小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”弱点”



〜Side タクミ〜


 
 ……リトルガーデンを出て丸二日……ようやく旧ドラム王国に到着しそうだ。

 島一面に雪が降り積もる、今は名も無き白銀の国、中央にそびえ立つ標高5000mのほぼ垂直な山”ドラムロック”は圧巻の一言だ!! だが重要なのはそんな事ではなく……


「ハンターさん、大丈夫?」

「無理……いくらなんでも……さ、寒すぎる!!」


 今の俺の格好は、いつも着ている黒の皮製ロングジャケットの上から、フード付きの白いダウンジャケットを着ている。

 ロングジャケットが下からはみ出していてかなりダサいのだが、この皮製ロングジャケットは、珍獣島で密猟者から奪って五年以上愛用している品で、内側に細工がしてありさまざまな物が収納されているので、脱ぐわけにもいかない。

 見た目ではわからないが、厚手の靴下とカシミアっぽい股引も着込んでいる……股引をバカにしてはいけない、その効果は絶大だ!!

 ココまでは股引効果で何とか寒さを凌いでいたのだが……無理だ!! 限界だ!!


「情けねェなタクミ、”心頭滅却すれば火もまた涼し”って知らねェのか?」

「ゾロはバカだなァ!! タクミは暑がってんじゃなくて寒がってんだぞ?」


「バカはお前だ、本来の意味をタクミに教えてもらえ。ていうかお前は寒くねェのか?」


 もちろん意味は知っているが、誰がこんな寒さで無念無想の境地に至れるって言うんだ。ルフィはありえない薄着にようやく気づいて、船内にジャケットを取りに行った。


「ゾ、ゾロと一緒にしないでくれ……悪いが俺は、ネコ科の性として、さぶさには弱いんだ……俺の気持ちがわからないゾロは、寒中水泳でもやってろ!!」

「……人間に戻ればイイんじゃねェのか?」


 そう、俺は鬣とか出したら温かいのでは? と考えて人獣形態になっている。


「ネコネコの実を食べた時点で、根本的に……寒さに弱くなってるみたいだな。鬣がある分、コッチのほうが……いくらかマシだ」

「本当だ!! 温けぶはぁ!!」


 ウソップが鬣の中に突然手を入れてきたので、取り合えず殴っておいた。


「俺の温もりを奪うんじゃねぇ!! 殴るぞ!!」

「……も、もう殴ってんじゃねェか」


 ウソップは動かなくなったが反省はしない。気配を感じてふと後ろを見ると、ビビが手袋を外して……俺に手を伸ばした状態で固まっている……


「ビ、ビビならイイよ……」

「本当に!!」


 ビビは何故かロビンまで引っ張ってきて、嬉々として手を入れてくる。


「温か〜い!! ほら、ミス・オールサンデーも」


 ビビに言われてロビンも微妙な表情で手袋を外している……そりゃそうだろう。どう考えても手を入れるために手袋を外す瞬間が一番寒い。


「あら、本当に温かいわね」


 いつの間にかビビは手を抜いていて、俺の鬣に正面から両手を差し入れるロビンと向かい合う形になる。

 近い!! 顔が近い!! 手っていうか腕ごと入ってるから!!!…………何か俺も温かいかも。

 思わず暴走してロビンを抱き寄せそうになった俺を止めてくれたのは、サンジだった……

 ロビンの腕を引き抜いて、代わりにサンジが手を入れてくる。


「ロビンちゃん代わってくれ!! 本・当・に・温かいなァ!! でも、このゴ・ワ・ゴ・ワした感触が最悪だなァ!!!!」

「バカか!! 引っ張るな!!! 大事な武器が抜けるだろうが!!!!」


 とっさに「獅子鉄塊」を発動させていなければ、ごっそりと鬣を持っていかれるところだった。


「うるせェ!! おれに無い物で勝負をするな!!!」


 サンジは手を離してその場を離れて行くが、凄まじい怒りのオーラだ。正直今のサンジに敵う気がしない……追撃は止めておこう。

 ロビンは微笑ましいモノを見るようにコチラを見ているが……何故にビビはサンジを睨んでいるんだ? ナミの看病をサンジが投げ出してコッチに来たからだろうか?

