小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”偽りの恋人”



〜Side タクミ〜



 ……昨日は見苦しいところをお見せした。ロビンが脈アリだと判明した途端、思わず奇行に走ってしまった。

 どうしてイイか解らなかったんだ……勘違いされても困るが、俺は友営と甘営でNo.1になっただけで、一般的な恋愛に自信があるわけじゃない。金持ちのおば様に可愛がられていただけだ。

 まぁ、色営に走らなかったからこそ、客の息が長くてNo.1を守り続けることが出来たわけなんだが、俺はプライベートでは自分から告白なんかしたことのないヘタレなんだ。

 これからどうしたらイイのか一人で考えたいのだが……


「よっタクミ!! ちょっと相談があんだけど、ゾロとロビンも一緒か」


 そう、ロビンがついて来るんだ。どこに行っても。何ともうれしい状況なんだが、カルガモか!!! とツッこみたい。ゾロと筋トレしてるのを見ていて楽しいのか?

 まぁ、ゾロはからかってきたりしないからイイんだが、約15分毎にナミとビビが交互にこちらの様子を伺いにくるのがかなり鬱陶しい。


「相談って何だ? 二人がいたらマズいのか?」

「別にそういうわけじゃねェんだけど、出来れば秘密にして驚かせたかったんだ」


 秘密にしておきたかったって言いながら随分アッサリだな。ルフィらしいけど。


「まぁイイや。それで? 俺に出来る事なら力になる、言ってみてくれ」

「タクミの技を教えて欲しいんだ!! イイだろ!!」


 ……んー、イイのか? ココでルフィを強化してしまっても……何か問題が起きるだろうか? 強くなる分は構わないか。


「教えるのは構わないが、俺は何年もかけて習得した上に、この技は本来、政府の人間が使う技なんだ。難破船の資料を読んで、不明瞭な部分は俺が独自の理論で完成させた。ゴムの性質上、ルフィに向いてるのは「剃」と「月歩」くらいだな「紙絵」は俺も苦手だし経験が重要な技だから」

「あの消える技と空を歩くヤツか!! それだけでもイイ、教えてくれ!!」


 ぐいぐい来るな。何かあったのか?


「まあ「月歩」はルフィにはあんまり必要無いかもしれないけどな。それよりルフィにぴったりの強化方法があるんだが聴くか?」

「何だそれ!? 教えてくれ!!」


 ゾロまで興味を持ったみたいでコッチにやってきた……イイのか? でも、やっぱり教えないとか言える雰囲気じゃないな。


「コレはルフィのゴム人間としての能力をフルに使える可能性がある、革新的な戦闘法だ。今は俺の理論上だが、おそらく効果はあるハズ……ただ……」

「……ただ? 何だ?」

「リスクがあるって事だろ? そんな都合のイイ方法があるなら、タクミはとっくに話してる」


 ワザとらしく言い淀んでみたんだが、ゾロは感がイイな。


「ゾロの言う通りだ。これも理論上なんだが、コレは……命を削る戦闘方法だ。それでも知りたいか?」

「構わねェ!! おれは仲間を全力で守るんだ!!」


 ギアがもたらす弊害を正しく把握してる俺としては、ルフィの判断は無謀としか言いようがないんだが、止めたところで何れ自分で編み出すんだからな。

 それまでに負う怪我の事を考えれば、プラマイゼロってとこだ。それに俺が教えた技となれば、いざという時に俺がストッパーになる事も可能だろう。


「……一切の迷い無しか。お前には敵わないよ……イイか、これはゴム人間のお前にしか使えない技だ。身体の一部をポンプのように使い、全身の血流を加速させる。心臓は倍以上の速さで鼓動して、お前の身体能力は極限まで高まるハズだ」

「強くなるんだな、ならやる!!」


 コレでルフィの方が道力で上回ってしまいそうだな。まぁイイか。俺はNo.2でもNo.3でも、夢が果たせれば構わないからな。

 早速ルフィにアドバイスをしようと思ったのだが、ロビンが止めに入った。流石にこの技の危険性が分かるんだろうな。

 某筋肉達磨はコレに酷似した力を手にした代わりに、戦闘時間を三分に限られて余命宣告まで受けてるからな。


「ちょっと待って!! 確かに理論上は可能だけど無茶苦茶よ!! 血管までゴムの船長さんだから出来る戦い方だけど、本当に命を削る戦い方よ。常人なら即死だわ!!」

「ああ、血流操作なら俺も少しは出来るから試してみたんだが、俺には一日一分が限度だった」


 既に俺が試した後だと聞いてロビンは絶句している。そんなに心配してくれるとは思わなかったな……二度と実験しないようにしよう。


「……お前はどこまで無茶してんだよ。おれ向きの新戦術はねェのか? おれだって命を削ろうが、大剣豪になれるなら構やしねェ」


 何か居心地悪いな。俺は基本的に自分の安全が最優先なんだから、そこまで評価されると困る。


「悪いな。剣術にはあまり詳しくないんだ。何か気づいた事があれば伝えるよ」

「しゃーねェな。出し惜しみは無しだぞ!!」

「アナタ達って本当に……もうイイわ」


 ロビンは呆れてモノも言えないって感じだ。心配しないでも、皆の無茶は可能な限りは止めるし、俺は無茶しないつもりだ……夢とロビンが絡めばどうなるか解らないが。


「よし、早速試してみるか。俺は屈伸をしながら血流を加速させるイメージでやってみたから、ルフィは足をポンプにしてみるとイイ。成功したら俺に銃(ピストル)を撃ってみろ」

