”エボニー&アイボリー”
〜Side ウソップ〜
ドラムを出てもう五日、タクミに頼まれた二丁拳銃は、リクエスト通りの塗装も済ませて完成した。
途中でナミまで『アラバスタ到着までにお願いね♪』とか言って武器の改造を依頼してきた時には、今回の戦闘に間に合わないかと思ったけど、そこは天才のおれ様だ!! 何とかなったな。
まぁ、材料があったから製作予定だった特殊弾の内、三種類しか作れなかったけど、それはしょうがねェよな。
ナミのヤツは改造に使った材料費を踏み倒しやがったし、あの分もタクミに請求しよう。
にしても、アイツの頭ん中はどうなってやがんだ? 最初に見せられた自動装填方式の設計は、おれの技術じゃ再現不可能な代物だった。
『これは無理だ』って伝えたら残念そうにしてたけど、Mr.5から奪ったリボルバー拳銃とかいうモノを渡してきて、『コレと同じ装填方法で弾は何とか設計通りに作ってくれ』何て無茶振りしてきやがった。
弾丸と火薬を一体化させ、小型ハンマーの衝撃で火薬を爆発させて発射する。ぶっ飛んだ発想だし、弾丸を作るのが大変だけど、戦闘時の次弾装填速度は桁違いに上がる。
しかも、弾丸の形は丸じゃねえし、銃身内部には螺旋を刻む構造だ。こんなモノがまともに飛ぶのか不安だったけど、指示通り作った……けど、完成品の試射をして驚いた。的の鉄板のど真ん中を軽々と貫通しやがった。
おれも同じものを作ろうかと思った程だけど、重いし衝撃が半端じゃねェから、おれには使いこなせそうにもねェって事でヤメた。
弾丸もまとまった数が出来たことだし、そろそろタクミに渡しにいくか。
タクミは甲板ですぐに見つかった。ロビンとチョッパーも一緒みてェだな。
この三人は最近、一緒にいることが多い。チョッパーの修行を監督するタクミに、ロビンが付き合ってるみてェだけど。チョッパーの集中力が続かないせいで、談笑してる時間の方が長い気がする。
ロビンはよく笑うようになった。きっとタクミの影響だろうな。チョッパーと話をするタクミは楽しそうだ……今回、急いで銃を完成させたのは、あんな冗談言っちまった罪滅ぼしでもあるんだ。
「タクミ!! ついに完成したぜ!!」
「早っ!! もう出来たのか!? 暴発したりしないだろうな?」
「何だ何だー!! この間言ってた秘密兵器かー??」
「今度は武器まで使うの?」
中々イイ反応をするじゃねェか。タクミの一言は心外だけどな。
「この天才が作ったモノが暴発なんかするかよ!! 見よ!! お前のリクエストを完璧に再現した至高の芸術品!! ”エボニー&アイボリー”だ!!」
おれは黒と白の装飾拳銃を三人に見せて、タクミに手渡した。
「何だこれ!? どうしてここまで大型になったんだ!? ツェリスカみたいじゃないか!! 特殊弾とか関係なく、当たれば死ぬだろ!?」
「でっけェピストルだな!!何を倒すんだ!?」
「ん? ツェリスカがどんな拳銃か知らねェけど、通常弾の威力は半端じゃないぜ!!! 特殊弾の方は、用途に合わせて火薬の量を調整してあるからな、本来の目的を果たせるハズだぜ。射出速度も落ちるから、接近してからの使用をおススメするけどな」
タクミはじゃれてくるチョッパーを無視して、おれが渡した芸術品に見惚れている。
「……試し撃ち出来るか?」
「鉄板を用意してある。中は通常弾が装填済みだからな」
タクミは甲板の端まで歩いて行って、おれが用意した鉄板に向けて二丁拳銃を構える。
「……いくぞ」
呟くような言葉と共に、十二連射の発砲音、いや砲撃音って言ったほうが正しいかも知れねェ威力だな。にしても……
「試射で全弾撃ち尽くすバカがいるか!!! どれだけ苦労したと思ってんだ!!!」
