小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”とある二人の暴走特急”



〜Side ナミ〜



「……それで? ビビはいつから気づいていたの?」


 わたしはタクミ達から離れて、カルーを看病しているビビに話しかけた。ビビは一瞬きょとんとしていたけど、すぐに言いたい事が分かってくれたみたいね。

 だけどその口は、わたしが思いもしない言葉を発した。


「あぁ、その話ね。気づくも何も本人が言ってたわよ?」

「ええ!? タクミがそんなにハッキリ認めたの!?」


 まさかタクミがビビにそんな話をしていたなんて、自称妹としては少し寂しい。一番最初はわたしに言うべき事でしょ!!


「タクミさん??……何の話?? ミス・オールサンデーがタクミさんの事を好きだって話じゃないの??」

「嘘!? それじゃあ、あの二人はすでに両想いじゃないの!!」


 わたしはひっくり返るくらい驚いたけど、ビビの驚きようはそれ以上だったみたい。抱いていたカルーを放り投げたもの。


「本当に!? タクミさんもミス・オールサンデーが好きなの!? 頼りにしてるだけとかじゃなくて!?」

「あからさまにロビンに対する態度が違うように感じてたんだけど……そう言われると何か自信が無くなってきたわ」


 ビビは、コッチが話しかけられないくらい真剣な表情で悩んでる。イガラムさんが殺されたと思い込んだ時と同じくらいに真剣に見える……そこまでの事かしら?


「……ニブそうな人を連れてきて聴いてみたらどうかしら? それでも気づいてるようなら決まりって事よ!! サンジさん以外なら誰でもイイと思うわ!!」

「え、えぇ」


 なんかもう、ビビがノリノリだわ……アラバスタの事、忘れてんじゃないかしら?

 結局サンジくん以外の全員に聴く事になったのでまとめてみた。


・ルフィの場合


「タクミがロビンを好き? そりゃそうだろ。タクミは仲間全員の事が好きだと思うぞ?」


 ルフィはダメね。質問の意味がわかってない……次!!


・ウソップの場合


「タクミが!? そうかロビンの気持ちには薄々感づいてはいたけど、そうなったか」


 ニヤニヤしながらわたしを見る目が何かムカついたから、一発殴っておいた……次!!


・チョッパーの場合


「おれ……よくわかんねェ」


 しょうがないわよね。とりあえず鼻に刺さった割り箸は抜いておいた。

 そして、恋愛に関してチョッパー以下だと判断していたこの男から、予想外の反応が返ってきた。


・ゾロの場合


「は? そんなもん見りゃわかんだろ……ていうか、楽しそうに聴いてるけど…………お前はいいのかよ? タクミの事が好きなんじゃねェのか? ロビンも満更じゃねェみたいだし、このままじゃ決まっちまうぞ?」


 ありえない!!! 何でゾロが一番正確に状況を把握してるのよ!!!? ゾロの言葉を聞いて、ビビが固まっている。


「わたしはタクミの事を……お兄ちゃんとして好きなの!! ちょっと寂しいけど、タクミとロビンの事を応援してるんだから!!」

「何だ、ただのブラコンかよ。心配して損したぜ……卒業、おめでとう」


 半笑いで去っていくゾロに、殴りかかろうとするわたしを、ビビが必死になって止めた。


「ナミさん落ち着いて!! 勘違いされて腹が立つのはわかるけど、二人が見てるわ!!」


 声までは聞こえてないでしょうけど、グラスを蹴り倒したわたしに、タクミとロビンが注目している。その隣ではウソップがまたあの顔をしている。

 ……アンタもか!! アンタも気づいてたのか!! さっきのニヤニヤはそういう意味か!!!


