小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”VS クロコダイル”



〜Side タクミ〜



 ルフィの戦いの助けになればと、水樽の用意をチャカに依頼したんだが、部下に指示を出したチャカは、思いもよらない事を口にしてきた。


「そういえばビビ様より、タクミ殿は”占い師”だとお聞きしたが、国王様の居場所を占う事は可能だろうか」


 ……ビビ、余計な事を。俺の占いは原作知識を披露してるだけのインチキ占いなんだから、知らない事は占えない。

 コブラ王が王宮に連れてこられるまでどこに捕らわれてたかなんて知るか!!……あー、チャカは取りあえず聞いてみたって感じだけど、ロビンの目は『アナタなら簡単にわかるでしょ? 教えてあげたらイイんじゃない?』と言ってるな。

 確かに俺の”インチキ紫煙占い”の理屈じゃ、東西南北のそれぞれにいる確率を占っていけば、理論上コブラ王に辿り着けるからな。

 ……ココは、ローグタウンで買った中古のタロットカードを使って、それっぽい、だが保障は出来ないって感じの占いをすればイイだろう。この占いにインパクトがあれば、紫煙占いの事をロビンが忘れてくれるかもしれないし。

 俺のタロット占いはそこそこの的中率で、前世でも軽く評判だったんだ。本当は新品を買って自分に馴染ませていった方がイイんだけど、どうせ放っておいてもコブラ王は王宮に来るんだから、占いは適当でイイ。

 俺は”そこまで当てにしないで下さいよ?”オーラを出しながら、チャカに了承の意を伝えて、コートからタロットカードと布を取り出す。大アルカナの22枚だけで十分だろう。


「それは何? 占いの道具?」


 ロビンが不思議そうに聞いてきたが、一番上の”The Hanged Man”はタロットで有名なカードなのに知らないのか?


「タロットカードだよ……”タロット占い”って知らない?」

「ごめんなさい。魔術にはあまり詳しくないから」


「魔術って……そんなたいそうなモノじゃないんだけどな」


 この世界では占いは魔術の一種だとハッキリ認知されてるのか……それも仕方ないか”魔術師”の二つ名を持つバジル・ホーキンスくらいしか占いやってないからな。何か魚人島にも”占い師”がいたような気がするけど……思い出せないな。

 原作知識の崩壊が進んでいる事に苦笑いしながらデッキをシャッフル、その場に布を広げてカードをばら撒き入念にかき混ぜる。

 タロットカードは天地で意味が変わってくるから、トランプみたいなカットは適していない。ショットガン・シャッフルなら問題ないが、カードが痛むので俺はあまり好きじゃない。

 今回はシンプルに”ワン・オラクル”で占う事にする。過去や未来まで占ってたら、俺の逃げ道が無くなってしまうからな。

 デッキから捲ったカードは”The Emperor”……出来すぎだろコレは。まぁイイか、居場所を占ったんだから東だな。

 興味津々で覗き込んでいるロビンに説明でもしてやるか。


「”皇帝”のカード……国王に相応しいカードだな。この場合の意味は”白羊宮”の方角、つまり東だ。俺のタロット占いは兄貴ほど正確じゃないからそこまであてに……」


 ……ん? そうだった、この世界の俺の兄貴は魔術師だったんだ……タロット占いが得意な魔術師??……不意に思い出した兄貴の顔は、どこかホーキンスに似ているような…………

 はぁ、思い出してしまった。イロイロと……この異常な世界でもさらに異常な、魔術師って存在に興味を持った俺に、ホーキンスは実験動物の様な扱いをしてたんだ。その代わりに教わったのがタロット占い。

 何かローグタウンでカードを見かけた時に、ナチュラルにタロット占いの記憶を受け入れたが、前世の記憶じゃなかったんだな。俺が東の海(イーストブルー)にいたのは、あの島に行きたかっただけじゃなくて、多分ホーキンスの狂気から逃げ出したんだろう。

 どうやって俺があの島に辿り着いたのかは疑問だが、あのイカレ兄貴には近づかないように気をつけなくては……本来存在したハズのアイツの弟は実験の末に死んだんじゃないのか?

 考えてもしょうがないな。さっさとチャカに教えてやらないと、見張りも付けずに東門(ゲート)に置いていくなんて、ミス・メリークリスマスはアホだろ。

 ……?? 何でこんなにハッキリとしたイメージが浮かぶんだ!? Mr.2の時みたいにきっかけがあって原作知識が戻ったのか!?


