”レインディナーズ”
〜Side ゾロ〜
「こうみょうな、わなだ」
「ああ、しょうがなかった」
ルフィとウソップは置いとくとして……どうしたもんかねェ。敵の本拠地に乗り込んだのはイイが、こうもあっさり捕まるとは……海軍に追われて焦ってたとはいえ、不甲斐ねェ結果だな。
ナミはさっきから騒ぎっぱなしだし、遅れてやってきたビビも捕まっちまった……タクミとサンジとロビンは何やってやがんだ？
それにしても、クロコダイルの能力はとんでもねェな。実体がねェんじゃたとえ鉄を切れようがアイツは切れねェってことだ。
ビビを拘束した後、クロコダイルが語ったアラバスタ乗っ取りの作戦は虫唾が走る様なモノだった。
一緒に捕まった海軍大佐も青筋を浮かべて話を聞いていた。
「−−−−アラバスタを守るんだ!!! アラバスタを守るんだ!!!」
「やめて!!! なんて酷いこ「ぐっ!!!」……!?」
ビビを言葉の暴力で追い詰めようとする最中、突然の銃声に膝をつくクロコダイルの背後から現れたのは、白煙を上げる銃を構えたタクミと、いつも通りの笑顔を浮かべるロビンだった。
「サンジに悪い事したな、せっかくの見せ場が台無しだ」
「フフ、そうね後で二人で謝りましょ」
「「「タクミーーーー!!! ロビーーーーーン!!!」」」
タクミの言葉からすると、この状況を打開するのは、本来はサンジだったみてェだな。二人の登場に、一味からは歓喜の絶叫が上がる。ウソップなんか涙を流してやがる。
「待ったか？ お前ら」
「貴様!!! 銀獅子か!!!……このおれに、何をしたァ!!?」
自分の胴を貫通した銃創を、信じられないモノを見るような目で見ながら、クロコダイルが叫びを上げた。
「私がアナタの背後からコレを撃って」
コチラに近寄りながら、床から生えていた自分の手から水鉄砲を受け取るロビン。ありゃウソップが、ルフィやチョッパーと遊ぶ為に作った、無駄に高性能なおもちゃじゃねェか。
まさかこんな所で役に立つとは……ていうかアイツら、クロコダイルの能力を始から分かってやがったな。まぁ、それはビビも一緒か。そういう事は事前に言っておけってんだ。
「俺がコイツをぶち込んだんだよ。銃はイイな……こんなにムカつくヤツを傷つけるのに、殺気をだす必要も無い!!!」
タクミはホルスターに銃を収めながら、押さえ込んでいた殺気をクロコダイルに向ける。その表情は怒りに歪んでいた。
自分に向けられてるわけでもねェのに、この殺気は流石に堪えるな。一味全員が黙っちまった。平気そうなのは殺気を向けられてる張本人のクロコダイルと、タクミの隣に居るロビン、もう安心って表情のルフィくらいだな。
…………悔しいが、タクミを含めてこの四人とおれじゃ格が違うって事か……
「ニコ・ロビン!!!……暗殺はお前の得意分野だったな。今からでもおれの元に帰ってくるつもりはないか？ お前は殺さないでおいてやる」
「ごめんなさい。アナタより彼のほうが魅力的なの♪」
片腕をタクミに絡めて水鉄砲を構えるロビンは、楽しくてしょうがないって表情だ。こんなところでいちゃつきやがって……イイ性格してるぜ。
「そうか、残念だ。お前らを相手にするにはココは少々場所が悪い。この場は退かせてもらうが、追ってくるなら好きにしろ。ただし……」
追い詰められているとは思えないほど不敵な笑みを浮かべたクロコダイルは、床の一部を踏み抜いた。
途端に部屋の中の数箇所から水が噴出し始める。何かのスイッチが仕掛けられてたみてェだな。
「……牢から出られない仲間を見殺しに出来ればの話だがな!!!」
クロコダイルは全身を砂に変えて逃亡を計った。ロビンが水鉄砲を乱射するが、それを巧みに回避しながら部屋の外へと消えた。
「タクミさん!!! クロコダイルを追うのは後回しでイイから……皆を助けて……」
搾り出すようなビビの言葉に、タクミは笑顔を浮かべる。
「勇気のあるイイ判断だ……安心しろ。クロコダイルの行き先にはロビンが見当をつけてる。俺もココで決着をつけられる程、アイツが甘くないって事は分かってたよ」
ビビの頭を軽く撫でて、タクミはおれ達のいる牢に歩いてくる。後ろではロビンが複雑な表情だ……こんな時にビビに嫉妬してんじゃねェよ!!
