小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ビビの冒険”



〜Side ウソップ〜



 おれとチョッパーは、二対三の苦しい戦いを終えて、満身創痍で王宮に辿り着いた。

 途中で大きな爆発音が聞こえたりして不安になってたけど、一味全員が無事みてェだな。ビビのヤツもウイスキーピークのおっさんやルフィと楽しそうに話をしている。

 それはそうとアイツは……いた!!! 何か偉そうなおっさんとロビンの三人で話をしてるみてェだが、おれの怒りは誰にも止められない!!!


「タクミ!!! 煙上げたのに何で来なかったんだよ!!!」


 そう!! コイツは来なかったんだ!! ビビがココには来ない事をゾロが敵に伝えて、おれ達はそれぞれの標的を挑発してからバラけた。

 トロいおっさんと、もぐらみてェなおばはんが相手だったから楽勝だと思ってたんだけど、おっさんが担いでいた大砲みてェな銃が自分の意思で砲弾を撃ってきた瞬間、おれとチョッパーは迷わず救援を呼んだ。

 逃げてばかりのおれ達におばはんが質問してきたから……

『クロコダイルと戦ってる仲間がもうすぐ助けに来るんだよ!!! お前らなんか瞬殺だ!!!』って言ってやったんだ。

 そしたら、『クロコダイルと戦ったんならとっくに死んでるハズだ』って笑いやがった。

『タクミが死ぬわけねェ!!! タクミはバケモノみたいに強いんだァ!!!』……タクミを慕っているチョッパーが、アイツをバカにされて黙ってるハズも無く、その後は死闘だった。

 ボロボロになりながらもMr.4のトリオを倒したおれ達は、最後まで助けに来なかったタクミ達を心配しながら王宮に向かっていたら、海軍のヤツらにルフィがクロコダイルを倒したって話を聞いた。

 ルフィが倒したって事は、タクミは戦ってすらいねェって事だ。おれの怒りはしょうがない。


「は?…………えらいボロボロだな。まるで4tのバットで殴られたみたいだ」

「て・め・ェ〜〜〜!!! 状況わかってたのに助けに来なかったのかよ!!?」


 4tバットの事を知ってるなんて、占いで全部分かってたって事じゃねェか!!!


「そこまでボロボロになるとは思わなかったよ……勝ったからイイだろ?」

「そういう問題じゃ……」

「タクミ〜!!! おれやったぞ!! ランブルの効果が切れてから”角強化(ホーンポイント)”が出せたんだ!! 他のはまだ無理みてェだけど、おれ強くなったかな??」


「凄いなチョッパー!! もう修行の成果が出始めたのか!! 角はトナカイを象徴する場所だからすぐに使えるようになったんだろうな。他の強化もいずれ出来るようになるさ」


 タクミに怒る様子もなく、褒められて喜んでいるチョッパーを見てたら、おれだけキレてるのがバカらしくなってきた。


「お疲れ様、長鼻くんもがんばったのね。でも、いつ救援要請を出したの? 私も気づかなかったわ」

「気づかなかった!?…………もうイイよ。勝ったんだし」


 そういう事か。おれ達が諦めて救援要請を出すタイミングが早すぎたんだな。煙が上がるとしたらまだ先の事だと思って確認していなかった時に、想定外の根性の無さでおれ達が発煙筒を使ったもんだから、タクミとロビンは気づく事すらなかったんだ。

 情けねェな、おれ。先に敵に仕掛けていったのもチョッパーだったし、おれは一味のお荷物なんじゃねェか?

 おれが一人で悩んでいると、チョッパーと話し終わったタクミがやってきた。


「そういえば何でこの組み合わせなんだ? てっきりサンジはナミと組んで戦うのかと思ってたんだが」

「お前がナミに指示を出してたんじゃねェのかよ!? おれはそう聞いたぜ?」


 タクミはえらい驚いた様子だったけど、少し考え込んでから今度は笑っていた。


「そうか、ナミらしいな。ビビの為に自分で強敵を倒したかったんだろうけど……ムチャしやがる」


 アレはタクミの指示じゃなかった? ナミはおれ達を騙してまで、Mr.1のペアと戦ったのか!? おれは端からタクミを当てにしてたってのに……凄ェな、皆。

 何が”ホコリのウソップ”だ!! 何が”勇敢なる海の戦士”だ!! おれはこんな情けねェ姿を晒す為に、親父のいる海に出たわけじゃねェ!!