「……いや、確かに国王はいる……王都アルバーナ東門(ゲート)付近に縛られてるな……すぐに兵士を向かわせた方がイイ。今なら見張りがいない」


 今のイメージは前世の原作知識なのか? この世界で俺がホーキンスから教わった占いの力なのか?……検証しようが無いな。


「お兄さんの事、思い出したのね」

「え!? どうして解るんだ!?」


 ヤバい、ロビンに不意をつかれて思わず素で聞き返してしまった。何で解ったんだ!?…………俺が以前に兄貴の話をした時のビビの言葉を思い出した『タクミさんは東の海(イーストブルー)出身なの?』そういう意味だったのか!!

 ビビはホーキンスの事を手配書や新聞で知っていて、”魔術師”という単語から、俺の兄貴がホーキンスだと推測したんだ。だからあんな質問をした。真偽が解らなかったから、伝えるべきかをロビンに相談したってところだろうな。


「普段からアナタを見てればわかるわ……お兄さんに会いたい?」


 質問しておきながら勝手に結論を出していた俺にとって、ロビンの言葉は予想外だった。俺の事をそんなにしっかり見ていてくれた事はうれしいのだが……兄貴には絶対に会いたくないな。


「……俺は仲間と……ロビンが一緒ならそれでイイ。ロビンはサウロに会いたいか?」


 ちょっと意地悪をしてみた。クザンの”アイスタイムカプセル”でサウロが死んでいない事はロビンは知らないからな。


「サウロは死んだわ。そこまでは知らなかったみたいね」


 予想通りのロビンの言葉に、俺はタバコに火をつけ煙を吐き出す。”3.74%”悪戯としてはここら辺が妥当なとこだろう。


「確率はゼロじゃなければ希望が持てる……俺はそう思うよ」


 ロビンを少し驚かせようと思っただけなんだが……様子がおかしくないか? 下を向いて無言になってしまった。まさか……


「ありがとう……ゼロじゃない……それだけで十分だわ」


 泣かせたーーーー!!! ロビンを泣かせてしまった!!!! 必死に涙を堪えて笑顔を作ろうとしてるけどダメだろ!!! ロビンは余裕の表情でいてくれないと!!!

 部下に指示を終えて戻ってきたチャカが、肩を震わせて涙を堪えているロビンの様子を見て、俺をジト目で見ている。

 俺はどうしていいか解らず、何も言わずにロビンを抱きしめた。ロビンは堪えきれなくなった涙を流して、自分からも俺の背中に腕を回してきた。

 ロビンの涙が止まっても、アラバスタの太陽がそれをなかった事にするまで、俺はロビンを放さなかった。



〜Side チャカ〜



 タクミ殿は一体何を考えておられるのだろうか……ビビ様より、二人が恋仲で、ビビ様が二人の仲を取り持ったという心底どうでもイイ情報を聞いてはいたが、この状況は酷い。

 付き合い始めのうちにありがちな、些細な喧嘩でもしたのだろうが、国王救出隊の編成を終えて戻ったわたしの前では、ロビン殿が泣かれていた。

 わたしの視線に気づいたタクミ殿は、黙って彼女を抱きしめて……かれこれ10分は経ったな……もうイイだろう。


「タクミ殿、次の指示を頂きたいのだが」


 ロビン殿の様子を伺い困った表情の彼は……


「……よしなに頼む!!」


 なんともいい加減な返事をなされた。


「おっさん強そうだな!! 準備運動がしてェんだ!! 付き合ってくれよ!!」


 船長のルフィ君にそう言われてタクミ殿を見ると、黙って頷かれた。なんとも複雑な気分ではあったが、ビビ様の信頼される方に意見するわけにもいかず、準備運動という名の殴り合いにしばしの間だけ時間を忘れる事にした。


「チャカ様!! 国王様の救出に無事成功致しました!!!」


 部下のうれしい報告に、わたしとルフィ君はお互いに手を止めた。傷も負わずに全員無事の様だな。ツメゲリ部隊を中心に編成する必要はなかったか。

 タクミ殿はああ言ったが、不足の事態を考え、救出及び戦闘を想定した部隊を編成したのだが、杞憂だった様だ。

 …………わたしの方が怪我を負っているのは気にしない事にしよう。


「ご苦労!! それで、国王様はどこにいらっしゃるんだ?」

「それが……アチラでタクミ殿と揉めております」


 どういう事だ? 部下の示す先を見ると、国王様は凄まじい剣幕でタクミ殿に詰め寄っている。


「ですから、王女の安全は万全です。コーザ氏が王女に危害を加える訳ないですって。ペルさんもついてますから」

「クロコダイルの組織がそれを妨害してこないとどうして言い切れる!!!」


 どうやらビビ様の事で、国王様は気が動転してるようだな。


「上空数100mを飛んでいる二人を妨害する手立てがあるのなら、逆に見てみたいですよ。エージェント達は俺たちの仲間が抑える手筈になっていますし、先ほども申し上げた通り占いでは「だからその占いが信用ならんと言っておるのだ!!!」……はぁ、助けてくれロビン。このおっさん親バカ過ぎる」


