小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”懸念”


 
〜Side ゾロ〜



「じゃあ、ゾロは予定通り寒中水泳でもしながら、魚を追いかけてどこかの支流を、鮭のようにのぼっていけばイイ。そして凍えてしまえばイイ」

「あのなァ……まあイイ、ナミを頼んだぞ」


 タクミのヤツ、おれが『情けねェ』って言った事をいつまで根に持ってんだ?? いくらおれでもこの寒さで寒中水泳なんか…………イイ修行になるかもしれねェな。

 おれは上着もシャツも脱いで上半身裸になる……割と寒ィな。まぁ、こんなおれの様子を見ているカルガモの方が寒そうにしてるみてェだけど。

 大きく息を吐き、気力を高めるように冷たい空気を吸い込むと、甲板を跳びだし極寒の海へ身体を投げた。

 くっ!! さすがに冷てェ!! まずは船の周りを泳いで準備運動だな…………身体も慣れてきたし、そろそろ川の方にでも行ってみるか。

 船番はカルガモに任せりゃイイだろ……へェ、こんな冷てェ川にも魚がいるんだな。

 よし、あの魚を追い抜く事が出来れば、おれは水中でも魚人に勝てる男になれるはずだ!!

 いつか魚人?1の剣士を倒す事を想像しながら、おれは全力で魚を追いかけた。



〜Side ドルトン〜



 不思議な雰囲気を持った青年だ。肉食の動物系能力者であり、その力を顕在させていながら、身に纏う空気はとても穏やかなモノだ。

 悪魔の実の力を完璧に制御しているのだろうが、穏やかな雰囲気の中にも、力強い意志を感じる灰色の瞳は、時折ドラムロックに向けられているように見える。

 ”Dr.くれは”が、あの頂の城に住んでいる事を知っているのだろうか?

 村に付き、守備隊の面々と別れると、私の家に入った。途中、ルフィ君と熊に怯えていた船員が、ベアトリス婦人をハイキングベアーと間違えて一礼をした時には、内心焦ったものだ。


「そこのベッドを使ってくれ。今 部屋を暖める」


 暖炉に近づこうとすると、タクミ君が話しかけてきた。


「火の番は任せてください。ドルトンさんは医者についての説明をお願いします」


 薪の組み方も慣れているようだし、任せても問題ないだろう。


「そうだな……人々が”魔女”と呼ぶ我が国の唯一の医者、名を”Dr.くれは”というのだが、その居住が問題なんだ……窓の外に山が見えるだろう?」

「ああ、あのやけに高い……」


 金髪の彼が言葉を止めたのは当然だ……窓の外には、いつの間にか巨大な雪像が二体並んでおり、完全に景色を隠していた。


「”ハイパー雪だるさん”だ!!!」
「雪の怪物”シロラー”だ!!!」

「てめェらブッ飛ばすぞ!!!」


 金髪の彼は雪像を破壊し、作成者の二人を粛清した。先ほどの件といい、この二人はどうやら一味のお調子者みたいだな。今は二人とも部屋の中で大人しく熱いお茶を飲んでいる。


「あの山々の名はドラムロッキー、真ん中の一番高い山の頂上に見える城が、Dr.くれはの住まいだ」

「で、なかなか降りてこないってわけですね?」


 暖炉の目の前から動かずに、タクミ君が問いかけてくる。頭の回転が速いな。


「ああ、その通りだ。あと、降りてくる時には、そりに乗って降りてくるらしい」

「今日あたりに降りてくると思いますよ」


 タクミ君は煙草を吸いながら、自信ありげに話しているが……


「昨日ドクターが山を降りてきたという情報があるから、おそらくそれは無いと思うのだが」

「!!? そんなバカな!!!」


 理由は解らないが、彼は酷く驚いた様子だった。



〜Side タクミ〜



 どういうことだ!!? 確か原作でも、一味が到着した前日に目撃情報があったハズ……リトルガーデンからココまで本来なら三日かかった所を、二日に短縮出来たんだから、今日と明日、ドクトリーヌは町に降りてくるハズなんだが。

 ……ん? 原作では本当に三日だったか!? 二日だったような気もしてきたぞ!?

 ありえない……「ONE PIECE」は何度も読み返して完璧に頭に入っていたハズ……いや、確実に入っていたんだ!! 忘れないようにこの世界で目覚めてからも、何度も反芻した!! あやふやな部分がある事は本来ありえないんだ。

 …………原作知識に靄がかかってきているのか!!? そういえば、リトルガーデンでは、火山の噴火が決闘の合図だというのを、事が起きるまで思い出せなかった。

 一体なにが原因だ?? このままじゃ占いの信憑性と俺の優位性が薄れてしまう。


「アナタの占いも偶には外れるのね」


 俺が”99.9999%(シックスナイン)”の煙を出すのを見ていたロビンは、興味深そうに話しかけてくる……何を焦っているんだ俺は、まだ手は残っているじゃないか。


「いや、俺の紫煙占いにおいての”99.9999%(シックスナイン)”は、ほぼ絶対の数値と言ってもイイ。外れるなんて事は、ウソップの鼻が外的要因も無く突然縮むくらいありえない事だ」

「何だその例え話は!! 長い事嘘を吐かなければ、突然縮む事だってあるかもしれねェだろうが!!!……ていうか紫煙占いって、お前の占いはタバコの煙だったのか?」


 ウソップが自らピノ〇オネタを出してくるとは、まあココはスルーしておくか。


「あぁ、イロイロ出来るが、この占いが一番信頼度が高いんだ。ドルトンさん、この島の地図をお借りできますか?」

「構わないよ…………コレだ。だが何に使うのかね?」


 ドルトンは怪訝な顔をしながらも地図を渡してくれた。話の流れがよく分かってないみたいだな。


「今日”Dr.くれは”が山を降りてくるのは確実です。どの町に降りてくるかをこれから検証しますので、その町までの案内をお願いします」


 困惑の表情を浮かべるドルトンをよそに、地図の地名を見ながら煙を吐き出していく。”ココアウィード”この町の名前はハッキリと覚えている。

 0〜10%の煙をいくつか作り、適当に91.74%と吐き出して、自信満々の表情でドルトンに告げる。


「”Dr.くれは”は、おそらくココアウィードにいます。ですが、あまり時間がないかもしれません。すぐに出発しましょう!!」


 皆はまだ煙に注目しているが、ロビンだけはドルトンの説得に協力してくれる。


「彼の占いは驚異的な的中率よ。彼がそこに来ると言うなら必ずくるハズだわ。案内して下さるかしら?」

「……わかった。すぐにそりの用意をしよう」


 脱いでいた上着を着なおすと、ドルトンは足早に家を出て行った。やっぱロビンが言うとスムーズに事が進むな。

 にしても、ロビンがこんなに俺のことを信頼してくれていたとは……まぁ、占いに対する信頼と、ナミへの心配が殆どだろうけど……


「よし、準備を急ごう!!」


 俺たちが家を出ると、ドルトンはすでにそりの準備を終えていた。原作で見たものより大型で四頭引きのそりだ。


「さあ、乗りたまえ。ココアウィードは隣町だ。すぐに着くだろう」


 俺たちはそりに乗り込みココアウィードを目指す……また何かを忘れている気がしたが、今は気にしない事にした。
 
 
 

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