”昼下がりのコーヒーブレイク”
〜Side ロビン〜
「ハンターさん、船が襲撃を受けているわよ」
進路を見るために甲板に出ていたら、かなり大型の潜水奇襲帆船に襲撃を受けたので、念のために船内のハンターさんにも伝えておいた。
船の揺れから航海士さんの眠るベットを片手で持ち上げて守り、興味がなさそうに煙草の煙を吐き出している。
「俺にとってこの状態は、昼下がりのコーヒーブレイクとなんら変わらない平穏なモノだ…………俺は何が言いたいんだろうな……とにかくルフィに任せるよ。ロビンもココにいたら?」
コーヒーブレイク? 取るに足らない事態だと言いたいのかしら? ふざけてるようにも見えるけど、私は彼が吐き出した煙が、昨日見た”99.9999%”になるのを見逃してはいなかった。
彼が私に答える前に、その煙は一瞬で形を崩していて、部屋にいた王女は気づかなかったみたいね。
きっとハンターさん不在での、防衛戦勝利確率でも占っていたのでしょうけど、本当に便利な力ね。
「私は見物でもしてる事にするわ」
私はそのまま扉を閉めて、乗り込んでくる敵を観察してみたんだけど……おかしいわね。曲りなりにも統率されたこの動きは、海賊というより軍隊のそれだわ。
「ハンターさんは出てこないそうよ」
取り合えず船長さんに報告をしたけど、船長さんも危機感は感じていないみたい。
「そっか、急いでんだしブッ飛ばすだけだからな」
「……話しくらいは聞いてあげたら?」
船長さんと話していると、ナイフに刺さった肉を食べながら、敵船の船長らしきブリキ男がこちらの船に降りてきた。
敵を威圧する為のポーズなのかと思っていたのだけれど、彼は肉をナイフごと食べてしまったわ。おそらく能力者のようね。
「おれ達は”ドラム王国”へ行きたいのだ。”永久指針”を持ってないか!?」
……どうしましょうかしら? 今そこに向かっている最中だっていうのに……私が考えた時間は短かった。
「あるけどやらん!!」
船長さんが即答してしまったからだ。
「何ィ!!? 持ってるのか!? それなら早くよこすんだ!!!」
「ワポル様!! 先程やらんと申されてしまいました!!」
……この人達はバカみたいね。大して警戒する必要はなさそう。
「何ィ!?それじゃあ奪うとしよう。ついでにお宝もこの船も貰う」
そう言った途端、ブリキさんはこの船を食べ始めてしまった。それを切欠に、結局は戦闘になってしまって、私も向かってくる相手を何人か倒した。
船長さんを食べようとしたブリキさんは、ゴム人間の船長さんを噛み切れないみたいだわ。
それにしても、ドラム王国……ワポル……この二つは繋がってた気がするんだけれど…………
私が答えが出ずに悩んでいると船室の扉が開いて、王女が顔を出した。ちょうど船長さんが相手を吹き飛ばすところだったんだけど、王女は酷く驚いた様子だったわ。
王女と知り合い?……そうだわ!! あの男ドラム王国の無能王じゃない……どうやら私たちは、これから向かう国の国王軍を痛めつけてしまったみたいね。
残された兵達は、腹心を筆頭に、捨て台詞を吐いて国王を救助しに向かって行ったわ。
……めんどうな事にならなければいいけど……取り敢えずは甲板の片付けからね。
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「船長さんがドラム王国の国王を、どこか遠くに飛ばしてしまったのだけど、大丈夫かしら」
「は??……どうしてそうなった!!?」
船内に戻ってハンターさんに報告したのだけど、さすがに動揺しているみたいね。
「国王が国に戻る前に、さっとドラムに行って、さっと治療して、さっとアラバスタに向かえばいいんじゃねェか?」
「ウソップ、ボケるのは俺……とか、そういう問題じゃなくて、少し黙っていてくれ」
「……うぃ」
長鼻くんが出て行くと、彼は溜息を吐いてタバコを手に取る。紫煙占いをするみたいね。現れた文字は”78.26%”となっていた。
「それは何の確率?」
