小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”占い師”



〜Side ナミ〜



「何なのよ!! この要らない機能の数々は!!」


 説明書に一通り目を通したわたしは、ウソップの後頭部を思い切り殴りつけた。


「無償で改造を請け負った善人に向かってなにしやがんだ!!! 遊び心は大切だろうが!!!」


 ……”天候棒(クリマ・タクト)”ウソップに改造を頼んだ、わたしの新しい武器だ。

 砂漠を横断中にタクミから『説明書はよく読んでおいたほうがイイぞ』って言われた意味が良く解った。

 説明書の表側には技名と棒(タクト)の組み方しか書いていなかったから試してみたら、生きた鳩が出てきた、花が出てきた、マジックアームが出てきた、ボクシンググローブが出てきた、分厚い本まで出てきた……この棒(タクト)のどこに仕込んでたのかしら? ウソップはある意味天才なのかもしれない。

 詳細が解らなかったからウソップに直接聞いた唯一の必殺技は、確かに強力なモノだったけれど、使う場所を選ぶうえに相手に隙がないと使えない。

 それよりも気象に詳しいわたしにとっては、小技程度に書かれているそれぞれの棒(タクト)の特性が魅力的だ。

 天候棒(クリマ・タクト)はわたしが使えば蜃気楼だって雷だって起こせる強力な武器……作った本人はあまり自覚が無いみたいだけど。

 コレでビビの為に戦える!! 待ち構えてるエージェントはMr.1のペア、Mr.4のペア、そしてあのオカマ。Mr.2が単独でその地位を任されているのは、能力を使った潜入任務の為もあるんだろうけど、きっと相当な実力の持ち主だからに違いない。

 Mr.4のペアの方を狙うべきかしら?……そんなんじゃダメだ!! 何の為に強くなろうとしたの!!


「ゾロはMr.1と戦うんでしょ? わたしもついて行くわ!!」

「……ペアの女と戦うのか」

「ナミさんは安全な場所で「サンジくんはMr.2をお願い……わたしもビビの為に戦いたいの」それならおれと一緒にMr.4ペアとでも戦えばイイ!! こんな”まりもヘッド”にナミさんを任せておけるか!!」


 サンジ君がわたしを心配してくれてるのは解ってる。でも、それじゃあサンジくんがMr.4のペアを丸ごと倒してしまいそうだし。Mr.2の相手はウソップかチョッパーじゃ荷が重いハズだわ。

 こうなったら……


「副船長の指示よ!! Mr.1ペアにわたしとゾロ、Mr.2にサンジ君、Mr.4ペアにウソップとチョッパー、これがこのメンバーで一番勝ちの目が出やすいらしいわ」


 本当は敵の情報なんて何も聞いていないんだけど、わたしはこの一味におけるタクミの占いへの絶対的信用を利用した……サンジ君も渋々納得したみたいね。


「……わかった。オカマ野朗を秒殺して、すぐにナミさんのところへ駆けつける!!」

「わかってないじゃない!!! わたしが戦うんだから手を出さないで!!……だいたい、女を相手に全力で戦えるの??」


 サンジくんはハッとした顔になり、黙り込んでしまった。


「コレはビビの為の戦いよ。エージェントが残っていたら、バロックワークスの復活だってありえる事なの!! ウソップとチョッパーもわかったわね!!」

「おれ様は構わないぜ!! 新兵器もあることだしな!! まぁ、いざとなったらタクミとロビンに助けを求めりゃいいんだし」

「えーーーー!! ウソップも新兵器があるのかァ!!! どうしよう、おれの修行はまだまだ終わってねェのに……」


 ウソップ、わたしとタクミの武器だけじゃなくて、自分の武器まで作ってたのね。水鉄砲も作ってたけど、そんな暇がどこにあったのかしら?


「船の上でも言っただろ? 自分にできることをやればイイんだ」

「……おれに出来る事。まだ見せてない変形だってあるしな!! よし、やるぞーー!!」


 チョッパーを勇気づけるウソップも、勇ましく決意の宣誓をするチョッパーも、右手に発煙筒を握り締めている……この二人、大丈夫かしら。



〜Side ロビン〜



 ハヤブサさんのおかげであっという間に王宮に着いたけど、クロコダイルはまだ到着していないみたいね。護衛隊の隊長さんに王女が話をつけて、彼と少し言葉を交わしてから、王女はハヤブサさんと共に飛び立った。

