小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”RUMBLE”



〜Side チョッパー〜



「チョッパー、ランブルボールを分けてくれないか?」


 甲板でウソップと遊んでたら、タクミが声をかけてきた。ウソップがニヤニヤしながらタクミに話しかける。


「ロビンは一緒じゃねェのか?」

「ロビンはナミとビビに捕まって、船室に連れていかれたよ。俺はガールズトークに混ざるつもりはないからな」


 タクミとロビンが船で別々にいるのは初めて見るな。よくわかんねェけど、二人は番いになったらしくて、さっきは皆でお祝いだった。

 騒ぐのが好きな一味みたいで、おれは楽しい!!


「別にイイけど、ランブルボールは”悪魔の実”の波長を狂わせる薬じゃなくて、”ヒトヒトの実”の波長を狂わせる薬だから、タクミには効果がないぞ」

「本当か!? 俺は七段変形できないのか?」


 タクミは凄ェ残念そうだな。ちょっと面倒だけど、何とかしてやろうかな。


「タクミ用に作ればいいだけだから、おれに任せろ!!」

「チョッパー!! お前は天才なのか!!?」


 タクミは歓喜の勢いのまま、おれを高い高いし始めた。ココまで喜ぶとは思わなかったな。


「うるせェ!! そんなにホメられたって嬉しかねェぞ!! とりあえず降ろせ!! んで変形してみろ!! コノヤローが!!」


 タクミはおれの指示通りに、ドラムでみた人獣型、それから獣型に変形した。それぞれの状態で診察してみて、血液サンプルを採ろうとしたら、ウソップが口を挟んだ。


「ちょっと待てよタクミ。クロの手下と戦った時とか、狩りの時に偶にデカくなるのは変形じゃねェのか?」

「あれは人獣形態の一つだから変形じゃないぞ?」

「何だそれ!? ちょっと見せてくれ」


 タクミは筋骨隆々の巨大な人獣型に変形した。さっきの人獣型の倍はある。


「ランブルボール無しで四段変形!? どうなってんだ!?」

「は? コレも変形なのか?……こんなことも出来るし、その気になれば……こんなことも出来るぞ?」


 タクミはまず爪を伸ばして見せて、次は牙を伸ばして見せた。


「ぎゃあああああ!!! 何なんだお前!!? 六段変形!?……ちょっと試しに腕を太くしてみろよ。他にいってるパワーを、全部腕に集めるイメージだ」

「…………こうか? 結構難しいなコレ」


 …………七段変形だ……おれの五年間の研究は何だったんだ……あ、今度は足を強化して跳んでった……八段変形になった。

 ……アイツ滅茶苦茶だ。その気になれば尻尾を強化して鞭にしたり、イロイロ出来そうだ。落ち込んでるおれに、ウソップが声をかけてくる。


「気にすんなチョッパー、アイツはバケモノなんだ。自分と比べてたらヘコむだけだぞ」

「……おで、ぐやじい!!!」


 同じバケモノと呼ばれる存在なのに、明らかにタクミのほうが格上なのが解って、涙がこぼれた。空からネコみたいに着地したタクミが、おれに寄ってくる。


「チョッパー!? なに泣いてんだ!? お前のおかげで、俺の可能性はまだまだあるってわかったんだ。感謝してる。チョッパーだって出来るようになるさ!!」


 ただのお情けの言葉だって分かってるけど……


「ほんどうが?」

「俺だって最初から出来てた訳じゃない。十年間も身体を鍛えて、五年間自然と一体になる修行をしたんだ。俺より野性のセンスがある分、チョッパーなら一、二年で出来るようになるさ」


 タクミはそんなに努力をしたのか!!? おれが敵わなくて当たり前だ……みっともねェ!! やる前から泣いててどうするんだ!!


「おれ、やるよ!! タクミ!! おれにも教えてくれ!!」

「……今はルフィにも別の技術を教えてやってるんだけどな。まぁ、イイだろ。俺と一緒に修行だな。この修行には終わりがないから、二人で高みを目指そう」


 あんな事が出来るのに、まだ強くなろうとしてんのか!!?……努力、コレが強さの秘密なんだ。


「やるぞーーーー!!!」


 おれはやる気に溢れていた。強くなるんだ!! もっと、もっと!!