「とんでもない拳銃ね。海王類でも倒せそうだわ」
ロビンの言う通り、タクミの射撃の腕前が上がれば、一点集中放火で海王類すら仕留める事が出来ると思ってる。
「悪いな、連射の感覚が知りたくて、にしても凄い威力だな!?……お前は本当の天才だよ」
「すっげェ〜〜!! おれにも作ってくれ!!」
「船医さんにはあの拳銃は扱えないと思うわよ?」
的にした五枚重ねの鉄板はボロボロで、ところどころ貫通している。タクミの射撃が正確だったら、船が傷だらけになるところだった……腕前はともかく、あの銃を平然と連射できるアイツはやっぱバケモノだな。
「そう思うなら技術料を払え!! 通常弾3000ベリー、特殊弾5000ベリーだ!!」
「そんなもんでイイのか!?……やっぱ悪いよ。通常5000、特殊10000でイイか?」
は!? 払うはずねェと思って吹っ掛けたのに、そこまでおれを評価してくれてんのか!?……何かおれが惨めじゃねェか。
「冗談だよ!!! 仲間からそんなもん貰うかァ!!……材料費だけで十分だ」
おれは弾丸が入った箱をタクミに投げつけて、精一杯カッコつけながら三人に背を向けて歩き出す……なんて勿体無い事をしてんだおれは……
「ウソップ!! ありがとな!!」
おれは右手を上げてそれに応え、そのまま船内に戻った……ちょっと泣けた。
〜Side タクミ〜
ウソップがココまでの天才とは思わなかった。オートマチック拳銃は再現出来ないと聞いて落胆していたが、リボルバーなら特殊弾の装填が容易だし、コレはコレで使い勝手がよさそうだ。
「銃はさっき初めて見せてもらったけど、捕獲用の痺れ薬はおれが作ったんだぞ!! その特殊弾に使ったんだろ!?」
「チョッパーも手伝ってくれてたのか!?」
一昨日は『修行を休みにして欲しい』って言ってきてたけど、コレの製作に携わっていたとは思わなかった。
「ウソップに頼まれたんだ!! 即効性の痺れ薬をタクミが狩りに使うからって!!」
黄色の弾頭の弾が入った箱の説明書きを見てみる。
”麻痺弾”:体重200kgに対して一発で有効。即効性で効果は半日程度。
「ありがとうチョッパー!! アラバスタに着いたら何か甘い物でも買ってやるよ」
「何でもいいのか!? 約束だぞ♪」
「人間にもかなり有効な武器になるわね」
覗き込んできたロビンも感心してるみたいだ……顔が近い!!
「残りの二種類もなかなかのモノだからな」
赤い弾頭と灰色の弾頭の弾が入った箱もロビンに見せる。
「コレは……酷いわね」
説明書きを読んだロビンは苦笑いしている。
「俺は敵には容赦しないんだよ。仲間を守るためならね」
自然系の能力者でもないと、全ての特殊弾を看破できるヤツはいないだろうな。特殊弾のバリエーションもウソップが随時追加してくれるだろうし、強力な武器になりそうだ。
せっかく武器を持つなら、外見がダンテに近いんだからと思ってコレを創ってもらったんだ。
でも……コレじゃあ”エボニー&アイボリー”って言うより”ハーディス”だな、オリハルコン製じゃないけど。
「アナタの事はだいたい解ってきてるつもりよ」
笑顔のロビンに俺も笑顔で返す。ここ数日は、ロビンとチョッパーの三人で過ごす事が多くて楽しい毎日だ。
夜はロビン、ゾロ、ナミと四人で飲む事が多い……二人になるタイミングがあんまり無いんだよな。
一度だけ、俺の見張り当番の時に逢いに来てくれたんだけど、毛布をかけて後ろから抱きしめていたら眠ってしまった。なかなか進展しないが、焦らずに二人のペースでいこうと思う。
アラバスタには今日の昼には到着予定だし、サンジに任せておけば踊り子衣装のロビンが見れるハズだ!!