「タクミ!!! 次の戦闘では1番強い敵はおれにまわせ!!! おれは本物の”勇敢なる海の戦士”になるんだ!!!!」

「……お前は神に喧嘩を売るのか?」


「意味わかんねェボケは止めろ!! おれは真剣なんだ!!」

「……はぁ、わかったよ。言っとくけど、俺はボケたつもりは無いからな。次の相手はそれくらいヤバイ相手なんだから、やるなら死ぬ気で戦え!!……コレ、手に入ったんだよ、お前も少し使え。加工の仕方がわからないから全部任せる。レインディナーズで俺が稼いだ金を、好きなだけ使ってイイから、宜しく頼むよ」


 タクミはおれに重たい麻袋を押し付けて、ロビンのところに歩いていった。

 神クラスの敵ってどんなヤツなんだよ!!!? おれの決意は早くも揺らぎ始めていた。



〜Side ビビ〜



 クロコダイルとオフィサーエージェントは、ルフィさん達に討伐されて、ビリオンズは海軍の介入で掃討された。これで、秘密犯罪結社バロックワークスは壊滅した。

 Mr.ブシドーとウソップさんの怪我が酷かったから、お礼の会食は後日開催される事になったけど、毎日お祭り騒ぎのこの一味にとってはあまり関係ないみたい。

 大食堂を使わないってだけで、食事はやっぱり宴会みたいになって、Mr.ブシドーはナミさんやタクミさんとのウワバミトリオのままだし、ウソップさんも全身に包帯が巻かれた状態で熱唱してる。

 パパ達はわたしと一緒に食事をしたがってたけど、わたしも連日こっちの宴会に参加していた。

 昼間のみんなはバラバラに過ごしてるみたいだったけど、タクミさんとミス・オールサンデーはいつも一緒で、タクミさんの生物調査にミス・オールサンデーが付き合っているみたい。

 考古学者の彼女は葬祭殿に興味があったみたいで、パパと一緒に三人で出かけたりもしてたけど、タクミさんもちゃんとデートに誘ってあげればイイのに。

 Mr.ブシドーの怪我はまだ治ってなかったんだけど、本人がもう平気だって言うから、バロックワークス壊滅の三日後に会食が開かれた。

 会食の席にミス・オールサンデーは、ブルートパーズのネックレスを着けて登場したんだけど、アレはきっとタクミさんからのプレゼントね!! ちゃんと考えていたみたいで安心したわ♪

 大食堂の厳粛な雰囲気なんか無視して騒ぐ皆に、兵士たちは最初渋い顔をしていたけど、途中からウソップさんの宴会芸が始まると一緒になって盛り上がっていた。

 今は大浴場でナミさんと身体を洗い合ってるんだけど……遅れて入って来たミス・オールサンデーの身体にわたしは固まっている。


「ロビンの身体って、あの服で締めてるからだと思ってたけど……脱いでも凄いわね」


 ナミさんの言う通りだ……わたしもあれくらい成長するかしら?……無理そうね。

 タオルを巻いていてもハッキリわかる!! アレは”胸革命(バストレボリューション)”だわ!!


「凄い?……胸? 腰? それとも脚かしら?」

「心あたりがたくさんあるなんて羨ましい……って皆なにしてるの!!!?」


 熱い視線を感じて、振り返ったら、Mr.ブシドーとタクミさん以外の男性陣が、男湯との境になっている壁に登ってこちらを覗いている。


「アイツら……」


 ナミさんは立ち上がって皆の正面に向き直り、タオルに手をかける……って何するつもり!!?