「ウソップ!! アンタ、コッチ来なさいよ!! まだ殴られたりないんでしょ!!!」


 わたしは標的をウソップに変更して叫んだんだけど……


「ナミ、酒乱はルフィだけで十分だ。だいたいお前は笑い上戸じゃなかったか?」


 タクミの言葉に毒気が抜かれた。力が抜けたわたしを放して、ビビが笑いかけてくる。なんだか妹みたいね。


「ナミもビビもこっちで一緒に飲めよ。投げ捨てられてるカルーも連れて来い、酒飲ませればちょっとは身体も温まるだろ」


 優しく手招きするタクミを見て思った。兄は偉大だ。わたしが何をしてもフォローしてくれるんだろうけど、もうその優しさを勘違いしたりしない。

 わたしはタクミの隣にいたウソップを蹴り倒して、ロビンと二人でタクミを挟むように座る。タクミが兄、ビビが妹、それならロビンはお姉ちゃんかしら? ノジコとはタイプが違うけど、随分頼りになりそう。


「みんなを一人ひとり呼び出したりして、何を話してたんだ?」


 新しいグラスにお酒を注ぎながら聞いてくるタクミの耳元に顔を近づけ、私はタクミだけに聞こえるように囁きかける。


「お兄ちゃんには教えてあげない!!」


 困惑するタクミに舌を出して、わたしはワインをいっきに飲み干した。



〜Side タクミ〜



 何だ今のは!!? いきなりお兄ちゃん発言!? 不覚にも一瞬動揺してしまった。俺の妹があんなに可愛いわけがない!!

 ……いや、落ち着けタクミ!! ラマーズ法だ!! ひっ・ひっ・ふー、ひっ・ひっ・ふー……よし、何か違う気もするが、大体リアルに妹がいた俺には”妹萌え”属性は無いハズだ!!

 前世の俺の妹は歳が離れていたし(ナミとの歳の差よりはマシ)、最後の数年はあまり会ってもいなかった。まあ、十代で既に酒豪だったとこは似てるな。

 ……どうでもイイわァ!!! 俺はロビン一筋だァ!!! ナミめ、俺に余計な性癖を植え付けようとするとは恐ろしいヤツだ。

 今はチョッパーを掴まえて『弟が人間じゃないっていうのも悪くないわね』とかわけわからん事を言っている。


 そういえばロビンもおかしい。手を握っていて冷やかされた事を謝ったら『構わないわ』って……期待してもイイのか?

 さっきから俺の隣を離れないし、ナミが反対側に座った時は、俺の腕を掴んできた。ナミにとられたくない……とか?

 マジか!!!? どのタイミングで!!!?……んー、考えてみてもよく解らないが、これからはもう少し積極的にいってみよう。

 俺が暴走的思考を終了させるタイミングで、サンジが追加の料理を運んできたんだが、何かフラついてないか?


「サンジ、料理のペースが遅いぞ? それじゃあお前が飲み食いする時間が無いだろ。今回は俺が手伝おうか?」

「……いや……イイ。お前はそこで楽しくやってくれ……おれは、一人で料理してるのがお似合いなんだ」


 この場を一度離れて気分を落ち着かせたかったんだけど、サンジに拒否されてしまった。俺が寝てる間に何があったんだ?? サンジまでおかしくなってやがる。

 いつもなら、俺を退かせてココに居座るくらいの事は平気でやるのに……ビビが心配そうに後を追っていったから、任せる事にしよう。彼女は気配りが出来るコのハズだ。

 俺がビビの後姿を無言で見送っていると、ロビンに袖を引っ張られて、振り向いた。


「タクミは料理も得意なの?」


 …………ロ、ロビン?? 今なんて言った……タクミ?……俺の名前だよな?

 え!!!? CP9編の後まで、ルフィのこと以外は肩書きで呼んでなかったか!!!? ていうか俺の介入のせいで、今はアニメ版みたいに船長さんって呼んでるし。

 俺だけ特別?……確定だ……攻め時なんだ。でも、その前にこの感情の高ぶりを抑えなければ、俺はどうにかなってしまいそうだ。

 俺は酒瓶を持って黙って立ち上がり、ココではない何処かに向けて駆け出した。


「Yaー!! Haーー!!!」


 そして、何も考えずに海面にタッチダウンを決めた。



〜Side ロビン〜



 私が航海士さんと王女の様子に注意していると、ハンターさんがお酒を取りに行ってしまった。

 二人は、呼びつけた船長さんとの話しに夢中で気づいていないみたいね。

 船長さんはすぐに戻ってきて、今度は船医さんを連れて戻ってきた長鼻くんが呼ばれた。


「航海士さん達の話はなんだったの?」


 口止めされているのだろうけど、私はダメもとで訊ねてみた。


「ああ、『タクミがロビンの事を好きなのを知ってたか?』だってよ。そんなの仲間ならあたりまえじゃねェか!! なぁ?」


 …………え!!!? そうだったの!!!? だから航海士さんは王女と結託して、一番の邪魔者である私を排除しようとしたのね!!!?