 Mr.8はまだ戻ってきていないみたいね。王女を見送った隊長さんはコチラに歩いてきて彼に話しかけた。


「王女よりこの場の指示のすべてを、貴殿に任せるようにと仰せつかった。我々はまず何をすればイイ?」


 あらあら、そんな大役を彼に任せるだなんて、随分と信頼してるわね。まぁ、適任だとは思うけど。


「謹んでお受けしたい話ではございますが……王女の言葉通り、司令官として指示を出させては頂きます。ですが、仲間の緊急時にはこの場を離れる事になります。その際はチャカ殿に指揮権を返上することになりますが、御納得いただけますか?」

「それは構いませんが……失礼ながらとても海賊の方とは思えませんな」


 フフ、彼の丁寧な対応に困惑してるみたいね。


「アナタ達、固いわよ。タクミはいつも通りに喋ったら? 元から海賊にしては丁寧な言葉遣いなんだから。隊長さんも私たちに気を遣うことなんかないわよ。私たちは仲間を助けに来ただけなんだから」


 タクミは私を見て少しだけ笑っていた。確かに、元バロックワークス副社長の私がよくもこんな事が言えたわね。彼の影響かしら?


「ロビンの言う通りだな。普段通りの方が喋り易いし、指示も伝えやすいよ。チャカさん、まずはこの場所に出来るだけ多くの、水が入った樽を用意してください。クロコダイルを倒すためです、早急にお願いします」

「わかった。すぐに用意させよう」


 隊長さんは私に少しだけ微笑を向けてから、部下に指示を出した。


「そういえばビビ様より、タクミ殿は”占い師”だとお聞きしたが、国王様の居場所を占う事は可能だろうか」

「んーーーー、本業は生物学者で、”ハンター”を名乗ってますし、そういった占いはあまり得意ではないんですけど……まぁ、やってみましょう」


 彼はコートの内ポケットから古びたカードデッキを取り出す。今回は紫煙占いじゃないみたいね。


「それは何? 占いの道具?」

「タロットカードだよ……”タロット占い”って知らない?」


 不思議そうに聞いてくるって事は、かなり有名な占いなのかしら?


「ごめんなさい。魔術にはあまり詳しくないから」

「魔術って……そんなたいそうなモノじゃないんだけどな」


 彼は苦笑いしながらカードを一度ばら撒き、かき混ぜてからまた一つのデッキに戻した。その後はデッキの一番上のカードを捲っただけ。

 カードには玉座に座った王の絵が描かれているけど、こんな事で何がわかるのかしら?


「”皇帝”のカード……国王に相応しいカードだな。この場合の意味は”白羊宮”の方角、つまり東だ。俺のタロット占いは兄貴ほど正確じゃないからそこまであてに……」


 突然言葉を止めた彼を不審に思って顔を覗き込むと、彼は大量の汗をかいていて目の焦点が合っていない。

 ……!? まさか王女の推理は当たっていた!? お兄さんが得意だった”タロット占い”をやったせいで、”魔術師”の記憶が蘇ったんじゃないかしら。


「どうしたの!? 酷い汗よ……また記憶が戻った?」


 私の言葉には反応せずに、タクミは隊長さんの方を向いて喋りだした。


「……いや、確かに国王はいる……王都アルバーナ東門(ゲート)付近に縛られてるな……すぐに兵士を向かわせた方がイイ。今なら見張りがいない」


 予知夢でもないのに、そこまで正確に状況を把握できる程、タクミの占いは万能じゃなかったハズ……どうやら記憶が戻ったとみて間違いないみたいね。

 彼の確信を持った言葉を聞いて、隊長さんは慌てて部下達のところへ走っていった。


「お兄さんの事、思い出したのね」

「え!? どうして解るんだ!?」


 彼は心底驚いたって顔してるけど、記憶を取り戻すたびにあれだけ動揺してたら誰でもわかるわよ。


「普段からアナタを見てればわかるわ……お兄さんに会いたい?」

「……俺は仲間と……ロビンが一緒ならそれでいい。ロビンはサウロに会いたいか?」


 !?……どこまで私の事を知ってるのかしら。悪気は無いんでしょうけど……


「サウロは死んだわ。そこまでは知らなかったみたいね」


 私の言葉に、今度は驚く事も無く、彼はいつもの仕種でタバコに火をつける……”3.74%”……???……!!!?


「確率は、ゼロじゃなければ希望が持てる……俺はそう思うよ」


 サウロが生きてるって言うの!?……彼なりの励ましなんでしょうね。

 彼はきっと他の低確率な何かを占っただけ。それでも、彼が言うのなら、その優しい嘘に騙されてあげてもイイわ。


「ありがとう……ゼロじゃない……それだけで十分だわ」


 彼に微笑を見せようと思ったけど、私は笑えなかった……サウロの特徴的な笑い声を思い出して……黙って抱きしめてくる彼の腕の中、私は久しぶりに涙を流した。
 
 
 

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