「……チョッパーが燃えてる」

「そういえば、ウソップにも頼みがあるんだった。金と仮の図面はあるんだ。コレを作ってくれないか?」


 何の図面だ?? 覗いて見たけど、おれにはよくわからなかった。


「お前、コレは……この材料は何だ? 聞いたことねェぞ? 弾の形は、本当にコレでいいのか?」

「当てはあるんだ。ウソップは他の材料を調達しといてくれ。いくら掛かっても構わない」


 これはそんなに役に立つモノなのか? タクミは金持ちなんだな。


「完成はいつになるかわかんねェぞ?」

「頼りにしてる。本体はウソップならすぐに作れるだろ?」


「任せとけ!! 他の弾も、作れそうなのはすぐに作ってやるよ!!」


 ウソップはタクミに頼られて嬉しかったみてェで、ウソップ工場に行っちまった。


「アレは何だったんだ?」

「俺の秘密兵器だ。完成したら見せてやるよ。それより、修行は今日から始めるか?」


 そうだった。今はそっちが先だな。


「おう!! おれはさっき昼寝したから元気一杯だぞ!!」

「そうか、まずは、「生命帰還」って知ってるか? 髪の毛から内臓まで、最終的には細胞まで意識を届かせて身体を操る。俺が使ってるのはその技術だ」


 どっかで聞いた事があるような……


「……バイオフィードバックの事か? 本で読んだ事がある」

「話が早いな。まずは自然と一体になれ。自分が自然の一部のちっぽけな存在だって認めるんだ。それが出来れば、身体の中のちっぽけな細胞にも、意識を届かせることが出来るようになる」


 そんな事が本当に出来るのか? おれが不審の目でタクミを見てたら……


「出来ないって思ったら、絶対に出来ないぞ。常識を捨てろ。俺の言葉だけじゃない自分だけの理論を作って、それを信じるんだ。極めれば自然に働きかける事だって出来る技術だと信じて、俺は修行している」


 タクミは自信満々に言い切った。そうだよな……実際にタクミは体得してるんだし、おれが出来ないハズないんだ!!


「おれ、やってみるよ!!」


 ニッコリ笑って座り込むタクミの横に座って、おれも静かに目を閉じた。



〜Side サンジ〜



 キッチンでロビンちゃんとタクミのカップル誕生パーティー(胸糞悪い響きだ)の後片付けをしていたら、ナミさんとビビちゃんがパーティーの主役一人のロビンちゃんを連れてきた。


「サンジくん、紅茶をお願い。オレンジペコがイイわ」

「わたしはハーブティーで、ミス・オールサンデーはコーヒーでイイわよね」

「えぇ、お願いできるかしら?」


 どうやらココで女子会を開くみてェだ……地獄だ。さっきのパーティーは小規模なモノで、おれはこれから、夜の大宴会の準備もしなきゃならねェってのに……


「かしこまりました。お姫様方」


 おれは素直に給仕した……紳士としてしょうがない。


「それで、ロビンはいつからタクミが好きだったの?」

「私に話してくれたのは確か三日前よね」

「え!?……そうね気づいたのはリトルガーデンかしら?」


 リトルガーデンでは、俺と一緒にいた時間の方が長いじゃねェか……クソっ!! あのクソネコいったい何をしやがった!!


「へー、そうだったのね。二人で狩りをしてる時に何かあったの?」


 ナミさん……おれも、おれもいたんです。ロビンちゃんはおれの方をチラッと見て言った。


「それは秘密じゃダメかしら?」

「えー、つまんないわ。教えなさいよ」

「きっと二人の大切な思い出なんだわ。無理に聞いたらダメよ!!」


 ナイスだビビちゃん!! おれだって聞きたくも無ェ!!!


「ありがとう、王女様♪」

「それじゃあ、お兄ちゃんのキザな告白を聞いて、お姉ちゃんがどう思ったのかを聞きたいわ。妹として!!」

「ナミさん、その言い方は卑怯なんじゃ……」


 そうだ。無理して聞かなくてイイんだ。第一、おれはその『お兄ちゃん』ってヤツも認めん!!!