「おいおい……海軍本部大佐の白猟様が、こんな檻に捕まって大人しくしてるなんて……何してんだ？ 軍規に違反してまでルフィを追いかけてきたんじゃなかったのか？」
「黙れ銀獅子!!! この檻は海楼石で出来てるんだ。でなきゃおれはとっくにココを出てる!!」
心底バカにしたような口調で語りかけるタクミに、海軍大佐も憤慨してるみてェだな。
「……お前、実はバカだったんだな。海楼石の手錠がされてるわけでもないんだから、細い煙になって穴から出ればイイだけだろ？」
「…………おれはそこまでのコントロールは出来ん……それより、どうしてニコ・ロビンがお前と一緒にいる!?」
大佐はロビンの事を追及することで、自分のペースを取り戻そうとしてるみてェだが、タクミの前でそれは悪手だな。
アイツは強さ以上に、口の上手さと思考の瞬発力が厄介なんだ。
「は？ コレだから自然系の能力者は……物理攻撃が効かない事に胡坐をかいて、体術を疎かにするだけじゃなく、自分の能力の細かい制御まで出来ないなんて……無能だな。海楼石の武器さえあれば、お前なんか誰でも倒せそうだ。何の為にデカい図体してるんだ？ 的がデカくなるだけだからちょっと縮んでみろ」
タクミはロビンの事を誤魔化す為に、必要以上に口撃してる。
「てめェ!!!……」
大佐は確信をつかれたみてェで、青筋をより深くしながら身体と声を震わせているが、反論はないみてェだ。
「まぁイイ。ゾロにその海楼石を仕込んだ十手を渡せ。ついでにお前も助けてやるよ」
タクミは返事も聞かずに針金を取り出すと、騒ぐ連中と覗き込むビビとロビンを無視して、二分程で鍵を開けてしまった。
「すげェ!!! 鍵を使わねェで扉を開けちまった!!! お前は何なんだ〜〜〜〜〜!!! でも、そんなところがカッコウィ〜〜〜〜〜〜!!!」
みんな騒いじゃいるが、ウソップが特に五月蝿い。大佐も驚いていたが、渋々おれに十手を渡して牢から出ていった。
「俺たちを捕縛するか？」
「お!! やんのかケムリン!!!」
大佐は俺から受け取った十手を構えたタクミと、何も考えていないルフィに挑発されて、葉巻を噛み千切りそうなくらい顔を歪めていたが、ようやく口を開いた。
「……やめておく……今回だけだ……今回だけだぞ!! コレで貸し借りは無しだ!!! 次にあったら命はないと思え!! ”銀獅子のタクミ”!!! ”麦わらのルフィ”!!」
どうやら大佐の中での優先順位が変わっちまったみてェだな……にしても、アイツの十手の構えは剣道のソレだった。
何が『剣術には詳しくない』だ……いつか聞きだしてやる!!!
「お前コレ使うか？ クロコダイルとやり合うんだろ？」
さっき海楼石が仕込んであるって言ってたからな。でも、ルフィに武器は不向きなんじゃねェか？
「いらねェ、水ぶっかけりゃ効くんだろ？ カラカラのおっさんに貰った水を使う」
「その水じゃ足りないだろ……いざとなったらコイツで拳なり掌を切って、血を纏え」
ルフィは案の定断ったが、タクミはジャケットの中から折りたたみナイフを取り出して渡していた。ルフィも今度は素直に受け取った。
「……タクミ、おれは最近全く役にたってねェ……何をすればイイ」
ここんとこ修行以外何もしていない自分に腹が立ってタクミに聞いてみると、腹を抱えて笑い出した。
「何にも喋らないと思ってたら、そんな事で悩んでたのかよ!? ゾロらしくないな……Mr.1”殺し屋”ダズ・ボーネス、お前が戦うか？ 倒せない事もないんだが、俺じゃ相性が悪いからな」
!?……Mr.1、バロックワークス最強のエージェントって事か……しかもタクミが手こずるレベル。
「悪くねェ……おれがブッた斬る!!!」
「相手は”スパスパの実”の全身刃物人間よ？ 剣士さんは鉄が切れるのかしら？」
この女は!!! タクミがそばにいるからって調子にのってんじゃねェか!?