俺が”踊り子ロビン”を妄想していると、眼前に蒸気が上がっていた。全員が注目してるみたいだな。
「チョッパー、ナミにホットスポットを迂回するかどうか聞いてきてくれ」
「ホットスポットってなんだ?」
ココ数日話していて分かったんだが、医学関連以外ではチョッパーはかなり世間知らずみたいだな。
「あの煙が出てるところだ。本来、危険は無いけど、アラバスタに近いからな。敵が潜んでる可能性もある」
チョッパーは慌ててナミを呼びに行った。まぁ、あんなとこに潜んだって、敵もコチラを確認できないから、心配することは無いと思うけど。
俺の伝言を聞いたナミの判断も同じもので、最短ルートで突っ切ることになったのだが、蒸気を抜けるとメリー号の船首に、あまりにも怪しいオカマが抱きついていた……
俺は無言でエボニーに一発の弾丸を装填してオカマに向ける。
「シィ〜〜〜〜まったァ!! あちしったら「索敵即破壊!!!」のわァ〜〜〜〜〜!!」
あの弾を避けた!!? 距離があったとはいえ、一般人じゃないな。海に落ちたオカマを、律儀にもウソップが引き上げている。
「あのオカマ何者だ?」
「彼はMr.2・ボン・クレー、バロックワークス社のエージェントよ」
独り言のつもりだったのに、ロビンが答えてくれた……
「は!?……あのオカマがベンサムか!?」
「……確かそんな名前だったわね−−−−」
どういう事だ!? リアルベンサムがあまりにアレで気づかなかったって事か!? そんな訳が無い、このタイミングで登場するオカマなんてアイツしかいないじゃないか!!
……俺はロビンに聞くまで、Mr.2・ボン・クレーことベンサムの知識が完全に抜け落ちていたみたいだ。また原作知識に靄がかかっているのか? 重大な問題なのにロビンに惚けてすっかり忘れていた。
何が原因なんだ!!? 拙い!! 日本語で記録でも取っておかないと、このままじゃすべてを忘れかねない。
「−−−−ちょっと!! タクミ!? 聞いてるの!?」
「!?……悪い……ちょっと白昼夢がな。アイツは好きにさせて構わない。いずれルフィの助けになるハズだ」
かなりムリヤリだが、コレで予知夢って事にして誤魔化せるハズだ。
「アナタがそう言うならイイけど、大丈夫なの?」
今の俺はそんなに異常に見えるのか?……確かに汗が酷いな。
「大丈夫だ、問題ない」
海から引き上げられたベンサムは、意識を取り戻したみたいだ。
「いやーホントに、スワンスワン。見ず知らずの海賊さんに命を助けてもらうなんて、この御恩、一生忘れません!! あと温かいスープを一杯頂けるかしら?」
「ドあつかましいわ!!!」
ウソップのツッこみは今日もキレキレだ。最近ボケてやってないから、二丁拳銃のお礼に、後でボケまくってやるか。
「そんなこと言わないでよう。あちしはこの船の船員に発砲されて……あら? サンデーちゃんじゃない!! 最近ドゥーー!!? ていうか何で海賊船に乗ってるわけー!!?」
「ロビンの知り合い!? サンデーちゃんって……まさかバロックワークス!!?」
ナミ、こういう場合は気づいてもスルーして、俺に確認を取って欲しいんだけどな。
「そーうよーう!! アナタ達はドゥーしてサンデーちゃんと一緒にいるのかしら?」
「私はバロックワークスを辞めて海賊になったのよ。ボスから聞いてないかしら?」
ロビンはナミより対応が上手いな。本当の事を言ってるけど、大事なとこはボカしてる。
「ホントゥにー!! 聞ーーてないわよーう!! お別れ会くらいしてあげたのにーー!!」
「ごめんなさい♪ 急な話だったから。船医さん、コックさんに頼んで、スープくらいなら出してあげてもらえるかしら?」
「ロビン!! イイのかよ!!」
