小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”悪魔の実(ビビ専用)”



〜Side サンジ〜



海軍の追っ手を突き放し、今はビビちゃんの歓迎会の最中だ。船室で眠ってたタクミも、ロビンちゃんに連れられて甲板に出てきたんだが、かなり眠そうだな。


「眠そうだな……寝てろよ」


”眠いなら部屋で寝てろ!! ロビンちゃんに寄りかかるな!!”と敵意を隠さずに暗に言ってみたんだが……


「オスのライオンは、一日に20時間寝るんだ……あの状態でヤリをぶん投げたから疲れたんだよ。第一あの状態は殺気を抑えるのが大変なんだ」

「王女の歓迎会なら夜までやるでしょうし、寝かせてあげててもイイんじゃないかしら?」

「タクミさん、部屋に行かれちゃうと寂しいから、そこでなら寝ててもイイわよ」


ビビちゃん!!? ”そこ”って……どこを指差しちゃってるのかな!!?


「…………悪いな、おやすみ……」

「フフ、おやすみなさい」


膝枕だと〜〜〜〜!!! 提案するビビちゃんもビビちゃんだけど、二人してナチュラルに受け入れるなよ!!! ビビちゃん!? 親指を立てておれに眩しい笑顔を向けないでくれ!!

……料理に集中しよう。王宮で教わったアラバスタ料理を作っていれば気が紛れるハズだ。

次々と料理を運んで行き、おれもそろそろ歓迎会に参加しようとしていたら、タクミが突然目を覚ました。

飛び起きて辺りの様子を確認しているみてェだが、まだ寝ぼけてんのか? タクミは一旦はほっとした表情をしていたが、空を見上げて顔色を変えた。

獣化してからロビンちゃんを抱きしめて、伸びた尻尾をメインマストに巻きつけている。


「サンジはナミを!! ゾロはビビを守れ!! ルフィはチョッパーを頼む!!……何か来るぞ!!!」

「え? 何を「ナミさん!! 早くこっちに!!」ちょっと!! きゃあ!!」


おれは咄嗟にナミさんを抱えてタクミの傍に駆け寄った。ムカつくヤツだが、コイツが全力でロビンちゃんを守る以上、この船で一番安全な場所はココだ。

みんな状況が掴めていないみてェだが、ビビちゃんはゾロの腕に捕まっているし、ルフィはチョッパーを担いでいる。


「状況を説明しろ!! 何だってんだよ……ていうか、おれには護衛は無しか!!!」

「上を見ろ……」


おれは、タクミがウソップに答えるより先に、アイツがさっき見上げていた空に視線を向けていた。

ナミさんを胸に抱きなおし、ソレを確認した……ありえねェ……ソレは……


「……船が降ってくる」


巨大なガレオン船だった。みんな慌てて動き出すが、考える事は同じで、タクミのいるメインマストに一味が集結する。


「これを持って離さないで!!」


ロビンちゃんがタクミに結びつけたロープを皆に持たせる。タクミに抱きしめられた時から、ロビンちゃんが準備を始めてたのか、悔しいけど息が合ってんな。

ガレオン船はメリー号に直撃こそしなかったが、すぐ傍に落下してきて、発生した大きな波は、船を転覆させそうな勢いで揺さぶった。


「まだ破片が降ってくるぞ!!」

「全員ロープから手を離すな!! 落ちない事だけ考えてろ!!」


タクミの言う通りだ。下手に手を離して破片から逃げたりしたら、船から放り出されちまう。下は能力者じゃなくたって溺れるような波だからな、落ちれば命も危ない。

ロープを掴んでいても、足技で対応出来るおれの出番かと意気込んだが……


「「獅子針銃(シシシンガン)」……」


タクミの銀の鬣が伸び、ざわざわと蠢きながらおれ達を覆っていき……


「……「護法山嵐(ゴホウヤマアラシ)」!!!」


勢い良く発射された鬣は針になり、おれ達の上に降り注ぐ全ての破片を撃墜した。何だ今のは!? 落ちてくるサーベルまで跳ね返したぞ!?