「おれは誰にも負けない!!!……試してみるか？」
「おい、ロビンに手を出したら消されるぞ？ 俺がキレる間も無く……ロビンの懸賞金は7900万ベリーだ」
な!? 7900万!? クロコダイルと変わらねェじゃねェか!!! やっかいな能力だとは思ってたがそこまでとは……
「あら、私は仲間に手を出したりしないわ。剣士さんもそうでしょ♪」
……タクミにベタ惚れのコイツがタクミの信念に反するような事はしないだろうな。
「さっきのは冗談だ……とにかくおれはソイツを倒す。それでイイんだろ？」
別にコイツの裏がありそうな笑顔にビビってるわけじゃない……仲間だからな。
「ほら、さっさと行くぞ!! 決戦は首都アルバーナだ!! クロコダイルは必ずそこに現れる」
「よっしゃーーー!!! いくぞ野郎ども!!! クロコダイルはおれがぶっ飛ばす!!!」
タクミとルフィの言葉に皆も後に続いた。鉄を斬る……おれに出来るのか？
……それくらい息をするくらい自然に出来ないようじゃ、鷹の目には勝てねェ……
「ゾロ、迷子になるぞ？ ちゃんとついて来い」
緊張感の欠片も無ェタクミの声を聞いて、この戦いの勝利を信じながら、おれも他の連中に続いた。
〜Side タクミ〜
いやー稼いだな”レインディナーズ”。ユバまでの道のりは地獄だった。レインベースで荒稼ぎを考えてからは、辛い暑さに笑顔で耐えられたけどな。
ビビを先行させて、原作通りのタイミングでサンジと突入するつもりだったんだが、カジノでイカサマで稼いでいたら（ルーレットの1点賭けで球を触らせてもらった。もちろん誰にも見えない速さで）、稼ぎすぎたのかVIPルームの高レートに誘われてしまった。
ロビンに気づいた支配人が警備を召集しようとしたから、ロビンに任せて俺はチップを強引に換金した（多く取りすぎたかもしれないが、そこはスルー）。
ロビンと合流した俺は、クロコダイルのいる部屋の様子を見にいったんだが、想像以上にムカついたのでロビンと共闘してクロコダイルに一撃を加えてやった。
逃走したクロコダイルの行き先はアルバーナだろう、プルトンの在り処を知っている可能性があるのはコブラ王だけだからな。
金の入ったトランクを担いでレインディナーズを出ると、サンジとチョッパーがクロコダイルに連絡を入れようとしていた。
「謀略を練ってるところ悪いんだが、クロコダイルなら子電伝虫を持たずにアルバーナに向かった後だぞ」
「何!? お前ら無事だったのか!?……ロビンちゃんと腕なんか組みやがって、いつもいつもイイとこどりだなァ!!!」
そんなことを言われても、ロビンの積極的な行動には俺も驚いているんだ。一昨日なんか『今日は寝かせないわ♪』だぞ!!!!
サンジの妨害にあっさりと引き下がっていたから冗談だとは思うが、あのせいで俺はろくに眠れなかった。
現在は町の入り口に置き去りにしていたマツゲの紹介で、”ヒッコシクラブ”のハサミに乗って移動中だ。ルフィが『うまそー!!!』と叫んでいたが、その意見には激しく同意せざる得ない。
「なあチョッパー、1本くらいコイツの足をもいだらダメか？」
「「ダメに決まってるだろ（でしょ）!!!」」
……ビビにまで怒られた。またアラバスタでは神聖な生き物ってヤツか。サンドラオオトカゲの時は、食欲が無かった俺以上に食ってたクセに……勝手な理屈だな。
俺がビビをジト目で見ていると上空から声がした。
「ビビ様ーーーー!!!」
「ペル!!!」
あれが隼の能力者か!? ずいぶんと便利そうだな。空中から「嵐脚」を乱射すれば大抵の相手は倒せそうだ。
「ご無事でしたか……この者たちが件の”心強い仲間”でございますか？」
ペルはまだ、俺達を警戒してるみたいだな。当然か。忘れそうになるがビビは一国の王女なんだからな。
「ええ、海賊”麦わらの一味”よ!!! クロコダイルに手傷を負わせる事には成功したんだけど、アイツはアルバーナに向かったみたいだわ!!」
「なんと!!?……国王様がナノハナにて「それはニセモノよ!!!! バロックワークスには変身能力者がいるわ!!!」……信じておりました」
ペルは伝えるべきか迷ったように言葉を口にしたが、それを遮って叫んだビビに安堵の表情を浮かべた……ん？ ペルはコブラ王の狂行をしらなかったハズ……また例の靄か？ それとも流れが変わっているのか？……本格的にヤバイな。