 タクミ殿は国王様にまいっているようだ。言葉がかなり乱れている……『おっさん』はダメだろ。

 ロビン殿はすでに落ち着かれたようで、二人の様子を笑いながら見ているだけだ。仕方がない、わたしがフォローするしかないようだな。


「国王様!! 失礼ながら申し上げます。我々が懸命に捜索したにも関わらず発見できずにいた国王様の居場所を、見事言い当てたのが、”占い師”タクミ殿でございます」

「それはまことか!!」


「まるでその場を見てきたかのように正確な占いでございました。何よりビビ様が信頼を置かれる方です。わたしは信じてもよろしいかと思います」

「……先ほどの非礼を詫びよう。不甲斐ないわたしを助けてくれた事に感謝する」


 国王様は腰を折って深く頭を下げられた。公の場所以外で謝罪をするなど前代未聞だ!!!


「国王様!!! 何も頭を下げなくても「しかし!!! ビビを誑かそうとしているのであれば話は別!!!……どうなんだ」…………はぁ」


 溜息しか出なかった。こんな時に何を考えているんだこの人は。


「王女様には悪いけれど……」


 国王様の言葉にタクミ殿が呆れて返答に困っていると、傍観していたロビン殿がタクミ殿の腕を掴んだ。


「……この人は私のモノよ。誰にも目を向けさせないから安心して頂戴♪」


 ロビン殿の発言に国王は固まった。歓喜の様子で彼女を再び抱きしめようとしたタクミ殿は、華麗にかわされてしまい、苦笑いを浮かべている。


「はっはっはっは!!! これは失礼をした。ビビはまだまだ子供だからな、君の魅力には敵うまい」


 国王は二人の様子に、ビビ様との仲を疑う事を止めたようだ。彼女を褒められてタクミ殿は随分嬉しそうだな。

 彼は国王の様子を見て、話が出来そうだと判断したのか、わたしには解らない重要そうな話を始めた。


「クロコダイルは必ずこの宮殿に現れます。目的は古代兵器”プルトン”の所在確認、たとえご存知だったとしても、必ず黙秘を貫いてください」

「どこでソレを!!?……いや、優秀な”占い師”を前に隠し事も無駄なことだな。元よりクロコダイルに話すつもりは無い、心配するな」


「そうですね。王女に関してはアレですが、アナタの名君ぶりは理解しておりましたので、念の為に話しただけです」


 タクミ殿はにこやかに微笑むと、ルフィ君のもとへ歩いていった。


「不思議な若者だな……心の奥底まで覗かれているようだ。一緒にいて息苦しくはないのか?」

「彼は私の希望そのものと言っても過言じゃないわ。離れるほうが不安なの……今までごめんなさい。私も出来る限りは力になるから」


 ロビン殿の彼に対する信頼は依存と言ってもいいレベルだな。何に対して謝ったのかは不可解だが、彼女もこの国の為に力を貸してくれるという……ビビ様はよきお仲間を持たれたものだ。


「クハハハハハ!! 鍵のねェ水牢からどうやって脱出したのかしらねェが、無事だったようだな”麦わら”!!」


 突如として王宮に響き渡る声の発声源は、一連の騒動の黒幕、王下”七武海”クロコダイルだった。



〜Side クロコダイル〜



「”銀獅子”とニコ・ロビンも一緒か。そろってご苦労なことだな」


 どういう事だ!? コブラを捕らえているハズの場所には誰もいなかったからコチラに先に来てみたが、何故コブラが自由な状態でココにいる!!?