全方向に発射すれば、周りは穴だらけじゃねェか、つくづくコイツはバケモノだ。

船の揺れが収まり、全員が落ち着くと、ウソップがタクミに声をかける。


「……今のがあるんなら、あの銃はいらねェんじゃねェのか?」

「あの技にはエボニー&アイボリーの1/10も威力は無い、あくまで防御の技だ。それに、あんまりやるとロビンが嫌がるんだよ」

「禿げるもんな!!」


一緒に修行しているチョッパーは今のを見たことがあるんだろう……よく見ればコイン大の禿が数箇所に出来ている。


「カッコ悪っ!!!」


ゾロの発言に鬣を束ねたハンマーで制裁を加えると、タクミは元の姿に戻った。髪の長さも元通りで、禿げも無くなっていた。


「おれの髪は伸縮自在だし、いくらでも生えるんだ……頑張っても”まりも”には成れないけどな」


タクミの最後の一言に三バカが爆笑し、ゾロはタクミに斬りかかっている。アイツらの喧嘩はめったに見ねェな。

ゾロの剣撃をタクミは髪で受け止めて、残りの髪を鞭のように使って反撃している。すくなくともタクミは本気じゃねェな。獣化すらしないで遊んでやがる。


「その自慢のロンゲをバッサリ斬ってやるよ!!!」

「アホか、簡単に斬れないから自慢の髪なんだよ。だいたい、斬ってもすぐに伸ばせるって見せたばかりだろ?」


何度斬りつけても斬れない鬣に痺れを切らしたゾロは、距離を取って構えを変える。


「…………一刀流「居合」……」

「オモシロい!! かかってこい!!」


気迫溢れる本気のゾロを相手に、タクミは楽しそうだな。目が若干ヤバイが……まぁ、タクミは髪を賭けてるだけだし、止める必要もねェか。


「……”獅子歌「ダメッ!!!」がっ!!!?……」


大技を出そうとしたゾロはビビちゃんに、何処から持ってきたのかわからないハンマーで殴られて、戦闘狂のような目をしていたタクミは、ロビンちゃんの能力で捻じ伏せられた。


「くだらない事で喧嘩なんかするような人は「ごめんなさい!! もうしません!!」……フフ、それより、空島に”記録(ログ)”が書き換えられちゃったみたいよ。アナタならどうする?」


空島って言葉に疑問を持ちはしたが、今回の事でハッキリした事がある……ウチの一味で一番強いのはロビンちゃんって事だな。



〜Side ロビン〜



「取りあえず船の中を調べてくるよ」


まったく、船の危険を予知して、さっきは驚かされたのに……


「アナタが剣士さんと喧嘩してる間に、肝心の船は沈んでしまったわ」


一つの事に集中すると周りが見えなくなるのは、彼の悪い癖ね。


「沈んだならサルベージ「アレは無理よ、大きいもの」……だろうな」


航海士さんと同じ事を言い出すなんて、意外と考えなしなのかしら? 私に責められたと思って落ち込んでる彼は、ちょっとオモシロいわね。


「長鼻くんが即席で潜水服を作ってるみたいだけど、アナタも行ってみる? アナタ達が喧嘩をしてさえいなければ、沈む前に調査が出来たわけで、いわば責任は「俺の分も作ってもらうよ!!」……そ♪」


彼は逃げるように長鼻くんの所に行ってしまった。少しイジメ過ぎたかしら?


「本当に空島なんてあるの?」


王女が不安そうに聞いてくるけど、さっきの話しをちゃんと聞いてたのかしら?


「指針の先には必ず島があるって言ったでしょ? それに、空島に”記録(ログ)”を奪われたと伝えても、タクミは動揺してなかったわ」

「それなら本当に空島はあるのね!!? 王宮を出て早速、こんな大冒険に遭遇するなんてついてるわ♪」


楽しそうに航海士さんのところに歩いていく彼女は、船長さんと同じタイプみたい。

王宮での暮らしを捨てて、海賊になってまで冒険したいだなんて、いつまでも”王女”って呼ぶべきじゃないわね。

しばらくしてタクミ、船長さん、剣士さんの三人が海に入って行った。長鼻くんが作った潜水服はかなり心許無い設計に見えたけど大丈夫かしら?



〜Side タクミ〜



「あ、さるだ」


サルだな。実物のマシラはサル以外の何者でもなかった。この分だと、ショウジョウも興味深く人類の枠組みからはみだしてそうだ。

……ってそんな事はどうでもイイんだ。今の問題は、原作では碌なモノがなかったハズのこの船で、”悪魔の実”が見つかったって事だ。

俺がビビ強化計画を立てて僅か半日で見つかるとか、ご都合主義もいい加減にしろって感じなんだが……この砂みたいな色の実は、ビビに食えって言ってる様なもんだろ。

ルフィとマシラが意気投合してるのをよそに、俺は潜水服を着込んでいた。


「俺は先に戻るよ。ちょっと調べたい事があるんだ」

「ああ、わかった。おれはルフィをもう少し待つ」


ゾロを残しておけば大丈夫だろ。確実に必要な地図とウェイバー、それに”悪魔の実”は俺が持って行けばイイ。


「ちょっと待て!! お前の持ってるその袋は何だ!?」


はぁ、やっぱ見つかったか。蹴散らしてもイイんだけど……


「魚だよ、俺は生物学者でな。この船を覗きに来る途中で珍しい魚を見つけたんだ。わけてやろうか?」

「魚ならショウジョウのヤツがいくらでも獲ってくるからな。お裾分けはコッチがしてやりてェくらいだ」


アッサリ信じたな。遺伝子的には殆ど人間と差が無いとはいっても、やっぱサルはサルだ。


「お前、サルあがりだな〜!! 器が違うよ!! じゃあな」


バカでよかった。さっさと船に戻るか……ん? この海ヘビ、このデカさで毒があるのか!? 模様的に間違いない!! 牙を一本いただいておくか。待て!! 逃げるなコラァァアア!!!

