参考価格:\6300)