「……俺たちがドラム王国滞在中に国王が戻ってくる確率だ」
かなり高いわね、彼の表情は何処か諦めの入ったものだったわ。
「まぁ、ナミが助かれば他はどうでもイイだろ。俺たちは元から札付きだしな」
国王軍と全面対決でもするつもりかしら? アラバスタを救おうとしてる一味の副船長の発言とは思えないわね。
「そういえばアナタ達はどういう経緯で賞金首になったのかしら?」
「ルフィは高額賞金首を三、四人倒したのが海軍に伝わったから危険視されたんだろうな。俺の場合はルフィと同じ理由もあるけど、海軍の支部長を利用しようとした腹いせだな」
「海軍支部長を利用?……いったい何をしでかしたの?」
「ナミの為にちょっとな。そういえばルフィも、ゾロを助ける為にどっかの支部で大暴れして、結局そこの支部長をゾロが斬ったらしい」
大体予想はしてたけれど、この一味の民間へ与えた被害はゼロ。ピースメインの海賊みたいね。私が過去に身を置いたモーガニアの海賊船とは違う……ホーキンスの事はやっぱり話さないほうが無難のようね。
それにしても、結成間もない一味の仲間の為に、ココまで随分と無茶をしてきたみたいだけど、何がそこまでさせるんだろう。
「アナタは私の過去をある程度ご存知のようだけど、私にもアナタの事を教えてくれないかしら?」
「俺の事に興味があるのか!!?」
「え、えぇ」
……何となく聞いてみただけなんだけど凄いはしゃぎようね。
それから彼は、これまでの自分を話し出した。時折航海士さんのタオルを取り替えながら二時間程。
彼の話は、育ての親だというガイモンの話と、動物の話が殆どで脱線してばかりだった。約七年間の空白の過去を持つ彼はきっと、今の自分を話す事に複雑な思いがあるのかもしれないわね。
始めのうちは彼が自分のことを話してばかりだったのだけど、話の流れで私がいくつかの質問をされているうちに彼は聞き役に回っていた。
最終的な会話の比率は私のほうが上だったかもしれない……何だか話すつもりのなかった事まで喋ってしまった気がするわ。
そういえば、彼の話の途中で王女が部屋に入ってきたのだけれど、私たちにコーヒーを渡してそのまま出て行ったわ。
この船でコーヒーを頼んだ事はないハズなんだけど、昨日はハンターさんが持ってきたし、私の嗜好品も占ったのかしら?
でも、それはあの紫煙占いじゃないわよね。予知夢って事になるけど、夢で自分の事を見られるっていうのは少し恥ずかしいかもしれない……まぁ、気にしないでおきましょう。
「随分と話し込んでしまったみたいね、とても楽しかったわ♪」
「俺もロビンとゆっくり話が出来て楽しかったよ!!」
「でも、そろそろ指針を確認しないといけないわね」
今まで見た中で1番の笑顔を浮かべていた彼は、私の言葉を聞いて席を立ち、”永久指針”を持って慌てて甲板に出て行ってしまった。忙しい人ね。
「ナミさんの看病、そろそろわたしが代わるわ」
彼が出て行った直後に王女が部屋に入ってきたのだけれど……
「その額のコブはどうしたの? それじゃあとても王女には見えないわ」
「こ、転んだのよ!!」
何をそんなに慌ててるのか知らないけれど、救急箱を出してとりあえず湿布を貼ってあげた。
「コレで風邪を引いた女の子くらいには見えるんじゃない?」
「あ、ありがとう……別にこんな事くらいでアンタの事を完全に許したわけじゃないんですからね!!!」
王女は額を押さえて走り去ってしまったわ……看病を代わってくれるんじゃなかったのかしら?
〜おまけ〜
「わたしは何をやってるのかしら!!? こんな事で彼女を許すわけにはいかないのよ!!!」
「出歯亀からのツンデレ……新ジャンルを開拓するつもりなのか?」
「Mr.ブシドー!!!? 見ていたの!!?」
「ニヤニヤしながら覗いてりゃあ、嫌でも目に付く」
「ぐっ……それは仕方ないとして、”ツンデレ”って何? よかったら説明して欲しいんだけど」
「構わねェ……ていうか出歯亀は分かるのかよ……まぁイイか。ツンデレっていうのはな−−−−」
ビビの暴走は続く。
〜Fin〜