ウソップは本当にビビリだな。変に警戒されるから黙っていて欲しい。どうせこの後に友達になるんだから。
「タクミの占いよ。迎えの船が来るまで好きにさせていいらしいわ」
ベンサムはスープのお礼にと”マネマネの実”の能力を披露して、三バカを大いに沸かせて去っていった。
「タクミ、ちゃんと説明はあるんだろうな?」
終始無言だったゾロが直後に口を開いた。その眼はかなり険しい。
「アイツは敵だ。それも厄介な能力者……だけどな、アラバスタを出る時に、アイツは俺たちの船を助けるんだよ。確定された未来だ。それにあの能力への対処方なら、ゾロが発案するハズなんだが、どうだ?」
「!!!?……凄ェな。お前の占い、正直ナメてた……確かに、アイツの能力への対処法ならおれに考えがある」
ゾロは驚いた顔をしていたが、ニヤリと笑うと”仲間の印”を一味の全員に説明し始めた。
アラバスタ到着までの間、ビリオンズの船を見かけて、エボニー&アイボリーのデビュー戦の相手にしようかと思ったんだが、ロビンとウソップに止められてしまった。
「メーーーシーーー屋〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
上陸と同時に、ルフィは猛スピードで走り去って行った。今回の旅では、俺の働きによって別に食料に困ることは無かったのだが、エースとの接点を奪ってはいけないので、”ギア2”の特訓で船を破壊したルフィを飯抜きにしておいた。
女性組はこの場に残り、男性組で買出しに行くことになったが、俺は別行動だ。今まで溜め込んでいた毛皮等を売り払い、換金してから皆のところに戻る。
「お前変装用の服はどうしたんだよ? 毛皮売ってきただけか?」
「俺はポリシーを持ってこの格好をしてるんだ。たとえ暑かろうがこのコートは脱がない。ロビンはその格好似合ってるな!! 美しさ七割増しだ♪」
「ありがとう♪ アナタの盗賊スタイルも見てみたかったけど残念ね」
ロビンが綺麗なのは当たり前なんだが、サンジと何故かナミの視線が痛い。
「……呆れた。その格好で砂漠に行くなんて正気じゃないわよ!!」
「おっ、ガンベルト買ったのか!! カッコいいじゃねェか!!」
「そうだ。ウソップに当面の開発費を渡しとく。金を惜しまずに製作に当たってくれ」
俺は久々登場のネズミから貰った鞄から、札束を取り出して、ウソップに手渡した。
「わかった……って200万ベリー!!? あの毛皮いくらで売れたんだよ!?」
「1200万ベリーと少しだな。まあ、あの量なら当然だろ? 足りなくなったらまた渡すから、ある程度はウソップが好きに使えよ」
ウソップは金を拝んでいる。殆ど自分で使うつもりじゃないだろうな?
「リトルガーデンで狩りを手伝ってくれたロビンとサンジに、300万ベリーずつ渡しとくよ。あの時は助かった」
「あら、私も貰えるの? ありがとう♪」
「恩を……ロビンちゃん……許さねェ……いつか……」
ロビンは素直に受け取ったんだけど、サンジはブツブツ文句をいいなが受け取っていた。意味が解らん。
「船の金として、300万ベリーをナミに預けるから、今まで通り管理してくれ」
「わかったわ、お兄様♪」
ナミの眼はベリーだった。どうなってんだアレは? まあ、残りは俺のへそくりだ……実は売却金額は1500万ベリーだしな。
皆は俺の取り分300万ベリーの内200万ベリーをウソップに渡したと思ってるだろうけど、俺がロビンへのプレゼント代を確保しない訳が無い。
ちなみにチョッパーにはシナボンみたいなお菓子を買ってあげたのだが、今は鼻がやられていて食べられないらしい。
金の分配も済んだので、俺は装備の確認をしながらルフィを待つことにした。