「幸せ「死ねェェェェェェ!!!!! ロビンを覗いたヤツは極刑だァァァァァァ!!!!!」……パンチ」


 覗いていた男性陣は、飛んできたタクミさんに瞬時に殲滅されていった。タクミさんも遅れて入って来たのかもしれないわね。


「クラァ!!! テメェ!!! コブラ!!! いい加減にしろ!!!」


 パ、パパはタクミさんに何度となく蹴られても、必死に壁にしがみついている……こんなパパ見たくなかったわ……!!? パパは、タオルを外して全裸になっているナミさんじゃなくて、ミス・オールサンデーを食い入るように見てる。

 パパはかなり粘っていたけど、銀獅子モードのタクミさんに退治されたわ。落ちていくその瞬間まで、ミス・オールサンデーから目を逸らす事はなかった……パパ、もしかして!!?


「ロビン!!! タオルを外したりしてないだろうな!?」

「ええ、問題ないわ」


「そうか、それならアイツらは半殺しくらいで済ませてやろう。アレ? ネックレスはどうした?」

「お風呂の中までは着けて入らないわよ。無くしたりしないから安心して」


「女性にモノを贈るなんて初めてだから、大切にしてくれると嬉しいよ」

「アナタからの初めてのプレゼントだもの。大切に「少しはわたしに注目しなさいよ!!!」……航海士さん? 風邪引くわよ?」


 裸のナミさんに目もくれずに彼女と話をするタクミさんに、ナミさんがキレてイスを投げつけた。タクミさんはイスが直撃して落ちていったけど、女としてその反応はしょうがないと思うわ。

 ……ミス・オールサンデーの言葉は、何のフォローにもなってないし。


「わかってるわよ!!!」


 ナミさんはわたしの背中を洗う事なくお湯に浸かってしまったわ。自分で洗おうかと思っていたら、ミス・オールサンデーが能力で自分の背中を洗いながら、わたしの背中を洗ってくれた。

 その後は三人でお喋りをしてから大浴場を出たんだけど、その会話がわたしを悩ませた……皆と一緒に行くべきか。

 でも、実はパパの事もかなり気になってる……ミス・オールサンデーの事が好きなの??? いい歳して一目惚れなの?? バカなの?? ヘンタイなの……はもう確定ね。

 ……皆のところに行く前にパパと話をしておいた方がイイわね。

 パパは一人で月を眺めていた。今夜は満月でも三日月でもない中途半端な月なのに、何か思うことがあるのかしら?


「一人でお月見?」

「ビビか……空を、見ておったのだ」


「空?」

「これからも、このアラバスタの大地に恵みの雨を降らせてくれるのかと、問いかけてみたくなってな」


「バロックワークスは壊滅したわ。ダンスパウダーはもう使われない……雨は降るわよ」


 わたしったら、何を心配していたのかしら……パパは大丈夫だ。今まで通り、この国を第一に考えている。


「そうだな……ビビ、彼らと行くのか?」

「え!? どうしてそんな事を聞くの!?」


「彼らと共にいるお前は、とても楽しそう……いや、幸せそうな顔をしておる……行ってもよいのだぞ」

「パパ、それじゃあこの国はどうするのよ? わたしが戻ってくるまでに、パパに何かあったら……」


「国とは、人だ……いざとなれば、元公爵家の者が王位を継承するだろう。ビビ……お前は自由に生きなさい」


 こんなにも、わたしと国の事を考えてくれてるだなんて!! 皆、ごめんなさい……わたし……行けない。

 冒険はまだしたいけど……わたしはやっぱりこの国を……愛してるから!!


「パパ、わたし「わたしも自由に生きる!!」……へ!?「お前がロビン嬢の船に乗るのなら!! わたしも共に海へ出よう!! 必ずやタクミ君からロビン嬢を奪ってみせる!!!」……何を言ってるの!?」


 訳が解らないわ!!? わたしの事を考えてくれてると思ってたのに、さっきのは自分への言い訳だったの!?


