小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”誤解”


 
〜Side ルフィ〜



 ナミの見舞いに行ってもイイってタクミが言ったから、おれはすぐに部屋に行こうとしたんだけど、中を覗いたウソップが『今は入っちゃいけねェ雰囲気だ』とか言って止めた。

 ウソップが言うには看病してるロビンの表情が険しかったらしい。船の進路変更作業を手伝った後、おれはウソップに訊ねる。


「ウソップはロビンが怖ェのか?」

「そんなんじゃねェよ。アレは、おれ達が踏み込んじゃいけねェ世界なんだ」


「意味わかんねェ……お前バカか?」

「はっ!! アレはおそらく、タクミを巡るナミとロビンの静かな女の戦いだ。男のお前にはわからねェんだよ」


 何か一人で解った気になってやがるウソップがムカつく。それより気になる事が二つ。


「じゃあ女の気持ちが解るウソップはオカマなのか? ていうかタクミを巡る戦いってなんだ!? タクミはおれのだ!!」

「お前の発言のほうがよっぽどオカマっぽいワァ!!!」


「意味わかんねェ……お前バカか?」

「繰り返すなァ!!!…………おい、ロビンがビビと交代するみたいだぞ!! 今のうちだ」


「ビビはいいのか?」

「ビビはまだ早い……ロビンも実はよく分からん。ナミの空回りって可能性もあるんだよな。サンジは脈ナシっぽいから、タクミがどう動くかだな」


 ……ますます意味わかんねェ。ウソップがココまでバカだったとは。


「バカはお前だァ!!!!」


 考えを読んでツッこむなんて流石ウソップ!!! タクミがその腕を評価するハズだ。

 バカでもイイんだ。ウソップはおもしれェ。


「大丈夫。そんなウソップを、おれは応援してる」

「よけいなお世話じゃ!!! ほっとけ!!!」



〜Side タクミ〜



「ナミ、具合どうだ?」


 ロビンに言われてナミの部屋に来たら、ビビ以外にもルフィとウソップがいた。


「ナミはずっと寝てるぞ!!」


 ルフィが報告してくれたんだが、声がメチャクチャデカい。注意するべきか? 無駄っぽいけど。


「ルフィ!! 声がデケェよ!! タクミが来たから大丈夫だ。おれ達は退散しよう」


 ウソップの声もかなり大きかったが、ルフィを連れて足早に出ていってくれたので、俺は何も言わなかった。


「……さっき熱を計ったら40度を超えてたわ。これは”五日病”の症状で間違いないのよね」

「ああ、腹にあった斑点からして間違いない。看病は俺が代わろうか?」


 ビビは、出来れば五日病でない事を願ってるんだろうが、十中八九間違いないだろう。


「わたしもまだ代わったばかりだからココにいるわ。ミス・オールサンデーが男の人ひとりに任せちゃいけないって言ってたし」

「ロビンが??」


「ええ、意外と古風よね」


 ロビンの言葉を思い出してかビビは笑っている。それでゾロは順番を飛ばされたのか。ロビンのナミに対する心配が少し過保護な親みたいで、俺もビビと一緒になって笑っていたら、ナミを起こしてしまったみたいだ。


「起きたのかナミ」

「え、ええ」


 ナミは不思議そうな顔をしている。自分がこんな状態なのに、笑いあっている俺達が意外なんだろう。確かに不謹慎かもしれないが、この場は明るく振舞った方が得策だ。


「喜べ!! 俺の占いで、ドラムに抗生剤があるのがほぼ確定した。もう大丈夫だ」

「本当!?」


 ナミは今にも起き上がりそうな勢いで俺に確認を取ってくる。病は気からって言うしな。さっきの対応は間違いじゃなかったみたいだ。


「実はさっきまで占うのが怖かったんだけどな。ロビンに言われて決心したんだ。ナミは絶対助かるよ」


 俺という異物がある以上、絶対なんて事はないが、ナミを安心させるために、敢えて出来るだけ強い言葉を選んだ。


「よかった」

「……ねえ、タクミさんの占いって、どこまで本当なの? 占いが得意なんて、見た目からは想像し難いんだけど」


 俺の占いを信じて安心しているナミを見て、ビビが疑いの目を向けてきた。


「失礼なヤツだな。俺の兄貴は優秀な魔術師で、小さい頃に俺にも…………ん?」


 まただ、リトルガーデンの時と同じ感覚。ていうか勝手に答えが口をついて出たみたいだ。


「どうかしたの?」


 ビビが心配そうに俺を覗き込んでいる。気づけば俺はかなり汗をかいているみたいだ。


「いや、リトルガーデンでもあった事なんだが……どうやら部分的に小さい頃の記憶が戻り始めているみたいなんだ」

「ガイモンさんに出会う前の記憶?」


 俺の動揺っぷりに、ナミも気になりだしたみたいだな。


「ああ、家が代々生物学者だった事、兄貴は俺が物心ついた頃には魔術師として異端児扱いされてた事、あと……俺は兄貴をかなり慕っていた……気がする」

「魔術師のお兄さん仕込の占いだったのね。よく当たるハズだわ……今のとこ、的中率100%なんじゃない?」


 何かをきっかけに、俺の記憶は戻って来ているみたいだが、正直どうでもイイな。魔術師の兄貴がいたのは、占いの信憑性を高めるのには役にたったが、どうせ会うことも無いだろう。