 冷静な態度を装いはしたが、おれは内心で焦っていた。”麦わら”は大して気にもならんが不敵に笑っている”銀獅子”とニコ・ロビンが不気味だな。


「クロコダイル!!! お前はおれがぶっ飛ばしてやる!!!」


 三人ではなくコイツが一人で相手をするつもりなのか……舐められたモノだな。


「お前一人で戦うのか? 麦わら、後ろの二人に協力を頼んだらどうだ?」

「うるせェ!!! おれはお前と一騎打ちで戦う!!! 誰も邪魔をするなよ!!!」


 クハハハ!! 単純な男だな。船長が一騎打ちを宣言したんだ。これで二人が助けに入る事も無いだろ。


「海賊として一騎打ちを持ちかけられちゃ、引くわけにもいかねェな。イイだろう……お前を殺すまでの間、おれも他のヤツに手を出さないと誓おう」

「……聞いただろ。一騎打ちだ。国王軍もこの場を離れてくれ。ウチの船長が全力で戦えない……戦いは国王と、俺たちが見届ける」

「タクミ殿の指示に従え!!! 全員王宮の外へ!!!」


 銀獅子の言葉に動揺していた国王軍も、チャカの一言で王宮を出て行った。この場に残ったのはコブラ、チャカ、ニコ・ロビン、銀獅子だけだ。

 麦わらとの戦いを長引かせて、隙をついてニコ・ロビンか銀獅子を仕留めればおれの勝ちだな。

 国王軍がその場を離れたのを確認した銀獅子が、麦わらに声をかける。


「ルフィ、最初から全力で行け!!! アイツは強いぞ」

「おう!! タクミは見てるだけでイイ……」


 麦わらは自分の腕や手に水をかけ始めた。まぁ、そういう戦略でくるだろうな。能力者が真水で力を失う条件は、体の40%以上が水に浸かった場合だ。

 だが、おれの場合は水そのモノが能力の弱点だからな。しかし……その程度、不意打ちでなければ渇きの右手を使えば何とでもなる。海賊としての格の違いってヤツを見せつけて殺してやろう。


「……いくぞ砂ワニ!!……ギア”2(セカンド)”!!!」


 何だ? あの身体から出ている湯気は? 麦わらはゴムの能力者じゃなかったのか?

 おれが構えもせずに考えていた時、不意に麦わらの姿が消え、すぐ隣から声が聞こえた。


「ゴムゴムの……」


 マズい!? 「六式」か!!? 海軍の将官クラスが使う体技を何故こんなヤツが!!?

 おれは慌てて右手でヤツに触ろうとしたが既に遅かった。


「……”JET” ”銃弾(ブレット)”!!!」


 ……?? 見切ることなど到底不可能な拳の速さに、一瞬だけ焦ったが、ヤツの拳は砂になったおれの身体を通り過ぎただけだった。

 そうか!! あまりのスピードに水が飛んだんだな!! クハハハハ!! なんてバカなヤツなんだ!!

 自分の技が効かない事に驚いていた麦わらを右手で狙うが、寸前のところで「六式」でかわされた……問題無いな。ヤツの攻撃が結局おれに効かないのなら、いくらでも対処のしようがある。


「めんどくせェな」


 正面に現れた麦わらは、ナイフで自分の拳と掌を切りつけた。当然そこからは血が流れ出す……マズい!! あれなら水分が拳に追いつかないなんて事は無くなる。


「貴様ァ!!!」


 おれが鉤爪を外そうとすると、この場にいないハズの男の声が、広場に響き渡った。


「そこまでだガネ!!! この男の命が惜しければおとなしくするガネ!!」

「わたしに構うな!!! アラバスタの為!! ビビ様の為!! クロコダイルを倒してくれ!!!!」


 Mr.3!!? クハハハハ!!! Mr.3は護衛隊長イガラムにナイフを突きつけて現れた。思わぬところで役にたったな。

 任務失敗の報告はミス・ゴールデンウィークからMr.2が聞いてはいたが、コイツの足取りは掴めなかった。

 まさか護衛隊長の人質を手土産に返り咲きを狙っていたとは、コレで麦わらはおれに手出しが……


「ゴムゴムの……」


 いや、ちょっと待て!!? 何故この状況でおれに向かってくる!? アレが見えてねェのか!!?


「余計な事してんじゃねェ!!!」


 Mr.3はニコ・ロビンの能力でナイフを取られ、銀獅子に殴り飛ばされていた。何て使えない男なんだ!!! 結局なんの役にもたってねェじゃねェか!!!


「……”JET” ”バズーカ”!!!」


 強烈な一撃に意識を失う前に、おれは考えていた。おれは端から一騎打ちを守るつもりが無かった。

 麦わらは銀獅子とニコ・ロビンを信じていた……おれの敗因はそこか……
 
 
 

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