 そうこうしてる間に、船はもう入り江に入っていたので、俺は取り合えず皆に声をかける。


「この入り江に船を泊めよう。俺はこの島では役にたちそうもないから船にいるけど、誰が医者探しに行く?」

「タクミ行かねェのかよ。それなら「そこまでだ!! 海賊ども!!」……おい、人がいたぞ」

「速やかにここから立ち去りたまえ」


 俺達が船を停泊ようとしていると、十数人の男達が、崖の上に現れた。片付けようと思えば簡単な相手だが、先頭に立つ男だけは、身に纏う空気が明らかに異質……本気を出したクロ以来の感覚だな。

 アレがドルトンか……俺以外の動物系に会うのは初めての事だが……草食獣の能力者のハズなのに、妙な威圧感がある…………強いな。今の俺が戦えば、おそらく高確率で負ける。


「おれ達医者を探しに来たんだ!!」

「病人がいるんです!!」

「そんな手にはのらねェぞ!!! ウス汚ねェ海賊め!!」
「ここは我々の国だ!! 海賊など上陸させてたまるか!!!」
「さァ!! すぐに錨を上げて出ていけ!!! さもなくばその船ごと吹き飛ばすぞ!!!」


 何かもう凄い嫌われようだ。サンジが甲板にいなくてよかった。

 俺は震える身体を必死に押さえて、一歩前に出てドルトンに訴える。


「それならば上陸はいたしません!! そのかわり、医師を呼んでは頂けないでしょうか!! 船の金品はすべて差し上げます!! 仲間はあと三日持つかわからない状態です!! 仲間を助けて下さい!!」


 俺は声を張り上げて懇願し、頭を下げる……土下座はしない。


「タクミ?」

「ここで連中の機嫌を損ねれば、ナミは確実に死ぬ。船の金品くらいくれてやれ。頭くらい下げろ……ナミのほうが大事だろ!! 必死な願いは……受け入れられると相場が決まってんだ」


「……医者を呼んでください!! 仲間を助けてください」


 ルフィは俺の横で、甲板に額を打ち付けて土下座した……コレじゃ俺まで土下座をする破目に……

 一瞬の静寂の後、ドルトンが口を開いた。


「村へ……案内しよう」

「な、わかってくれただろ?」

「すげェな!! タクミ」


 土下座体勢のまま答えたルフィを俺が起こしていると、村に歩き始めていたドルトンが振りかえった。


「一つ、忠告をしておくが……我が国の医者は……魔女が一人いるだけだ」

「「「「は?」」」」


 …………さぶい……俺から説明する気力はない。

 それにしても、こんな状況で戦闘になったら、俺はマジで役に立たない。その気になれば「生命帰還」で体温上昇とかも可能だろうが、寿命が縮む気がするし、気が進まないんだが……武器を持つしかなさそうだな。