「お初にお目にかかります。”麦わらの一味”副船長のアイザワ・タクミと申します。護国の騎士とお見受けいたしますが、失礼ながら貴殿ではクロコダイルを倒せません。我々を何人までなら運ぶ事が可能でしょうか？」
「な!!?「タクミさん!! ペルは乗り物じゃない!! アラバスタ最強の戦士よ!!! どんなに丁寧な言葉を使ったって、アナタはペルを」ビビ様!!!……イイのです。わたしの力ではクロコダイルに傷一つつけることが出来ないのは、承知しております」
ペルは俺の言葉に言いたい事があったのだろうが、ビビがくってかかるのを見て僅かに微笑んだように見えた。
「ペル……そうね。クロコダイルを倒せるのはルフィさん達だけだわ……ごめんなさい、アラバスタの為に戦ってくれようとしてるのに」
「何言ってんだおめェ？ おれたちゃ海賊だ!! 国の為に戦うわけじゃねェ!! 仲間の為だ!!!」
ルフィの言葉にビビは涙を浮かべている。
「ビビ様は良き仲間に恵まれましたね……吊るのではなく乗せるとなると、四人が限界でしょう。共に行く仲間をお選びください」
「悪いが俺が決める。ビビ、ルフィ、ロビン、そして俺だ「タクミは残ってくれ!! 仲間を守れねェ!!」Mr.1の能力は俺とは相性が悪い、ゾロに任せろ」
ルフィはいまいち納得がいかないようだが、一応了承した。
「ビビは結末を見届ける権利がある。クロコダイルはルフィが倒す。俺とロビンはバックアップだ、ルフィの万が一に備えて同行するが、おそらく必要ないだろう。アルバーナを見渡せる位置にいるつもりだから、いざとなったら救難信号をあげろ。俺たちがすぐに駆けつける。ウソップ、皆に渡しておいてくれ」
ウソップが皆に赤い発煙筒を渡そうとするが、ゾロとサンジは受け取らなかった。俺は気にせずペルに乗り、ロビンとビビを引き上げ、ルフィも首の辺りに跨った。
「まぁ、お前らには必要ないな。敵の戦力はMr.1ペア、Mr.2、Mr.4ペアだ。じゃあ俺たちは行くから……全員、絶対に死ぬな!!!」
飛び立つ俺たちに、ハサミの上の皆は左腕を挙げる。俺たち四人もそれに倣い、一直線にアルバーナへ向かった。
〜Side ビビ〜
ペルに乗ってアルバーナに向かう途中、タクミさんに声をかけられた。
「ビビ、さっきはああ言ったけど、ビビは反乱を止めに行きたいんじゃないのか？」
確かに、わたしならコーザを止められるかもしれない。でも、皆わたしの為に戦ってくれているのに、クロコダイルを倒すのを見届けなくていいの？ そもそも戦わなくていいの？……わたしには解らない。
「ビビはイガラムと二人で今まで戦ってきたんだ。俺たちの戦いを見届けるのは権利であって義務じゃない……たとえ相手が幼馴染でも、反乱軍との交渉は立派な戦いだ。お前が戦う事を望むなら、お前にできる戦いをすればイイ」
「…………ありがとう。わたしコーザを止める!!……あれ？ わたし、コーザの事をタクミさんに話したかしら？」
驚くわたしを見てニコリと笑うタクミさんは、最初からわたしの気持ちなんかお見通しだったみたいね。確率占いだけじゃなくてイロイロ出来るのかも、”魔術師”の弟さんですものね……たぶん。
「大概の事は知ってるよ。見届ける為だけに連れて行くとでも言わないと、サンジが五月蝿いだろ？」
「タクミさんには隠し事なんか出来なさそうね。ミス・オールサンデーも大変そうだわ」
「そうね。クロコダイルがアルバーナに向ってるなんて予測を、アナタに話した覚えはないもの」
レインディナーズで彼女が微妙な表情をしてたのはそういう理由だったのね。タクミさんはちょっと焦ったような表情を浮かべてる。
「ロビンの事はもう極力占わないよ……その方が明日が楽しみだろ？」
「私はアナタといると退屈しないわ♪」
「……のん気な方々ですね」
笑っていたらペルに呆れられてしまったわ……ルフィさんは無言で前を見据えているし、わたしの覚悟が足りなかったのかしら……
「ビビは笑ってろ。王女が笑ってる国はイイ国になるんだよ」
そう言って頭を撫でてくるタクミさんに今度はペルも笑っていた。
宮殿に三人を降ろして、チャカと少し話をしてから、わたしとペルはコーザの元へと向かうことになった。
「雨はまた降る……絶対だ!!!」
別れ際にタクミさんに言われた一言に勇気づけられて、わたしは笑顔でペルと飛び立った。