 船長さんは質問の意味がわかってないから口止めされなかったみたい。


「そうね」


 私はなるべく平静を装って返事をして、長鼻くんの帰りを待った。なんとかして裏づけを取らないと!!


「航海士さん達の話はなんだったの?」

「ぷっ!! 聞きたいか??」


 長鼻くんは口止めされていてもオモシロければ言ってしまうハズだわ。


「ええ、興味があるわ」

「タクミがお前の事を好きなのに気づいてたかって話だったんだけどよ……しまった〜おれとしたことが〜。コレはロビンには言っちゃいけない話だったな!! おれから聞いたことは黙っておいてくれ!!」


 ……なんてワザとらしいのかしら。長鼻くんには絶対に秘密を話すべきではないわね。


「ええ、絶対に言わないわ。彼が戻ってきたわよ」


 酒瓶をたくさん抱えて戻ってきた彼を見て、長鼻くんはニヤニヤしながら彼の隣に腰を下ろした。

 特等席で見物するつもりね……タチが悪いわ。

 その後、船医さんや剣士さんが呼ばれる間、私は考え事をしていた。

 これはチャンスだ!! 彼を私のモノに出来れば問題は解決する。私が彼に想いを伝えればイイだけ、この状況なら偽りで構わない。

 彼と一緒に居たいと言えば二人にしてくれるだろうし、たとえ航海士さんが諦めなくても、寝込みを襲われる心配はなくなるハズよ。

 ちょっとシミュレーションしてみましょう…………『アナタを私のモノにします』…………ダメそうね。恋愛なんかした事ないから何て言えばイイのかさっぱり解らないわ。

 ぼんやりと航海士さんを眺めて、彼女ならどうするのかを考えていたら、彼女がコチラに来て、長鼻くんをかなり強引にどかせてから彼の隣に座った。私は思わず彼の腕を掴んで身構えた。

 何を話していたのかは彼も気になってたみたいで、彼女に聴いたのだけど、彼の耳元で何かを囁き、覗き込んでいた私に舌を出してきた。

 ……ダメだ。彼に何を吹き込んだの!? なんだか動揺しているみたいだけど、もしかして告白してしまった!?

 彼が彼女のモノになれば、私はきっとどんな手を使ってでも放り出される……彼女なら絶対にやる。

 幸いな事に彼は今、私を好きでいるのだから、まだ何とかなるハズ…………どうすればイイの!? 何をしていいのかわからないわよ!!

 どうして皆こんなにメンドウな事に興味があるのかしら!! 確かに彼が必要だし、信頼もしてるけど、”好き”だなんて感情は知らないわよ!!

 私はサウロが好きだった?……何か違うわね……とりあえずサウロの事は名前で呼んでいたし、航海士さんの話だと呼び方は重要みたい。

 ……そこから始めてみましょう。コックさんが料理を運んできてちょうど話す話題が出来たし、話しかけるなら今ね。

 私は船内に意識を向けていた彼の服の袖を引っ張ってコッチを向かせた。


「タクミは料理も得意なの?」


 ……彼は固まってしまったわ。何かマズかったのかと考え込んでいたら、彼が酒瓶を持って突然立ちあがり、奇声をあげながら海に飛び込んでしまった。


「タクミが海に飛び込んだぞ!!!」

「……このクソ寒いのに何がしたいんだ……体の一部がHotなのか?」

「サンジさん!! わけわかんないこと言ってないで助けに行って!!」

「……ゾロ、アンタが行きなさいよ。寒中水泳してたぐらいだし平気でしょ? 全く、ロビンがいきなり”タクミ”なんて呼ぶから」

「へいへ「「いま助けるぞーー!!!」」……何で能力者二人が助けにいくんだよ……ったく」


 剣士さんが海に飛び込んで三人を引き上げてきたんだけど……どうして彼はシアワセそうな顔をしているの????


「タクミ!! ロビンに心配かけてんじゃねェ!! 見ろ!! あそこでフリーズしてんぞ!!」


 長鼻くんのビンタで意識が戻った彼は、コチラを向いて申し訳なさそうにしている。


 …………私が恋愛を理解するのは、無理かもしれない。
 
 
 

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