 この島を出たら、ウソップに武器の製作を依頼しよう。



〜Side ウソップ〜



 この国の医者は魔女が一人!!? 意味がわからねェ!? ココはかつて医療大国だったんじゃねェのか? ていうか魔女って……


「……困ったな……治療してくれた医者を、船医として誘うつもりだったのに、この国唯一の医者を連れ出すわけにはいかないよな……」

「おいっ!!! そこじゃねェだろ!! 魔女って所はスルーかよ!!」


 タクミはおれ以上に意味不明って顔をしている。最近ようやく、人獣になってるタクミの表情の変化がハッキリ分かるようになってきたけど、こんな顔は初めて見るな。


「ナミを助けてくれるなら……誰でもイイだろ。もしかして、魔女だからって会いたくから、ナミの事を見捨てるのか?……引くわー」

「そういうわけじゃねェけど……そういえばタクミは上陸しないんじゃ」


「……わかった。俺も行くよ」


 タクミは一度船内に戻って、さらにマフラーを装備してから出てきた。ナミの事はサンジが背負って行くみたいだな。

 船番としてゾロを残して、おれ達は先導する男について行った。


「ドラム王国に医者が一人しかいないなんてどういうことかしら?」


 目的地に向う途中、ロビンが案内役にもっともな質問をぶつけたんだが、意外な答えが返ってきた。


「それはかつての国の名前だ。今のこの国に名前はまだ無い」

「名前のない国? そんなことってあるんですか?」


 ビビの問いに男が答える事がなかったのは……


「っぎゃあああああああ!!! 熊だああああああっ!!!」


 おれが叫んだからだ。山道の向こうから、身の丈6mはありそうな熊がコチラに向かって歩いてくる。


「ハイキングベアだ。危険は無い。登山マナーの”一礼”を忘れるな」


 ハイキングベア!!? なるほど片手に杖をもってやがる。全くビビらせやがって……おれ達は一礼をして通りすぎようとしたのだが、こんなオモシロ生物を、あの男が黙って見ているわけが無かった。


「デカっ!? 危険は無いって事は、雑食じゃなくて草食なのか?? アンタらは食用としてあの熊を捕らえたりはしないのか?」


 寒さを忘れたみてェに食いついたタクミに、案内役が若干引き気味に説明をしてくれる。


「ハイキングベアはかつては雑食だった熊が理性を得て、自ら草食になったと言われている。その為、この国では平和の象徴として親しまれていて、食用にする事は暗黙のルールとして禁じられているんだ。あと、ハイキングベアーは若いうちはロッククライミングもする」


 食べてはいけないと言われてタクミは残念そうだが、慣習には従うみたいで、熊に一礼をしてから身体データを取るだけに止めたみてェだ。

 アイツが一人なら、間違いなく熊鍋が出来ていたハズだ。戻ってきたタクミは案内役に礼を言ってる。そういえば……


「アンタはタクミの姿を見てなんとも思わねェのか? 大概のヤツは初見では悲鳴を上げて失神するぞ?」


 案内役は苦笑いをして、口を開こうとしたんだが、タクミが割って入った。


「嘘付け……そんな恥ずかしい反応をしたのはウソップだけだ……これだからピノ〇オは……」

「ピノ〇オいうなァ!!! おれは失神してから悲鳴を上げたんだよ!!!」

「悪魔の実の中でも動物系は異形だからな。驚かれる事も多いだろうが……」


 案内役は言葉を切ると、その顔を異形のモノに変えた。顔は黒い毛に覆われて、額からは二本の角が生えてくる。


「……私も動物系の能力者、”ウシウシの実”モデル野牛(バイソン)だ……私の名はドルトン、見たところ君はライオンの能力者のようだが、君が一味の船長か?」

「俺は副船長のアイザワ・タクミ、お察しの通りライオンの能力者ですよ。ですが、船長はコッチの”麦わら”のルフィです」


「これは失礼をした」


 ドルトンがルフィに謝罪をするが、ルフィは気にしてないみてェだ。一応おれもフォローを入れておくか。


「雪国で無能になるネコちゃんじゃ、船長は務まらねげぶっ!!」

「あー前足が滑った……雪国では無能だからしかたないよな」


 タクミは素知らぬ顔で手を開いたり握り締めたりしている。


「それは手!!! 半分人間なんだから手!!! ワザとらしいんだよお前はァ!!!!」

「長鼻くん、航海士さんの身体に障るから、少しだけ静かにしてね」

「わ、悪ィ……」


 ロビンの黒いオーラに気おされて、思わず謝っちまったけど、何でおれだけ……やっぱりロビンもタクミの事が好きなのか?

 ライオンの大きな口を歪めてニヤニヤしているタクミに、おれはいつも以上にムカついた。
 
 
 
 

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