今度はカメ!? デカ過ぎるだろ!? 頬かヒレの一部なら採取出来るか……よし、ヒレ狙いだ!!



〜Side ビビ〜



「アナタはバカなのね。狩りの事になったら何も考えないで……皆がどれだけ心配したと思ってるの!?」

「ご、ごめんなさい……」


タクミさんはミス・オールサンデーからお説教の真っ最中。あんなに心配をかけたんだから、まあ、当然ね。

『皆が』なんて言ってるけど、一番大騒ぎしてたのは彼女だったっていうのは、タクミさんに後で伝えておきましょう。

巨大なカメに沈没船が食べられた時、吸気ホースがカメの口にから何本も出てるのを見て、残っていた全員が固まってしまったんだけど、あの時のミス・オールサンデーったら、この世の終わりみたいな慌てっぷりでちょっと可愛かったわ。

タクミさんに繋がってるホースを引っ張ろうとして、彼女は何本も手を出したんだけど、口からホースが出てる割には簡単に引っ張る事が出来たみたいなの。

『ホースが途中で切れてるんじゃねェか!?』って言うウソップさんの言葉に、ミス・オールサンデーは顔を蒼くしてホースを引いてたんだけど、ルフィさん達が戻ってきてもタクミさんは戻ってこなかった。

その後、巨人族の何倍もありそうな怪物が出てすぐに逃げようとしたんだけど、彼女の必死の訴えでホースを引き終わるまで待つ事になったの。

タクミさんはすぐに現れたわ……何かの入った袋と、何かの牙、何かの肉を抱えたタクミさんは幸せそうに引き上げられてきた。

『ロビン!! カメだ!! あのカメのヒレ肉を取ってきたんだ!! 50mくらいの毒海ヘビの牙もあるんだぞ!! 忘れないうちにスケッチしないと!!』

怪物から逃げるの為に必死に働くわたし達の事も、放心状態のミス・オールサンデーの事も無視して、タクミさんはスケッチを始めてしまった。

怪物から逃げ切って、どさくさに紛れて乗り込んでいたサルの人(?)をルフィさん達が蹴り飛ばした頃になって、スケッチを終えたタクミさんは『皆、どうした? そんなにだらけて?』だもの。

『ちょっとお話しましょうか♪』黒い笑顔の彼女を止める船員は誰もいなかったわ。


「……でもな、ロビン……言い訳させて貰うと、アレは怪物なんかじゃない。見ればわかるだろ、アレは只の影だ」

「…………説明してもらえるかしら」


とんでもない言い訳に皆が呆れていると、ミス・オールサンデーが静かに問いかけた。最後のチャンスよタクミさん!! 素直にもう一度謝った方がイイわ!!


「イイか? 空島っていうのはこの海で積帝雲って呼ばれてる雲の化石みたいなモノの上にあるんだ。気流も生まず雨に変わる事もないその雲のせいで、あの時は夜みたいになってたんだ。で、空島の人間に太陽の光が当たった影響で、深い霧にその影が映し出される。それがさっきの現象なんだよ”幻影の巨人”って言うんだけど、まさかナミは知らなかったのか?」

「知ってる訳ないでしょ!!! 本当にこの海はメチャクチャね!!」


ナミさんはタクミさんの話を信じたみたいね。”まあ、タクミが言うならそうなんだろ?”って感じでみんな納得してるところがこの人の凄い所よね。


「空島のことを知っていたのなら、最初に言ってくれればよかったじゃない」


ミス・オールサンデーは不満気ね。単独行動の事を起こられていたハズのタクミさんが、別の有益な情報で皆の怒りを収めてしまったんだもの。


「ロビンは聞かなかっただろ? それよりビビ!! プレゼントがあるんだ!! コッチに来てくれ!!」


露骨に彼女の機嫌が悪くなったわね……何だか近づきにくいわ。


「プレゼントならミス・オールサンデーにあげたら?」


タクミさんは不機嫌な彼女を見て笑いながら近づいて、何か耳打ちをした。


「!!?……本当に!?……わかったわ。許してあげる♪」


何を言ったの!? さっきまでとは別人みたいに機嫌が良くなった彼女は、箱の中のプレゼントを覗き込んで……


「あら……フフ、頑張ってね」


そのまま去っていった……頑張る!? プレゼントを貰って何を頑張るの!? 何かのトレーニング器具かしら? トニー君がわたしを鍛えるように言ってたから?


「プレゼントっていったい……!!?」


タクミさんが開けた箱の中には、渦巻き模様の奇妙な果実が入っていた。外見はヤシの実、色は黄土色……コレってまさか!?


「悪魔の力を借りるかどうか……決めるのはビビだ」


……『悪魔と……踊れ!!!』……ウイスキーピークでのタクミさんの言葉が、わたしの中に響き渡った。
 
 
 

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