「……わかった」


 ルフィの身体から蒸気が上がる。少し苦しそうな表情だ。しかし、一発で成功させるとは、恐ろしい戦闘センスだな。羨ましい限りだ。


「ゴムゴムの……」


 俺も人獣形態になり身構える。今回ばかりは「獅子 鉄塊」で受ける訳にもいかないな。正面から受け止めるとしよう。


「「鉄塊 剛」!!!」

「銃(ピストル)!!!」


 っく!! かなり強烈だけど「鉄塊 剛」が崩れるほどじゃないな。少なくとも俺の「鉄塊 剛」はブルーノよりは強度があるみたいだ。バズーカだったらダメージが通ったかもな。


「イイ一撃だ……バズーカか銃乱打(ガトリング)ならやられてたかもな。「剃」を覚えて併用すれば、俺でも対処が難しいレベルだったよ」

「そっか、タクミなら今の避けれるかと思ってたけどな」


「……ギリギリってとこだろうな。お互いイイ修行になりそうだけど、船の上じゃウソップが大騒ぎするから、コレ以上は止めといたほうがいいぞ」


 本当は多分無理だったのだが、少し見栄をはった。


「それで避けなかったのかよ……お前バカだろ!?」

「修行ヲタのお前には言われたくない。気になるだろ? 耐えられるのかどうか」

「タクミ!! ソル教えてくれ、ソル!!」


 あんなもん、ルフィなら教そわらなくても出来るハズだ。俺だってルフィが話していた大雑把な理論で出来るようになったんだしな。


「地面を一瞬で蹴りまくって加速するだけだから、アレが一番簡単だ。でも、今日はもう止めとけ。また明日な……後、あんまりその力は多用するなよ」

「へっへーんだ!! タクミのアドバイスで、もう一つ技考えたからな!! ソルが出来たら一人で試すんだ!!」


 ルフィは悪戯っ子の顔で去っていった。


「止めたって無駄みたいだな」

「そうみてェだ」


 ルフィを見送った俺は、ゾロとの筋トレを再開した。ロビンは相変わらず傍に座ってコッチを見ていた。

 前の世界では考えられなかったな……5tのバーベルってなんだよ。それを持ち上げてもわりと平気な自分が怖い。



〜Side ゾロ〜



 ルフィが去っていってタクミとの筋トレが再開したんだが、どうもおれは集中できねェ。

 ロビンはいつまでそこにいるんだ? 昨日タクミを追いかけていった一件から、自分の気持ちを隠す気がなくなったみてェで、夜通しの宴会から今までタクミの傍を離れる気配すらねェ。

 タクミのヤツもロビンが好きなら何とか言やイイのに、めんどくせェヤツらだ。

 でも、一味の中に恋人同士がいるのは微妙だろうな……狭い船内だし、イロイロと煩わしそうだ。

 でもなァ、ロビンはナミが近づく度にあからさまに警戒態勢をとってるし、この状況はよくねェよな。

 あのブラコンも応援するっていうなら、ビビとこそこそしてねェで、ハッキリすりゃいいんだ。お互いに相手の気持ちを伝えちまえば簡単だろうが。

 ……まぁ、おれはそこまでするつもりはねェし、ほっとくしかねェな。


「タクミ、あまり無理しないで休憩を取ったら?」


 ロビンがタクミにタオルと飲み物を渡している。さっき覗きにきたビビが渡してたのはコレか。ナミよりよっぽど応援してるじゃねェか。


「あ、ありがとう……ゾロも休憩したらどうだ?」


 どもってんじゃねェ!! 緊張してるからって、おれを巻き込もうとするな!!!


「おれはイイ」


 全く集中できていないトレーニングを続けるおれを、二人して見ている……会話をしろよ!! 二人でよ!!