「……どんな言葉でも良かったの……愛する人が、愛してると言ってくれた……それで十分だわ」


 二人はノロケ全開のロビンちゃんにキャーキャー騒いでいる……いっそおれを殺せ!!! 何でおれはこの空間にいなきゃならないんだ…………おれは防衛本能に従って、音声を遮断した。


 …………一時間は経ったか? おれは準備を殆ど終わらせていた。お茶のおかわりでも出そうかと振り返ったけど、女子会もお開きみてェだな。


「ナミさん、流石に眠たくなってきたわ」

「アンタは少し寝てきたら? 今夜も大宴会よ♪」


 ナミさん、とってもイイ笑顔なんですけど、準備するおれの苦労も考えてください……でも、そんなナミさんも素敵だ!!!


「そうさせてもらうわ……おやすみなさい」


 ビビちゃんは、ナミさんの言葉にしたがって立ち上がった。


「私も疲れが溜まってるみたい。少しだけ睡眠をとってもいいかしら」

「それなら−−−−」


 質問攻めに疲れきった様子のロビンちゃんに、ビビちゃんが耳打ちしている。”お城”、”肩”、”アナタの番”とか途切れ途切れに聞こえてくる。


「本当にやるの?」


 困惑気味のロビンちゃんに、ビビちゃんは満面の笑みを向ける。


「−−−−もちろん♪ 確認するまでわたしは寝ないわ」


 楽しそうなビビちゃんにロビンちゃんは苦笑いをしてから部屋を出て行った。

 窓に張り付いて外の様子を見ているナミさん達を放置して、おれは準備を完全に終わらせた。

 気づけば二人ともいなくなっていたから、おれも俯きかげんに部屋を出る……疲れた。精神的な疲労が半端じゃない。おれも一眠りしようかと思いながら顔を上げて……

 おれは本気でタクミを殺そうかと思った。



〜Side タクミ〜



 チョッパー寝ちゃったよ。天気イイからな……いつから寝てたんだろ?

 チョッパーに言われて試してみたら、ランブルボール無しでも変形できることがわかった。そういえばチョッパーも魚人島での戦いからランブルボール無しで変形してたな。たぶんクマドリとの戦いをヒントにしたんだろう。

 言われてみれば「爪 鉄塊」って、チョッパー的に言えば”爪強化(ネイルポイント)”だよな。何で今まで気づかなかったんだ?

 俺が新技を練習してると、ロビンがやってきた。何か疲れきってるな。


「髪が針みたいになってるけど、この前話してた「生命帰還」?」

「あぁ、コレを敵に飛ばしたいんだけど、強度を維持するのが難しくてね。有効射程距離は今のところ5mくらいだ」


 解説するとロビンは渋い顔をしている。やっぱこの技はダサかったか?


「あんまり飛ばすと禿げるわよ?……悪魔の実の能力と関係なく髪が何10mも飛んでいくようになったら、人として接する事が難しそうね」


 ……フランキーより先に人外宣告をされるとは思わなかった。少しは自重するべきか? とりあえず髪の硬化を解除した。


「髪なら「生命帰還」で生やせるから禿げないよ。ロビンはナミ達と楽しく話が出来た?」

「”いつから好きだったの?”とか”告白された時うれしかった?”とか質問攻めにあったわ」


「そこらへんは俺も「今がよければ満足でしょ♪」……はい」


 これから先、ロビンに逆らえる気がしない。喧嘩したら負ける自信があるしな。


「あら、船医さんはお昼寝かしら?」


 ロビンは俺の隣に座って、チョッパーの頭を自分の膝に乗せた……羨ましい。


「チョッパーも「生命帰還」が使えるようになりたいって言うから、まずは瞑想をさせてたんだけど、この天気じゃな」

「本当、イイ天気ね。ドラムからそんなに離れたわけじゃないのに」


 空を見上げるロビンの横顔が綺麗すぎて、俺は黙って見つめていた。


「どうかした? アナタも膝枕で寝たいのかしら♪」


 うろたえる俺を見てロビンは楽しんでいるみたいだ。早くも手玉に取られてる。


「やっぱりダメね。今日は船医さんの特等席だから。随分と気持ちよさそうに眠ってるわね……私も少し眠るわ」


『今日は』ってところに俺が食いつく暇も無く、俺の肩に頭を乗せてロビンはすぐに眠ってしまった。昨日は全員で夜通しの宴会だったし、さっきもプチ宴会だったからな。ロビンも疲れたんだろう。

 しばらくロビンの寝顔を見ていたけど、俺も眠たくなって、肩に乗るロビンの頭に少し寄りかかるようにして眠りについた。
 
 
 

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