小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”哀れサンジ”


 
〜Side チョッパー〜



「間に合った!! ”Dr.くれは”とお見受けします!! 仲間が”五日病”なんです!! 助けて下さい!!」


 ココアウィードでの治療を済ませて村を出ようとしていたドクトリーヌを、妙なヤツが呼び止めた。


「”五日病”!!? ケスチアは百年も昔に絶滅したって聞いたが……お前が診断したのかい?」


 ドクトリーヌは明らかに怪しんでる。当たり前だな。五日病なんて、本で読んだだけで、おれだって患者を診た事なんか無ェもんな。


「俺は生物学者の家系の者です!! それくらいの知識はあります!! 時間に取り残されたような太古の生物が生息する島に行った際に発症して、今日で感染から丸二日経ってる!! もう時間が無いんだ!!!」

「それが事実なら急ぐ必要があるね。ケスチアに刺されたら、別に五日間もつって決まっているわけじゃない……三日で死ぬ事だってあるんだ」


 患者を脅かすのはドクトリーヌの悪い癖だ。万能薬に一番近い存在のドクトリーヌが診る時点で、コイツの仲間はきっと大丈夫。

 ……!!? 何だコイツ!? 人間じゃねェのか!?

 ドクトリーヌに脅かされた顔でも見てやろうと思ったら、コイツの顔は人間じゃなかった……ネコ科の顔に見えるけど、体臭が全く無い。何なんだいったい!?


「……それで、抗生剤はお持ちなんですか……」

「ヒーヒッヒッヒッヒ!! 心配せんでも城にはちゃんと蓄えがあるさね。患者を連れてきな!!」


 患者はコイツの仲間達と一緒にやってきた。男に背負われていて表情が解分かり難いけど、かなり辛そうに診える。

 護衛団長と一緒にいるから、どうやら危険なヤツらじゃないみたいだな。

 この場で別れるらしい団長以外の全員が、そりに乗り込んだのを確認して、おれは走り出した。


「ゴメンな。こんなに乗って重たいだろ?」

「………………」


 さっきのヤツが話しかけてくるけど、おれは人前では極力しゃべらねェようにしてるから無視した。


「……アレ? Dr.トナカイは、俺と同じ動物系の能力者だと思ってたけど違うのか??」

「!!!?……何で解ったんだ!? それにDr.何て言われたってうれしくねェぞ!! おれの名前はトニートニー・チョッパーだ!! コノヤローが!!」


「……随分と嬉しそうに見えるけどな。俺はライオン人間のアイザワ・タクミだ。普通の人間より鼻がイイんだよ。そんなに消毒薬の匂いがするトナカイなんているわけないからな」

「ライオン人間!? 何だそれ!?」


「悪魔の実を食べたんだ。うちの一味には俺を含めて3人の能力者がいるからそんなに珍しくも無いぞ?」


 コイツみたいなのがあと二人もいるのか。一味って何の一味なんだ??……まぁ、イイや。それよりコイツに聞いてみたい事がある。


「……お前はバケモノって言われないのか?」

「まぁ、よく言われる。動物系は見た目がちょっとな。でも俺は構わないさ仲間と呼んでくれるヤツらがいるからな」


 そうか、コイツは人間の姿になれば人間と仲良く出来るんだ。その為に体臭を消す工夫をしてんだろうな。青っ鼻ってだけでトナカイからも仲間にしてもらえないおれとは違うんだ。


「おれは、元がトナカイの人間トナカイなんだ。おれには仲間なんか出来っこない……ただのバケモノだ」

「まさかお前そんな事気にしてるのか? バケモノは強いんだ!! もっと自信を持てよ!!」


 バケモノは強い!? 自信を持て!? そんな事は考えた事も無かった。

 ……コイツと話してると調子が狂う……おれはそれから黙ってそりを引き続けた。

 城に着くまで、タクミがおれに話しかけることはもう無かった。



〜Side ロビン〜



 トナカイさんとハンターさんが話をしているのに気づいていたのは、私と”Dr.くれは”だけだったみたいね。

 しばらくして城に着いたんだけど、正面の扉が開け放たれていて、城内は雪の城と呼ぶべき場所だったわ。船長さんとコックさんが扉を閉めようとしたのだけれど、ハンターさんと巨大化したトナカイさんの鉄拳制裁を受けた。

 どうやら扉の上の”雪鳥(スノーバード)”の巣を落とさない為に、扉が閉められないみたい。人化した(獣化したと言うべきなのかしら?)トナカイさんを見た船長さんは、『仲間になれ!!』って叫びながら、トナカイさんを追いかけ始めてしまった。


「ルフィ!!! 勧誘はナミの治療が終わってからにしろ!!! チョッパーは”Dr.くれは”の助手だ!!「待てバケモノーー!!!」…………って俺の話を聞けぇ!!!!」