 ……ん? 今度はナミか。隠れてるつもりなのか顔を少しだけ覗かせて、二人の様子を伺ってやがる。


「ロビン!? どうした!?」


 ナミに気づいてロビンは勇気を出してタクミの腕を掴んだみてェだな。


「ごめんなさい……特に意味はないの」


 二人が仲良さげに見えたのかナミは満足そうに去っていった。ロビンは一瞬だけ考えたようだが結局手を離しちまった。

 手を離されて残念そうな表情のタクミ…………


「お前らいい加減にしろ!! 見てるこっちがイライラしてくるんだよ!!! さっさと付き合ってどっか行け!!!!」

「なっ!!!?」


 もう限界だった、おれの前でこの光景が永遠に繰り返されるのかと思うと、我慢の限界がきて思わず怒鳴りつけちまった。


「『なっ!!!?』じゃねェよ!! このヘタレ!! 一味の年長者二人がストロベリってんじゃねェ!! 告白でもなんでもハッキリしろ!!」

「お前な!! ロビンにまで何を「私は構わないわ!!」……はい?「私はアナタと付き合っても構わないと言ったの……アナタはどうなのかしら?」…………」


 うわっ、情けなっ!! 女から言わせやがった。まぁ、ロビンの言い方も素直じゃなかったが、タクミに比べればマシだな。

 おれの声がデカすぎたのか、一味のほぼ全員が様子を見に来てる。


「タクミさん!! ミス・オールサンデーに恥をかかせないで下さい!!」

「お兄ちゃん!! 男なら勢いよ!!」


 ナミ&ビビに叱咤され、タクミも決意が固まったみてェだな。


「俺がみる未来には、いつも俺の隣にロビンがいる……出会う前から愛してたんだ!! これからも、ずっと一緒にいて欲しい!!!」


 痒っ!!!!……さっきまでまごついてたクセに、よくそんな台詞が言えたもんだな。


「ロビンも恥ずかしがってないで、ちゃんと答えてあげなきゃ!!」

「え、えぇ………………私は、ずっとアナタの傍にいるわ」


 ロビンの返事を聞いたタクミは、何も言わずにロビンを抱きしめた。一味の皆が囃し立てる。サンジは止めを刺されたみたいだな……もはや廃人だ。


「アンタがキューピッドになるとはね」


 一味の様子を観察していると、ナミがニヤニヤしながら話しかけてきた。


「おれは、あの二人を見ててこれ以上イライラするのに耐えられなかっただけだ」

「それでもありがとう……わたしもスッキリしたわ!!」


 いまだに抱き合っている二人のもとへと駆け寄るナミは、晴れやかな表情だった。おれも一言ぐらいは、祝いの言葉をかけてやろうかね。



〜Side ロビン〜



 どういう事!!? 航海士さんと王女が彼を応援してる!!? お兄ちゃんって何!!!?

 私が混乱の極みに達していると、彼が歯の浮くような告白をしてきたわ。どうしたらイイの!? 私の事を予知夢で見てた!? 未来は確定!!?

 航海士さんの恐怖から逃れるために、彼を私のモノにしようとしてただけなのに、この状況はなんなの?

 ……航海士さんに急かされた……逃げ場は無いのね。私は腑に落ちない点がいくつもあったけど、彼に了承の意を伝えた。

 彼に突然抱きしめられ、一味のみんなに祝福される……彼はちょっと泣いてるわね。未だに困惑していると、航海士さんが話しかけてきた。


「おめでとうロビン!! これからもお兄ちゃんをよろしくね!! ロビンはこれから、わたしのお姉ちゃんってことにするから!!」

「ちょっと待って!! お兄さんって何!? 私が姉ってどういう事!?」


 私の疑問には答えずに、航海士さんは笑いながら去ってしまった。


「アイツは極度のブラコンだからな。タクミの事を勝手に兄貴にして慕ってるから……お前も大変だったな。まぁ、これからは、あんなあからさまに警戒するなよ? お前はナミの姉貴らしいし」


 私の疑問には剣士さんが答えてくれたけど、ますます意味不明だわ。


「彼女は私を敵視してたんじゃないの!?」

「だから、アレは兄貴を取られたくない妹の嫉妬だ……それとタクミ、とりあえずおめでとうって言っとくが、イチャつくならどっか行ってくれるとありがたい」

「……ほっとけ」


 剣士さんに一言だけ返事をして、タクミは私をまだ放さない。一度掴んだら放さないって、この人の前世はスッポンか何かなの?

 ……そんな事はどうでもイイわ。剣士さんの情報が正しければ、私は一人で空回りしてたって事!?……バカみたいじゃない。

 まぁイイわ。タクミが必要という点では変わらないわけだし、どうやら私を好きなのは偽りの無い感情みたい。

 私を裏切ることはありえないでしょうね。


「……そろそろ放してくれないかしら?」

「それは嫌!!」


 彼ってこんな人だったかしら?


「放してくれないなら……フフ……わかってくれて嬉しいわ♪」


 言葉の途中で、彼は慌てて私を解放した。この手はこれからも使えそうね。

 私たちのやり取りを見て、みんな笑っていたわ。この感じ……久しぶりだわ。航海士さんの問題も解決したし、これからは気楽に過ごせそうね。
 
 
 

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