「タクミさんは東の海(イーストブルー)出身なの?」


 ビビが突然聞いてきたんだが、質問の意図が分からない。


「そこら辺はよく分からないけど、七歳くらいから東の海(イーストブルー)にいたんだから、そうなんじゃないか?」


 ビビは何か悩んでいるような感じだったが、結局何も言わずに部屋を出て行った。

 ……俺は一人で看病してもいいのか?



〜Side ビビ〜



 わたしはさっき聞いた話で、浮かんできた疑問がある。タクミさんの魔術師のお兄さん……きっとタクミさんみたいに強いのでしょうけど、タクミさんは自分の出身が何処なのかハッキリとしないみたいだし……ひょっとして、最近手配書が出回っている”あの海賊”なんじゃ……

 この話を伝えるべきかしら? タクミさんも何かを思い出すかもしれない。自分の過去がわからないっていうのはきっと辛い事だと思う。

 でも”あの海賊”、北の海(ノースブルー)出身、”魔術師”バジル・ホーキンスは、占い次第で町を丸ごと殺戮の場に変えるような凶悪な犯罪者。悪魔の実の能力者で、誰かを探して航海してるらしいけど、その能力も探し人も一切不明。

 そんな人が自分のお兄さんかもしれないと伝えられたら、どう思うかしら?……でもタクミさんはお兄さんを慕ってたらしいし……

 わたしが一人で悩んでいると、ミス・オールサンデーが話しかけてきた。


「どうかしたの? 王女様は何か悩み事かしら?」


 この女……わたしがアラバスタ王国の事で悩んでると思ってからかってるのかしら。


「バロックワークスの事でも、アラバスタ王国の事でもないわよ。タクミさんの事」


 ミス・オールサンデーは少し驚いたような顔をして、可笑しそうに微笑した。


「フフ、王女様まで悩ませるなんて罪な男ね」

「??……何の話?」


 気を張っていたハズなのに、わたしは思わず素になってしまった。


「あら? 王女様もあのハンターさんに恋をしてしまったのかと思ったんだけど、違うのかしら?」


 ……呆れた。こんな状況で恋する余裕なんかあるわけが……王女様も?……わたしも?…………も?

 ええええ!!? ミス・オールサンデーはタクミさんが好きだったの!!? 一目惚れ!!!? だからこんなに人が変わったように見えるのね!!?

 恋をすると女は変わるって聞くけど、もしかしたら彼女は元からこんな穏やかな性格なのかもしれない。

 目的の為にバロックワークスで働く間は、冷徹な仮面を被っていた。でも、イガラムを殺せなかった事とか、どこか冷徹になりきれないところもあって、ルフィさんはそれを野性の勘で見抜いていたんだわ。

 そうに違いないわ!! 確定よ!!!


「わたしは違うわ!! こんな状況で恋愛なんか考えられないし、どちらかといえばMr.ブシドーのほうが……ってそうじゃなくて!! とにかくわたしは邪魔するつもりは無いわ」

「そ」


 とても短い返事だけど、そこには喜びとか安堵とかいろんな感情があるのだと、彼女の笑みを見て思った……滅多にない機会よね。折角だからからかってみようかしら?


「むしろ応援するわよ?」

「……そこまで必死にならなくても。それよりあの人の何であんなに悩んでいたのかしら?」


 話を逸らされたわね。ゆっくりと関係を築いていきたいのかしら? それは彼女の自由ね。

 わたしは素直に、先ほど悩んでいた内容を彼女に相談してみたわ。


「彼があのホーキンスの弟……まだ可能性の段階なんだし、言わなくてもイイんじゃないかしら? 過去を知ろうがそのままであろうが、彼は変わらないと思うわ」


 なんだか彼女はタクミさんの事をよく解っているみたいね。わたしが気にしなくても、必要ならいつか彼女が伝えるでしょう。


「そうね、話したらスッキリしたし、一旦この事は忘れるわ。ありがとう」


 わたしは彼女を残して船内に戻る。甲板は少し肌寒かったし、サンジさんに何か温かい飲み物でも用意して貰おう。

 大人な二人には、きっとコーヒーが似合う……タクミさんにはお酒の方がイイかもしれないけど。

 ナミさんの看病はわたしに任せて貰って、タクミさんに持っていかせるのよ。楽しくなってきたわ♪
 
 
 

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