「今からでもロビン嬢をママと呼ぶ練習をしていてもイイぞ。彼らが船を出す時にはちゃんと声をかけるんだ……必ずだぞ!!」


 言いたい事だけ言って、パパは去って行った……ダメだ、パパは本気だ……たとえわたしが行かなくても、パパは行くつもりだ……”ロビン嬢”って……バカじゃないの?

 パパを確実に置いて行く為、わたしはすぐに出航するように皆に伝えて、皆と一緒に王宮を出た…………パパなんか大嫌いよ!!!



〜Side タクミ〜



 …………誰か状況を説明してくれ。何故にビビは、12時間の猶予すら無視して、今ココにいるんだ?

 どうしてこうなった?……思い出してみよう。


 風呂から出てくつろいでいると、ベンサムからの電伝虫が入った……何故かその場にビビはいなかった。

 皆で出発の準備をしていたら、ビビが着替えた状態で部屋に入ってきた。

『みんな!! 急いで出航しましょう!! わたしも行くわ!!』……はい、ココがおかしいな。

 カルーに跨り俺たちと並走するビビと、ビビの正式加入に喜ぶ一味……理解不能だ。


「ビビ、お前はアラバスタを愛しているから、この国を離れないと思っていたんだけど、どういう心境の変化だ?」


 俺の言葉に一味の連中は、”余計な事言うな!!”って感じだが、ビビは笑っている。


「そこまで不思議そうに聴くって事は、わたしが来るかどうか占ってたんでしょ? タクミさんの占いでも感知できないような異常事態が発生したのよ」

「異常事態!? どんな異常なんだ?」


 ビビは複雑そうな表情をした後、普段見せないような蟲惑的な笑みを浮かべる……誰かの表情に似てるな。


「アナタは知らない方がイイと思うわ♪」


 ……ロビンのモノマネ?? ビビは俺の後ろに乗っているロビンを見て笑っているが……さっぱり解らない。

 まぁ、ついて来てしまったものはしょうがないな。ビビ強化計画を立てないと、このままではビビが死んでしまう。


「ビビもタクミに鍛えてもらった方がイイぞ!! すぐに強くなれるからな!!」


 ビビと相乗りしているチョッパーが気軽に言ってるが、すぐには無理っすよチョッパーさん。アンタのセンスが半端ないだけっす。

 ヤバイ、思考がおかしくなってきた。何とかしてビビを強化しなければ……悪魔の実でも探すか?

 簡単に見つかるとは思わないが、一番手っ取り早く魔改造が可能だからな。


「ん待っっっっっっってたわよアンタ達っ!!! おシサシブリねいっ!!!!」


 ……ベンサム五月蝿い。人が悩んでるって言うのに……さっさと船に乗って俺は寝る!!



==============================



「タクミ!! タクミ!! タクミ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


 宣言通り、船に乗った途端に熟睡モードに入っていたんだが、耳元で騒ぐチョッパーの声で、俺は目を覚ました。


「五月蝿いな……なんだよチョッパー」

「船が!! ヤリが!! 穴だらけで!!」


 あー、ヒナか。いくらなんでも寝すぎたな。


「……今行く」


 俺はやや寝ぼけ気味に甲板に出た。飛んでくるヤリを男どもが弾く、俺が掴む、敵に投げる。弾く、掴む、投げる。弾く、掴む、投げる。単純作業でつまらないな。


「ウソップ、お前は砲撃手でもあるんだから、大砲撃てよ」

「お、おう!!」


 次々とヤリが刺さって行く敵船を眺めていたウソップも、慌てて大砲の用意を始めた。何かもう面倒になってきたから「剃刀」で接近して、すべての船のメインマストを破壊してこよう。


 ……割と簡単に突破出来たな。ベンサムとの感動の別れも済んだ事だし、もう一眠り……? 何か重大な事を見逃しているような気がするのだが……まぁイイか。


 イロイロと考える事が煩わしかったので、ガレオン船が降ってくるまで、俺は寝ることにした。
 
 
 

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