 瞬時に追いついたハンターさんに殴られて、船長さんは城の壁と一つになってしまったわ……なんだか呪いのシミみたいね。

 トナカイさんの名前がチョッパーだって事を、船長さんは知らなかったと思うんだけど、ゴム人間なら大丈夫よね。

 そのまま船長さんを無視して部屋に到着すると、治療の邪魔だと言われて部屋を追い出されてしまったわ。

 氷ついた他の部屋の扉を、ハンターさんが強引にこじ開けて、暖炉に火を入れる。彼は暖炉の前に座り込んでから、ピクリとも動かなくなった。よっぽど寒かったんでしょうね。

 私も暖を取りたかったから、その隣に腰を下ろして話しかけてみた。


「本当に大丈夫なの?」

「……さっきまで本格的にヤバかったけど、何とか大丈夫だ。ナミの前では泣き言いってられないからな」


 不器用な人ね。外はマイナス50度の世界。最近まで温暖な島で暮らしていたライオンの能力者が、こんな環境で平気なわけ無いんだから、もっと弱いところを見せてもイイのに。

 きっと、年長者である自分が一味の柱になろうと、今まで必死になってやってきたのでしょうけれど、アナタの仲間はアナタが思っているよりずっと強い人間だわ。

 特に、自分が重病なのに、私を恋敵に認定する航海士さんとかね♪

 でも、一味の保護者みたいな立場の彼が、恋愛に眼をむける余裕なんてあるのかしら? 何か一杯いっぱいって感じよね……航海士さんの為にも、少しは彼の負担を減らしてあげる事は出来ないかしら?

 私は震える彼の手に、そっと自分の手を重ねて微笑みかける。


「私の前なら、泣き言いってもイイんじゃない?」


 私の夢の手助けになってくれるのだから、相談くらいなら聞いてあげてもイイ。


「ロビン!?……ありがとう」


 彼は驚いた様子だったけど、人型に戻って、私が重ねた手をその大きな手で優しく包み返した。彼の手は凍えていたハズなのにとても熱かった。

 真っ直ぐに見つめ返してくる彼の瞳は、灰色なのに青空みたいな印象を私に与える。

 私と彼は似てるところも多いけど、ココは決定的に違う……闇を生きてきた私の瞳は、きっと濁って見えるのでしょうね。


「ロビンも気軽に俺を頼ってくれよな」


 それじゃあ意味がないじゃない……彼の瞳が真っ直ぐすぎて、肯定しないと落ち込んでしまいそうだから、小さく頷いたけど、私はうまく笑えていたかしら?

 ……どこまでも、仲間を思いやる彼の為に。



〜Side タクミ〜
 
 
 
 えー、この状況はいったい何なんだ??……僅か数日で、ロビンはデレたのか??

 ……んな訳ないな。好かれる程の事はしていない……誰か状況を説明して欲しい。ロビンが解らん。さっきの微笑み+頷きの破壊力で、俺はもう戦闘不能だ。

 ていうか、この手は握ったままでイイのか? ロビンは黙って火を眺めてるし、何故サンジは乱入してこないんだ? ナミのとこにでも行ったのか? 包丁が飛んでくるぞ?

 ……何か……考えるのも面倒になってきた。

 だんだん部屋が温かくなってきたな……なんか……眠い……



〜Side サンジ〜



「キ・サ・マ〜!!!!」


 おれは部屋のドアを開けた瞬間、その光景を目にして、船での怒りが再燃した!!

 おれがナミさんの様子を見に行った隙に、ちょっと眼を離すとすぐにコレだ!!!

 あの野郎はロビンちゃんの手を握り、あろうことか肩を借りて寝てやがる!!!

 我慢の限界だ……コイツは今!! 確実にココで殺しておかねばならん男だ!!!


「覚悟は決まったか!? クソネコ〜っ!! てめェはこのおれがふぁ!!!……何で!? ビビちゃん」


 おれの腹には、ビビちゃんの拳が深く突き刺さり、そのまま部屋の外に連れ出された。


「いい加減にして!! どうしてミス・オールサンデーの邪魔ばかりするの!?」


 ビビちゃんの声は、小声なのに妙な迫力があって軽くビビった。


「だってあの野郎が……」

「あれは彼女からタクミさんの隣に座ったの!! 彼女から手を握ったの!!! 彼女が眠ってしまったタクミさんの頭を引き寄せたの!!!! 彼女はタクミさんが好きなの!!!!!」


「…………えぇーーーー!!!?」


 そんなバカな!!? おれはもう一度部屋の様子を確認する。

 ロビンちゃんはただアイツの事を心配してるだけのハズ!! ただアイツの手を握って、肩を貸して、能力まで使って倒れないように支えて……嫌がるそぶりも無く、隣で本を読んでる・だ・け・で…………


「ぬあーーーーーー!!!!」


 叫びをあげるおれを再び連れ出して、ビビちゃんが告げた言葉に……おれは灰になった。


「もうわかったでしょ!!……だいたいナミさんと天秤にかけてるようなサンジさんが、ミス・オールサンデーを振り向かせられるわけ無いじゃない!!!」


 おれはただ……全ての女性に優しいだけなのに……すべての美女を、愛しているだけなのに……
 
 
 

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